後編
第62話 ブルービースト本拠地
「我ら獣人は! 古代より脈々とこの地を受け継ぎ、平和と博愛、友愛に満ちた社会を形成し、訪れる者を受け入れ、去る者は追わず、限りある資源を分け合って暮らしてきた……」
ガル・ババの演説が街中に響いている。さざ波の音をかき消すほどの音量で、浜辺にいる獣人の耳にもはっきり届く。ブルービースト本部『ブベル塔』にいる人々へは言わずもがな。
「ある日突然この地にやって来た人間達。その人間達にも、我らの祖先は全てを分け与え、共にこの地で暮らすことを許した。ところがだ!」
ブベル塔の階段を登る、朱色の制服を着た四人。ブルービーストのメンバー達は彼らを軽く睨みながらも、その行く手を阻むことなくすれ違っていく。
「平和と愛と限りある資源を分け与えた我らに対し、人間達は侮辱、軽蔑、暴力を一方的に投げつけた。それを数百年、我らはただ耐え忍んできたのだ」
演説が行われているホールの扉が静かに開き、朱色の制服を着た王室直属ハンターの四人が入ってきた。ホールにいる数百人の獣人達のうち何人かが振り返る。
「私の祖父は耐え忍んだ。父も耐え忍んだ。私も耐え忍んだ。もしもそれで獣人達の苦難の歴史が終わるのならば、それでいいのだ。だが、耐え忍ぶだけでは何も変わらない! 我々は、子供達まで、ひたすら耐え忍ぶ人生に縛り付けてよいのか? どうだ?!」
集まった獣人達が一斉に声を上げる。言葉はとても聴き取れないが、答えは明らかだ。ガル・ババはうんうんとうなずく。
「その通り。答えはシンプル。ノーだ。では我々はどうするべきか。これもシンプルだ。我らを耐え忍ばせてきた存在とは? 我らを蔑み、暴力をふるい続けてきた人間達だ。権力を振りかざしてふんぞり返っている奴らさえ引きずりおろせば、我らの子供達を幸せにすることができる! たったそれだけだ! 本質はいたってシンプルなのだ!」
ブベル塔の建て増しを行っている建設現場。ここでは人間の奴隷達が大勢労働している。その監視をするブルービーストのメンバーが二人いた。ガル・ババの演説がスピーカーで鳴り響く中、二人のうち黄色い髪の少年の方があくびをする。短い黒髪の女の方が彼に肘鉄を食らわせた。
「おいコエン! 『偉大なる総統様』の演説中だよ」
黄色い髪のコエンは肘鉄を食らった脇腹をさすりながら嫌そうな顔。
「別に『総統様』の話なんてどうでもいいじゃねえかよ。革命が成功したって、どうせ俺達半獣人は二等市民なんだし」
「またイゲルマイトさんにぶっとばされるよ」
この現場の主任である『ブルコング』の獣人、イゲルマイトの名前を出され、コエンは小さく舌打ち。
「あのオッサン、気に入らねえ事あると取りあえず拳骨飛ばしてくるよな。脳みそ足りねえからだよ。絶対ジョイスより俺の方が殴られ……」
短い黒髪ジョイスは「しーっ」と人差し指を立てた。
「とにかく『総統様』の演説中は静かにしてなっての!」
「答えは常にシンプルだ! 人間を打ち倒すことによって我ら獣人の子供達に幸せが訪れる! 我らはすでに立ち上がった。もう子供達の幸せはすぐそこにまで迫っているのだ!」
ホールの獣人達はガル・ババに拍手喝采。ガル・ババは手を上げて返事をしながら、ホールを後にした。
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