第82話 運命の出会い、4回目

 ウミキタ王国を襲った大事件。


 海岸に幽霊船が現れ、邪神の使徒である、オウガ、ジャミリー、フィリス、ゼノスが襲ってきた。

 街中にも即死攻撃を持つデスマギュウや、ムエタイ使いのゴン、娘のキツネ耳少女ネギッツという新しい敵が居て、街の外では帝国軍が攻めてきた。


 俺達はそれぞれわかれて、幽霊船、デスマギュウを倒して、帝国軍を壊滅させた。

 ゴンとネギッツは行方不明。ジャミリーは死に、ゼノスはフィリスに回収されて逃げられてしまった。


 オウガは……俺と戦い、死んだ。

 残った魔石は、コルットの親父さんに預けてある。



 色々あったが、俺達はウミキタ王国を救ったのだ。


「ですから、リクトさん達には、Sランクになって頂きます」


 ラブ姉が笑顔で告げる。


「いや、ラブ姉……俺達まだ、Bランクなんだけど?」


 ウミキタ王国を救った俺達は、報酬を受け取りに後日あらためてウミキタ王国に行く事になっていた。


 今日はその為に、みんなでギルドの前に集まったのだ。


 そんな俺達に話があると言われたのでギルドの中の、2階の個室に来たのだが……


 席に着くなり、ラブ姉が説明を始め、これまでの俺達の功績から、Sランクになってくれと言いだした。


「確かにリクトさん達は現在Bランクです。しかし、パーティメンバー全員の冒険力が10万を超えていて、オーガ軍団からこの国を救い、ウミキタ王国を救って同盟の手助けまでしたとあっては、Bランクで居てもらっては困るんです」


 うーん、全部巻き込まれただけなんだけどな。


 オーガ軍団の襲来についてはゲームのストーリー通りだし、ウミキタ王国に関してはヒゲのおっさんに連れられて、観光気分で行っただけだ。


「リクトさん達の冒険力と功績でBやAだと、じゃあどうすればSランクになれるんだ? BやAとはそこまですごいのか、という事になってしまいまして……Sランクに上がってもらわないとギルドとしても困るんですよ」


 なるほど、バランスの話か。


 確かに、自分の事だからちょっと恥ずかしいが、俺達はいまや2つの国を救った英雄だ。

 邪神はまだ倒していないが、それなりの成果はあげている。


 さらに俺のパーティは、勇者に、元ロイヤルナイツのリーダー、ウミキタ王国ではなぜか有名なリュウガの娘と、これまた英雄が揃っている。


 俺も一応、そのリュウガの弟子であり、一応パーティのリーダーだ。


「それに以前、パッショニアも救っていますよね? カマセーヌさんから感謝状も国宛に届いていますし、同盟の話もきています。これもリクトさん達のおかげなんですよ」


 そういえば、そんな事もあったな。

 護衛依頼だと思っていたら、カマセーヌさんが実は村の長で、邪神の使徒に乗っ取られかけていた所を救ったんだっけ?


「というわけで、リクトさん達トリプルテイルズは、今日からSランクとなります。よろしいですね?」


 トリプルテイルズとは、俺達のパーティ名だ。

 あんまり名乗る事がないので忘れがちだがな。


 ユミーリアの特徴的な3つのテール、そこからつけた名だ。


「ふむ、良いんじゃないかリクト。どうせBだろうがAだろうSだろうが、私達の扱いは変わらないと思うしな」


 エリシリアは賛成みたいだった。

 確かに、どうせ何ランクだろうが、国もギルドも、これからも俺達には無茶振りしてくる気がする。


 ぶっちゃけC以上は、有事の際はギルドや国に協力しましょうって規定になってるしな。


「そうです! Sランクになると、国の英雄扱いですからね。国の施設ならギルドカードを見せればどこでも無料で利用できますし、貴族と同じ扱いになったり、他の国でも一目置かれますし、色んな特典が盛りだくさんですよ!」


 そういえば、ゲームではランクが上がっても、受けられる依頼や購入できる装備のグレードが上がるくらいで、他にメリットって聞いた事がなかったな。


 というか、貴族とかそういう制度あったんだな、この世界。


 ……いや、この世界、色んなゲームが混じってきているみたいだから、すでにクエファンを基準に考えるのは良くないのかもしれない。


「あ、でもリクトさん、イノシカチョウのレア肉は変わらず納品してくださいね。今やめられてしまうと、暴動が起きるレベルで好評ですので」


 ラブ姉がニッコリ笑う。しかし言っている事はちょっと怖かった。暴動って……


「今日のウミキタ王国での祝勝会も、リクトさんが納品してくれたイノシカチョウのレア肉が出されます。それほど広がっているんですよ」


 なんと、そんな事になっているのか。

 恐るべし、イノシカチョウのレア肉。



 俺達はSランク昇格の手続きを終えた。


 ギルドカードを見ると、虹色でSランクと書かれていた。ちょっとカッコイイ。


「なんだか、すごい事になっちゃったね」


 ユミーリアが目をキラキラさせて自分のギルドカードを見ていた。


 ユミーリアは元々、勇者になる、Sランク冒険者になるという2つの目標を夢見てこの国に来たのだ。


 今は、その夢が叶った瞬間だ。


 ユミーリアは大事そうに、そっとギルドカードを胸に抱きしめた。


「良かったな、ユミーリア」

「うん……これも、リクトのおかげだね。ありがとう、リクト」


 ユミーリアが満面の笑みでこちらを見る。


 俺は……その笑顔に、心を奪われた。


 やっぱり女の子の笑顔は、最強だ。


「おにーちゃん! カードキラキラ!」

「うむ、冒険者というのも、良いものだな」


 コルットとエリシリアもうれしそうにしていた。



「おめでとう、リクト」


 そう言って手を出してきたのは、ユウだった。


「まさかこんなに早く追い抜かれるとは思わなかったぞ?」

「まったくよ! あんた達には驚いてばかりだわ」

「おめでとうございます、みなさん」


 ユウの仲間の戦士、魔法使い、僧侶も祝福してくれる。


「特にあんたは、レア肉ハンターとして生きていくと思っていたのにね」


 ニヤリと笑う魔法使い。


 ちなみにこの魔法使い、レア肉が大好物なのである。


「実は今日の祝勝会、俺がとってきたイノシカチョウのレア肉が出されるらしいんだが」

「マジ!?」


 予想通り、魔法使いが食いついてくる。


「活躍したのはユウだけだし、連れて行くのはユウだけでいいよな?」

「え?」


 魔法使いの顔が、絶望に染まった。


「生意気な事を言って申し訳ありませんでした素晴らしき尻魔道士様あああ! 私もつれてってください!」


 魔法使いが全力で土下座した。


 みんなの視線が集まる。


 ええい、誰がそこまでしろと言った。


「冗談だよ! いいからやめろよそれ! ていうか頼むからやめてくれ!」


 俺の言葉に魔法使いが顔を上げる。


「いよっしゃあ!」


 そしてガッツポーズをした。


「ごめんなさい、リクトさん」

「すまん、マホはレア肉が絡むと人が変わってしまうんだ」


 僧侶と戦士が呆れながら、俺に謝ってきた。


 ユウはというと……まだ元気が無かった。

 先日のウミキタ王国の戦いからずっとそうだ。


 とはいえ、今の俺にはかける言葉が見つからない。


 正直、まさかここまで俺達と差がつくとは思っていなかった。


 俺達が強くなったというのもあるが、敵も本来のゲーム以上に強くなってきている。


 ぶっちゃけ、今の俺達なら、ゲーム通りの強さの邪神くらい、簡単に倒せるだろう。


 だが、オウガといいゼノスといい、あきらかに強すぎる。

 ゲームより、大きくパワーアップしていた。


 きっと邪神も、相当パワーアップしているのだろう。その理由がわからないのがまた厄介だ。


 そしてまだまだ未知数のアクデス帝国。


 今のままでは、ユウが戦いについてこれないのは明らかだった。


「なんとかしてやらないとな」


 俺はそっとつぶやいた。


 ユウは勇者だ。本来であれば、先頭に立ってストーリーをクリアしてもらわなければならない。

 それに何より、ユウはユミーリアの兄だ。


 それはつまり……俺にとっても、兄になる可能性があるわけで。


 俺はチラっとユミーリアを見る。


 金色に輝く3つのテール。

 3つの輝きがユミーリアをより美しく引き立て、超絶美しかった。



「おーいシリト、そろそろ行くぞ! さっさとあの変な扉を出してくれ!」


 俺を呼ぶのはヒゲのおっさんだ。


 あの時、俺の尻を生で撫でた事については、その後何も言ってこない。

 正直、俺も全力で忘れたい過去だ。このまま何も言ってこない事を祈ろう。


 ヒゲのおっさんは奥さんのギルド長と一緒に行くみたいだった。

 ギルド長であるアリアさんも、今日はおめかししている。


「まさか俺まで呼び出されるとはな。まったく」


 この国の軍団長である、ゴッフも来ていた。


 同盟国との祝勝会兼親睦会、という事でかり出されたみたいだ。ギルド長も同じ様な理由だろう。



 俺達はギルドの外に出る。


 俺達トリプルテイルズと、男勇者一行、ギルド長とヒゲのおっさんに、軍団長。

 思いっきり目立っていた。


「あの、あんまり俺の能力は知られたくないんだけど?」

「今さら何言ってやがる」


 オーガ軍団の侵攻と今回のウミキタ王国の事件で、俺のマイホームがどこにでもワープできるという事がバレてしまったのだ。


 緊急事態だったとは言え、出来れば隠しておきたかった。

 バレると色々頼まれそうで面倒だもんな。


「まったく、何がギルドにだけ移動出来るよ、嘘ばっかり」


 ギルドにしか移動できないと説明していおいた魔法使いは怒っていた。

 勢いでユウをウミキタ王国まで連れてってしまったからな。そりゃバレるか。


 ちなみに一番の懸念だった、どこにでも侵入できるという能力から俺が犯罪者扱いされる事については、ユミーリア達がマイホームに自由に出入り出来る事がわかって、それは無いと保証された。


 俺に対する信頼というより、勇者であるユミーリアや元ロイヤルナイツであるエリシリアに対する信頼だろうな、これは。


 でも勇者はどうなんだろう? ゲームでは民家に勝手に侵入して、引き出しや棚、ツボなんかをあさってアイテムを盗っていったけど……うん、深く考えるのはよそう。



「マイホーム!」


 俺の尻がピンク色に光り、尻の間からニュッと扉が出てくる。


「プフっ、いつ見ても酷い光景でござるな」


 ランラン丸が半笑いでつっこんでくる。


「うるせー」


 俺はマイホームの扉をあける。


 ちなみにマイホームに入る為、今ここにいるメンバーは、臨時パーティとしている。

 俺がそう認識するだけで良いみたいだ。厳格なルールは無い。


 まあ、元々俺のパーティ以外が入れないって、防犯上のルールみたいなもんだしな。俺が良いならそれで良いんだろう。そのくらい軽い方が色々助かるしな。


 俺達は中に入って、扉を閉める。


 俺はマイホームの扉の地図を操作して、出口をウミキタ王国に設定する。


 初めてマイホームに入った人達は驚いていた。


 初めてではない人達もまだまだ物珍しいのか、キョロキョロしている。


「って誰だお前は!?」


 そして、突然人の姿になって現れたランラン丸に驚くのも、恒例化してきた。


 ユミーリア達がランラン丸について説明している間に設定が終わり、扉をあける。


「ほら、いくぞみんな!」


 俺達はマイホームを出る。



 そこは、ウミキタ王国の城の前だった。


「本当にウミキタ王国なのか……信じられん」


 軍団長が目を丸くして、辺りを見ていた。


「どうだ軍団長、ウチのリクトはすごいだろう?」


 エリシリアがドヤ顔で軍団長に話しかけていた。ドヤ顔のエリシリア、可愛い。


 俺達を見つけた兵士がこちらにきて、そのまま城へと案内された。


 途中で男女にわかれて水着に着替える。

 この国ではこれが正装だからな。


 そして水着に着替えた俺達は合流する。


 相変わらず、ユミーリア達は美しかった。


 女性陣は上から薄いシャツを着ているがしょうがない。

 全身の日焼けを防止するという装備らしいからな、アレ。日焼けは女性にとって天敵だからな、うん。


 まあ俺も、ピンク色の絶壁のコートを着ているから、文句は言えまい。


「うわ、ヘンタイがいる!」


 海パンの上からピンク色のコートを着た俺の姿を見た、魔法使いの第一声がそれだった。


 ランラン丸が爆笑していたので、その場に捨てて置いていく事にした。


「うわーん! 笑って悪かったでござるー! 置いてかないで欲しいでござるよー!」


 俺はわんわんうるさいランラン丸を渋々拾い上げた。


 そしてそのまま、謁見の間へと案内された。



「よく来てくれた、この国を救った英雄達、そして我が親友よ」


 王様が玉座から話しかけてくる。

 相変わらず、王様もふんどし一丁だ。


「楽にしてくれ。頭を下げたいのはむしろこちらの方だからな」


 俺達は跪いていたが、スッと立ち上がる。


「久しぶりだな。いや、今は王様だったな、失礼した」


 軍団長が王様に話しかける。


「固い事を言うな。ゴッフもヒゲゴロウも、俺にとってはあの頃と変わらず親友よ! 今日は思う存分飲み食いして行ってくれ」


 王様は豪快に笑い飛ばした。


 そして俺の方を見る。


「さて、素晴らしき尻魔道士シリトよ」

「リクトです」


 どうしてこの世界のおっさん達は俺の名前を覚えてくれないのだろう。


「そうか、まあ気にするな。それでなシリト、お前さんには今回、国を救ってもらった。国の者達も頑張ってくれたが、一番の功労者はお前さんで間違いない。誰もがそれは認めている」


 名前はともかく、そう言われると悪い気はしなかった。


「そこでだ、先日言った通り、お前さんには褒美を与える! さて何が良いかと迷ったが、シリト、お前さん……メイドが欲しいとは思わねえか?」


 ……メイド?

 メイドって、あのメイドか?


「実はお前さんの活躍を見て、ぜひお前さんのメイドになりたいと言い出した者がいてな。そいつは家事全般は完璧にこなせるし、戦闘も何でも出来るスーパーメイドだ。どうだ? 欲しくないか?」


 スーパーメイドか。


 そう言われると思い出す。


 俺も男だ。当然、メイドさんにハマッた事はある。


 それはあるゲームの影響なのだが、一時期はそのゲームのメイドキャラにハマっていた。

 メイド喫茶にも行った事がある。懐かしいな。


 俺がひとり懐かしんでいると、王様は勝手に話を進めていた。


「そうか、欲しいか。そうだろうそうだろう。メイドは男の夢だからな。そういうわけでシリト、お前にこいつを与えよう!」


 俺はそこで意識を取り戻す。


 いつの間にかメイドさんがもらえる事になっていたみたいだ。


 メイドさんは良い。

 しかし、俺にはユミーリア達が居る。


 それに俺は、ゲームで理想のメイドを見ているのだ。悪いが他のメイドに心を許す気は無い。


 王様には悪いが断ろう。


 そんな風に思っていると、奥からひとりのメイドさんが出てきた。



 ヒゲのおっさんが、ギルド長が、軍団長が、そしてエリシリアが、その姿を見て驚いていた。


 他のメンバーは、みんながなぜ驚いているのかわからないといった感じだった。


 そして俺はというと……きっと、おっさん達とは別の意味で驚いていた。


「紹介しよう、我が国が誇るスーパーメイド、マキだ」



 マキ。


 そう、マキだった。


 確か魔族の姫だから、魔姫……マキにしたんだよな。

 本名はリリリフレート・アンドゥーナ・リリライ、だっけ?


 紫とピンクのグラデーションが綺麗な髪に、ロングスカートのメイド服。

 凛としたその姿は、まさに俺の理想のスーパーメイドだ。


「初めまして、リクト様」


 鈴を鳴らしたような綺麗な声だった。



 そこに現れたのは、ゲーム《プリンセスメイド》のヒロイン、マキだった。


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