第16話 機械獣ハント、終了




 朝、基地の前でドライシャンプーを使って髪を洗い、ブラシをかけるリラ。そこにライランドがやって来てブラシをそっととった。リラの髪にブラシをかけ、一つにまとめる。

 昨日と同じように、きっちりポニーテールを結ってくれた。ライランドはリラの頬に手を添えて後ろを向かせ、軽くキス。


「今日も頑張ろう」

「うん!」




 *




 空は夕焼けで染まり、イリア・コロッセウムにはハンター達が集まっていた。ケラベアー一機とサルサワーム二機を狩っていたイザックのペアが計量を済ませて待っていると、ナヤのペアがやってきた。プロのハンターとペアになって狩りまくったらしく、二頭のネジリウマでは引っ張りきれない量を馬車に積んでいる。


「うっわ……すげーなナヤ。どれくらい狩った?」


 ナヤは少し得意げに笑いながら「そうですね……」とペアのハンターと顔を合わせた。

「ハイゾンさん、ベテランでとても腕利きな方だったので、助けて頂きました。シングルスターパイソン二機と、ケラベアー四機。ウツボペリカン一機とエンバタイプA,Bを四機ずつ。それと……サルサワーム七機です」


「七機も?!」

 イザックに衝撃が走った。リラが果たしてそんな量を狩ることができるだろうか? いや、無理に決まっている。


「リラには悪いですけど、一位は私達です。優勝も私がもらいますよ」

 ナヤはまた得意そうに笑うと、ペアのハンター、ハイゾンとハイタッチをした。




 突如、会場がどよめいた。ハンター達だけでなく、観客も一気に騒がしくなっている。イザックとナヤ達は、頭をあちこちに振ってどよめきの元を探す。それは前でも後ろでも横でもなく、上だった。


 コロッセウム上空に、ローターを四基積んだ大型の輸送ヘリが現れていたのだ。ヘリは、ハンター達が開けた会場のど真ん中に着地。そこからリラとライランドが降りてきた。イザックとナヤがかけよる。

「リラ、お前なんでこんなヘリから……」


 リラは満面の笑みでイザックに拳を向けた。イザックも取りあえず応じて、拳をぶつける。


「やっぱりヘリで来たのは私達だけだったんだね。自信あるよ!」


 輸送ヘリの船体の一部が大きく開いた。ライランドが「オーライオーライ」と手を振りながら降りてくる。続いて降ろされたのは、機械獣の山だ。半端な量ではない。


「嘘だろ?!」

 その一言であとは絶句状態のイザック。リラはライランドを呼び寄せた。

「この人、ペアのライランド。さすが王室直属だよ。信じられない腕前」

「お前も優秀だったよ」とライランドがリラの肩を抱く。


「お前ら、一体どれだけ……?」

 イザックがそう言うと、リラは指折り数え始めた。


「ケラベアー七機、ウツボペリカン三機、サルサワーム十二機、エンバタイプA、Bそれぞれ五機、あと……シングルスターパイソン四機とバルカンバッファロー二機」


「バルカンバッファロー?!」

 思わず大声を出したイザック。それを聞いた周りのハンター達も再びどよめく。


 バルカンバッファローは、数少ない飛び道具を備えた機械獣であり、あらゆる機械獣の中でも狩るのが最も難しいものの一種。

 それを二日間で二機も狩ったというのは、プロのハンター達からしても信じがたい成果だ。





 計量が終わってから、メイジャーナルカップ通しての成績を集計し、発表が行われる。少なくとも機械獣ハントに関しては、誰がどう見ても結果は明らか。リラとライランドがぶっちぎりの一位だ。

 あとは、その結果によってリラがナヤを追い越せたかどうか。



 コロッセウムの外、遠くからドン、ドン……という音が聴こえる。祝砲だろうか?

「コロッセウムの近くで鳴らせばいいのに」とつぶやくリラの隣で、ライランドは「ああ……そうだな」と静かに言った。


 会場にアナウンスが響く。


「メイジャーナルカップ参加ハンターのみなさん、地下二階のホールへお集まりください。発表及び閉会式の準備を行います。観客の皆さま、その場でお待ちください」



「地下二階?」

「この場でやらないのか?」

「発表の準備って何だ?」

 ハンター達はそんなことを言いながら、地下二階へとぞろぞろ向かった。


「私達も行こう」

 リラそう言って歩き出そうとすると、ライランドは肩を抱いていた手を離した。

「悪い。俺は一度隊長の所に行かないと。お前は先に行っててくれ」




 *




 地下二階のホールにハンター達が集められた。そこに一台、選挙カーのような台座がついた車が現れた。上には運営スタッフがメガホンを持って立っている。


「みなさん、これからお話しすることは、混乱を避けるため一般の観客には決して教えないでください」

 スタッフがそんなことを言うと、ハンター達がざわつく。スタッフの声は大きくなった。


「信じがたい事ですが現在、メイジャーナルに。すでに州知事による非常事態宣言も出され、警察が対処していますが、機械獣相手では手に負えません。皆さんも機械獣退治にご協力ください。今回の狩りの成果は、メイジャーナル州が本来の値段の一割増で買い取らせて頂きます」


 ハンター達がさらにざわつく。アーマーを打ち鳴らす者やスタッフに質問しようとする者、自分の仲間を探す者。


 リラもその一人だった。探しているのはライランド。だが、朱色の制服を着た人間は一人も見当たらない。


「それでは、よろしくお願いします」

 スタッフがそう言うと、地上へつながる通路の扉が開かれた。ハンター達が一気に駆け上がっていく。




「ナヤ! リラのやつ見なかった?」

 イザックが息を切らせながらナヤの元へやってきた。

「いいえ。見てません」

「リラならあそこだ」

 オスカーだ。指さす先に、確かにリラの姿を見つけた。

「ナヤ、教授が呼んでる。俺達は避難だ。イザック、じゃあな。リラにもよろしく言っておいてくれ」

 オスカーはそう言ってナヤの手を引いて行った。イザックは二人に手を振って、リラを追いかける。


 リラは外につながる通路ではなく、元来た階段を駆け上って行った。




 *



 コロッセウムのグラウンドまで上がってきたリラ。朱色の制服は見当たらない。観客席の方を見上げた。すると、特別席に朱色の制服を着た人間が四人、何やらうごめいている。


 何をしているのかと目を凝らす。王室直属ハンターの四人が走り去った後に現れたのは、空っぽのガラスケースだった。

 あれは、賞品である黄金の獅子の生きた部品が入っていたケースだ。


「うそ……」


 小さくつぶやくリラの後ろに、イザックが追いついてきた。

「おい、何やってんだよ。聞いてただろ? 街に……」

「そっちはイザックに任せるよ。私はあっちを追わなきゃ!」

 そう言ってリラは走り出した。


「あっちって? あ、おいどこ行くんだよ!!」



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