第74話 王室直属ハンターの足止め




 シンシアさんが銃を構えながら先導し、上層部のホールで演説をしているガル・ババの元へと向かう。最後尾はリラとジョイス。リラは何度も後ろを振り返っていた。師匠の姿はまだ見えない。


 中層部あたりだろうか。シンシアさんが大広間の扉を開いた。銃を構えながら中に入るが、人の姿は見えない。シンシアさんに続いて入ってきたオスカーとドグウ。オスカーが「シンシアさん」と呼びかけた。

「ドグウにはこのペースはキツイらしい。すこし休憩をはさんでくれ」


 急な階段を登り続け、ドグウは息を切らせて胸を押さえていた。シンシアさんが振り返ってそれを見ようとした瞬間、銃声が鳴り響いた。シンシアさんの手から弾かれた銃をオスカーが何とかキャッチ。しかし、シンシアさんに渡す余裕はなく。


「隠れて!」

 シンシアさんが叫び、オスカーとドグウは柱の陰に。シンシアさんも別の柱の陰に飛び込んだ。

「シンシア?! 大丈夫?」

 大広間の外からヤーニンの声。シンシアさんは「大丈夫」と答えた後続けて言った。

「他のルートへ迂回して! 私達も後から行く!」


「行こう」とヤーニンが後ろのメンバーを手招き、別の場所の階段へと走り出した。


 大広間の梁から誰か飛び降りてくる足音。そして声。


「連合国のスパイさんでしょう? ガル・ババの命令でね。ここは通さない」

 女の声。王室直属ハンターのアイヴリンだが、オスカー達にはそれを確認することなどできなかった。迂闊に柱の陰から顔を出せば、撃たれてしまう。




 *




 迂回して上の階へと登ったメンバーは、ヤーニンが先導していた。次の階へ最も近い階段へと広い通りを走っていたが

「危ないっ!」

 ヤーニンが後ろへ飛び退きながらナヤを突き飛ばした。二人がいた場所の床に叩きつけるように落ちてきたのは、王家の紋章が入った金属板。ふわりと浮きあがり、柱の陰から出てきた王室直属ハンター、ルースリーの元へと飛んでいく。


「ガル・ババの邪魔をさせるわけにはいかないんだよ」


 再び飛んできた金属板をヤーニンがヌンチャクで弾いた。腰を落として追撃に備える。



 膠着状態の中、ナヤの肩をジョイスがつついた。

「付いて来な。こっちだよ」

 走るジョイスの後ろに、ナヤ、イザック、リラ、コエンが続いて行く。それを追うように飛んできた何枚もの金属板をヤーニンのヌンチャクが全て弾き飛ばした。


「無理だよ。私を殺しでもしない限り」


 ヤーニンがそう言うと、ルースリーは金属板の一つに乗り、小さなナイフを二本取り出して、握りしめた。

「じゃあ、死んでもらわないとね」




 *




 ジョイスが先導し、ナヤ達が続いて走る行く手を、またしても王室直属ハンターが阻んだ。階段の前に立つのは、隊長のリューマ。すでに虎と入り混じった不完全な獣型になっている。


「連合国のスパイと……後ろの子はメイジャーナルで見た覚えがあるな。また私に手向かうつもりかい?」


「フン」とジョイスが笑った。

「あんたの相手はあたしがする。おいコエン! この子ら上へ連れてってやんな」

 コエンは「おう」と返事をし、ナヤとイザックとリラの三人を連れて別の階段へと走り出した。


 リューマは武器を手にしていないジョイスを見て言った。

「まさか素手でこの私とやり合おうということか? やめた方がいい。私は虎の血を引く半獣人。それもただの虎ではなく、怪力を持つ『リノタイガー』だ。人間では……」


「あたしも半獣人だよ」

 ジョイスの腕や頬にざわざわと毛が生えてきた。喉をグルルッと鳴らし、伸びた犬歯を見せつけるように笑う。

「『鬼熊おにくま』だ。力だけなら、リノタイガーよりさらに上だね」


「……それはどうかな」

 そう言うが早いか、リューマは床石を弾けさせながらジョイスに飛びかかった。



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