第140話 つどいし強者達
大歓声が会場を包み込んでいた。
ついに始まったシリト教主催の大武闘会。
目的は邪神の使徒をあおって、出場してきた邪神の使徒を倒すって事らしいが、真相はおそらく、騒ぎたいだけだろう。
まあ、あとはシリト教のお披露目でもあるのだろう。
本来はパスしたい所だが、なんとユミーリアの両親が参加するが判明し、二人に認めてもらう為、俺は大会に出場しなければならなくなってしまったのだ。
会場は以前も訪れた、城の闘技場だった。
舞台は四角形で結構広い。
試合はトーナメント方式だった。
大会が始まる直前にくじを引いて、対戦相手が決定していった。
俺達は第一試合。一番最初に戦う事になった。
審判をつとめるライシュバルトが舞台に上がって、大きく声をあげた。
「みなさま、お待たせしました。これよりシリト教主催、大武闘会を開催いたします!」
マイクもないのによく響き渡る声だった。
観客達が一層盛り上がりを見せる。
「改めてルールを説明します! 武器の使用は自由、ただし相手を殺してはいけません。4人同時に戦って、気絶したり戦闘不能とみなされたり、まいったと言えばそこで負けとなり、最後に残った者のチームが勝ちとなります。また、場外に出ても負けとなります。多少の怪我は我らが神の尻を持つシリト様がゴッドヒールですぐに治して頂けますので、どうぞ安心して全力で戦ってください!」
それ、俺が気絶した場合はどうなるんだよ?
まあ負けるつもりはないけどさ。
「それでは第一試合! 我らが神の尻、シリトアンドコルット 対 マクラウド、ザイン!」
誰がシリトだこのヤロウ。
俺はライシュバルトをにらみながら、コルットと一緒に舞台に上がる。
「ひろいねー」
コルットが舞台に上がって感動していた。
キャッキャと舞台を走り回っている。
俺はそんなコルットを見守りつつ、対戦相手を見た。
確かセントヒリア王国の兵士ザインと、この国の王子様、だよな?
どちらも一度戦った事がある相手だった。
俺は走り回るコルットを呼び止める。
「コルット、どっちと戦いたい?」
「んー、どっちもよわそう」
そりゃ今のコルットからすれば大抵の人間は弱いだろうな。
俺が苦笑していると、相手がこちらを指差してきた。
「やい尻野郎! やっとてめえと戦えるな、てめえのせいで俺様がどれだけ大変だったか、思い知らせてやるぜ!」
対戦相手のザインがこちらに向かって叫んでいる。
「大変だったって、何かあったのか?」
俺がそう言うと、ザインの目が大きく開いた。
「てめえ、ふざけんな! てめえが俺様の名前を勝手に使ったせいで、俺様は大変な事になったんだぞ!」
ザインが顔を真っ赤にして怒っている。
だが、俺には何の事かサッパリわからない。
「な、名前? 何の事だ?」
「帝国で俺様の名前を勝手に使いやがっただろうが! しらばっくれてんじゃねえよ!」
帝国で、名前を?
……ああ、思い出した。
そういえば宿屋とか帝国の将軍に対して、たまたま思い出したこいつ、ザインの名前を使ったんだっけか。
「思い出したかコノヤロウ! てめえのせいで、俺様は王宮に呼ばれたり、帝国に呼ばれたり、何の事かもわからないのに大移動させられて大変だったんだぞ!」
ああそうか。多分俺を呼び出そうとして、ザインの名前を出したからこいつが呼ばれたんだな。
「しかもだ! 勘違いで報酬金(ほうしゅうきん)を押し付けられたりして大変だったんだぞ! んで、まあいいかと思ってその金で焼肉食ったら、後日返金を求められて、借金になっちまったんだぞ!」
いや、それ後半は、自業自得じゃね?
というかその報酬金はどうなったんだ? 別に金に困っているわけじゃないが気になる。
「だから俺様はこの大会で優勝して金を得るんだよ! そして、てめえを倒してエリシリアを取り戻す!」
エリシリアの名前を聞いて、俺の気が変わる。
こいつ、まだエリシリアの事をあきらめてなかったのか。
「てめえを倒す為、そして賞金を得る為に、俺はこいつと我慢して組む事にしたんだ、覚悟しやがれ!」
そう言ってザインは王子様を指差した。
王子様に対してずいぶんな態度だが、確かこいつら、幼馴染なんだっけ?
「悪いね、そんなわけだからザインに付き合ってやってくれ。まあ余もこういう大会は好きだし、ザインなら幼い頃から一緒だったから、連携もとりやすいしね。良い勝負が出来ると思うよ」
ザインと王子様がそれぞれ構えをとる。
「コルット、俺がザインをやるから、そっちの王子様を頼む」
いい加減、エリシリアが誰のものか教えてやろう。
「はーい」
相手があまり強くないせいか、どうにもコルットはノリきれていないみたいだった。
そこで俺はコルットに、ひとつ提案する事にした。
「よし、それじゃあこうしよう。どっちが早く相手を倒すか勝負だ。コルットが勝ったら、ナデナデしてやるぞ」
それを聞いて、コルットの瞳が輝きを取り戻す。
「わかった! やる!」
よし、これでいいだろう。
「両者、準備はいいな? それでは、はじめ!」
舞台の中央に立つライシュバルトが手を振り下ろす。
それと同時に、ザインが俺に対して駆けてくる。
ザインの武器はその手に装着された鉄のツメだ。
鉄のツメを、俺に対してするどく突き刺してくる。
「死ねやあああ!」
いや、殺したらダメだって言われただろうが。
俺はザインのツメをよけて、無防備になったアゴに思いっきり拳を叩き込んだ。
「がふっ!」
見事なアッパーカットが決まり、ザインが宙を舞う。
どうだ? とコルットを見ると、すでに勝負は決していた。
王子様はすでに場外で倒れていた。
さすがコルット、瞬殺だったか。
ザインが地上に落ちてきて、倒れる。
「エリシリアは、俺のものだ」
俺は倒れたザインに対してそう告げる。
言ってからちょっと恥ずかしくなった。
ライシュバルトが二人の状態を確認し、声高らかに叫んだ。
「勝者! シリトアンドコルットチーム!」
だから勝手に俺の名前を変えるんじゃない。
お前ちゃんとエントリーシート見てるだろうが、まったく。
ライシュバルトの宣言を聞いて、歓声があがる。
試合が終わった事を確認し、コルットが俺の方にトテトテ走ってくる。
「おにーちゃん、わたしのかちー!」
「そうだな、よくやったぞ、コルット」
俺はコルットの頭を撫でる。
「えへへー」
コルットがうれしそうに目を細めた。
「ずるい」
「ずるい」
「ずるいです」
「ずるいですね」
ユミーリア、エリシリア、プリム、マキがコルットをうらやましそうに見ていた。
試合に勝った俺達は舞台を降りて、控え室へ向かう。
「リクト様、コルット様、こちらへどうぞ」
その途中で、マキに別の場所へ案内される。
着いた場所は、王族達の特等席だった。
「おお来たか、まあ座れ」
そこには各国の王様達が揃っていた。
手前に王様達、後ろにユミーリア達が座っている。
俺に椅子をすすめてきたのはウミキタ王国の王様だ。
「いや、俺達は選手なんですけど? というかここは場違いじゃ?」
「何言ってやがる、お前さんは各国の姫を嫁にするんだから、すでに王族関係者だ。いいから座れ」
俺は結局、エリシリアとマキの間の席に座らされた。
ユミーリア、エリシリア、俺、マキ、コルット、プリムの順番に並んで座った。
こうなると、ひとりだけ一般客席の中にある無駄に豪華な椅子に座らされているアーナが、バツゲームの様でかわいそうになってくる。
ひとりでさびしいんじゃないかとアーナを見ると、その心配は必要なかったと思い知る。
「みなの者! 見たか? あれこそが我が夫となるリクトの力じゃ! そしてそんなリクトの一番可愛い嫁は誰か? そう、それこそが!」
アーナがクルッとまわって自身を指差す。
「わしじゃよ!」
アーナが客席で騒いでいた。
周囲の観客達は視線を合わせない様にしているが、当のアーナはひとりで豪快に笑っていた。
うん、あっちに置いておいて正解だったかもしれない。
そう思ってふと横を見ると、コルットとプリムがうらやましそうにアーナを見ていた。
わしじゃよ、一緒にやりたかったんだろうな。
俺はマキに、後でアーナもこちらに呼んでやる様に頼んだ。
呼ばれたアーナはコルットとプリムの間に座る。
「ふっふっふ、ついにわしもここに座る時がきたか、そう、これこそまさに選ばれし者! それこそがまさに!」
アーナが大きな身振りで自身を指差す。
そしてコルットとプリムもそれに合わせる様に自身を指差した。
「わしじゃよ!」
三人のわしじゃよがキレイに決まった。
王様や王妃様達は一瞬ポカンとしたが、コルットとプリムが楽しそうだったのでやさしく微笑んでいた。
笑った王様達を見て、コルットとプリムは手を合わせてよろこんでいた。
そうこうしている間に試合が進む。
各国の軍団長や腕利きの選手達が試合を繰り広げているが、正直俺ひとりでも勝てそうな相手ばかりだった。
こりゃ楽勝かな、なんて思っていると、いよいよ本命が出てくる。
「次の試合です! レズリー、シズカ 対 謎の仮面夫婦!」
レズリーとシズカはロイヤルナイツのメンバーだ。
対する謎の仮面夫婦。
黒い服に身を包んだ二人の男女は、初めてあった時につけていた仮面を装着していた。
「ねえリクト、もしかして」
「ああ、あれがユミーリアの両親だ」
ユミーリアが二人を見る。
試合が始まった。
レズリーとシズカがそれぞれ攻撃を仕掛ける。
だが、仮面の夫婦は軽く攻撃をかわし、二人の動きを観察していた。
やがてその動きを見切ると、夫婦はお互いうなずきあい、攻撃にうつる。
レズリーとシズカの隙をつき、あっという間に場外へと投げ飛ばしてしまった。
「武器すら使わないのか」
「あのレズリーとシズカを……ユミーリア、お前の両親は強いな」
エリシリアも二人の強さに感心していた。
ユミーリアは二人をジッと見ていた。
その表情は、どことなく、うれしそうだった。
仮面の夫婦が舞台から俺達を見て……手を振った。
余裕だな。
コルットが仮面の夫婦に対して手を振り返していた。可愛い。
仮面のせいで、二人が俺達の中の誰を見ていたのかはわからない。
だけどなんとなく、二人はユミーリアを見ていた様な気がした。
その後も試合は続いた。
ユミーリアとユウの勇者兄妹もサクッと相手を倒していた。
こりゃ俺達とユミーリア、そしてユミーリアの両親の勝負だなと思ったその時、新たな強者が現れた。
「最後の試合です! キングーヴ、ララ 対 ダークフレイムマスターズ!」
どちらも聞いた事がない名前だった。
というか後者はなんだ? いくらチーム名は好きに登録できるからって、どこの中二病だよ。
両者が舞台にあがる。
一方はどこかで見た事があった。
ひとりは3メートルを超える大きさの男だった。筋肉ムキムキのマッチョだ。
二人目はこれまた身長が高い、ムチムチの美女だった。ピンク色の髪のポニーテールが素晴らしい。
まあ、ユミーリアの素晴らしいトリプルテールには2本敵わないけどな。
「Sランク冒険者のキングーヴとララだな」
エリシリアがそう告げる。
そうか、確かオーガ侵攻戦の時に見かけたんだっけ。完全に忘れてた。
対戦相手は黒いローブに身を包んでいた。
こちらは間違いなく見た事がない。というか中身がわからない。
「両者、準備はいいですね? それでは、はじめ!」
ライシュバルトが腕を振り下ろし、勝負開始を宣言する。
その瞬間、対戦相手は黒いローブを脱ぎ捨てた。
「あ」
「あ!」
俺とコルットが声をあげる。
そこに立っていたのは、キツネの親子。
ゴンとネギッツだった。
二人は蹴りを主体とした格闘技で、Sランクの二人をあっという間に場外に叩き出してしまった。
明らかに以前より、強くなっている。
「しょ、勝者! ダークフレイムマスターズ!」
ライシュバルトが勝者を告げる。
「Sランクが瞬殺か、さすがだな、ゴン」
ウミキタ王国の王様が呟いた。
そうか、ゴンはウミキタ王国に普通に住んでいたもんな。ウミキタ王国の王様は知ってるか。
俺とコルット、勇者兄妹に仮面の夫婦、そしてネギッツとゴン。
ついに役者が出揃った。
そして、早くも次の試合が始まろうとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます