第70話 三者の逃走劇
ブベル塔の緊急サイレンを聴き、舞い戻ったアッタ。驚愕し、言葉を失った。今目の前にあるのは、深い眠りに落ちて気を失っている見張りの獣人達と、空っぽの大金庫。
中に厳重に保管されていたはずの、黄金の獅子の生きた部品を入れた小箱は、消え失せていた。
「探せ! 盗人を探すんだ! 陸組から鼻の効く奴らを連れてこい!」
*
黄金の獅子の部品を盗み、光の霊術で姿を消して城下町を歩いていたバルトとリンナ。臭いによって追っ手が迫って来ている事に気付いた。
「もう嗅ぎ付かれたか。さて、街は向こうに地の利がある。空には空組の鳥達。海には水組。獣人というのはなかなかやっかいだ。どうしたものか……」
バルトがそう言って考えていると、リンナが立ち止まって追ってくる獣人達の方へ振り返り、腕をふわりと振って自分の霊術だけ解いた。小箱を手に持って、笑顔で獣人達に手を振る。
「おい、リンナ……!」
「いたぞ!」
合図の笛の音が響き、獣人達がリンナめがけて突っ込んでくる。リンナは飛び上がって建物の屋根に上り、バルトを置いて走り始めた。
*
「死ねえっ!」
何本もの水の槍が師匠を貫いた。ところが、師匠は煙のようにふわりと消える。続けて、レブの真後ろで師匠の声。
「悪いがここでお前と闘う気はない」
レブはすぐに振り返り、足元から水の槍を作り出した。しかし、師匠の姿は霧の中に吸い込まれるように消えていく。
気付くと周囲の霧はかなり濃くなっていた。レブは顔をあちこちに振りながら怒鳴り散らす。
「おい! 出てこいよ、この臆病者が! 死ぬのが怖いか?! 私は死ぬ事なんか恐れないぞ!」
師匠の返事はない。レブは四方八方デタラメに水の槍を飛ばしまくった。手応えはまるでなし。
「私に勝てないと悟って逃げるのかよ?! え?! 何とか言え卑怯者が!!」
*
リラとオスカー、そしてドグウは城下町をあっちへこっちへ逃げるうちに、行き止まりに追い込まれてしまっていた。追ってきた獣人達に向け、リラとオスカーはアーマーを構える。
「勝ち目、あると思う?」
「ないだろう、どう考えても」
獣人達は容赦なく三人に飛びかかってきた。
*
リンナは磁気の霊術で、刀を持った獣人を吹き飛ばした。さらに、自身を風の霊術で後ろに飛ばし、飛びかかってきたサーベルタイガーの獣人をかわす。
ところが、右足に『ムカデナウマン』の獣人の、棘だらけで細長い鼻が絡みついた。棘が食い込み、なかなか外れない。リンナは鼻に振り回され、壁に叩きつけられた。手から小箱が転がる。
獣人達がそちらに走る中、リンナはムカデナウマンの鼻をつかんで電気の霊術で電流を流した。気絶させたムカデナウマンの鼻を外し、小箱を磁気の霊術で引き寄せる。左足だけでジャンプして、襲い掛かる獣人を踏みつけ、空中に舞った。
しかし『ヨツバネカケス』の獣人に体当たりされたリンナは、またしても小箱を手から地面に落とした。
その拍子に蓋が僅かにずれ、金色の光が漏れ出た。獣人達に衝撃が走る。
「蓋をふさげ! その女はどうでもいい! すぐ蓋をふさぐんだ!」
「獅子の亡霊が来るぞ!!」
怒号と共に獣人達が小箱へと走った。ところが、すぐにリンナが霊術で小箱を引き寄せる。
横から『オオゼキアナグマ』の獣人がリンナにぶちかましを食らわせた。リンナは壁に打ち付けられ、その手から小箱はまたしても地面へ。蓋がさらにずれ、金色の光が大きくまたたく。
「リンナ! もう諦めなさい!!」
どこかから、姿を消したままのバルトの声。リンナには居場所が分かるが、それでも小箱から視線を離さないでいる。
「逃げるんだ!」
「……シュエラ」
リンナは腕をふわりと振って、姿を消した。
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