第52話 リラの懺悔とおすましシンシアさん




 有志ハンター隊LION結成から崩壊までの全てを話し終わる頃には、師匠の顔はかなり険しくなっていた。明らかに、何か厳しい考えを持っている。そして、実はリラの中にも今、厳しい答えがあった。話す事によってようやく、過去の自分の行いに気付いたのだ。


「私は……リーダーなんてやる資格ありません」


「んん……」と何とも言えない唸りを聞かせる師匠。自身の考えを話す前にリラの話を聞いてくれるようだ。


「最低でした。誰の意見もまともに聞かないで、深く考えもせず危険に突っ込んで……自分を認めてくれないナヤを、低く見て……それで怒らせて、決闘までして、喉元に武器を突き立てて。自分がメイジャーナルで心を折られた時と同じ事を自分の仲間にするなんて……。そうすれば観念して私の言う事を聞く、なんて考えたんです。挙句の果てに、離れていった仲間を追いもしないで、自分がリーダーをやるためにここに……最低でした……」


 喋るうちにリラはポタポタ涙をこぼし始めていた。「リラ」と師匠が呼ぶ。

「ここに来たのは正解だ。当時のお前がナヤやオスカーを追っても、同じことの繰り返しだっただろうからな」


「はい」と消え入るようにリラ。あまり大きな声が出せない。


「お前は自分の行いがどんなものだったのか、過去を語ることによって自分で気付いた。それだけでも上出来だ」


「これから……私はどうするべきでしょうか?」

 涙を拭いながらそう聞くリラに、師匠は聞き返した。


「お前は何をしたい? そのためにするべきことを考えろ。順序立てて、一つ一つ組み立てるんだ」

 リラは少し考えて、答えた。

「ナヤに、謝りたいです」

「もっと先からだ」

 師匠にそう言われ、リラはもう一度考える。


「ナヤに、笑ってほしい。幸せにしてあげたい。イザックも、オスカーも……三人とも幸せにしてあげたい。そのために私ができる事をしたい。させてもらうために、まずナヤに謝りに行きます」


「許してもらえなかったら、どうする?」


 優しくも、厳しい師匠。でも、これも考えておかないといけない事ではある。

「私は、許してもらえなくても仕方ない事をしました。もしそうなったら……もう、諦めます」

「諦める前に!」

 師匠は力強い声でそう言い、すぐ声を抑えてこう言った。

「こうやってまた私の所に来い」


 涙を拳で隠しながら、リラはうなずいた。秘書さんが渡してくれたティッシュで、涙と鼻水を拭く。


「リラ、お前はナヤがどこにいるか把握しているのか?」

「分かりません。まずは、ナヤの実家を確認しようと思います」


「ローリー家の居城、ポクル宮だな。隣の州の端だ……」

 師匠はそう言うと、急にシンシアさんを指さしてみせた。

「こいつを連れて行け」

 その瞬間、シンシアさんは今まで一度も崩さなかったおすまし顔を崩し、眉間にギュッ! としわを寄せた。その表情といったら……『え、何で? 嫌なんですけど』。リラにもそんな感情がハッキリ伝わってくる。対照的に師匠は「ははは」と楽しそうに笑って、シンシアさんに言った。


「そんな嫌そうな顔をするな。お前にとっては仕事だ。ローリー財閥と公爵家が裏で繋がっているという所まではすでに分かっている。何をしているか手がかりを探してくるんだ」


 シンシアさんは鼻で小さくため息をつくと、おすまし顔でリラに手を差し出してきた。

「よろしく」

 こんな不愛想な年上の女の人と、二人きりで旅をすることになるとは……リラは若干引きつり気味の笑顔で「はい」とうなずき、シンシアさんと握手した。




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