第104話 一人での作戦




 四人はノイルバギーで三本首の崖が見える所まで戻り、そこから徒歩で崖まで向かっていた。森の中をナヤが先頭に歩いて行く。崖の上をめざして。

「無理だと思ったらすぐ引き上げろよ。いいな」

 ナヤの手を後ろから握りしめるイザック。ナヤは振り向かず「はい」と答えるのみ。


「逃げられれば、いくらでもやり直しは利くからね」

 リラにも「はい」と一言。

「十分気を付けて、油断するなよ」

 オスカーにもやはり一言「はい」とだけ。


 ナヤが緊張している理由は一つ。これからたった一人でゲイドラコンドルの元へと向かうのだ。

 もちろん、一人でゲイドラコンドルを狩れるはずはない。話し合いの結果、確実にゲイドラコンドルを狩るのは無理、という結論に至ったのだ。これが黄金の獅子なら、確実でなくとも可能性に賭けるだろうが、ゲイドラコンドルは最終目標ではない。

 目的である『たまご』さえ手に入れれば十分だ。



 ナヤはリラ達三人と別れ、一人で崖の上へとやってきた。この崖の斜面中腹に、三つの首を持つ大型飛行機械獣、ゲイドラコンドルがいるはずだ。


 大型機械獣は基本的に、一日の中に休息期間がある。ゲイドラコンドルは夜行型。つまり昼間は休息期間であり、全ての機能が鈍るのだ。

 ゲイドラコンドルは情報収集の大半を視界に頼っており、休息期間であれば、たまごを盗むために腹部の外殻をずらす程度ならば気付かれないだろう。


 そして、ゲイドラコンドルと対になって活動することが多い大型機械獣キョウリンチョウは、ここ『三本首の崖』から少しだけ離れた『扇の滝』で長い首を持ち上げている。こちらは昼活動し、夜は休息期間。そして、情報収集の大半を音に頼っており、目は悪い。


 さらに、ナヤの圧倒的なアドバンテージは、獣人だという事。あらかじめブロバルモモンガの獣型になって近付けば、獣人だと気付かれるまでは襲われることがないのだ。




 ブロバルモモンガになったナヤは、崖からピョンと飛び降りた。体を広げてゲイドラコンドルの元まで滑空する。


 それを崖の下の森から、手に汗を握りながら望遠鏡で見るイザック。

「上手くいってくれよ……」


 となりでやはり望遠鏡を覗くのはリラ。だがリラは、ナヤではなく扇の滝にいるキョウリンチョウを見ていた。

 心配な点が一つだけある。あのキョウリンチョウは、通常の個体よりも一回り大きい。外殻も細かい相違があり、単なる個体差ではなく新種の可能性が捨てきれないのだ。

 もし新種なら、キョウリンチョウとは違う特徴があるかもしれない。


 キョウリンチョウは首をくるくると振っている。通常の個体より耳が悪いのだろうか?


「よしよし……」

 イザックが望遠鏡を覗きながらつぶやいた。ナヤが上手くゲイドラコンドルの後ろに着地したのだ。人型に戻り、ゲイドラコンドルの腹の下にそっと潜り込む。



「あぁっ!!」

 キョウリンチョウを見ていたリラが大声を上げた。『静かにしろよ』と注意しようとしたイザックも、空を見て絶句。隣ではオスカーも戦慄していた。


 ナヤめがけてキョウリンチョウが飛び立ったのだ。



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