第53話 ナヤと弟ライト ポクル宮を目指す者達





 夜、ナヤの部屋の扉が叩かれた。「はい」とナヤが答えると、扉の向こうから「お姉さま!」と、弟ライトの声。

「入ってください」

 ナヤが言うと、ライトが扉を開けて入ってきた。後ろには『シェンギ』というボードゲームを持った、ライトの世話係も。


「お姉さま、シェンギやろう」

「ふふ」と笑うナヤ。

「いいですよ。私がいない間に少しは上手くなりました?」


 世話係がテーブルにシェンギの準備をし、ナヤとライトが席に着く。

「なったよ。もうお母様もお父様も、相手にならないもん。後はお姉さまを倒せば、僕がローリー家で最強だよ」

「ローリー家最強の座は、そう簡単には渡しませんよ」

 ナヤは笑顔でそう言ってライトに手を差し出し『そちらからどうぞ』と合図をした。ライトは早速駒を一つ動かす。


 相手の『紋章塔』のコマを取り合うこのゲームは、アストロラ上流階級では教養の一つ。これが強いとそれだけで一目置かれ、初対面の相手でも他の人とは違う敬意を払ってもらえる。

 弟ライトにこれを教えるのは、ナヤにとって自身に課した義務だった。頭を掻きながら考えるライトの姿を見て、ナヤはまた幸せをかみしめていた。




 *




 真夜中。ポクル宮から北に百キロ程の海岸に、『イワナリウツボ』が這い上がってきた。周囲を確認しながら、ゆっくり人型になる。

 続いて『オオトラザメ』『ヒラメラブカ』などなど様々な水生生物が這い上がり、みな人型になって海岸を歩き始めた。


「全く、レブさん速すぎるよ」

「あの人が本気で飛ばしたら、誰も追いつけないよな」

「帰ったらアッタさんにチクるか? 部下ほったらかしにしてましたって」

「そんな事しても『お前がチクったな?!』って後から逆ギレされて終わりだよ」

 クスクス笑うブルービーストのメンバー、総勢二十人ほど。小声で喋りながら、ブルービースト幹部『左爪』レブ・リモと一緒に向かう予定になっていた、川沿いにある小さな古城へと歩く。


「何で俺達がこの作戦やらなきゃいけないのかなぁ。『陸組おかぐみ』のやつらがやればいいのに」

「陸組のやつらは、この前の研究所襲撃作戦でハデに失敗しただろ? 同じ失敗を繰り返さないよう、一番奇襲に長けた、俺達『水組みずぐみ』が選ばれたんだ。俺達が短い時間で一気にブツを手に入れて、後から来る『空組そらぐみ』に引き渡す」

「ブツって言っても、相当な量になるはずだよな。空組だけで運べるのか?」

「大型のアルファ飛行機械獣を使うそうだ。それでも無理そうなら、ブツの中でも『もの』の方は俺達が運ぶ」



「おい」



 森の中、木の上から声をかけられたメンバー達は肩をすくませた。だが、飛び降りてきたのは先に到着していたレブ。胸をなでおろすのもつかの間、メンバーの何人かが「この馬鹿共」と銛の柄で頭を叩かれる。


「こんな場所で作戦内容なんか話すんじゃないよ。万が一人間に聞かれたら、全部おじゃんになるだろ」


「すいません」と口々に謝るメンバー達。レブが指で『ついて来い』と指示し、一列になって古城へと向かった。これから作戦の最終確認だ。



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