第18話 謎の機械獣
リラは王家の別荘がある高台からの道をトボトボ降りていた。
遊ばれたんだ。ライランド達からすれば、自分はとるに足らない子供。適当に楽しんだら、あとはどうでもいい。そんな存在だったんだ。ライランドにとっては。
リラは、ライランドに結んでもらったポニーテールに手をやり、髪留めのゴムをむしり取るようにちぎった。長い髪がパラリと広がり、緩やかな風になびく。
ガックリとその場に座り込み、両手で顔を覆った。肩を揺らしながら、静かに背中をまるめてうずくまる。
ここは街からは少し離れているが、それでも衝撃音や爆発音が聴こえてきていた。そして、ごくまれには悲鳴も。
「……イザック……」
リラは、鼻をすすって立ち上がると、坂道を駆け下り始めた。
*
メイジャーナル中央地区。巨大な機械獣の前に、王室直属ハンターの専用車が止まった。乗り込んだ四人がすぐに降り、機械獣と対峙する。
「こいつ、まさか……」
つぶやくライランドの視線の先にいる機械獣。金色の輝きを身にまとった、ライオン型の大型機械獣だ。高さは四メートルほど。
巨大ではあるが、黄金の獅子にしてはあまりに小さい。
「この機械獣、いったい何だろう?」
背の低い男がそう言うと、隊長が手で指示しながら剣を抜いた。
「ルースリー、それは後で考えればいいんだ! あいつの裏へ回ってくれ。ライランド、まず足からバラして動きを鈍らせるんだ。アイヴリン、私がひきつけるタイミングで、車に設置されたワイヤーをあいつの首に巻き付けて引っ張ってくれ。いくぞ!」
四人が散らばった。ルースリーは王家の紋章が刻まれた小さな金属板を宙に浮かせ、それを足場にして空中を走り抜けていく。
ライランドはドライバーの先端を二つ浮かせ、機械獣の足に近付けていった。ところが
「……ボルトがない? ボルトが一本もないぞ!」
隊長が「それなら」とライランドに指示を出す。
「外殻の隙間を探して、引き剥がしてくれ!」
「了解!」
ルースリーが叫んだ。
「コイツ、配線も見つからないよ!」
続けてアイヴリンが悲鳴を上げた。機械獣に、首に巻き付けたワイヤーを引っ張られ、車が横転したのだ。
「すごい力。車じゃ引っ張れない! 隊長?!」
隊長は機械獣の首を切りつけながら言った。
「仕方ない、とにかく攻撃だ! 何としても動きを止めるんだ!」
*
逃げ惑う人々の中、リラは長い髪を振り乱しながら必死にイザックを探していた。炎に照らされるオレンジ色の光の中、イザックらしきシルエットは見つからない。
「イザックーー! イザックーーー!!」
「リラさん」
名前を呼ばれて振り返った。そこにいたのは、あのタキシードの老人と若い女性の二人組、バルトとリンナ。
「お二人とも、イザックを見ませんでしたか?!」
バルトはすぐに建物の陰の方を指さした。
「あそこに入っていくのを見ましたよ」
リラは聞くが早いかお礼も言わずに建物の陰に飛び込んだ。そこにいたのは、腹から血を流しながら横たわるイザック。リラは思わず悲鳴を上げた。
「イザック!! しっかりして!」
イザックの体を抱き起す。息はしているが、反応はない。リラはイザックを何とか背負い、ふらつきながら道へと出た。もうバルトとリンナの姿はない。
「すいません、お医者さん……けが人がいるんです! 避難所どこですか! 誰かーーーーーーーーっ!!」
爆発音、発砲音、悲鳴……リラの泣き叫ぶ声はかき消されてしまった。
*
アイヴリンが銃を撃った。通常なら機械獣の外殻を貫いて内部に電流を流す釘型の銃弾は、バチン! という音とともに弾かれた。
咆哮を上げながら機械獣が振り下ろした爪をかわし、アイヴリンは声を張り上げた。
「私のアーマーじゃダメ、通じない!」
アイヴリンに、隊長が自分の剣を放った。
「持っててくれ!」
隊長が全身に力を込める。髪の毛が伸び、瞳が大きくなり、牙が伸びた。さらに、頬に黒い筋模様が四本浮かび上がる。その姿は、人間と虎の入り混じった、『不完全な獣型』
「おい隊長! まさか殴るのか? あんたが殴ったら外殻どころか中身まで完全にひしゃげちまうだろ!」
そう言うライランドに隊長は「仕方ないだろう」と返す。
「動きを止めるのが優先だ!」
隊長が機械獣の頭上へと高く飛び上がった。拳を振り下ろし、機械獣の頭部を上から殴りつける。
ドン! という音とともに、周辺の地面が振動し、機械獣から光る何かが空へと飛びだした。
*
イザックを背負って必死に走るリラ。もう腕は限界に近い。だが、イザックを置き去りになどできない。
自分がコロッセウムからライランドを追わずに、イザックと一緒にいれば、こんなことにはならなかっただろう。自分が馬鹿な事をしたために、大事な相棒が死にそうになっている。涙が止まらない。
「ああ……うああ……あああはああ……」
徐々に声が出てきた。リラは泣きながら街を走っていた。どこに行けばいいのかも分からない。とにかくまわりの人間に合わせて走るしかない。だが、イザックを背負って走るリラは他の人達と差が開き、自分達だけになってしまった。
後ろからズルズル、ギリギリと金属が床石を滑る音が聴こえてきた。リラは瞬時に泣き止み、後ろを振り向いた。
そこにいたのは、蛇型機械獣シングルスターパイソン。背中に付いた刃物のような鱗をカチャカチャ鳴らし、金属とは思えない程滑らかに動く舌をチョロチョロ動かし、リラをまっすぐ見下ろしている。通常なら黄色い眼は、真っ赤に光っている。変異体だ。
リラは足を速めようとした途端、つまづいて倒れた。放り出してしまったイザックの上に、慌てて自分の体をかぶせる。
せめてもの罪滅ぼし。イザックを守って、身代わりに死ぬ。それができなくても、一緒にあの世へ。シングルスターパイソンを見つめながら、リラはイザックを抱きしめた。
ゆっくりシングルスターパイソンが口を開く。ところが、横から縄跳びの様なグリップがついたワイヤーが飛んできてシングルスターパイソンに絡まり、バチバチッ! と音が鳴った。
電流を流されて動きが鈍ったところへ、今度はオスカーが剣を差し込み、体をねじり切る。シングルスターパイソンはガシャガシャと激しい金属音をたてて崩れ落ち、動かなくなった。
「大丈夫ですか?!」
そう言いながら走ってきたナヤだが、イザックが腹から血を大量に流しているのに気づき、大きな叫び声を上げた。すぐにリラが首を横に振る。
「まだ死んでない。でも、すぐお医者さんのところに連れて行かないと……」
「オスカー!」
ナヤに呼ばれて走り寄ってくるオスカー。ナヤはイザックの体を起こしながら言った。
「オスカー、イザックを背負ってください。私達のホテルにお医者様がいたはずです。私が先導しますから、リラもついて来て下さい!」
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