第99話 オスカーの秘密とナヤの不安




 東へと走るノイルバギー。現在夜の七時。運転席と助手席には、イザックとリラ。コンテナにはナヤとオスカーが乗っていた。


「オスカー……恋人は、いるんですか?」

 ナヤの質問にオスカーは面食らって言葉を失った。ブルービーストの本部からほとんどずっといっしょのナヤに、今更そんな質問をされるとは思っていなかったのだ。

「恋人なんかいるはずないだろう!」

 頬を赤らめてそう言うオスカー。ナヤはくすりと笑った。

「『シンシアさんと何もなかったのか』って、イザックとリラに聞かれませんでした?」

 一度は慌てたオスカーだったが、今度は一転、ため息。

「あの人とは何もない。本当に何もだ」


 オスカーのその反応で、ナヤはまたしてもくすりと笑った。

「ええ、分かっていますよ。オスカー、正直に言いますね。私は……気付いてます」

「やめろ。何に気付いたとか気付いてないとか、そんな話は聞きたくない」

 すぐにオスカーはナヤから顔を逸らせて寝転がった。


「嫌な気持ちにさせたらごめんなさい。でも、あなたは隠すのが下手すぎます。そんな隠し方では、二人に気付かれるかもしれませんよ。もしあなたが隠したいなら、恋人……思いを寄せる人はいると正直に言った方がいいと思います。それが誰かだけを隠して」


「……あの二人には、機会があったら話すつもりだ。だが、今はそんな話をするときじゃないだろう」


「あの二人も私も、大変な時ほど、楽しい話をしたいんですよ。それに、あなたは思いを寄せる人のためにここに来たんでしょう?」

「そんな話は聞きたくないと言っただろう」


「ごめんなさい。ここからは、私の気持ちの話です。……私はリーダーとして、あなたにとってこの旅がとても大事だと理解しています。だから、もしあなたが辛い時は、一人で抱え込まないでください」

 ナヤがそう言うと、オスカーは顔を少しだけナヤの方へ傾け、無言でうなずいた。


「オスカー、もう一つ聞いてもいいですか?」

 オスカーは顔をまた背けて寝転がりつつも「何だ?」と聞き返した。


「あなたは、リラとイザックに出会う前から、アカデミーでパートナーとして私を見ていたでしょう? 私は……成長したでしょうか?」

「ああ。……大人になったと思うぞ」

「そうですか」

 ナヤが一言だけ返すと、オスカーは体を起こしてナヤの方を向いた。

「そうやって俺にまで聞くところとかな。何が気になるんだ?」


「気になるというより、怖いんです。私がちゃんとしていないと、あなた達を危険にさらすことになりますから。正直、リーダーなんて引き受けない方がよかったかも、と毎日考えています」


「……もし、昔のお前だったら、ワンマンなリーダーになってただろうな。それが悪い事かは俺には分からないが。今のお前は、よく他のメンバーを尊重してる。俺やイザック、リラよりも、お前がリーダーをやった方がいい」

「もし、この旅が上手くいかなかった時……どうなります?」

「誰もお前のせいになんてしないさ。一緒に涙を流すくらいだろう。だが、上手くやってくれよ」

 オスカーはそう言ってまた寝転がった。だが、顔を背ける前に最後の一言。


「俺は、お前なら上手くやれると思う」


 ナヤはにこりと笑ってうなずいた。



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