第15話 機械獣ハントと『霊術』




 メイジャーナルカップ五日目、機械獣ハント初日。コロッセウムにハンター達が集まり、ザワザワと歩き回っていた。自分が渡された抽選用紙のマークと同じものを持ったパートナーを探しているのだ。

 リラとイザックはペアになれなかった。可能性を考えれば、まあ当然だ。それぞれパートナーを探す。イザックは、初めて会うアカデミーの女子生徒がパートナーだった。嬉しそうにおしゃべりを始めるイザックから離れ、リラは自分のパートナーを探す。


「すいません、用紙見せてもらえます?」


「すいません、その用紙は……」


「誰か、まだパートナー見つかってない人知りません?」


 なかなかパートナーを見つけられずリラがうろうろしていると、突然後ろから腕を回し込むように、リラの目の前に抽選用紙が開かれた。

「同じだろ?」


 あの王室直属ハンターの優しい声。リラが振り向くと、ライランドがリラと同じマークの抽選用紙を持って立っていた。


「え、ライランドさん?!」


「『さん』はいらないよ。パートナーになるしね。……運命を感じるな。君の優勝に、一役買わせてもらうよ」

 ライランドは嬉しそうに満面の笑みでリラの隣に立った。そして、運営スタッフに向かって手を振る。

「俺達が最後だったらしい。すぐに競技が始まるよ」




 開会式の時と同じく、特別席に現れた州知事が演説を行った。長々と喋っていたが、リラの視線は州知事ではなく、その隣のガラスケース。中に入っているのはもちろんあれ。黄金の獅子の生きた部品だ。

 リラがそれに釘付けになっているのを見たからか、ライランドが言った。


「君の夢は黄金の獅子を狩ること?」

 ライランドに顔を向け「はい」とうなずく。

「それなら……」


「それでは!!」

 ライランドが喋りかけた所で、州知事の大きな声がマイクで響き渡った。


「メイジャーナルカップ最後の競技、機械獣ハントを……開始します!」


 ドン! ドン! と空砲が鳴り、ハンター達がコロッセウムから走り出していく。


「俺達も行こう!」

「はい!」




 *




 リラとライランドはメイジャーナルの街から離れた森で、機械獣を追って走り回っていた。


「リラ、向こうから追い立ててくれ。俺が仕留める」

「分かりました」


 リラは大きく弧を描きながら、機械獣サルサワームの後ろへ走り込んだ。ドライバーガンを撃ち、サルサワームを走らせる。

 走らせたい方向から外れそうになると、ドライバーガンを撃って軌道修正させる。うまい具合にライランドのいる方へとサルサワームを逃げさせた。


 待ち構えていたライランドが、自分のアーマーを放った。ドライバーガンの先端だけ取り外したような形をしている。そのアーマーは宙を走り、サルサワームの外殻の隙間から覗くボルトに突き刺さり、ギュン! と回転して一瞬でサルサワームをバラした。


 二人はこんなふうに、凄まじいペースで機械獣を狩っていた。サルサワームだけでもこれで四機目。他にもケラベアー二機、エンバタイプA、タイプBそれぞれ三機、シングルスターパイソン一機。

 すでにネジリウマを連れても持ち運ぶのは不可能な量になり、ライランドが崖の割れ目に作った即席の基地に積んである。


「こんな速さでバラすなんて、信じられないです。やっぱり王室直属ハンターって、私達とは違いますね」

「俺は、それ以外は能無しなんだよ」

 ライランドはそう言って笑いながらサルサワームを引きずっていく。リラも後ろから押しているが、ライランドは見かけより力が強く、殆ど自分だけで引きずっていた。


「ライランドさんの使ってるそのアーマー、宙に浮いて飛んでますけど、一体どういう仕組みなんですか?」


「ああ、これはね、アーマーじゃないんだ。ただの鉄でできたドライバーの先端だ」

「え? でも宙に……」


「それは、俺の『』なんだ」

「れい……?」

「霊術っていうのはね……」

 ライランドは振り向くと、サルサワームから手を離し、リラの元までやってくると、両肩を持ってリラをくるりと反対向きにさせた。


「え、何ですか?」


 ライランドは緩んでいたリラのポニーテールをほどいた。腰まである長い髪がぱらりと広がる。それをライランドは、実に慣れた手つきで、きつく結び直した。


「これでよし。ビシッと気合入るだろ」

 リラは自分の頭を触って、結び具合を確認した。完璧だ。

「随分手際いいですね」

「妹がいてね。小さい頃は毎日やってやってたから。で、話の続きだけど」


 二人はまたサルサワームを持って歩き出した。

「霊術っていうのは、水とか火とか、風とか電気とか、いろんな自然現象を操る術の事だよ。俺は磁気の霊術を使えるんだ」


「そんな凄い術があるんですか?! 全然聞いた事なかったですけど……」


「元々、外国で生まれて伝えられてきた術だからね。この国アストロラは完全に鎖国されていて国外の情報は一般人には手に入れられないし。俺も、王室直属ハンターになってから、当時の隊長に手ほどきを受けたんだ。まあ、一種の秘術だね」


「私に喋っちゃってよかったんですか?」


「そこなんだ」

 そう言ってライランドは足を止めた。そして、ゆっくり振り返る。


「俺は今ここで君を殺さなきゃならない」


『え?』とすら言えずに固まったリラ。ライランドはすぐに「あはは」と楽しそうに笑った。

「冗談だよ! そんなわけないだろ」

「……もう、やめてくださいよ!」


 二人で笑いあいながら、基地に向かった。




 *




 リラとライランドが崖の割れ目の基地まで戻ってくる頃には、すっかり暗くなっていた。カップ運営から貸し出された二頭のネジリウマは外につなぎ、二人は基地の中でランプの明かりをはさんで座っていた。

 基地と言うとたいそうな感じだが、岩肌の上に厚手の布を敷いて、入り口にはライランドの制服の上着を広げて引っかけて塞いでいるだけのものだ。


「リラ、黄金の獅子を狩るのが夢だって言ってたよな。小さい頃から?」

「はい。私、子供の頃から機械獣が大好きで、絵を描いたり図鑑を読んだりしてたんですけど、ハンターをやっていた叔父に、取引所に連れて行ってもらった時に黄金の獅子の髭を見て……」

 ライランドは、思い出を話すリラの隣に移動すると、腕をリラの頭の後ろに通し、肩を抱いて言った。


「いい加減、敬語はよせよ」


 リラは少し迷った後「うん」と答えた。ライランドは「ふっ」と軽く笑うと、ゆっくり顔を近づけながら言った。

「お前の夢、俺が叶えさせてやるよ」

 そのまま、リラとライランドは唇を合わせた。



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