第61話 リラとナヤのお喋り




「リラ……」

 ナヤに呼ばれたリラは「ん?」と首を振った。ナヤは話を始める前に、持っていたたんぽぽの綿毛をふうっと吹く。

 二人は昼食後の休憩を小屋近くの原っぱで過ごしていた。住宅地から少し離れているため、のどかな場所だ。


「イザックは……アカデミーが襲撃された時、私が止めてもあなたの所に行ってしまいました。ブルービーストの南支部に行った時も、私の意見よりあなたの意見を大事にしていました。そして、私の誘いには乗ってくれませんでした。ポクル宮にも来てくれませんでした」

「うん……」

「私はイザックにとってどんな存在なんでしょうか。そばにいなくなった今、彼にとってはもう過去の人なんでしょうか。あなたは、私と会う前のイザックの事をよく知っているでしょう?」


 イザックの過去の女性関係の話は、リラの口からは言いづらい事ばかりだ。どうしたものかと迷っていると、ナヤがまた喋り始めた。


「私が、どんな気持ちで過ごしてきたか分かります? イザックの口から聞く過去の話も、相棒であるあなたとの仕事の話ばかりでした。アカデミーを出てからは、イザックのそばには常に、私よりイザックの事に詳しいあなたがいて、そのあなたは彼の過去を教えてはくれない。私にはもう、イザックしか気持ちを向けられる人がいないのに」


「分かった。話すよ」

 そう言ってリラはナヤに寄り添うように隣に座った。


「彼は昔から女たらし。彼女は二人いたり三人いたりすることもあった。別れてはくっつき、くっついては別れの繰り返し。別れてもくっついてもいない女の子もいたっけな。……あ、言っておくけど、私は彼とそういうふうになったことはないからね」


「それはイザックも言ってました。……今、彼にはもう新しい恋人がいるんでしょうか」


「いるかも。もし探し出した時に新しい彼女がいたら、二人でぶっとばしてやろう。私は今まであいつの女性関係には何も興味なかったけど、今回は許さないよ」


 リラがそう言うとナヤは「ふふっ」と笑い、たんぽぽを一本取って力いっぱい吹いた。種が風に乗って飛んでいく。ナヤはそれを眺めながら大きく息を吸った。


「アカデミーを出てから南支部へ行くまでの事は、私にも非がありました。あなただけでなく私も独りよがりだったんです。だから、化粧品やアクセサリーの事をたしなめられても、素直に受け入れられなかった。……私はいろんなものを失いましたが、失ってみると意外と大したことないものも多いですね。でも、お父様や、お母様とライト、それにユーバートは……」


「きっと、急に色々ありすぎて、お父さんは気が動転してたんだよ。時間が経てば、受け入れてもらえるかもしれないよ」

「そうだといいんですけど」


 足音が聴こえ、二人とも振り返った。そこにいたのはシンシアさん。いつものおすまし顔ではなく、わずかに微笑んでいる。シンシアさんはナヤに顔を近づけ、言った。


「彼、見つかった」



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