第50話 リラの訪問と金髪美女シンシアさん




 師匠に家の中へ引き入れられたリラ。無言でリビングまで引っ張られ、無言でテーブルに座らされた。

「座って待っていろ」

 師匠はそう言って階段を登って行った。リラは返事をすることも忘れ、視線をテーブルの向かいに釘付けにしていた。目の前に座っているのは、師匠といつも一緒にいる秘書さんではなく、見たことのない金髪の美女だったのだ。


「……」


 その金髪の美女さんは、すました顔でリラを見ている。だが、何も言わない。リラは小声で「こんにちは」と挨拶。美女さんはリラに合わせて軽く頭を下げた。

「あの……ひょっとして、師匠と同じ連合国の人ですか?」

 そう聞くと、美女さんは一言「そう」と答え、またおすまし顔でリラを見つめる。

「えっと……私、師匠の弟子の、リラ・ベルワールっていいます」

「知ってる。さっき外で大声出してたから」

 答えた後、またおすまし顔でただリラを見る。

「よ、よかったら、お名前……」

「シンシア」

 と一言。リラが「シンシアさんですか」と反応を見せても、やはりおすまし顔に無言で、ただリラを見る。気まずい空気の中(感じていたのはリラだけだろうが)やっと師匠が階段を降りてきた。秘書さんも一緒だ。リラは胸をなでおろした。


「待たせたな。ちょうどこいつが来たところで、ドタバタしていたんだ」

 師匠はシンシアさんを指しながらそう言って、席に着いた。

「いえ……あの、シンシアさんって……師匠の弟子ですか?」

 リラがそう言うと、師匠は「いや」と一言。ほぼ同時にシンシアさんが言った。

「私の師匠は別にいる」

 その言葉に「何?」と反応したのは、リラではなく師匠。

「お前、師匠がいたのか?」

「うん」とシンシアさん。この人は師匠相手でもおすまし顔で、必要最小限の言葉だけだ。

「シンシアさんも、霊術使いなんですか?」

 リラがそう聞くと、シンシアさんはやはり一言で「違う」。


、どっちの師匠だ?」

 師匠が聞いた。シンシアさんは、秘書さんがみんなに運んできたジュースを一口飲み、一言。

「乗る方」

「そうか……」と師匠。ニヤニヤ笑い出した。

「誰が師匠か、もう分かったぞ」

「多分正解」

「あいつは元気なのか?」

「元気。でも妊娠した」

「なるほど。それですぐこっちに来られたのか……」


 撃つ方? 乗る方? 妊娠? どういうことかさっぱり分からない。そんなリラの思いを師匠が察したらしく、シンシアさんを指さして「こいつは……」と、やっと教えてくれた。


「一応、私の部下だ。私達のアストロラでの活動が大仕事になりそうだと思い、私が連合国から呼び寄せた。今の話からすると、ちょうどタイミングよくヒマだったようだな」


「へえ……」と、もう一度シンシアさんを見るリラ。シンシアさんはストローでジュースを吸いながら、無反応だ。

 師匠は「それで」とリラの方に体を向けた。

「お前の方はどうした。何かあったのか?」

 リラも師匠に体を向け「はい」とうなずく。

「実は私、仲間三人を連れて、ブルービーストの南支部に行ったんですけど……」


 リラがそう話し始めた途端、師匠は「何?!」と目を見開いて驚いた。秘書さんはすぐにノートを取り出す。メモする準備ができたのを確認した後、師匠は真剣な顔でリラに言った。


「見た事聞いた事、全て教えてくれ」



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