第4話 第二のチート、マイルーム
ギルドをあとにした俺は、ヤードヤの宿という、ゲームには存在しなかった宿屋を見つけた。
そしてそこには、お昼と夕方に二度も会った、ケモ耳幼女が居た。
どうやらここで働いているらしい。
「なんだ、コルットの知り合いだったのか?」
宿屋の主人と思われるおっさんが話しかけてくる。
「いえ、知り合いという程では……街の中で何度か会っただけです」
「わたしが転んだ所を助けてくれたの」
ケモ耳幼女、コルットちゃんがそう説明してくれる。
「そうか、娘が世話になったみたいだな。ありがとうよ」
娘さんだったのか。
よく見ると確かに、おっさんの頭にもケモ耳がある。
「今日はウチに泊まっていってくれるのか?」
「はい、出来れば何日かお願いしたいんですけど」
そう言いつつ、俺は所持金があまり無い事を思い出す。
確かゲームと同じ宿屋は一晩8P(ピール)だったか? ここはどうだろう?
まずは一週間くらい宿を確保したいが、はたしてお金は足りるんだろうか。
「一晩7P、一週間ならオマケして、40P。朝食つきなら45Pだが……娘を助けてくれたみたいだからな、朝食つきで40Pでもいいぜ?」
「ほんとですか? ありがたい、朝食付き一週間でお願いします」
ゲームと同じ宿屋より安いし、オマケしてくれるのはほんと助かった。ありがとう、コルットちゃん。
「毎度! それじゃあ部屋は2階の奥だ。コルット、連れてってやんな」
「はーい! こっちだよ、おにーちゃん」
俺はコレットちゃんについて行く。
そうして部屋を案内され、ベッドに腰掛けた。
部屋はベッドと椅子、机があるだけの簡素なものだった。
だが、今の俺には屋根とベッドがあるだけでありがたい。
40Pを支払ったから、残りは10Pか。ひとまず一週間は宿代を気にしないで良いのは助かった。あと、朝食がついてくるのもありがたい。
朝食の事を考えると、お腹が空いた。そういえば何も食べてなかった。
シャワーも浴びたいが、どうしたもんか。
とりあえず、おっさんに聞いてみる事にした。
「顔を洗うのは部屋に置いておいた水で、風呂に入りたいなら2つ向こうの浴場でだな。飯はこの時間なら、3つ向こうの《マイワ亭》がお勧めだぜ」
俺はおっさんの情報に感謝しつつ、宿を出た。
さて、まずは飯か風呂か、どうするか考えていると、突然ステータスカードが光った。
「な、なんだ?」
俺はステータスカードを見た。裏側に虹色の枠が出来ていた。
そこには、ゴッドヒールとマイルームという表記があった。
「マイルーム?」
俺がそうつぶやくと、俺の尻が光り、尻の間から扉があわられた。
……これも尻が光るのかよ、しかも尻からニュッと出てくるってなんだよちくしょう。
俺は少しためらいつつ、扉をあけて、中に入った。
「マジかよ……」
そこには広い空間があった。10帖くらいはあるだろうか? 天井には照明がついていて中は明るい。
手前の部屋にはソファーやテーブル、椅子が置かれている。
奥にはキッチンや冷蔵庫まである。
扉もいくつかあったので開けてみると、トイレや風呂があった。
試しに水を出してみると、水が出た。ちゃんとお湯も出るみたいた。
「ど、どうなってるんだこりゃ?」
すると目の前に文字があらわれた。
それはこのマイルームの説明文だった。
マイルーム、消費MP15。マイルームの扉を出現させる度にMPが消費される。と書いてある。
続いて説明を読む。
どうやらこのマイルームは、周囲のあらゆる成分を自動で変換して、お湯や水、電気や物を作り出しているらしい。欲しい物は欲しいと念じれば大抵の物は作られると書いてあった。
ここで作られた物はマイルーム内でしか存在できず、外に持ち出そうとすれば消滅するそうだ。
基本的にマイルームに入れるのは俺だけ。
俺が認めてパーティメンバーとなれば、一緒に入れるらしい。
……どんだけ便利なんだよマイルーム。これは確かにチートだわ。
俺は初めてあの神様に感謝した。
「だけど、これもあんまり、使いすぎるわけにはいかないな」
一瞬、宿屋に泊まらなくてもいいんじゃないかと思ったが、すぐに却下した。
このマイルームに居る間は、俺は街では行方不明になるだろう。夜になると街から消えるとなっては、色々あやしまれてしまう。
それにだ、ゲーム中に宿屋に情報が届けれられたり、ギルドから呼び出しが来る事もあった。そんな時、どこの宿にも泊まっていないとなると、大事な情報や呼び出しが受けられないかもしれない。
街に居る時は極力使用は控えて、旅の途中にキャンプとして使うくらいにしないとな。
とはいえ、風呂くらいはいいだろう。
俺は浴槽に湯をためて、ゆっくり風呂に入った。シャンプーとか普通にあったのは驚いた。
俺はマイルームを堪能し、外に出る事にした。
そして気付いた。出口……扉の横にこの世界の地図と思われるものがある。
地図にはいくつかの情報が書かれていた。
俺が確認しようとすると、地図の縮尺が変わった。
どうやら俺の意思で、地図の縮尺変更が可能な様だ。
ここは、さっきのヤードヤの宿だな。赤い光は、俺がマイルームを使った場所か?
すると説明文があわられる。
赤い光は俺がマイルームを使った場所で間違いない様だ。
出る時は一度でも行った事がある場所なら、どこでも指定できるらしい。
これ、移動にも使えるじゃないか、スゲエな。
さらに素材や物、人を指定すれば地図に表示されるらしい。
これは……素材集めが楽になるな。早速明日、活用してみよう。
俺はひとまず、宿屋の裏を出口に指定して、マイルームを出た。
マイルーム、すさまじいチートだ。使い方をよく考えないとな。
俺は悩みながらも、おっさんに勧められた食事処、《マイワ亭》に向かった。
外からメニューを見る。
値段は大体、3~10Pか。ここで食ったら所持金がほぼ無くなるな。
とはいえ、俺はもう腹ペコだ。明日の事は明日考えるとして、俺は店の中に入った。
「いらっしゃいませー!」
元気のいい女の子だった。俺は席に案内され、メニューを眺めた。
今日のお勧め、ウサギットのステーキセット、8Pか。
俺は思い切ってこのお勧めを頼んだ。
やがて料理が運ばれてくる。
ウサギットのステーキとサラダ、パン、スープのセットだった。肉の匂いが食欲をそそる。
俺はもう限界だった。すぐに肉にかぶりつき、食事をむさぼった。
「あー、うまかった」
残り所持金は2P。
だが、想像以上にうまかった。ゲーム内では食事に関してはあんまり触れられてなかったからな。
もっと色々食べてみたいが、それにはまずは稼がないといけない。
さっきのマイルームをうまく使えば、依頼はこなせるはずだ。
明日から冒険者としてがんばろう。
俺は宿屋に戻って、眠りについた。
疲れていたのか、あまり良いベッドではなかったが、熟睡する事ができた。
翌日、俺は朝食として用意されたパンとスープを食べて、宿屋を出た。
一晩寝て、MPはバッチリ回復していた。さすがはゲームの世界だ。
まずはギルドへ向かおう。そして依頼をこなして稼がなければ、今夜の食事は抜きになってしまう。
俺は冒険者ギルドへ向かった。
ギルドに入ると、みんなの視線がこちらに集まった。
「おい、あいつだぜ」
「あいつがあの、尻魔道士ってやつか?」
「ああ見ろよ、あの尻、間違いないぜ」
「うつくしい」
「ああ、とんでもねえ尻してやがる」
「俺は何かやる尻だと思っていたぜ」
なんかヒソヒソと話をしている。所々聞こえてくるのは、尻という単語だ。
……ちくしょう、どうしてこんな事に。
「おう! 早いな、確か……シリトだったか?」
「俺の名前はリクトだよ!」
誰が尻だ誰が!?
話しかけてきたのは俺が昨日、初めて回復魔法を使ったヒゲのおっさんだった。
「ガッハッハ! そうかそうか、まあ昨日は色々あったが、今日からお前さんも俺達と同じ、冒険者ってわけだ。よろしく頼むぜ、何かあったら言ってくれよ!」
「あ、ああ」
そう言ってヒゲのおっさんは去っていった。良い人なんだよな、基本的には。
「あ、リクトさん、おはようございます」
カウンターに行くと、ラブルンことラブ姉が居た。
……このギルドの職員はラブ姉しかいないのか?
「昨日はすみませんでした、突然出て行ってしまって」
「いいえ、こちらとしても配慮が足りなかったと思います。すみません」
「ラブね……じゃない、ラブルンさんのせいじゃないですよ」
俺はついクセで、ラブ姉と言いかけてしまう。
「うふふ、どこで聞いたんですかそれ? いいですよ、ラブ姉でも。みんなそう呼んでますし」
「そ、そうですか? そう言ってもらえるんなら」
どうやら本人公認の愛称だったらしい。
「さて、昨日は説明できませんでしたが、リクトさんは今日から冒険者、Fランクになります」
ふむ、最初はみんなFランクからというのは、ゲームと同じか。
ゲームでは冒険者になると、ランクが設定される。ランクはFからSまであったな。
「最初は簡単な依頼しか受けられませんが、依頼をどんどん受けて頂き、昇格試験に合格するとランクが上がります。ランクが上がれば受けられる依頼も増えますので、頑張ってランクを上げてくださいね」
ふむ、この辺はやっぱりゲームと同じだな。となると、昇格試験もゲームと同じものだろうか。
「それでリクトさん、今日は早速、依頼を受けてみますか?」
「そのつもりです。とはいえ、冒険力は33なんで、薬草の採集でも受けようかと思ってます」
冒険力33では、おそらく最弱のモンスターである、ケモリン相手にすら苦戦するだろう。となれば、一番簡単な薬草採集の依頼がいいだろう。
「そうですね、薬草の採集くらいなら大丈夫でしょう。では……こちらはどうでしょうか?」
ラブ姉が出してきたのは、元気草という、かいふくーんの材料になる薬草の採集依頼だった。
採集量に応じて報酬は変わるらしい。
小:5P、中:15P、大:30P
どれくらいが小でどれくらいが大なのかはわからないが、まあいいか。
俺は依頼を受けて、ラブ姉に図鑑で元気草を見せてもらい、ギルドを出た。
そういえば、男勇者やユミーリアはまだ居なかったな、助かった。会うと色々面倒だからな。
俺は建物の影に入り、マイルームを発動する。相変わらず尻が光るのがウザイ。
今の俺のMPは20なので、15消費して残り5になる。
……あ、今日の夜、風呂どうしよう? 今のMPでは、1日1回しか使えないからな、マイルーム。
そう思いつつ、俺は尻から出てきた扉を開けて、素早くマイルームの中に入った。
そして、マイルームの地図を見つめる。
予想通り、元気草の生えている場所が地図に表示された。
場所はキョテンの街から少し離れた所。まだ行った事がない場所なので歩いていかなければならないが、生えている場所がわかるのは便利だ。
俺は元気草の生えている場所をしっかりと覚えて、マイルームから出た。
「あああああ!!」
突然聞こえてきたのは、聞き覚えのあるハニーボイスだった。
「やっと見つけましたよ! リクトさん!」
女勇者、ユミーリアだった。
しまった見つかった! と思った時には遅かった。
気がつけば俺は、彼女に抱きつかれていた。
◇ステータス情報◇
リクト
レベル:1 HP:15 MP:20 冒険力:33
職業:素晴らしき尻魔道士
能力:ゴッドヒール、マイルーム
装備:布の服、布のズボン、皮のカバン
所持品:かいふくーん×1
所持金:2P
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