第24話 二人の正体は?!
『連合国』というのは、世界の陸地のうち七割近くを占めている超巨大国家。遠い昔は単なる国家連合だったが、現在は実質的には連邦国家となっている。軍事、経済、科学技術全てにおいて、世界で他のどの国も比較にならない程の力を持っているのだ。
「そうだ。連合国から来た」
あっさりそう答えた『奥さん』。さらに、するすると喋り始める。
「私達はアストロラにしかいない『機械獣』が連合国に脅威となり得るか、そして、アストロラで起こる恐れのある内紛を事前に阻止するための情報を集めている」
再びリラは血の気が引いた。
「なんで、そんなスパイみたいな人達が、こんなに簡単に秘密を明かすんですか? ……やっぱり、わ、私を殺、す……」
「あっはははは!」
泣きべそ状態のリラを見て、『奥さん』が豪快に笑った。初めて見せる笑顔だ。別に見せられても全然嬉しくないが。
「これから殺そうとする相手に、レーダー補足用の薬剤をわざわざ打つはずがないだろう? 殺しなどしないからいい加減安心しろ。どうやら想像以上に怯えさせてしまったようだな。悪かった」
『奥さん』はリラの縄を解いて、頭をくしゃくしゃと撫でた。
「罪滅ぼしに何か旨いものでも奢ってやろう。何がいい? 行きたい店はあるか?」
そんな素っ頓狂な事を聞かれ、リラは何を答えるでもなく首を横に振った。願う事はただ一つだ。
「家に帰らせてください……」
*
リラは家の前で両親と抱き合っていた。しばらく無言で抱き合った後、リラのお母さんは笑ってリラの頭を撫でた。
「帰って来てから、初めてだね。こんなに甘えてくれたの」
涙を拭いながら、リラはうなずく。
「立派だったな。……慣れない古いアーマーで機械獣と闘うのは、怖かっただろう?」
お父さんにもうなずいた。
「よくやり抜いたな。どうだ? もう……行くのか?」
お父さんが続けた言葉。さすが親だ。リラはまたうなずいた。
「北部のアカデミーに行く。イザックに会ってくる。私、もう一度……二人で夢を追いかけたい」
「気を付けて。いつも応援してるからね」
そう言うお母さんにお父さんも強くうなずく。リラの「ありがとう」という返事の後、三人でまた抱きしめ合った。
*
すぐに荷物を持って駅へと向かうリラ。その隣に、車がやってきた。ゆっくりとリラに並走する車から顔をだしたのは、あの『奥さん』。
「どこに行くんだ?」
リラは無視して歩いて行く。
「待ってくれ。改めて謝る。私達はやり過ぎた。お前をあんなに怖がらせることになるとは思わなかったんだ。一度だけでいいから、私の話を聞いてくれないか?」
「聞いて私に何の得があるんですか」
答えを求めていたわけではないその言葉に、『奥さん』はこう返した。
「お前のこれから先の旅が、より安全になる。どこに行くとしてもな」
リラはチラリと『奥さん』を見たが、すぐにペースを上げた。
「頼む、話を聞いてくれ。本当に一度だけでいい。お前が安心できる場所で構わない。お前に力を貸してほしいんだ。一度断られればもう諦めると約束する。だから頼む!」
*
リードルメ警察署のすぐ前にある公園。カンノンコング騒動の直後とあって、公園内に人間はいないが、警察署からは丸見え。リラはここで話を聞くことにした。
話を聞く気になった理由は、『奥さん』がレベルの高い霊術を使っていたことと『お前の旅がより安全になる』という言葉、そしてリラが指定した場所に素直に従ったことだ。
向かい合って立つ。『奥さん』も『旦那さん』も、二人一緒に、リラの視界から離れないこと。これも条件の一つ。こちらにも二人は素直に従った。
「もう一度謝ろう。私達が悪かった」
そう言って『奥さん』が頭を下げ、『旦那さん』も続く。
「何のためにあんなことしたんですか?」
「正体を勘付かれた以上、ほったらかしにはできない……そう考えていた。それに、機械獣ハンターであるお前から色々聞き出したかった。お前に見抜かれた通り、私達は機械獣に関して無知だ。逃げられてもせめて、居場所を探して、告発前に少しでも話を聞き出したかったんだ」
「……それで、私に話って何ですか?」
「まずは、見てくれ」
『奥さん』は、またコンパクト型のレーダーを取り出した。そして、それを地面に落とすと、ブーツで踏みつけて壊した。リラより『旦那さん』が驚き、「えぇっ?!」と声を上げる。
「これで私達は、お前がどこかに逃げればもう見つけられない」
『奥さん』はそう言いながら壊れたレーダーを拾い上げ、近くのゴミ箱に放り込んだ。
「私達と一緒に来てほしい。機械獣の事、アストロラ国内の事情で私達の知らない事を色々教えてくれ」
「何言ってるんですか?」
リラは二人を睨みながらそう言った。
「どうして私が、あなた達なんかの仕事を手伝わなきゃいけないんですか?」
『奥さん』は、片手をすっと持ち上げ、手のひらを上に向けた。
「ギブ&テイクだ」
徐々に『奥さん』の手のひらの上で、風が渦巻き始めた。
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