第97話 機械獣サテツアラシ




 地下世界の天井の苔は、太陽の動きに合わせて発光する。ここにも、地上程は美しくないが、申し訳程度の朝日があった。

 テントから出て朝日を浴び、大きく伸びをするリラ。何とか今日明日中に車の改造を済ませたい。

「ほら起きて!」

 テントに戻り、手をパンパンと叩く。残りの三人も眠そうに体を起こした。特に眠そうなのはイザック。

「お前、こういう日だけは起きんの早いな……」

 朝が苦手なリラだが、今日は時間を無駄にしたくない。大好きな機械いじりが一日中できる日なのだ。

「さっさと歯を磨く! 顔を洗って、朝食を済ませて、さっさとちょうどいい車見つけて来て!」


 リラに急かされるまま、みな歯を磨いて顔を洗い、朝食を済ませた。リラはまず、昨日に引き続き冷蔵庫や水を入れる保冷タンクの調整。他の三人は、周囲を見回って状態のいい大型の車を探す。


「大きなコンテナのあるトラックがいいんですけど……」

 ナヤがそう言い、イザックとオスカーもトラックを見つける度に駆け寄るが、大きな車の大型エンジンアーマーはみな持ち去られており、利用できそうになかった。

 トラックの車体下を覗き込んでいたイザックが、体を起こす。

「これもダメだ。空っぽ」

 はあ、とため息をつくのは、コンテナの上に乗っているナヤ。

「思ったより時間がかかりそうですね……」

 突然、バキン! と何かが壊れる音。そしてナヤの悲鳴が響いた。

「ナヤ?!」

「どうした!」

 イザックとオスカーが急いでコンテナの方へ走る。コンテナの屋根が落ちて斜めに崩れ、ナヤが転がって唸っていた。

「大丈夫か?」

 イザックが手を貸して立たせる。ナヤは顔を歪めながらも「ええ」と立ち上がった。オスカーは、立体交差の下から「大丈夫?!」と声を上げるリラに、「大丈夫だ」と返事をしている。


「老朽化ですね。いくら古代人の技術とは言え、何万年もここに置き晒しだったわけですから……」




 リラとの相談の結果、作戦変更。小型でも走れる車を一台高速道路の下に降ろし、ウリュウボートの部品を使ってエンジンのアーマー機関を強化し、コンテナも作る。


「リラ、冷蔵庫タンクの整備はどうだった?」

 車を押しながらオスカー。運転席へ手を突っ込んでハンドル操作をするリラはグーサインをして見せた。

「完璧。あとは車さえできれば」


 車を一台、高速道路から砂漠に降ろしてウリュウボートまで動かしていく。その最中、イザックが「待った!」と声を上げた。


「あそこ! 何かいるぞ」

 全員イザックの示した方を見た。砂漠の陰で、もぞもぞと動くのは、黒いトゲトゲの塊。まるでウニのようだ。だが、その黒いトゲトゲはむくりと起き上がり、大きなヤマアラシのような体を現した。まぎれもなく、機械獣だ。


「車から離れましょう! 壊されたらたまりません」

 ナヤの指示で全員車を置いて走り出した。追ってくる機械獣のスピードは、四人よりも早い。

「追いつかれるぞ」とオスカー。

「闘いましょう!」

 全員体を反転させた。機械獣も足を止め、鋭い爪を持ち上げた。



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