第71話 牢屋で、二人きり




 ブベル塔にある牢屋が詰め込まれた大部屋。鈍い衝撃音とイザックのうめき声。そしてナヤがすすり泣く声。

 建設現場の主任でブルコングの獣人であるイゲルマイトが、怒鳴りながら、牢屋から出されたイザックを蹴りつける。


「黄金の獅子の部品をどこにやったんだ!」


 がんじがらめに縛られたイザック。蹴り飛ばされても抵抗できず、呻き声を上げるだけだ。牢屋の中でナヤが「やめてください!」と泣き叫ぶ。

「本当に何も知らないんです! 私達じゃありません!」


 イゲルマイトは「フン」と鼻を鳴らすと牢屋の扉を開け、イザックを乱暴に放り込んだ。

「イザック、起きて……」

 イザックに体をすりよせるナヤ。やはりがんじがらめに縛られ、手足の自由は利かない。


 とりあげたマグネットシールドの小手をカチャカチャいじり回すイゲルマイト。ナヤの縄型アーマーも拾い上げた。

「武器まで隠してやがって。小賢しい人間のガキが……」

 イゲルマイトは二人のアーマーを持って、部屋の奥へと向かっていった。


 イザックが体を動かし、寝返りをうつように仰向けになった。

「いってえ……あばら骨やられたかも」

「ごめんなさい、私のために……」

 ナヤが涙を流しながらそう言った。イザックは「はは」と弱々しく笑う。

「お前が悪いわけないだろ。……ナヤ、俺はお前が獣人でも、ローリー家の人間じゃなくても……いいんだよ。そんな事は」

 イザックの言葉を聞き、ナヤは頭をイザックにすりつける。


「どうして……私の家まで来てくれなかったんです」

「ああ……悪い。お前の家はどこか分かってるからって思って、オスカーを先に……。悪かったよ。でも、信じてくれ。俺は、お前の事……」


 ナヤは顔を上げて、イザックに笑顔を見せた。ゆっくり顔を近づける。

「嬉しかった。名前を叫んで、飛び降りてきてくれて」





 リラとオスカー、ドグウは捕まっていた。縄につながれてブベル塔の中を歩かされている。

「ねえオスカー、これどういう事だと思う?」

 リラが見ているのは、大広間に兵隊のように並べられた数え切れないほどの機械獣。だが、置物のように動きを止めている。

「分からない……だが、ただの飾りじゃあないだろうな」


「動くって事?!」

 ドグウが泣きそうな声を上げる。

「襲ってきたらどうするの?」

「俺達はハンターだ。機械獣の事なら……何とかできる。大丈夫だ」

 オスカーはそう言うが、アーマーは獣人が持っているし、腕はがっしり縄で締め上げられている。




 *




 城下町の一角、ビルの屋上でシンシアさんが望遠鏡をあっちに振りこっちに振り、リラ達を探していた。

 ビルの壁をよじ登ってシンシアさんの背後に現れたのは、ヤーニン。

「シンシア、私見失っちゃった!」

「私も。全然見つからない」

「捕まっちゃったかなー?!」

「そうかも」

「ここからだとブベル塔まで結構あるよ?! 私達が行くまでに何かあったら……!」

 ヤーニンは「どうしよう、どうしよう」とバタバタじだんだを踏み始めた。

「ヒビカさんに怒られる! それにのげんこつが! 本物のげんこつが!」


 シンシアさんはいつものおすまし顔で銃を取り出すと、ポケットから弾丸を取り出してセット。真上に撃った。ビイイイイイ! と笛の様な音を立てて、緑色の煙が上がる。


「これでもブベル塔に向かってくれるはず。私達も早く!」


 シンシアさんとヤーニンの二人は、ビルの屋上から飛び降りた。ブベル塔へと向かって行く。



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