第35話 重力修行でパワーアップ

 マイルームに地下ができた。

 そこにはなんと、重力発生装置つきの修行場があった。


 何倍もの重力の中で修行する事により、一気にパワーアップできると興奮した俺は、早速重力発生装置のスイッチを押した。


「スイッチ、オーんぶべっ!」


 スイッチを押した瞬間、俺は地面に押し付けられた。


 最初は2倍に設定されていた。つまり今この空間は、外と比べて2倍の重力になったのだ。


 たがか2倍とあなどっていた。


 俺はわかっていたはずなのに、急激な重力の変化に耐え切れず、地面にはいつくばっていた。


「り、リクト殿! いったい何をしたでござる!?」


 ランラン丸達は普通に立っていた。


 いや、どことなく苦しそうに見える。


「なんだか急に、身体が重くなったんだけど」

「おにーちゃん、どういう事なの?」


 俺は地面に寝転がったまま、みんなの疑問に答える事にした。


「ここは修行ができる場所でな。この機械を使うと、この空間の重力が何倍にもなるんだ。今は最初だから、2倍にしてみたんだけど、どうかな?」


 俺の言葉を聞いて、3人がそれぞれ理解をしめす。


「重力? 2倍? えっと、つまり、身体の重さが2倍になってるって事?」


 ユミーリアには、なんとなく伝わった様だ。


「以前、お父さんにやらされた、重りをつける修行みたいなものかな」


 おお、さすがケモ耳格闘家、やっぱりそういう修行もしてたのか。コルットはしっかりと理解していた。


「なるほど、これは確かに良い修行になるでござるな。しかし、相変わらずリクト殿のオシリルームはすごいでござるな」


 ランラン丸は……ちょっと待て、なんだオシリルームって。


「勝手な名前をつけるんじゃない! まったく」



 このまま寝転んだままなのもアレなので、俺はなんとか立ち上がろうとする。


「うおおおお! くっ! お、俺には立ち上がるだけで、精一杯だ」


 正直立っているだけで動けそうに無い。


「ど、どうだろう二人とも、ここで修行すれば、きっと強くなれるぞ?」


 ユミーリアとコルットが、お互い顔を見合わせる。


「確かに、ここで身体を鍛えなおすのもいいかもしれないね」

「はい! ユミーリアさん、この重さに慣れたら組み手とかしてみましょう!」


 女の子二人が、汗をかきながら盛り上がっている。


 なんか良いな、こういうの。


「リクト殿はどうするでござる?」


 ランラン丸の言葉を聞いて、ユミーリア達もこちらを見てくる。


「俺はひとまず、ギルドに行って、イノシカチョウを倒してくるよ。今の内に、しっかり稼いでおかないとな」


 何せ俺は、一家の稼ぎ頭だからな。

 今後の装備の事もあるし、あとできれば、自分の家が欲しい。


「じゃあ、私も……」

「いや、ユミーリア達はここで修行しててくれ。俺もイノシカチョウをある程度倒したら、戻って一緒に修行するからさ」


 俺は一度、重力装置を切って、使い方をユミーリア達に説明した。



「とりあえず一週間、俺は午前中はイノシカチョウのレア肉を取りに行って、午後はみんなで修行するって感じにしたいんだけど、どうだろう?」


 超重力の中で一週間も修行すれば、多少成果は出るはずだ。

 まずはどれくらいの成果が出るか、様子を見たい。


「一週間経ったら、どれくらい強くなったか、ゴブリン退治に行こうと思う」


 そこであまり成果が出ない様だったら、ゴブリン狩りに切りかえても良いだろう。


「わかった、私、がんばるよ!」

「うん! わたし、もっと強くなるね!」


 二人は気合い十分だった。


「よし! それじゃあ俺はひと稼ぎしてくるぜ!」


「ごめんね、リクトだけに任せちゃって」


 出かけようとした俺に、ユミーリアが声をかけてきた。


「気にするな、俺達は、パーティなんだからさ」


 俺はそう言って部屋を出る。



 うん、我ながら決まったんじゃないかな、今のは。



 俺はこうらの鎧を装備して、ランラン丸と一緒に、マイルームを出た。


「しかしさすがだなランラン丸。2倍の重力程度なら、何ともないって感じだったじゃないか」


 俺は刀に戻ったランラン丸に話しかける。


「ふむ、最初は突然の事でビックリしたでござるが、あの程度なら問題なく動けるでござるよ。それにしてもあの修行場は確かに良いものでござる。アレならみんなで強くなれるでござるよ」


 ランラン丸のお墨付きをもらった。


 ランラン丸の過去はいまだに謎だが、ランラン丸が強い事は確かだ。

 そのランラン丸が言うんだから、期待はできるだろう。




 ギルドに来た俺を、ラブ姉のスマイルが迎えてくれる。


「おはようございます、リクトさん。今日はおひとりですか?」


 おひとりです。ってそうか、パーティを組んでからは、ユミーリアとコルットと一緒だったからな。


「二人は修行しているんだ。俺も午後からは一緒に修行するんだけど、俺だけでも稼がないとなーって思って」

「あー」


 俺の言葉を聞いて、ラブ姉が若干困った顔をする。


「何かあった?」


「それがですねえ」


 ラブ姉が一瞬言いよどむ。


「ハッキリ聞いちゃいますけど、リクトさんって、イノシカチョウを倒せば倒しただけ、レア肉をドロップできてます?」


 俺にはチート能力、レア肉ドロップ確定がある。

 これのおかげで、肉系をドロップするモンスターを倒した際、必ずレアドロップになるのだ。


「まあ、そんな様なもんです」

「そうですか」


 ラブ姉が俺の言葉を聞いて、考える。


「リクトさん、ひとつお話があります。イノシカチョウのレア肉に関してですが、今後は1日3つまでの納品としてほしいんです」


 ラブ姉の突然の提案に、俺は疑問を隠せなかった。


「えっと、それはどうして?」


「市場価値の問題なんですよ。この勢いでイノシカチョウのレア肉が出回ってしまうと、価値が下がってしまうんです。ですからリクトさんには、納品は1日3つまででお願いしたいんですよ」


 なるほど、元々滅多に出ないものらしいもんな、イノシカチョウのレア肉。

 それが毎日バンバン入荷されるとなれば、そりゃ価値も下がるか。


「もちろん、ただそれだけではリクトさんに申し訳ないので、リクトさんと専用契約を結びたいと思うんです」

「専用契約、ですか?」


 これまた何やら大きな話になってきた気がする。


「はい、リクトさんには毎日イノシカチョウのレア肉を3つ、納品して頂きます。かわりに本来1つ10,000P(ピール)の所を、3つを魔石も含めて50,000Pで買い取らせて頂きます」


 ほう、20,000Pも上乗せされるわけか。確かにこれはおいしいかも。


「こちらとしても、毎日定期的に供給されると助かるんですよ。聞いた所によるとリクトさんは、お肉を冷やして保管する方法を持っていて、どこにいてもギルドに一瞬で戻ってこれる能力をお持ちだとか」


 おいおい、どこでそんなに情報が漏れてるんだよ。誰だよ漏らしたのは。


「どうでしょう? よっぽど無理な日は結構ですので、毎日イノシカチョウのレア肉を3つ、納品して頂くという専用契約を、ギルドとして結びたいのですが、いかがでしょうか?」


 俺はその提案を聞いて、考える。


 ラブ姉の言う通り、俺はマイルームの冷凍庫で、ある程度肉を保管しておけるし、マイルームの機能を使えば、どこに居てもギルドにすぐに戻ってこれる。


 俺も結構レベルが上がってるし、イノシカチョウ3匹くらいなら苦でもない。


 ギルドの依頼を受けたり遠出する時は、前もって多めに倒しておけば良いし、事情がある時は納品しなくても大丈夫だと言ってくれている。


 かなり俺にとってありがたい提案だが、まあそれだけイノシカチョウのレア肉に需要があるという事だろう。


「わかりました、受けます」

「ありがとうございます! 助かりますよリクトさん! 受けてくれなかったらどうしようかと思ってました」


 そんなにだったのか。

 まあでも、現状、俺以外にイノシカチョウのレア肉を簡単に取ってこれるヤツなんていないだろうしな。


「それじゃあ早速、イノシカチョウを倒してきます」

「はい! 期待してます。気をつけて行ってきて下さいね」


 俺は今日も元気にゆれるラブ姉の幸せの塊を見届けて、ギルドを出た。



「さて、それじゃあマイルームで、ささっとイノシカチョウの生息地まで行くか」


 MPは十分あるしな。もはや気にする事もあるまい。


「いやあ、ほんとリクト殿のお尻魔法は反則ばっかりでござるなー」


 まあ、神様からもらったチート能力だからな。



 しかし、俺がもらった能力は、どれも戦闘には使えないものばかりだ。


 今後本格的に戦闘に参加していくとなると、俺自身の力を鍛えるしかない。


 さいわいな事に、重力装置と修行場を手に入れた。

 これでめいいっぱい、修行するしかないだろう。


「しかし、重力修行か、フフフ……まさに男のロマンだな、燃えてくるぜ!」

「以前の素振りの時みたいに、すぐに飽きたりしないといいでござるがなー」


 ランラン丸がうるさかった。



 俺はイノシカチョウをサクッと5匹倒して、レア肉をゲットした。


「なんかアレだな、ランラン丸と融合したおかげか、なんとなく剣というものがわかった気がする」


 俺はランラン丸を、天にかかげた。


「まあ、だいぶマシにはなったでござるが、それでもにわか仕込みには違いないんでござるから、油断はダメでござるよー」

「はいはい」


 俺はランラン丸の言葉を聞き流して、ギルドに戻った。



 ギルドに戻り、イノシカチョウのレア肉を3つ、納品する。残り2つは自分達用だ。


 50,000Pの内、40,000Pをパーティ資金にして、俺は10,000Pを受け取った。


 俺の所持金は前回死にまくったから0になっていたので、10,000Pになった。

 パーティ資金は50,100Pだ。


 なんだかすごい事になってきた気がしたぞ。

 1日50,000Pって、よく考えたらすごくね?


 これは、自分の家が現実的になってきたかもしれない。

 今度相場を調べてみよう。


 そんな風に考えていると、ヒゲのおっさんが俺を呼んでいた。


「おうシリト、少し話があるんだ、ちょっときてくれ」


 今の俺は強くなり、資金も大きく増えたのでとても充実していた。


 だからおっさんがいまだに俺の名前を間違える事にも、寛大な心でスルーする事にした。



 俺とおっさんは2階の会議室に向かった。


「それでおっさん、今日は何の用だ?」


「ああ、昨日は大変だったぜ? インテリな俺と違って、アリアは脳筋だからな、お前さんとライシュバルトの情報を聞いて、まいっちまってたぜ」


 おっさんがインテリとかは、もはや突っ込む気すらしないが、まあ確かにギルドとしていきなり出てきた問題で頭も痛くなるわな。


「そういえばあの男はどうなったんだ?」

「ライシュバルトか? あいつは今、ギルドで保護している」


 そうりゃそうか、あれだけの情報を持っているんだ、下手すれば殺されてもおかしくない。


「でも、あいつ仮にもAランク冒険者なんだろ? そう簡単に消されたりはしないと思うんだけど」


 俺の言葉を聞いて、おっさんの表情が曇る。


「それがな、そうでもないみたいなんだ。あいつの話では、邪神の使徒の中に、Aランク相当の実力者が、何人もいるらしい」


 マジか。

 でもまあ、よく考えてみたら、邪神の使徒の幹部って、普通に後半のダンジョンで雑魚キャラとして大量に出てきたしな。


「それにだ、こいつが一番、アリアがショックを受けた情報なんだが……」

「な、なんだよ?」


 おっさんがもったいぶる。さっさと言ってほしい。


「どうやら、邪神の使徒の中に、Sランク冒険者相当の実力を持つやつらが、4人は居るそうだ」

「は?」


 オイオイ、Sランクって言えば、勇者の最終的なランクだぞ? なんだよそれ。

 というかだ、設定はあったが、ゲーム内では出てこなかったぞ、Sランク冒険者なんて。


 Sランク、というからには相当強いんだろう。


「SランクとAランクの差はでかい。それこそAランクが何人束になってかかっても、Sランクひとりには勝てないだろう」


 なんてこった、そこまで差があるのかよ。


「今はその邪神なんてやつにご執心の様だが、もしそいつらが街の制圧に動き出せば、あっという間にやられちまうだろう。Sランクってのはどいつもこいつも、バケモノみたいなやつらばかりだからな」


 Sランク……ゲーム上では出てこなかった敵か。


「ちなみに、おっさんのランクは?」

「俺は万年Cランクさ」


 意外と普通だった。



 俺はおっさんに気をつける様に言われた後、マイルームを呼び出して、中に入った。


「ふう……」


 こうらの鎧を脱いで、そのままソファに座る。


「どうしたでござる? リクト殿、さっきまであんなに浮かれていたのに」


 人間の姿になったランラン丸が、ソファに寄ってくる。


「いや、また俺の知らない敵が現れたなーと思ってさ」


 Sランク冒険者。

 ゲーム上の設定でしかなかったランクだ。


 ゲームでは勇者が最終的にSランクになるが、Sランク冒険者なんてのは出てこなかった。


 どれほどの強さなのか。Aランクが束になっても勝てない、か。


 味方ならいいが、相手は邪神の使徒だ。間違いなく敵だろう。


「強くなるしか、ないか」


 おそらくその為の、重力発生装置と修行場なのだろう。


「よし、やるぞランラン丸! こうなったら邪神なんて軽く倒せるくらい、強くなろう!」


「おお、いい感じでござるよリクト殿!」


 俺は気合いを入れなおし、地下の修行場に向かった。


「あ、リクト殿、こうらの鎧をもう一度着るでござるよ」


 地下へ向かう途中、ランラン丸に止められた。


「なんでだ?」

「戦う時は、その鎧を着て戦うのでござろう? ならば修行中も身につけていなければ意味がないでござる」


 ああなるほど、まあ、重い服を着て修行する様なものか。

 こうらを背負うのではなく、鎧として着る、か。それもいいだろう。



 俺は地下へ降りて、修行場に入った。


「ごふぉっ!?」


 入った途端、俺は地面に熱いキスをした。


「あ! リクト!」

「おにーちゃん、お帰りなさい!」


 二人が駆け寄ってくる。


「ぐおお! な、なんだ? 全然動かないぞ!」


 俺は力を入れるが、さっぱり身体が起き上がらなかった。


「ご、ごめん! 今重力、5倍にしてるからかも!」


 なんと、もう5倍の重力までいっていたのか。さすがは勇者とケモ耳格闘家。成長スピードがすごいな。


 だが、今の俺にはありがたい。

 俺達はこれから、未知の強さの敵である、Sランクを相手にしなければいけないかもしれないのだ。


 俺も、5倍程度でへばっている場合じゃない!


「ふふふ、見てろよ、強くなってみせるからな!」


 俺はそうつぶやくが、5倍の重力の前に、身体はまったく持ち上がらなかった。




 そして、それから一週間が経った。

 午前中はイノシカチョウ狩り、午後は重力室で修行という日々を繰り返した。


 その結果。

 俺の所持金は70,000Pになり、パーティ資金は290,100Pになった。


 すさまじいインフレだ。

 だが、インフレしたのは所持金だけではなかった。



《リクト レベル18 冒険力:3,800》

《ユミーリア レベル28 冒険力:29,500》

《コルット レベル25 冒険力:21,220》



 一週間でこれである。

 ちなみにユミーリア達は今や10倍の重力で修行をしている。


 俺? 俺はまだ5倍でヒーヒー言ってるよ。


 しかし、これは俺達、強くなりすぎたかもしれない。少なくともDランク冒険者の冒険力ではない。



 今日は俺達は、これまでの修行の成果を試すべく、ゴブリン退治に森へ向かう。


 しかし、もはやゴブリンなど、敵ではないだろう。


「クックック」

「リクトー、顔が怖いよ?」


 俺自身は毎日イノシカチョウ狩りで強さを実感していたが、ユミーリア達の強さを見るのが楽しみだった。



 俺達はギルドに顔を出し、今日はゴブリン退治に森へ向かう事をラブ姉に告げた。


 そして、マイルームでゴブリンの生息する森へ行く。


「さあ! 大虐殺の始まりだ!」

「おにーちゃん、顔が怖いよ?」




 俺達の無双伝説が、始まろうとしていた。



◇ステータス◇


リクト レベル18 冒険力:3,800

ユミーリア レベル28 冒険力:29,500

コルット レベル25 冒険力:21,220


リクト所持金:70,000P

パーティ資金:290,100P

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