第40話 粉砕! コダイノ遺跡

 遺跡調査にきた俺達は、ユミーリアとはぐれてしまい、コルットと密室で二人っきりになっていた。


 そして俺は……コルットにせまられていた。



「おにーちゃん、わたしのくうき、あげるね」


 密室で酸素が薄くなってきた事を知ったコルットは、なぜか服を脱ぎながら、俺に空気をあげると言って、せまってきていた。


「っていや! 待て待て!」


 俺はコルットの肩に手を置いて、コルットを止めた。


「おにーちゃん?」

「なあコルット、コルットの読んだ本では、この後どうなるんだ?」


 俺は、コルットが今している事は、コルットのお母さんの部屋で読んだ本の通りにしているんだという事を思い出した。


 コルットはちゃんと、今している行為の意味をわかっているのだろうか。


「えっと、この後は、お母さんに見つかって怒られちゃったから、よくわからないの」



 ……ほらな? コルットは幼女だぞ? 意味深な行動なわけないじゃないか。


 俺から思わずキッスなんてしてた日には、俺は立派な犯罪者だったわけだ。


「でも、お母さんの部屋にある本は、男の人と女の人が仲良くなる本ばっかりだったから、きっとこうすると、おにーちゃんと仲良くなれるんだよね?」


 うん、それは間違っていない。


「間違っては無いけど、俺とコルットには必要ないかな?」

「そうなの?」


 そうだ。コルットにはまだ早い。

 コルットが何歳かは知らないが、どう見ても手を出したらアウトな見た目だからな。


 俺は立ち上がり、俺の腰くらいの身長しかないコルットの頭を撫でる。


「俺達は今でも仲良しだろ? だから、そういうのは必要ないんだ」

「うーん、わたしはもっと仲良くなりたいなー」


 うれしい事を言ってくれる。


 だが、そんなコルットの純粋な気持ちをもてあそぶほど、俺は悪いロリコンにはなれない。


 幼女は純粋だからこそ可愛いんだ。手を出すなんてとんでもない。



 そんな事を考えていると、再び遺跡が大きく動き始めた。


「うわっ!」

「わわっ! だいじょうぶ? おにーちゃん」


 俺とコルットは、しゃがんでお互いを支えあう。


「いったいなんなんだ、この遺跡は!?」


 こんな風にゆれるとか、この密室とかはゲームには無かった。

 何度もイレギュラーな事に遭遇はしているが、今回は本当に、どうすればいいかわからなかった。


「あ! おにーちゃん! あそこに空気の抜け道があるよ!」


 俺はコルットの言った方を見る。


 確かに、遺跡が動いた事によって壁に隙間ができていた。


「おにーちゃん、あの壁をこわせば、外に出られるかも!」

「よし、やってくれコルット!」

「うん!」


 コルットはゆれる足場を器用に走りぬけ、壁を拳で粉砕した。


 ケモ耳幼女スゲー。


 すると破壊された壁の向こうに、外が見えた。


「おにーちゃん!」


 俺はコルットに向かって走る。


「うわっ!」


 しかし、激しくゆれる遺跡のせいで転んでしまい、コルットの居る方へ向かって転がった。


「わわっ! おにーちゃん!?」


 俺はコルットとぶつかり、そのまま外へ放り出された。



「ぐふっ!」


 外に放り出された俺は、コルットを抱きしめて地面に落ちた。


「だ、大丈夫かコルット?」


 俺は腕の中のコルットを確認する。


「うん、おにーちゃんの中、あったかい」


 俺はコルットの無事を確認し、頭を撫でる。


 そしてあらためて、遺跡を見た。



 遺跡を見た、はずだった。


 なぜか俺の目の前には、大きな岩のロボット……いや、ゴーレムか? 大きな岩の巨人が居た。


「ふははは! 見たか勇者よ! これぞ我らが邪神様の力によって目覚めた、遺跡ゴーレムだ!」


 どこからか声が聞こえてきた。


 そして、大体の状況を理解した。


 俺は周囲を見渡した。

 すると、そこにはユミーリアが居た。


「ユミーリア!」


 俺の声に、ユミーリアが気付く。


「リクト! コルットちゃんも、無事だったの!?」


 ユミーリアが俺達に駆け寄ってくる。



「ゴッドヒール!」


 俺の尻が激しく光る。


 俺は自分に回復魔法をかけて、立ち上がった。


「ユミーリア、なんとなく状況はわかるが、知ってる事を教えてくれ」


 俺はユミーリアが見た事を聞いてみる。


「うん、突然遺跡が動いて、外に放り出されたと思ったら、遺跡自体がこのゴーレムになって、しばらく動かなかったからどうしようかと悩んでいたんだけど、今また突然動き始めたの」


 やはり、このゴーレムは遺跡が変形したものだったか。

 なんでもありだな、邪神の力。


 しかし、邪神の使徒と戦うかもしれないとは覚悟していたが、まさか遺跡そのものと戦う事になるとはな。


「ユミーリア、あれ、倒せそうか?」


 俺はユミーリアに聞いてみる。


「……剣で斬る事ができれば、倒せるかもしれない」


 そうか、確かにあの遺跡に剣が通るか……ん? 待てよ。


 俺は先程、コルットが遺跡の壁を破壊した事を思い出す。


「なあコルット、アレ、さっきコルットが壊した遺跡が変形したモンスターなんだけど、さっきの壁と同じ様に、破壊できるか?」


 俺は俺の腕の中で丸くなっているコルットに聞いてみる。


「んにゅ? さっきの壁? うん、多分大丈夫だよ」


 遺跡が変形したゴーレムとはいえ、しょせん遺跡だ。


 ならば遺跡の壁を破壊できるコルットなら、同じ様に破壊できるだろう。


「よーしコルット! あの遺跡ゴーレムを、とことんぶっ壊してやるんだ!」

「うん! わかったよおにーちゃん!」


 俺の言葉に、コルットは元気よく立ち上がり、遺跡に向かっていった。


「だ、大丈夫なの? リクト」

「ああ、もし危なければ、すぐに俺達も加勢するぞ!」


 俺はランラン丸を抜いて、構える。


 ユミーリアもそんな俺を見て、剣を構えた。


「はっはっは! 何をするかと思えば、そんなケモ耳幼女ひとりでなにが」

「えいっ!」


 コルットが遺跡ゴーレムの足と思われる部分に、パンチを放つ。


 すると遺跡ゴーレムの足が砕け散った。


「な、なんだとー!?」


「たあっ!」


 コルットは続いて、もう片方の足を蹴りで粉砕する。


 わお、ケモ耳幼女マジ強い。


 姿勢を保てなくなった遺跡ゴーレムは、どんどん崩れ落ちていく。


 そしてコルットは、次々と遺跡ゴーレムに攻撃を加えて、粉砕していく。


「ははっ、いいぞコルット! もっとやってしまえ!」


「はーい!」


 どうやら俺達の加勢は必要ないみたいだった。



 そして俺はというと、油断しすぎていた。


「へっ?」


 飛んできた遺跡のかけらが、俺の頭に直撃した。


「り、リクトー!?」


 うすれゆく意識の中、ユミーリアの声が聞こえた。




「おお素晴らしき尻魔道士よ、死んでしまうとは……いや、ほんっとに、なさけないですね」


 気がつくと、真っ白な空間に、男勇者の姿に羽を生やした神様が居た。


「いやあ、今回は私もノーコンティニューでクリアすると思っていましたのに、どういう死に方ですかまったく」


 それは俺が言いたい。


「え? ていうかなに? 俺、死んだの?」

「死にましたよ、遺跡の破片が頭に当たって、ポックリ逝っちゃいました」


 アホか!? なんだよその死に方!?


「はいはい、あそこまでいけば、後はもうあの遺跡ゴーレムを倒すだけなんで、チャチャっとやり直してきてくださいねー」


 神様は俺を立たせると、尻を撫でてくる。


「まあ、私としてはこのお尻を撫でられるのですから、いくら死んで頂いても結構なんですけどねー」


 神様は幸せそうに俺の尻を撫でている。


 俺は俺で、この後どうしたもんかと悩んでいた。



 そして3分経ち、俺の尻を撫で終わった神様が、満足気な笑顔で締めの言葉を告げる。


「それでは素晴らしき尻魔道士よ、そなたに もう一度、機会を与えよう!」


 俺の目の前が光り輝き、真っ白になった。



 俺は宿屋のベッドに居た。


 またやり直しか。


 というか、あそこまでいって最初からやり直しは面倒くさいな。

 また遺跡調査からやり直しかよ。



 ……いや、待てよ?


 何もそのままやり直す必要はないんじゃないか?


 俺はニヤリと笑って、出かける準備をした。



 俺達は再び、遺跡の前までやってきた。


 ここまでは前回と同じだ。


「それじゃあリクト、遺跡に入りましょうか」


 ユミーリアが遺跡に入ろうとする。


「ああ待った、ユミーリア、遺跡に入る必要は無い」

「え?」


 俺の言葉に、ユミーリアが立ち止まる。


「実はな、この遺跡……すでに邪神の使徒によって改造されてしまっているんだ」

「か、改造?」


 俺はうなずいて、説明を続ける。


「この遺跡はすでに邪神の使徒が改造していて、ゴーレムに変形するようになっているんだ。だからヘタに中に入る方が危険なんだよ」


 俺の説明に、二人が疑問を浮かべる。というか話についてこれないといった感じか。


「なーに、やってみればわかるさ。というわけでコルット! 外から遺跡を破壊するんだ!」

「ええ!? い、いいのかな?」


 コルットがユミーリアをチラ見する。


「多分、リクトには未来が見えたんだと思う。やっちゃってコルットちゃん!」


「わ、わかりました」


 コルットが前に出て、構える。


「あ! ちょっと待った。破壊した破片が飛んでくるかもしれないから、俺はちょっと離れてるな」


 俺は遺跡から距離を取る。


「よし! コルット、やってしまえ! とことん破壊するんだ! もしかしたら途中でゴーレムに変形するかもしれないが、構わずやってしまえ!」


「わかったよ、おにーちゃん!」

「よーしいい子だ。終わったらなんでもいう事を聞いてやるぞ!」


 俺は自分だけが後ろに下がっている事に少し罪悪感を覚え、余計な事を言ってしまう。


「なん……でも……?」


 コルットの目の色が変わった気がした。


 コルットは今まで見た事が無いスピードで遺跡に駆け寄り、拳と蹴りで遺跡を粉砕した。



「な、何をするんだ! ええい! 予定変更だ! 起動せよ、遺跡ゴーレム!」


 突然どこからか声が聞こえてきた。


 遺跡が動き出し、ゴーレムの形に変形していく。


 だが、事前にそれを知らせていたからか、コルットは気にせず遺跡を破壊していった。


「あ! ちょっ! こら! や、やめんか! ご、ゴーレムが持たん!!」


 変形しようとした遺跡をコルットは次々と破壊していく。



 やがて、コナゴナになった遺跡がそこにはあった。


 遺跡の中から、青い覆面をつけた、邪神の使徒が這い出てきた。


「な、何て事をするんだ……貴様らには常識というものがないのか!?」


 邪神の使徒がこちらに文句を言ってくる。


「ほ、本当に邪神の使徒が出てきたよ、リクト」


 全ては俺の計画通りだった。


 俺は邪神の使徒を思いっきり殴って気絶させる。


「お前には遺跡の事について、証言してもらうぜ」


 どうせ変形した遺跡を破壊するんだから、先に破壊してしまおうというのが今回の作戦だった。


 しかしさすがに、ただ遺跡を破壊しましたと報告しては、俺達が逆に罪に問われてしまうからな。


 こいつにはちゃんと、遺跡がゴーレムになるはずだった事を証言してもらわないと。



「うう、私今回、何もしてないよー」


 ユミーリアがションボリしていた。


 俺はユミーリアの頭を撫でる。


「気にするな、今回は事前に遺跡が変形する事がわかったから、こうして無事に攻略できたんだ。むしろ頑張ったコルットを二人でほめてやろう」


 俺に頭を撫でられたユミーリアは、納得したのか笑顔でうなずいた。


 俺は遺跡を破壊し終わって、こちらに駆けてくるコルットを抱きかかえ、頭を撫でてやる。


「よーし、よくやってくれたぞコルット、お疲れ様」

「えへへー、わたし、がんばっちゃった」


 俺とユミーリアは二人でコルットをほめて、邪神の使徒を回収して、ギルドに戻った。




「な、なんだってええええええ!?」


 ギルドに大声が響き渡った。


 大声を出したのはギルド長、アリアさんだ。


 たまたま俺がラブ姉に報告する内容を聞いていた様だった。


「い、遺跡が……コダイノ遺跡が跡形も無く破壊されただって!?」


 ギルド長は頭を抱えていた。


 最初はその大きな身体と威圧的な雰囲気で怖かったが、ここ最近はなんだか、頭を抱える姿ばかりみている気がする。


「そんな、遺跡が……貴重な遺跡が……」


「この邪神の使徒に聞いて下さい。遺跡をゴーレムに変形させて、街を襲うつもりだったみたいです。それに気付きましたので、や む を 得 ず 破壊しました」


 俺はやむを得ずという言葉を強めに言った。


 あくまでしょうがなくなのだ。決して故意で破壊したわけではない。


「……はあ、まったくあんたってヤツは……わかったよ、詳しくはその男の話を聞こう」


 ギルド長はいまだ気絶している邪神の使徒を奥に引きずっていった。


「ああ、あんたはまだ帰るんじゃないよ? こいつの話を聞いたら、もう一度ちゃんと話を聞かせてもらうからね?」


 そう言ってギルド長は奥に去っていった。


「また大変だったみたいですね、リクトさん」


 ラブ姉が苦笑していた。



 こうして俺達は、遺跡調査? を終了した。


 邪神の使徒が素直に白状したみたいで、俺達はすんなり解放してもらえた。


「がっはっは! さすがはシリトだな」

「私は頭が痛いよ、まったく」


 豪快に笑うヒゲのおっさんと、うなだれるギルド長の夫婦の姿を見届けて、俺達は宿屋へと帰った。



「えへへ、なんだか順調だね、リクト」


 帰り道、ユミーリアがご機嫌に話しかけてきた。


「うん、あとはフレアイーグルを倒せば、Cランクだもんね」


 コルットもご機嫌だ。


 実は俺は何回か死んでるんだが、それは黙っておこう。



 しかし、次はフレアイーグルの討伐か。


 本来のストーリーでは、フレアイーグルの生息地に、なぜかショシンリュウという、比較的弱めだが、竜が現れるんだよな。


 今の俺達なら、ショシンリュウくらいは軽く倒せるだろうが、果たしてどうなるのやら。


 むしろ本来の標的であるフレアイーグルならもっと楽なんだけどな。



 ここまで、本来のストーリーとはまったく違う事が続いていた。


 だから次のフレアイーグル討伐も、予想外の事が起きるかもしれない。


 そう思っていた。



 その予感は、残念な事に見事的中する事になる。




「ゴアアアアアアアア!!」


 次の日、フレアイーグル討伐の依頼を受けた俺達に待ち受けていたのは……


「リクト、こ、このモンスターって!」


「……ああ」


 予想通り、俺達の前に現れたのは、フレアイーグルでもショシンリュウでもなかった。


 それは、ストーリーの終盤に出てくるモンスター。


 エンカウントすれば逃げた方がいいと、攻略本に書かれているやっかいなモンスター。


 俺は念の為、相手の名前と強さを確認する。


 俺の尻が光って、光は文字となり、俺の前に現れる。



《オメガドラゴン 冒険力9万4000》




 俺は再び、死を覚悟した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る