第30話 アカデミーでのイザックとナヤ
「イザックー!」
アカデミーの廊下。駆け寄ってきてイザックの腕をとったのはナヤ。そのまま自分の腕とクロスさせて歩き出す。
「遅かったな」
「前の授業、先生がお喋りで余計な事たくさん話すんで、毎週時間内に終わらないんですよね」
図書館へ向かう二人。恋人関係がスタートしたのは、イザックがアカデミーに来てすぐだった。
実は、メイジャーナルでナヤが最初にリラとイザックに声をかけたのは、高速道路で見かけた瞬間、ナヤがイザックに一目惚れしたからだったのだ。イザックもメイジャーナルでナヤと会ってから狙っていたため、あっという間にくっついた。
イザックとナヤは、図書館で明日の小テストのための勉強をしていた。ナヤは教科書と図鑑、ノートを広げてひたすらシャーペンを走らせる。イザックはその隣で、適当に選んだ本を読んでいた。
リラと同じ分だけ努力する、と意気込んでアカデミーに来たイザックだが、退屈な日々を過ごしていた。
エリートを育てるアカデミーは、十六歳で入学して二十二歳で卒業する六年制。十七歳のイザック達は二年生であり、学ぶ内容はまだまだ基礎的。イザックにとってはとっくに知っている事や、簡単にできる事ばかりなのだ。
イザックが編入する際、学科、実技、面接によって能力をテストされたのだが、同い年の他の学生達と一緒にされたのだ。そして、イザックのパートナーはナヤとオスカー。
この若干無理のある学年決定も、三人という異例なパートナーの組み方も、全てナヤが裏で手を回した結果らしい。ローリー財閥はアカデミーにも多額の援助をしており、当主のアルカズ・ローリーがその気になれば、アカデミーを潰す事もできるとまで言われている。
そんな事情から、イザックはナヤが自分の学業に関しても色々と裏で操作をしているのだろうと思っていた。ところが、イザックがアカデミーで過ごせば過ごすほど、ナヤはそういうタイプの不正とは無縁であり、ひたすら努力をしているという事実がハッキリするばかりだった。
だが、それを知っているのは近くでナヤを見ているイザックとオスカー、そしてかつてパートナーとなった事のあるごくごく一部の学生のみで、殆どの学生のナヤに対する目は、どちらかというと冷ややかだった。
「イザック……リラからは、何か音信はあったんですか?」
ナヤが小声で尋ねる。勉強が一段落付いたらしく、本やノートは閉じられていた。
「いや、何も」
「どうして彼女は、大事な相棒のあなたをほったらかしにするんでしょうね?」
「ああ……」と言いつつ、イザックは考え込んだ。
メイジャーナルで最後に見たリラの姿は、イザックにとっても初めて見るものだった。
いつも前向きなリラが『もう無理』『心が折れた』とまで言った。そして、いつも切り替えが早いリラが、そのまま姿を消し、実家に帰ったという連絡が、リラの親を通して来た。
「手紙の返事も来ないんでしょう?」
「ああ……」
「もう、本当に折れてしまって顔向けができないとか?」
「そうは考えたくねえな」
「ですけど……」
突然、後ろからナヤの両肩にパン! と手が置かれた。後ろに立っていたのは、二つか三つほど学年の違う上級生のグループだ。
「ねえナヤちゃん、コレ聞いた?」
一人の上級生がナヤの隣に新聞を置いた。一面に書かれているのは、ガル・ババの予告に関する記事だ。
「これ獣人でしょ? 怖くない?」
「ええ、そうですね」
ナヤが一言そう言うと、上級生たちが次々喋り出した。
「ナヤちゃんのお父さん、獣人をアストロラから追い出せって言ってるんでしょ? ナヤちゃんからお父さんに早くしてって頼んでよ。ナヤちゃんのお願いなら、お父さん何でもやってくれるでしょ?」
「でもさー、もし獣人がアカデミーに来ても、ナヤちゃんがいれば大丈夫じゃない? だってメイジャーナルカップで、アカデミー史上最高の成績出したんだから」
「確かにー。じゃあ今からナヤちゃんのお気に入りになっとかないと!」
「ナヤ、イザック」
少し大きめの声で二人を呼んだのはオスカー。大柄で表情が乏しいオスカーが近付いてきて、上級生達は一度口をつぐむ。
「そろそろ来るぞ」
「そうですね」「ああ」とナヤとイザックは自分の荷物を片づけ、オスカーと共に図書館を出た。
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