第36話 襲撃 迫り来る危機
リラを見失い、雨の中で立ち尽くす師匠。その周りをカンノンコング、シングルスターパイソン、ブレードストルティオが三方から取り囲む。攻撃しようという意思を感じさせる三体の機械獣の中央、師匠は顔をキッと持ち上げて怒鳴った。
「邪魔だぁっ!!」
その瞬間、周囲は爆竹の山が破裂するようなけたたましい爆発音に包まれた。空間に満ちる雨粒という雨粒が、銃弾のように三体の機械獣を撃ち、一瞬でハチの巣にしたのだ。三体は大きな金属音を響かせながら崩れ落ちた。
そこに走ってきたのは秘書さん。師匠の肩を揺さぶる。
「ダメですよ! こんな所でそんな派手に霊術を使ったら!」
師匠は小刻みにうなずいた。
「すまない。我を見失ってしまった」
「リラちゃんは大丈夫ですよ。獅子の亡霊はアカデミーからだいぶ離れてますし……」
秘書さんがそう言うと師匠は「分かっていないな」と再び苛立ちを見せた。
「いいか。アカデミー襲撃を狙うブルービーストの作戦は、大雑把に推察して二種類。獅子の亡霊と機械獣の変異体を暴れさせながら、共に力押しでアカデミーを目指す。そしてもう一つは、獅子の亡霊達によって混乱する中、警備が手薄になったアカデミーを襲撃する! リラが一人で向かう事がどれほど危険か、お前は分かっていない!」
*
湖の向こう、トイスターの街に見える金色の光をイザック達三人が見ていた。ここはアカデミーに五つあるグラウンドの一つ。
「メイジャーナルを襲ったヤツだ。変異体らしい機械獣もいる」
オスカーは双眼鏡でトイスターの明かりを見ている。
「『獅子の亡霊』とか言ってたよな。アカデミーを襲うって言ってたし、こっちに向かってるんじゃないか?」
そう言うイザックの手をナヤはさっきからずっと握りしめている。
「街へ行きましょう」
ナヤは怯えながらもそんな事を言った。イザックは驚いて目を見開く。
「何言ってんだよ。街が一番危ないだろ。お前、怖いんじゃなかったのか?」
一生懸命首を横に振るナヤ。
「相手が機械獣なら、別に怖くなんかありません。自分達で何とかできます。でもブルービーストは……」
ハッと湖を見るナヤ。
「来る……橋を目指してます!」
「来るって?」
「大変! 橋が壊されたら、アカデミーは孤立してしまいます!」
そう言ってナヤはさしていた傘を放り出し、イザックの手を引き走り出した。オスカーもそれを追って走る。
「おいナヤ! 何が来るんだ。獅子の亡霊か?」
「違います!」とナヤ。
「何かは分かりません。でも、湖を凄い速さで何かが泳いでるんです!」
三人はアカデミーを陸地と繋ぐ三階建の橋のすぐ近くまでやってきた。湖の水面も見えているが、ナヤはそちらをチラチラ見ながら走っている。
「だめ……だめだめ……!」
そうつぶやきながらスピードを上げる。イザックも水面を見た。徐々に白い波が立ち始めたかと思うと、水面に現れたのは、大きなヒレ。ところが、水面を凄まじい速さで進んでいたそのヒレは、すぐに水の中へ消えた。
「潜ったぞ?」
足を止めようとしたイザックの手をナヤが強く引く。
「ジャンプするつもりです! 早く!」
次の瞬間、水面から離陸する飛行機のようにシャチが飛び上がった。
「だめーっ!」というナヤの叫びも虚しく、シャチは体を回転させながら、三階建の橋を貫き、吹き飛ばした。轟音と、地面の揺れ。ナヤはその場にへたり込んだ。
イザックはその隣にかがみ、オスカーは破壊された橋の方をのぞく。
「石と鉄筋コンクリートの橋を体当たりで吹き飛ばした……一体何だあれは」
「あれは、ダンガンサカマタです。頭が金属のように硬く、銃弾のように敵を襲うシャチです」
「シャチ? なんで海の生き物が湖に? まさかあれ……」
イザックはナヤの腕を取り、立ち上がらせた。ナヤはガタガタ震えながら、片手で顔の半分を覆っている。
「あんな獣人がいたら、船も使えない……アカデミーから出られない……!」
*
リラは湖岸を沿って敷かれた道路を走っていた。アカデミーへとつながる橋を目指す。湖は真っ暗で橋が見えないため、あとどれくらい走ればいいのかよく分からない。
アカデミーの窓の明かりを見ながら走っていると、トイスターの街から大きな船がアカデミーの方へ向かうのが見えた。窓の明かりやサーチライトがたくさん光っている。あれは、アストロラ水上兵隊の軍艦だ。
アカデミーに何かあったのだろうか。そんな不安の中必死に走っていると、軍艦の方からゴゴン! と激しい、鈍い衝撃音が聴こえてきた。
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