第47話 ディエンビ発艦とLION脱出




 レブが持っている銛の柄の先を床にカン! と打ち当てる。

「さっさと乗れよ! こののろま共!」


 ディエンビに人間の奴隷達が乗り込んでいく。合計二百人を超える大所帯のため、なかなか迅速な移動ができない。

 朝日が昇って三時間ほど経つ。すでに予定の出発時間を過ぎていた。


「そこ! 何をもたもたしてるんだよ!」

 喋っていて動きが遅い人間をレブが蹴り飛ばす。倒れた奴隷を無理やり引き上げて「殺されたいのかよ」とぼやきながら背中を乱暴に押す。



「壁を開け!」

 コックピットにいるアッタの指示により、プール前の壁がゆっくりと開き、大海原が現れた。ところが、壁は開ききる前にギシギシと音を立てて止まってしまった。

「だめです。錆び付いているのか、これ以上開きません」

 副操縦士の言葉にアッタはため息。そこにちょうどレブがやってきた。アッタはすぐにレブに振り返る。


「おいレブ! 扉の点検を念入りにしろと言っただろう!」

「え?」とレブは眉をひそめながら窓の外を見る。

「……点検はしたよ。でも結局は実際開くまで分からない」


 アッタは少し考えてからこう言った。

「艦首の砲を使え。扉を打ち壊すんだ」



 ディエンビ艦首にある巨大な二つの砲がゆっくりと動き、それぞれ左右の扉に狙いを定める。ドンドン! という砲撃音とともに、艦体がグラリと揺れた。前方の扉は粉々に砕け飛び、行く手を阻むものは何もなくなった。


「発艦だ!」


 グン! と揺れた後、ディエンビはゆっくり水上を進み出した。地下プールから海辺へと進み、ゆっくり上昇を始める。




 *




 イザックがリラの肩を強く揺さぶった。

「おい! どうすんだよ!」

 四人は、リラが結局どうしたらいいのか判断できず、部屋で一夜を明かしたのだ。幸か不幸か鍵はいまだに開けられておらず、誰にも見つかっていない。

「くっそ! さすがにヤバいだろ……もう飛んでるぞ?!」

「よし! 扉を壊そう。ここから出なきゃどうにもならないからね」



 リラのドライバーガンで鍵の部分を何度も撃ち、オスカーが体当たりして扉を壊した。どうやら近くには誰もいないらしく、静かだ。リラは近くに見えた小さな窓に走り寄り、下を見た。海だ。

「どっちに行くんだ?」

 イザックがささやく。リラは少し考えた後、答えた。

「コックピットには間違いなく人がいるから、後ろのエンジン音がする方へ向かおう」

「出口あるのか?」

「大きい窓を探して壊して、そこから出よう」

「はあ?! 空を飛んでるんだぞ?」

「下は海だよ。何とかなるって。さあ、エンジン音の方へ!」




 *




「八番エンジンのアーマー機関の動きが悪いです。出力が安定しません」

 副操縦士が言うと、レブが「チッ」と舌打ち。

「無能の人間共が……」

 そうこぼしてレブはコックピットを出た。奴隷達が働く機関部へと向かう。




 *




 リラ達はあっちこっちぐねぐねと迷い、いくつも扉を開けながらも、ようやくエンジン音のする機関部へたどり着こうとしていた。だが、ここまで人間が出られるほどの大きさの窓は見つけられなかった。


 リラが次の扉をそっと開く。すると、蒸気があちこちから噴き出す大きな部屋で、あくせくと働く人間の奴隷達の姿があった。四人は彼らに見つからないよう物陰に隠れながら、奥へと進む。

 奴隷達は薄汚れた服を着て、生気のない表情をしている。無心で黙々と仕事をしており、リラ達には気付かなかった。


 ところが、吹き抜けになっている二階の扉が開き、レブが現れた。一瞬でリラと目が合う。


「ん……ああぁっ! お前!!」


「行くよ!」とリラが後ろの四人を振り返る。ところが、なぜかオスカーが固まったまま、ぽかんと奴隷達を見つめている。


 一体どうしたのか。そんなことを考えたり聞いたりしている暇はない。リラは「急いで!」と大声を上げてオスカーの手を引っ張り、走り出した。下り階段を見つけ、大急ぎで駆け下りていく。


 四人の後方で何かが崩れる音。続いて「邪魔だよ! どけ!!」とレブが人間の奴隷を怒鳴りつける声が響く。


 リラが走り込んだ場所。そこは、幸運にも非常脱出用の小型飛行機が並んでいる場所だった。

 そのうちの一機の扉にリラは駆け寄った。表示や仕組みをざっと確認する。

「これだ!」

 扉を開け、オスカーを押し込む。そして、イザックを連れて見当違いの方へ走り出そうとしていたナヤの首根っこをひっつかみ、イザックと一緒に飛行機に押し込むと、自分も乗り込み、扉を閉めた。

 次の瞬間、ドン! と扉を叩く音。扉の窓の向こうでレブが何やら怒鳴っている。銛を手に持ち、窓ガラスに突き立て始めた。ピシリ! とヒビが入って歪む。

 リラの隣でオスカーがあれこれスイッチやレバーをいじっているが、なかなか飛行機がディエンビから離れない。

「早く!」

 リラが急かすのとほぼ同時に、バリン! と窓が割れ、レブの銛が内部へ突き抜けた。すぐにレブの手が入り込み、ナヤの服をつかんだ。ナヤは泣き叫んでイザックにすがりつく。


 オスカーが二十以上あるレバーの一つを下ろすと、ガチャンと大きな音と共に大きく揺れ、四人を詰め込んだ飛行機はついにディエンビから切り離された。レブの腕はナヤから離れ、レブは倒れそうになりながら柱をつかんで体勢を保つ。その姿はあっという間に小さくなっていった。


「やったー!」

 リラはガッツポーズを決めると、オスカーの肩を叩いた。

「もう大丈夫だね。陸地が左に見えるよ。方向転換して陸を目指して」


「どうやってだ?」とオスカー。

「え、操縦できないの?」

「飛行機の操縦ができるなんて言った覚えはないぞ」

「誰かできない?!」

 リラが振り向く。イザックもナヤも首を横に振る。

「え?! じゃあどうするの?!」

「どうするのじゃねえだろ!」とイザックが怒鳴る。

「海に落ちるぞ!」

 オスカーが叫ぶと、ナヤが飛行機の扉を蹴破った。




 *




 ブルービースト南支部近くの砂浜。リラ達四人はゼエハアと息をしながら横たわっていた。


「いやー、死ぬかと思ったけど、何とかなったね」

 リラがそう言って体を起こす。


「ホントに、いい加減にしてくれよ……」

 イザックは前髪をたくし上げながらそう言った。リラは苦笑い。

「確かにちょっと無計画だったかも。ごめんね。でも、黄金の獅子に関しては、かなり色々収穫あったじゃない。ブルービーストの小箱に黄金の獅子の生きた部品がある。それに、獅子の亡霊も、黄金の獅子の生きた部品が作り出すんでしょ? みんなで次の作戦立てよう」


「お断りです」


 ナヤが立ち上がった。



「私は、もうあなたにはついていけません」





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