第19話 行方不明




 ナヤ達アカデミーの生徒が泊まっているホテル。ラウンジに即席でテントを張り、イザックの治療が行われていた。リラ達は、その外で終わるのを待つ。


「リラ……どうしてイザックと一緒にいなかったんですか?」

 ナヤはリラを睨み付けている。ソファで隣に座って頭を下げているリラの顔は、たれさがる長い髪の毛と両手で隠されている。


「イザックは……一人で、どうしていたんですか? 彼に何があったんですか?」


 リラは何も答えられなかった。ナヤの声は次第に大きくなっていく。


「何も分からないんですか? ……あの王室直属ハンターにくっついて、イザックをほったらかしにしていたんですか?! こんな非常事態に!! あなたはイザックの相棒なんでしょう?!」


 厳しい追及にリラは体を縮こまらせた。やはり何も答えられない。


 テントが開き、中から医者が手招いた。リラ達三人とも、テントに入る。

「意識が戻りました。ひとまず、命に別状はありません」

 ナヤが医者に「ありがとうございます」と言いながら用意していた小切手を差し出した。医者は「いやいや」と手で押し返す。

 ナヤはイザックの隣に膝をついた。イザックの顔がゆっくりとリラの方を向く。


「リラ、無事だったか、よかった。俺、さっきバルトとリンナに……そうだ、黄金の獅子の部品が……」

 リラは激しく首を横に振った。

「もう無理」

「……は?」

 イザックの傍らに、リラは自分のドライバーガンを置いた。

「ごめん……本当にごめん。全部私のせい……」

「お前のせいって? 何がだよ」


「私……心が折れちゃった」


 イザックは、体を倒したまま片手を持ち上げ、リラの手の上にかぶせた。

「何言ってんだよ……お前の、いいところは……」


 イザックが話している途中で、リラは「ごめんなさい!」と立ち上がり、テントを飛び出し、そのままホテルの外へと走り去ってしまった。ドライバーガンをイザックの傍らに残したまま。




 *




「そこからこっちには入らないでくれ。ここらへんは俺達が管理しているんだ」

 朝、機械獣からの襲撃騒動がひとまず収まったメイジャーナルの街中で、ライランドが警察官を追い払っていた。警察の事情聴取や実況見聞、現場検証を排除し、自分達が優先的に行う事ができる。これも『王室特権』の一つだ。

 警察官が去ったのを確認してから、ライランドは隊長達の方へ向かった。そこにあるのは、あの金色に輝くライオン型の機械獣……だったはずの残骸だ。


「隊長、これどういう事なの?」

 残骸の上からルースリーがそう聞く。隊長は真剣なまなざしで残骸を眺めながら言った。

「さっぱりだね」


 ライランドが隊長の隣にやってきた。足で部品を軽く蹴とばす。

「これが金色に光って勝手に動いてたってことか? まるでお化けだな。……隊長、どうするんです? 陛下から何か命令来たんですか?」


「ひとまずこの部品を王宮に運ぶように命令されたよ。もう少しでヘリが来るはずだ」

「へえ。でも、持って行ってもなあ……」


 残骸を拾って眺めながら、アイヴリンがつぶやいている。

「これは……ウツボペリカンの顎。これはエンバの足? こっちはケラベアーの腕……」



 昨晩、隊長がこの機械獣を殴りつけた途端、が空へと飛びあがり、消え去った。すると、機械獣は一気に金色の輝きを失って、バラバラと崩れ落ちた。


 金色に輝いていたライオン型の機械獣。その正体は、どこにでもいる機械獣の部品をぐちゃぐちゃに寄せ集めた、クズ人形だったのだ。




 *




「イザック、また会えるのを……心から楽しみにしていますね」

 笑顔と握手を交わす、ナヤとイザック。隣からオスカーも、珍しく笑顔を見せていた。

「俺もお前とまた会うのは楽しみだ。それじゃあな」


 結局ホテルで一晩を明かしたアカデミーの一行は、やっとバスで帰れることになった。ここからアカデミーのあるアストロラ北部までは、イザック達の住むこのあたり南部からは長い道のりになる。だが、昨晩リラが去った後、イザックはナヤとを交わしていた。


「アカデミーのある北部はこの地域より寒いですから、防寒具を忘れずに! それじゃあ、また来月!」

 ナヤがそう言い残し乗り込むと、アカデミーの一行を乗せたバスは走り去っていった。



 イザックはその後、ドライバーガンと荷物を持って自分のホテルに帰り、予定より長く一週間滞在したが、結局リラは現れなかった。






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