第二部 ブルービースト・テロ事件とLION結成

第20話 すべて純粋なビジネス




 床も壁も土でできた部屋。気取った口ひげを蓄えた男が椅子に座っていた。男がタバコを取り出すと、後ろに控えた部下がライターの火を差し出す。男は煙草の煙を吐いて、背もたれにもたれた。

「遅いな……向こうから呼びつけておきながら」



 部屋の扉が開いた。

 剣を腰に下げた男と、銛を携えた女が入って来て、テーブルの気取った口髭の男の向かい側に立った。続けて入ってきたのは、身長二メートルはあろうかという大男。口髭の男の向かいに腰かけ、椅子をギシリときしませると、太く低い声を響かせた。


「待たせたなフェン」


 フェンはまた煙草の煙を吐く。

「二十分は待ったぞ。お前から時間を指定するなら、きちんと守ってもらいたいものだな」


 大男はフェンの言葉を無視して話を始めた。

「メイジャーナルでの一件、説明してもらおう」

「説明とは何かな?」


「しらばっくれるな。『獅子の亡霊』だけでなく、機械獣の変異体が暴れた。なぜそんなものが一緒に暴れたんだ。お前達が裏で何かしたのだろう?」


「おいおいガル・ババ。冗談もほどほどにしてくれ」

 フェンは軽く笑いながら煙草を灰皿に押し付けた。

「我々がそんな事をする必要がどこにある。あれは獅子の亡霊が引き寄せただけだ」


「変異体は、お前達の『研究』の結果生まれるものだと言っていただろう」

「違うな。私達の研究に生まれる、だ。もう一度言うがメイジャーナルを荒らした変異体は、獅子の亡霊が呼び寄せただけだ。お前には変異体などよりをすでに提供しているだろう?」

 ガル・ババはグッと顔をしかめ、フェンを睨み付けた。

「私がしているのはそういう話ではない。隠し立てをしたり、全てを明かさないお前達は信用できないという事だ。お前達の協力が十分でなければ、こちらの計画は成功しないんだぞ」


 フェンは二本目のタバコに火をつけて、煙を吐いた。

「お前達に信用してもらおうなどとは、初めから思っていない。言ったはずだ、我ら『蛇と薔薇』は、アストロラの内紛には干渉しないと」


「フン」と鼻を鳴らすガル・ババ。

「あちらにもこちらにも武器や情報を売りつけておきながら、よく言ったものだ。公爵家とも怪しげな取引をしているらしいな。貴様らは結局誰の味方になるつもりだ」


「たった今言っただろう? 我々はアストロラの内紛には干渉しない。需要がある場所に供給をするだけだ。全て純粋なビジネス。これ以上安心できる分かりやすい立場はないはずだ。他に話がないなら、私は帰らせてもらうぞ。私の方でも今日は重要な客人を迎えることになっているんでね」



 フェンと部下が部屋から出ていくと、銛を持った女が口を開いた。

「総統、このままあいつらに好き放題させていいんですか? 人間に振り回されるなんて『ブルービースト』の旗が泣きます」

 ガル・ババは立ち上がりながら言った。

「今は我慢するんだ」

 今度は剣を下げた男が口を開く。

「フェンは『蛇と薔薇』の中でも、幹部とすら言えない程度の地位だと聞いています。こちらは総統が直にお話をなさっているのに、我々獣人を対等に見ていない証拠です。私も我慢がなりません」


「もう少しの辛抱だ。を奴らから買ってアストロラを制圧した暁には、思い知らせてやる。人間と獣人、どちらが上に立つべき存在かをな」


 そう言ってガル・ババは、二人を連れて部屋を出た。


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