第27話 師弟関係発足
「どうする? 塔まで登る?」
「登ろうよ。塔まで行けば、絶対降りることになるから、幽霊とも自然に顔を合わせられるよ」
「そうだね。それなら怖くないか」
二人はそんな会話をし、予定通り塔を登っていった。
「登り切ったらどうする?」
「二人ですぐに横に逸れて待ち合わせしよう」
「なるほどね」
塔を登り切ると『旦那さん』と『奥さん』はすぐに両脇に体をそらした。何人も観光客が通り過ぎる中、『奥さん』が一人の観光客の肩に手を伸ばし、がっしりとつかんだ。
「あなただったの?! こんな所で会えるなんて!」
『奥さん』に苦笑いで応じたのは、リラ。
「やっぱり、後をつけてるのバレてました?」
『後をつける』という表現にピクリと表情を動かす『旦那さん』。『奥さん』は話を続ける。
「せっかく会えたんだから、ちょっとお話しましょう。私達の車まで来ない?」
リラは「えっ?」と若干不思議そうな顔。
「でも、ここに来たのって、見ておきたかったからじゃないんですか? えっと……例えば、夜また来るとしたら、暗くて分かりづらいじゃないですか」
うろたえ始める『旦那さん』。リラは言葉を選んでいるつもりのようだが、端々から怪しい香りを臭わせてしまっている。
『奥さん』は「ふふっ」と笑った。
「夜にこんな所来るわけないでしょう。それより車でお話……」
「いや、私は別に急いでないですから、二人の、えーと……お仕事終わってからでいいですよ」
『奥さん』がサッと周囲の視線をチェックするように瞳を左右に振ったかと思うと、次の瞬間、リラのお腹に拳が飛んできた。
「うっ!」と声を漏らし、その場に座り込むリラ。『奥さん』がしゃがんでリラの背中をさする。
「あれ、具合悪くなっちゃった? ちょっと車で休みましょう。ね?」
*
車の中で横になりながら「ふう」と息をつくリラ。ようやく痛みも治まってきた。
「いきなり殴るなんて……」
「いきなりではない」とリラに反論する『奥さん』。
「二度も車に行こうと言っただろう。お前がそれに耳を貸さないからだ」
「だって、ちゃんとバレない様に気を付けて話してたじゃないですか。わざわざ車に来なくたって」
「あっははは」と笑う『旦那さん』
「全然できてなかったよ。『お仕事』なんて言っちゃうとは思わなかったな。『お仕事』なんて! あっははは」
「それで」と『奥さん』が助手席から振り返ってリラを見る。
「どうして、高速道路の出口で待ち伏せしなかったんだ」
「え……初めはそのつもりだったんですけど、電車が遅延して先回りできるか微妙だったんで。公爵家の居城に来てるはずだと思って……そんなこと聞いてどうするんですか?」
「おい」と『奥さん』が『旦那さん』の肩を叩く。
「一万ギン、返してもらおう」
「ダメですよー! どんな理由だろうと、とにかく高速道路の出口にはいなかったんですから」
「くそ……あの後告発しているかどうかで賭けておくべきだった。日和ってしまったな」
二人の会話に「何の話ですか?」と眉をひそめるリラ。『奥さん』は「気にするな」と話を変える。
「私達に力を貸してくれる気になったのか?」
「はい。条件付きで。何でもするとは言いませんけど、できることは」
『奥さん』はバックミラーを直しながら言った。
「嬉しいよ。だがなぜ心変わりを?」
「心変わりじゃありません。初めから霊術を教えてもらうつもりでした。あなた達が私に本当の行先を言うか、信用できる相手かどうか試させてもらったんです」
「ふふ」と笑う『奥さん』
「そういうやり方も似ているな……」
「え、何ですか?」
「何でもない。霊術は教えてやる。だが、お前がわざわざそこまでして教えをこう理由は何だ?」
「……メイジャーナルで、私はいろんなものに散々負けました。で、『人は守るために闘う。夢を追っているだけの子供では勝てない』って言われて。……とにかく強くなりたいんです」
「そうか。『守るもの』ができたのか?」
「はい」
「何だ? 家族か?」
「夢です」
「ええ?!」と笑いながら『旦那さん』。
「『夢を追っているだけじゃ勝てない』って言われたのに、守るものが夢なの? それ、論理的におかしくない? 『夢です』って! あっははは」
リラはぐっと眉間にしわを寄せた。
「どうして向こうに言われた通りにしなきゃいけないんですか?」
「そうだけどさ」と『旦那さん』は少しだけ笑いを抑えた。『奥さん』が「つまり」とまとめる。
「自分が負けた相手を見返すために、意地でも自分の信念を貫いて勝ってみせる、ということか?」
「うーん、まあ……そんなところですね」
リラがそう言った瞬間、『奥さん』がガッと体を起こして振り向き、グイッとリラに顔を近づけた。反動で車全体が揺れる。
驚いて怪訝な顔をするリラに『奥さん』は実に楽しそうな笑顔でこう言った。
「気に入った。霊術にとどまらず、全てにおいて私が鍛えてやる。お前は今から私の弟子だ」
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