第81話 二人組からの救いの手




 リラと師匠達はブベル塔中層の部屋から、テラスへと出た。そこへ着陸したヘリコプターから、ナヤとイザックとコエン、そして秘書さんが現れた。


「お師匠さん! エルキュルス王が条約に調印しました。これで連合国軍を展開可能です」

 秘書さんが駆け寄りながらそう言うと師匠は「よし」と一言だけ返し、二人ですぐにヘリコプターへと向かう。

「うちの第三連隊はどうした?」

「すでに『タキプレス』をアストロラ領空のギリギリで待機させてます」

「すぐに向かおう」


「師匠!」

 慌てて追いかけるリラ。

「これからどこに……?」


「ガル・ババが乗った飛行戦艦を追う。地上へ爆撃を始める前に捕らえなくてはならないからな」


「すいません師匠、お願いが……ナヤ!」

 リラに呼ばれたナヤは理由を察し、すぐに走ってきた。

「ナヤ、ガル・ババとの話は全部終わったの?」

「いえ、それが……肝心の聞きたいことが何も聞けなくて……」


「師匠!」とリラが師匠の袖をつかむ。


「ナヤを連れて行って……」

 師匠はリラが言い終る前に「ダメだ!」と強くおさえこんだ。

「ここから先は本格的な戦闘になる可能性も捨てきれない。お前達を連れては行かないぞ」


 師匠はリラの手を振り払い、秘書さんと一緒にプロペラ機に乗り込んだ。リラ達の頭越しに、部下のシンシアさん達に指示を出す。

「お前達はここで待機だ。第七、八連隊が到着したら合流しろ。……リラ」

 名前を呼んだ師匠。最後にこう言い残して行った。


「もし、どうしても行きたいなら、ここからは自分達で何とかするんだ」




 *




『ヒビカさんがダメだと言ったらダメ』。シンシアさんを始め、師匠の部下は全員そう言う。だから力は貸せない、と。仕方のないことかもしれないが、リラ達は諦められなかった。


「ナヤ、お前、俺達全員引っ張って空飛べないか?」

 そう聞くイザックに「何言ってるんですか」とナヤ。

「私は、空は飛べません。滑空するだけです。何か乗り物を探さないと」

「でも」とリラ。

「飛行機とかはなさそうだよ? ここに来るまでも、乗り物は全然なかったじゃない。オスカー、あなたは何か……」


「悪いが、俺は行かない」


 リラ達三人とも、オスカーの返事に一瞬『えっ』と面食らったものの、すぐに納得した。


「こいつをほったらかしにはできないからな」

 傍らにいるドグウの肩に手を置く。オスカーをこちらには付き合わせられない。



「とにかく、俺達はもう一度ブベル塔の中を見て回ろう。どこかに飛行機があるかも」

「ですけど、もしあったとしても私達じゃ動かせませんよ」

「八方塞がりなのかなー……」


 イザック、ナヤ、リラの三人に、誰もいない所から声が投げかけられた。



「私達がお役に立ちましょうか」



 恐らく高齢の男性の声。リラ達だけでなく、シンシアさん達も驚いて武器を構えた。声が聴こえたあたりの景色がふわりと揺らぎ、姿を現したのはタキシードの二人組。バルトとリンナだった。


「お前ら、こんな所で何してるんだよ!」

 イザックはマグネットシールドを構えてナヤの前に立った。二人とはメイジャーナルで撃たれて以来だ。


 バルトは帽子を取って頭を下げた。

「イザックさん、お久しぶりです。メイジャーナルでは申し訳ないことをしましたね。あの時はああするしかなかったんですよ。言い訳ではありますが、急所は外したはずです」


「お役に立つってどういうこと?」

 リラも緩くドライバーガンを構えてはいるが、バルト達の様子に闘う意思のないことが徐々に理解できてきた。



 リンナがジャケットのポケットから大きな絨毯をスルスルと取り出し、続けて小瓶を取り出した。リラ達に軽く振って見せる。中身はどうやら砂鉄だ。


「リンナが磁気の霊術でこの絨毯を飛ばせます。三人までなら、ディエンビまで乗せてあげられますよ」


 ありがたい申し出ではある。しかし

「どうしてあなた達がそんなことを?」

 ナヤがイザックの後ろからそう聞くと、バルトは手のひらでナヤを指した。

「あなたが私達を助けてくださったからですよ。そのお礼です」


「私があなた達を助けた? 何の話です?」


「ポクル宮で私達に、ブルービーストに注意するよう助言してくれたでしょう? あのお陰で、新型チェッカーの在庫を守ることができました。結局ブルービーストは自分達で作れるようにはなったわけですがね。それでもあなたにはとても大きな恩があるんですよ」


「どうする?」とナヤに聞くリラ。ナヤはイザックを見た。


「……お前に任せるよ」

 イザックはそう言ってマグネットシールドを降ろした。ナヤはゆっくり前に進み、リンナに頭を下げた。


「よろしくお願いします」




 リンナが砂鉄を撒き、上に絨毯を敷く。それにリラ達が乗ろうとした時、後ろから「ちょっと待って」と声がかけられた。シンシアさんだ。

 シンシアさんはナヤの肩を持つと、おすまし顔を崩して優しく笑いかけた。

「頑張って。もしもの時のために、これをあげる」


 ナヤに手渡されたのは、真っ黒な、手のひらサイズのボール。

「これは……?」



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