第5話 機械獣ブレードストルティオとタキシードの二人組



 イザックの心配をよそに、リラの足は止まらない。気付くと、人けのない倉庫跡にやって来ていた。

 リラとイザックは、強盗の男達を追って中に入った。すぐに後ろの方でシャッターが閉められる音。


「馬鹿だなお前ら」

「大人しく諦めてりゃ死にゃしなかったろうによ」


 そんなことを言いながら男たちはせせら笑う。ほぼ同時に、倉庫の奥にあるシャッターが開いた。カチャカチャと金属音を響かせながら現れたのは、なんとダチョウ型の機械獣。名前は


「『ブレードストルティオ』?! どうしてこんな場所に?」

 リラが驚く脇で、イザックはマグネットシールドのスイッチに手を伸ばす。その瞬間、バン! と破裂音が響き、イザックは横に吹き飛ばされた。

 立ち上がってすぐにシールドのスイッチを入れるイザック。イザックを突き飛ばしたのはリラだ。もう少しでブレードストルティオの剣の翼に切り裂かれるところだった。


 バン、と二度目の破裂音。リラが飛び上がってブレードストルティオをかわす。この破裂音は、ブレードストルティオが床を蹴って突撃する音だ。屈強な脚を使って凄まじい勢いで突っ込んでくる。

 バン、と三度目の破裂音。狙われたのはまたしてもリラ。なんとか飛び退いたが、バランスを崩してしまった。

 強盗の男たちは二人の様子を見て笑っている。


 起き上がろうとするリラを狙ってさらに突撃をかますブレードストルティオ。だが今度は、リラの目前で、イザックがマグネットシールドを使いながら飛びかかって押し倒した。

 リラはその隙にやっとドライバーガンを取り出し、ブレードストルティオに合った先端をセットする。

 バン! と破裂音。ブレードストルティオがイザックを蹴り飛ばした。マグネットシールドがなければあばら骨が何本折れてもおかしくない衝撃。イザックが吹き飛んだところに、リラが飛び込んだ。ドライバーガンの先端をブレードストルティオの首元に押し込んだ。

 ガクガクと揺れた後ブレードストルティオは動きを止め、金属音をたてながらバラけた。


「ふう」と体の緊張を解くリラ。イザックも「いてて」と肩のあたりを片手で払いながら戻ってきた。


「チッ。お前ら機械獣ハンターだったのか」

 リーダー各の男はそう言うと、壁のスイッチを押した。ジリリリとベルが鳴り、幾つかあるドアから次々と奴らの仲間が集まってきた。

 武器を構えるリラとイザックを、強盗達も武器を持ってゆっくり二人を取り囲んでいく。


「くっそ! これ結構ヤバくね?」

「大丈夫。何とかなる」

「どうなるってんだよ」

「とにかく闘うの。一人当たり……七人倒せば勝てるよ」

「無茶言うなって……」


「殺せ!」

 リーダー格が叫ぶと同時発砲音。だが銃弾は、球形に発生させたイザックのマグネットシールドによって、空中で止まった。

「これでも喰らえ!」

 イザックの言葉と同時にマグネットシールドは衝撃波のように広がり、男達は自らの身に着けた金属に引っ張られるように後ろに倒れた。


「いいね! 防御は任せたよ!」

 リラはドライバーガンを撃って先端と繋がるワイヤーを大きなタンクに引っかけ、引き倒した。大きなボルトや古い鉄骨がドライバーガンの先端にくっついてリラの手元に戻ってくる。そして今度は反対にその部品を磁力で打ち出した。何人かの男がそれに当たって倒れる。


 またしてもベルの音が鳴り、さらに強盗の仲間がぞろぞろと現れた。合計三十人といったところだろうか。

「くっそ! さすがに無理だろ」

「一人当たり……十五人くらい倒せば勝てる!」

「無理だって!」



 突然、盗賊達がふわりと浮きあがった。まるで武器や身に着けた衣服の金属に引き上げられるように、空中でぶらぶらと揺れている。それだけでなく、リラが壊したタンクやその部品などの金属も一緒に浮き上がっている。

 盗賊達が悲鳴や怒号を上げ、リラとイザックが唖然とそれを見守る中、コツコツとブーツの音が響く。リラ達の後ろから一人の若い女性が現れた。いつの間にか、倉庫の扉は開いていた。


 白いスタイリッシュなタキシードに身を包んだ背の低いその女性は、リラとイザックの間を通り抜け、宙に浮いてもがいている盗賊のリーダーの前に立った。


「おい、お前がやってんのか?! 今すぐ降ろせ! さもないとお前も家族もまとめて殺すぞ!」


 盗賊にドスの効いた脅しをされても、その女性は笑顔で黙ったままだ。リーダーは銃を取り出し、彼女を撃った。ところが、銃弾はまるで見えないバリアか何かに弾かれるように、キン! と音を立てて床に転がり落ちた。

 女性が指を立てて振ると、リーダーは宙を大きくグルンと周り、床にたたきつけられた。呻き声を上げるリーダーを女性がブーツで踏みにじる。


「リンナ。殺す必要はないよ」


 倉庫の入り口から男の声。リラもイザックも振り向いた。黒いタキシードの高齢男性がこちらに歩いてくる。

 その男性はリラとイザックの近くまで来ると帽子を持ち上げて軽く挨拶をし、『リンナ』と呼んだ白いタキシードの女性の元へと向かった。


「指輪だけ返してもらいなさい」

 男性がそう言うと、リンナは一言「シュエラ」と答え、盗賊のリーダーの服を探り始めた。リーダーは苦しそうな声で言う。

「お前ら、自分が何をしてるか分かってんだろうな……。俺は、サツにもダチがいる。明日にもお前らを……」

 リンナがブーツでリーダーの頭を踏みつけ、気絶させた。そして、取り返した指輪を男性に渡す。男性は指輪を右手の中指にはめると、キスをした。


「さて、盗賊のみなさん」

 男性の声が倉庫に響く。盗賊達は恐怖からか、黙って男性の話を聞いている。

「私は指輪だけ返してもらえればそれで結構。死ぬまで闘いたいですか? それともこれで終わりにしますか?」

 盗賊達は答えあぐねている。

「リンナ、降ろしてやりなさい」

「シュエラ」

 リンナがそう言うと、宙に浮いていた盗賊達や部品がガシャガシャと音を立てて崩れ落ちた。盗賊達は気絶したリーダーを連れ、黙って消えていった。


 一部始終をただ茫然と眺めていたリラとイザックに男性が近付いてきた。

「初めまして。君達、他の街から来た機械獣ハンターでしょう?」

 戸惑いながらも「はい……」と答えるリラ。男性は笑顔で「やっぱりね」とうなずいた。

「警察と繋がっている盗賊をそうと知らずにこんなところまで追って来るんだから。ひょっとして、メイジャーナルへ行く途中ですか?」

「あー、えーと……」

「もしそうであるならここには泊まらず、すぐに出発した方がいいですよ。さっきの彼らが警察に手を回して、君達を捕まえようとするかもしれないからね」

「はい……」


「なあ……じいさん達何者? この街の人?」

 イザックがそう聞くと男性は「いや」と首を横に振った。


「君達と同じくメイジャーナルへ行く途中でね。私の名前はバールトズール。彼女は助手のザップリンナ。縮めてバルト、リンナとそれぞれ呼んでください。宝石店であの盗賊達に出くわしてね。店の宝石と一緒に私の指輪も奪われてしまったんで、追ってきたんですよ。君達とはメイジャーナルでまた会うかもしれませんね。それでは」


 バルトは帽子を持ち上げて軽く会釈すると、歩き出した。リンナもリラとイザックに笑顔を向けると、バルトの後に続いて倉庫を出て行った。



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