第65話 総統ガル・ババと王室直属ハンター




 ブルービースト本部、ブベル塔の中の一室。総統ガル・ババと向かい合って、王室直属ハンター隊長のリューマが座っていた。後ろには残りの三人の姿も。


「聞かせてもらおう。お前達と組んで我々に何の得がある」


 そう言ってリューマを睨むガル・ババの後ろでは、獣人達が牙をむいて喉を鳴らしている。だがリューマを始め四人は全く顔色を変える事はない。


「私達のあるじ、アストロラ国王エルキュルス陛下は、何よりも王家の誇りを大切にしていらっしゃる。ところが政府は、こともあろうにこのアストロラ王国を連合国に加入させようとしている。公爵家までもが、連合国加入を認めるべきではと揺れている。陛下は、このままでは王家の誇りが傷つけられるとお考えなんだ。君達が例え人間を支配下に置いたとしても、結局は人間を統治する人間が必要になるだろう? 管理しなければならないからね。その人間の王を、エルキュルス陛下にしてほしい。君達からすれば人間の王が誰になろうとたいして変わりはないはずだ」


「こちらに何のと聞いているんだ」


「陛下には王室特権がある。物資、荷物の運搬をさまざまなインフラを優先的に使って行え、その中身は問われない。さらに、連合国を始め様々な国の政治家や統治者とパイプがあり、君達が逆立ちしても手に入れられない情報、物資を手に入れられる。君達がかつて手を結んでいた蛇と薔薇以上のものを、蛇と薔薇以下のコストで与えることができるという事だよ」


「蛇と薔薇を利用していたのは、力を得るためだ。今、我々はお前達の力などなくとも、人間達を支配するだけの力をすでに持っている」


「あまり人間を甘く見ない方がいい」


 リューマがそう言った途端、獣人の一人が狼となりとびかかってきた。瞬時にアイヴリンの銃が火を噴き、狼が倒れて足から血を流す。

 それを皮切りに次々と狼がハンター達に飛びかかるが、ライランドのドライバーに弾かれ、ルースリーの金属板に殴られ、ガル・ババの護衛の獣人達は全員倒れ伏し、呻き声を上げるばかりとなった。

「ご覧の通り」とリューマ。


「人間と正面切って戦争をすれば、現実としてどうやっても獣人の犠牲者が出る。私達が協力すれば、それをゼロに近づけられる。一人でも多くの獣人を救えるなら、君達にとっては十分大きな利益じゃないか? 見返りはさっきも言った通り、君達からすれば誰でもいい人間の王をエルキュルス陛下にするだけ。どうだい?」


「……まずはアストロラを征服する間、お前達の協力具合を見せてもらう。エルキュルスを王にするかはそれからだ」




 *




 ガル・ババとの会談を終え、王室直属ハンター達四人は、ブベル塔の廊下を歩いていた。

「なあ隊長。おかしくないか?」

 ライランドがそう言うと、隊長は「何がだい?」と返す。

「陛下だよ! どう考えたっておかしいだろ。連合国に加入するのが許せないからって、獣人が人間を征服する手伝いをして、獣人に支配される人間の王になるなんて」


「陛下にとって王家の誇りは、人間の頂点、という事なんだろう。私達はそれを守ればいいんだ」


 リューマはそう答えるが、ルースリーも納得がいかない。

「でも、僕も今の陛下のお考えは支離滅裂だと思うよ。ゾウマが来てから、陛下の様子は明らかにおかしい」

 アイヴリンまでもがうなずいている。

「一度、陛下にその事を……」


「やめないか」とリューマ。

「そんな邪念が入ると任務を遂行できない。私達はすでに二度失敗しているんだ。挽回しなければ、私達の信用は取り戻せない。それまでは陛下に何を進言しても無駄だよ」


 ライランドはため息をつきながら頭を掻いた。

「黄金の獅子、狩りたかったなあ……」

 リューマもため息をつきながら言う。

「もう陛下には必要ないんだ。人間の頂点立って王家の誇りを取り戻す方法を手に入れたんだから。とにかくまずは信用を取り戻すため、仰せつかった任務を確実に遂行しなければならない」



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