第103話 戻ろう




 古代の大都市。名前は『ネオドバイ』。これは、ベルタザールによる命名ではなく、古代から伝わるこの町本来の名前だ。

 ノイルバギーは町の入り口で止まった。これは機械獣に備えての事。もし襲われてノイルバギーを壊されたら、大打撃。旅は振り出しに戻ってしまうと言ってもいいだろう。


 ノイルバギーの隣の地面にオスカーが『身渡り印』を描きこみ、四人は町の探索に出発した。


「思ったよりだいぶ綺麗だね」

 リラが周囲を見渡しながら言う。ネオドバイの建物は、どれも倒壊しておらず、高層ビル群は古代当時の面影をほとんどそのまま残していた。

 唯一古代と違うであろう点は、植物に覆われているところだろう。街にもあちこちに草木が生え、道のコンクリートを木の根が押し上げ、でこぼこにしている。ビルなどの建物はツタで覆われ、内部には太陽の光があまり届いていそうにない。


「その会社の本社ビルってどこにあるんだ?」

 そう言いながらイザックは地面から飛び出す大きな木の根を乗り越えた。ナヤに手を貸し、引っ張り上げる。

「そう遠くありません。十五分もすれば着きます」


 オスカーは他の三人より一段高いところに立ち、辺りを見渡していた。

「機械獣らしきシルエットはどこにもないな。……ナヤ、発掘記には何も書かれてないのか?」


「ベルタザール発掘記には、機械獣の事はほとんど書かれていません。ウリュウもサテツアラシも記述はありませんでした」

「ふーん」とリラ。

「アテにならないってわけか。でも、その方がワクワクしていいじゃない? 私達、もう二種類も新種の機械獣見つけたんだから」

 イザックは楽しそうなリラの態度にため息。

「ここの機械獣がデカくて強くなきゃ、俺も楽しいんだけどなぁ……くっそ」




 *




 四人の前にそびえ立つ、三つの塔が合体したような超高層ビル。およそ二キロある地下世界の天井に届きそうだ。四人ともグイッと反り返りながら上を見上げていた。


「……でっけえ……このビル、一階から全部上りながら黄金の獅子の秘密探すのか?」

 絶望したように言うイザックに「まさか」とナヤ。

「地下二十八階までありますから、そこからですよ」


「はあ?!」と大声を出すイザック。だがナヤは「ふふふ」と笑った。

「冗談です。場所は発掘記に書いてあるので、そこに行けばいいだけですよ」


 ナヤがビルの入り口に立つと、自動ドアが開いた。四人とも少し驚く。

「準永久機関のアーマーが、古代からずっと動いてるんだな……」

 オスカーも珍しくあちこちキョロキョロ覗いて、落ち着かない様子だ。

「同じアーマーでも、現代人のとは性能段違いなんだろうね」

 リラもあっちこっち見渡していた。こちらは落ち着かないというより、何か使えそうな機械部品がないか気になっているだけ。



「地下に行きますよ。左です」


 四人は、公園のように広いエントランスをナヤの案内で歩いて行く。すぐに大きな扉に突き当たった。


「これです」

 そう言ってナヤが押す。だが、ビクとも動かない。イザックが加わり、リラとオスカーまで加わって押すが、やはり扉は開かなかった。どうしたものか。


「リラ、何かこの扉を開ける道具は作れませんか?」

 ナヤにそう言われ、リラは改めて扉を調べる。コンコンと叩いても音が全く響かない程、分厚くて硬い扉だ。そして、カードを入れるような口はあるが、いわゆる鍵穴は見当たらない。


「ゲイドラコンドルのたまごを持ってこよう」


「な……?!」

 口をぽかんと開くイザック。ナヤとオスカーも目をクイッと開いた。


 ゲイドラコンドルは他の小型機械獣を捕食し、体内で爆弾を製造する。それを機械獣ハンター達は『たまご』と呼ぶのだ。確かにそれがあれば扉を吹き飛ばせるかもしれないが、ゲイドラコンドルは体長五メートル以上ある大型機械獣。大変危険なため、ハンターでも大型専門でなければ、おいそれとは手が出せない獲物なのだ。


「俺達だけで狩るのか……?」

 イザックがそう聞くと、リラは「もちろん」とうなずく。


「きちんと計画を立ててね」


「俺達に本当にゲイドラコンドルなんて狩れるのか?」

 そう言ったオスカーの肩をリラは小突く。


「黄金の獅子を狩ろうっていうのに、ゲイドラコンドル如きで怖気づいてどうするの」

「それは、確かにそうだが……」


「やりましょう!」とナヤ。


「みんなが納得できる作戦を立てて、やりましょう! 目指すは『三本首の崖』です!」



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