第90話 オスカーの道具とシンシアさんの秘密?




 到着したオスカーと四人で食卓を囲む。トマトソースのスパゲッティだ。


「二週間、どうしてたんだよ」

 イザックがフォークをクルクル回しながらたずねる。オスカーはフォークから手を放してポケットに手を入れた。


「シンシアさんに少しだけ銃の稽古をつけてもらった。それと、便利な道具も二つ。今見せる」


 オスカーが最初に取り出したのは、小さな箱。そこから黒いチョークのような棒を一本引っ張り出した。

「これは『身渡みわたいんぼく』だ。これで決まった印を描くと、別の印に移動できる」


「移動できる……? どういうことですか?」

 ナヤが聞くとオスカーはその場にかがんだ。

「見せてやる」

 散乱する機械獣の部品を押しのけ、見えた床に印を描きこむオスカー。描きおわると、部屋を出て行った。


「……まさか、瞬間移動でもするってのか? そんなの……」

 イザックがそう言いながらオスカーが出て行ったドアの向こうを覗き込んでいると、突然ギュバッ! と音が鳴り、床に描きこまれた印の上にオスカーが出現した。ナヤとリラが驚きのあまり小さく叫び声を上げる。オスカーはそれを見て「フッ」と笑って、席に着いた。


「マジかよ……」

 唖然とするイザック。

「印だけ書けば、どこでも自由自在か?」

「ああ。だが、一つの印で『身渡り』ができるのは一人だけ。そして、一回使うと描いた印は消えてしまう。上に重い何かが乗っかったり、印が消えると身渡り出来ない」


 リラは『身渡り印墨』を一本手に取った。

「私達も身渡りできるの?」

「できる。だがこの箱の身渡り印墨で俺だけだ」


「もう一つの道具は何です?」

 聞いたナヤにオスカーが取り出して見せたのは、手のひらに収まる小さなタブレット。

「これも凄いぞ。見てろ」

 オスカーは続けて何枚かの折りたたまれた紙を取り出した。開くと、そこに書かれているのは古代文字。

 古代文字の上にタブレットをかざし、文字列に沿って動かすと、タブレットから音声が。


「『アーマー機構の小型化限界への挑戦は、数世紀に渡って研究者を……』」


 オスカーがタブレットを放すと、音声が止んだ。

「見ての通り。古代文字を読み上げてくれる。今読み上げたのは、古代の本をコピーしたものだ」


 イザックはタブレットを手に取って眺めた。

「信じられねえ……アストロラだったら専門家が何人も集まって解読するだろうに……連合国恐るべしだな」


「身渡り印墨は、元々は連合国のものじゃないらしい。国外から技術が輸入されたそうだ」

 オスカーは食事に戻る。ナヤはイザックからタブレットを渡してもらい、イザックと同じように眺めた。

「連合国が凄いのはそこなんですよ。様々な人種や文化、風習その他の多様性を尊重しながら一つの国として存在できている。普通は不可能です。現にアストロラでも、獣人達が革命を起こそうとしましたし。……私もやってみていいですか?」


 ナヤがタブレットを指してそう言うと、オスカーは自分が読み上げた紙の中から、少し小さめの紙束を取り出した。

「これでやってみろ。俺がシンシアさんから貰ったさっきの紙に挟み込まれてたヤツだ」


 ナヤは早速、紙に書かれた文字列の上でタブレットを滑らせる。


「『……イアの手だった。イルズースはそのままベッドへ滑り込みレイアの……』」

 卑猥な言葉がいくつか続き、ナヤは慌ててタブレットを放した。赤面するナヤを見て楽しそうに笑うイザックの隣で、オスカーまで笑っている。

「多分、挟んでることを忘れて俺に渡したんだ」

 リラもニヤニヤしながら、その紙束を手に取った。

「全然関連性ない、見えない場所に挟み込んであるって……絶対隠してるよね。シンシアさん、こういう趣味あるんだ。……やっぱり可愛いなー」

「悪ふざけはやめてください!」

 怒るナヤにやはり笑いながら「悪い」とオスカー。

「『あのシンシアさんが?!』ってあんまり面白かったから、お前達にも教えたくなったんだ。この辺にして、大事な話を始めてくれ」


「オッケー!」

 リラは一冊の本をテーブルに乗せた。タイトルは『ベルタザール発掘記』。これは、旧ブルービースト幹部『右爪』アッタ・ヴァルパに渡されたものだ。



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