第6話 獣人と半獣人




「ねえイザック、私気になる事がいくつかあるんだけど……」

 メイジャーナルへ向かう車の中、リラは運転するイザックにそう言った。イザックの方は運転しながら軽く「ん?」と返す。


「あのブレードストルティオ、どうして私達だけを襲って来たんだろう。あの強盗達が飼い慣らしてたってことかな?」

「はあ?」と笑うイザック。

「機械獣を人間が飼い慣らすなんて、聞いた事ねえよ」

「もちろん私も聞いた事ないけど。でも、他に考えられる?」

「うん……まあ、俺達が知らない方法があるのかもな」

「あと、あの二人! 女の人、リンナだっけ? あの人、広範囲にわたって磁力をコントロールしてたけど、一体どうやって? あんなことできるアーマーあるのかな?」

「現代人のアーマーにはねえだろうな。でも、機械獣を生み出した古代人のアーマーなら、できんのかもよ」

「古代のってことは……機械獣から取り出したってこと? でも、そんなことができる機械獣は見つかってないし、いたとしてもそんな凄いアーマー機構の部品は民間には降りてこないと思うけど」

「取引所に売らずにパクったとか」

「もしそうなら、あの二人は機械獣ハンターってことだね。メイジャーナルに行く理由も、私達と同じかも」

「メイジャーナルカップでまた会えるといいなー。超美人だったもんなー」

 苦笑いするリラ。

「油断しないでよ? ライバルってことなんだから」


 二人の車の横を、大きな音を立ててバスが追い抜いた。中にはリラ達と同じ年頃の男女が大勢乗っている。

「何だありゃ。スクールバスか?」

 イザックとリラは伸び上がったり頭を押し出したりしてバスを見た。車体側面に王家の紋章がある。

「そうみたいだね。多分、国立の……」

「ハンターアカデミーか。俺達雑草とは育ちが違うエリート集団だ。……メイジャーナルカップも簡単にはいかなそうだな」

「うーん」とリラがうなる。

「でも、アカデミーにいる子って、ほとんど実戦経験なんてないでしょう? 私達は結構経験積んでるし……」

「お前今さっき『油断するな』って言ったばっかりじゃねえかよ」

「あー……そうだね。ごめん。頑張ろう!」





 メイジャーナルはアストロラ王国の中でも指折りの観光地だ。街近郊から切り出される石で作られた白い街並みがとても美しい。

 リラとイザックの二人は、大会中に宿泊するホテルで一休みした後、街を見て回っていた。


「どこで夕飯食う?」

「このあたりはお店多いから、お腹すいたら適当に入ろう。私、一番上まで登ってみたいな」


 二人が今いるのは山を切り開いてつくられた地区。地形は段々畑のように整えられており、やはり他の地区と同じく、建物だけでなく床も白い石が敷き詰められている。

 右側には建物や壁、山の上へ登る階段があり、左側には街灯と手すり、下へ降りる階段がある。


 イザックは歩きながら通行人の持ち物を見ていた。ちらほらとハンター用のアーマーを持っている人間がいる。


「結構大勢ハンターがいるな。やっぱり今年は特別多いのかな?」

 イザックがそう言うとリラも改めてあたりの人々を見渡す。

「今回は賞品が黄金の獅子の部品だからね。アストロラ中からハンターが集まってるんだよ」



「獣人だーっ!!」

 その言葉と同時に「キャーッ」という叫び声があたりに響いた。リラとイザックは音の出所の方を見上げる。黒い影が上の階層から飛び降りてきた。


 影の正体は男。だが、腕や頬に獣の様な毛が生え、瞳もやはり獣のように大きい。その男は牙の生えた口を開くと、リラとイザックを押しのけて走り出した。

「邪魔だ!」

 男はすぐに下の階層へと飛び降りて行った。リラとイザックが道の端から見下ろすと、下の階層で待ち構えていた大勢の警察官が、男を取り押さえていた。


「放せ! 殺すぞーっ!」

 男は怒鳴り散らしながらもがくが、何人もの警官にのしかかられ、動きを封じられた。


「けがれた人間ども! もうすぐ貴様らの時代は終わる! 皆殺しだーっ!」

 大声を上げて暴れる男に警官が注射を打つと、男は徐々に動かなくなっていった。

「……殺したのかな?」

 そう言うリラに「まさか」とイザック。

「麻酔でも打って眠らせただけだろ」

「そっか……捕まってよかった。獣人なんて初めて見たな」

「俺もだよ。話には聞いた事あったけど……。アストロラにもいるんだな、獣人なんて」



「あれは獣人ではありませんよ」



 リラとイザックのすぐ隣に、一人の少女が立っていた。高級そうな、白いゆったりとした服を着ている。

「人間の姿を保ったまま、獣の姿が混ざり込む。今の男性は、獣人と人間のハーフ。『半獣人』です」


「半獣人……どうやって街に潜り込んだんだろうな」

 イザックがそう言うと少女は「うふっ」と笑った。

「潜り込むも何も、獣人も半獣人も、『完全な人型』になることができますから、他の人達と同じように普通に街に入って来ただけだと思いますよ。それに加えて、獣人は『完全な獣型』になることもでき、半獣人はさっき言った『不完全な獣型』になることができるんです」


「へえ……」

 リラとイザックが捕まった男と警官たちに再び目をやっていると、少女はこんなことを聞いてきた。


「お二人とも、機械獣ハンターですよね?」




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