第115話 半年後




「待ちなさいレミア!」

 朝日が差し込むポクル宮にナヤの大声と、二人の足音が響く。ナヤは前を走るレミアという名の少女に追いつくため、床を蹴って柱に登り、空中を滑空。レミアの背中に飛びついて、押し倒した。


「痛い! ずるいよナヤ、最悪なんだけど!」

「あなたが逃げるからです。さあ、シェンギの稽古ですよ」

「嫌! あんな退屈でハナクソみたいなゲーム!」

「下品な物言いはやめなさい!」


 レミアの世話係がやっと追いついてきた。毎日のように繰り返される鬼ごっこだが、世話係ではレミアの足に追いつけないのだ。


 ナヤと同い年のレミアは、旧ブルービースト本部で働かされていた奴隷であると同時に、連合国が見つけ出してくれたアルカズ・ローリーの血を引く娘。

 ナヤはレミアの服を直しながら「ふう」と息をついた。

「全く。世話を焼かせるのもいい加減にして下さいよ。私はNOILノイルの仕事があるんですから」


「ねえナヤ……仕事終わったら一緒にラビットスナップ(*)やろうよ」(*竹を緩く編んだ球をラケットで打つスポーツ)


 ナヤはにっこり笑ってうなずいた。

「いいですよ。でも、それまでは稽古と勉強に励んでください。シェンギとミニグイッタとダンス、それに数学と世界史、古代文学と初歩物理です」


 チッと舌打ちするレミア。仕方なく世話係に連行されていった。




 少し離れたポクル宮の廊下を歩くリラ。その肩を後ろからイザックが叩いた。

「おっす。今日も一日頑張ろうな」

 リラはイザックと軽く手を打ち合わせた。

「おはよう。ナヤは?」

「またレミアと追っかけっこしてるよ。リーダー、朝から大忙しだな」

「ちゃんと支えてあげてよ?」

「分かってるよ。今度サプライズで帽子をプレゼントしようと思ってるんだけどさ、機械獣の部品でバッジを作ってつけたいんだ。やり方教えてくれよ」

「いいよ。ナヤに見つからないようにしなきゃね」


 二人が向かったのはポクル宮の一角にある機械獣ハンター隊NOILの事務所。リラが扉を開くと、ドグウが駆け寄ってきた。

「リラ! 緊急の依頼が一件増えたよ。リリュールの港町の近くで、変異体のシングルスターパイソンが出たって」

「オッケー! リーダーが戻ってき次第、出発するよ」

 リラは壁に備えてあったマルチドライバーガンを手に取り、背中に背負った。事務所の奥で剣を磨いてたオスカーも立ち上がり、リラ、イザックとともに仕事の支度を始める。


 少し遅れて、ナヤが事務所に到着した。

「待たせてすいません。毎度のことながら、レミアが稽古を嫌がって逃げ回るものですから……」

「お疲れ、リーダー」

 イザックがナヤの縄型アーマーを投げ、ナヤがそれを受け取った。オスカーがドグウの肩を抱き「行ってくる」と一言。ドグウも「いってらっしゃい」とオスカーの肩を抱く。リラが「よし!」と事務所の扉に手をかけた。

「今日も頑張ろう!」



 機械獣ハンターNOILの四人は、ノイルバギーに乗り込み、狩へと出発していった。ここはまだ、夢への道のりの途中だ。






 ― おしまい ―

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機械獣ハンター NOIL と黄金の獅子 ロドリーゴ @MARIE_KIDS_WORKS

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