第4話 メイジャーナルへ出発 強盗出現




「お帰りイザック。あら、今日はリラちゃんも」

 イザックのお母さんが出迎えてくれる。リラも「ちょっとだけお邪魔します」とお辞儀して中に入る。

「母さん、俺部屋でリラと明日からの打ち合わせするから」

「はいはい。後でお茶とお菓子持って行くからね」

 すぐにキッチンに向かうイザックのお母さんに「おかまいなく」とリラ。イザックに続いて階段を登っていく。



 イザックは自分のベッドに腰かけると、枕元から地図を引っ張り出した。

「もう一度調べ直したけどさ、高速使っても一日で行くのは無理だ。だから初めから二日かけるつもりで、どこかに泊まろう」

「え? この前私が立てた計画だったら……」

「山を一時間でかっとばすお前の計画なんか無理だって」



 二人は明日から、この田舎町『トゥラル』を出て『メイジャーナル』という都市に向かう。これは黄金の獅子に近付けるかもしれない大きな挑戦なのだ。



「でも到着が遅れちゃうじゃない。『メイジャーナルカップ』の開催日……」

「開催日には間に合うだろ。その前に予定してた観光する一日が潰れるだけだ」

「観光するのはあなただけでしょ。私は一日を大会のための調整に使いたかったのに」

「とにかく二日かかる! 運転するのは俺なんだから、文句は言わせねえぞ」


 リラはため息をついて机の上にある『メイジャーナルカップ』のチラシを拾い上げた。これは三年に一度の機械獣ハンターの能力を競う祭典。普段は王国のエンブレムが刻まれたメダルが商品だが、今年は違う。

 優勝者に送られるのは黄金の獅子の牙だ。それも、普通の『死んだ部品』ではなく、『生きた部品』。『生きた部品』というのは、黄金の獅子本体との『繋がり』が切れていない状態の部品の事。この牙があれば、黄金の獅子を探し出せるかもしれない。


「体調を万全に整えて臨みたかったのに」

「無理にかっとばして事故になったら元も子もないだろ」

「うん……まあ、それはそうだけど」

 リラが折れると「そう!」とイザック。

「お前切り替え早い!」

「私のいいところ! ……まったく」




 *




「あーくっそ、おっせえな」

 朝、イザックは街の入り口に止めた車の中でリラを待っていた。集合時間は十分過ぎている。ドアポケットに入れていたメイジャーナルカップのパンフレットを取り出して広げた。


 メイジャーナルカップは一週間かけて様々な競技をする。

 一日目は開会式。

 二日目は機械獣解体戦。

 三日目は障害物競争。

 四日目は休日。

 五日目と六日目は機械獣ハント、七日目は表彰式と閉会式、そしてパーティーだ。

 カップは基本的に個人戦。イザックかリラのどちらかが優勝しなければ黄金の獅子の牙は手に入らないが、イザックは初めから自分が優勝する気はなかった。イザックが優勝できるくらいなら、リラが優勝するだろう。


 コンコン、と窓を叩く音が聴こえ、イザックは窓を開いた。


「遅れてゴメン」


 リラだ。イザックは時計を確認した。

「十五分遅刻だぞ」

「寝坊したの。イザックと違って起こしてくれる人いないし」

「俺は自分で起きてる! お前、本当に朝弱いよな。時間にもルーズだし」

「私のいいところ!」

 ウインクするリラにイザックは「ふざけんな」と笑いながら扉を開いた。




 *




 メイジャーナルまでのちょうど真ん中に位置する街「スルーガ」。リラとイザックは朝七時の出発から六時間かけて到着した。

 予約した宿の駐車場に車を停めた後、二人はこの街の買取所に向かった。ここにも黄金の獅子の鬣の一本が飾られているらしい。それを見物しに行くのだ。


「なあ、途中で昼飯食おうよ。もう二時近いぞ」

「そうだね。どこか適当にお店を……」


 二人がそんなことを話しながら街中を歩いていると、目の前の建物のガラスの壁が大きな音を立てて割れ、中から男が五人飛び出してきた。直後、店員と思われる叫び声。


「強盗だーっ!」


 リラは聞くが早いか強盗を追って走り出した。イザックも「ちょっと待てよ!」と言いながら後を追う。

「リラ! ここ初めての街だぞ?! 俺達が余計な事……」

「でも逃げられちゃうかもしれないでしょ?」


 機械獣ハンターは警察官ではない。ただ、田舎の街では人手が足りず、警察から援護を頼まれることもあり、リラとイザックは日頃から犯罪者の確保を行っていた。

 ここスルーガがそんな田舎かどうかと言うと……微妙だ。


「なあ、お前ちゃんと道覚えながら追っかけてる?! 俺らちゃんと帰れんのか?」

「大丈夫。何とかなるって」



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