第128話 悪魔と邪神の塔
「は、初めましてお父様、お母様! え、エリシリアと申します!」
エリシリアが声をあげてビシッと立つ。
気がつけば、ウチの親へのあいさつ会が開かれていた。
今はエリシリアの番だ。
俺はそれを、ソファに座ってながめていた。
「なあランラン丸、どうしてこうなった?」
ランラン丸以外はみんな親父と母さんの周りに並んで立っていた。
俺とランラン丸はかやの外だ。
「良いではござらんか。みんなリクト殿の親御さんには会えないと残念がっていたのでござる。それがこうして叶ったのでござるから、リクト殿は黙って見守るでござるよ」
ユミーリアは相変わらずガチガチに緊張して何を言ってもカミカミだ。
エリシリアもあの通り、緊張している。
コルットが自己紹介の時、「わしじゃよ」と言い出した時はどうしようかと思ったが、ウチの親は二人とも笑っていた。
それを見て、コルットも笑って、元気よく改めて自己紹介していた。
プリムは丁寧に、スカートを広げておじぎしていた。
慣れたもんかと思っていたが、意外と指先が震えていた。それなりに緊張はしている様だ。
マキも冷静、と思いきや、お茶を片付ける時に一度転んだ。
アレで意外と動揺していたのかもしれない。
アーナは逆に、いつもと違ってマジメに丁寧にあいさつしていた。いつもそれぐらいおしとやかなら良いのに。
そういえばあいつ、エルフとドワーフの混血だから、もしかして俺達の中で最年長なのか?
年齢を聞いてみたいが、ごまかされるか女性に年齢を聞くなと怒られるかどっちかだろうな。
「なんかアレだな、自分の親にあいさつされてるのって、こう、落ち着かないな」
「みんなはそんなレベルじゃないでござるよ。リクト殿の親に気に入られなかったらどうしよう、しかも相手は別の世界の人でござるから、何が失敗に繋がるかわからないでござるからな」
別に、俺の両親に気に入られなくてもいいと思うんだけどな。
でもまあ、俺もみんなの親御さんに会った時は緊張……したっけ?
ユミーリアのじいさんは豪快なじいさんだったから緊張とかなかった。
エリシリアの親はこの国の王様だったと判明した時にはすでに何度か話をしていたから、緊張とかなかった。
プリムの親はアレだったから別の意味で緊張したか。主に尻が。
マキの親であるウミキタ王国の王様も緊張とかそういう感じじゃなかったな。
コルットの親は、俺の師匠だしな。むしろ奥義伝授が大変だった。
アーナはそもそも親を知らない。
そう考えると、相手の親に普通にあいさつしに行くってシチュエーションはあまりなかった気がする。
「それにしても、相手の親の前で緊張する乙女って良いもんでござるなー」
ランラン丸がみんなをニヤニヤ見つめながら、俺の隣でゴロゴロしている。
だが、その言葉には同意できた。
「確かに、みんなちょっと可愛いな」
「ふっふっふ、リクト殿も好きでござるなー」
俺達は二人で怪しい笑みを浮かべてみんなを見ていた。
「ねえユミーリアちゃん、ランラン丸ちゃんだっけ? あの子はウチの子と特に仲がいいわねー」
「あはは、そうなんですよね。ほんと……ちょっぴりうらやましいくらいです」
「……」
母さんがこちらにやってきた。
そして、俺の頭を叩いた。
「いたっ! 何するんだよ?」
「あんたね、お嫁さんをたくさん貰うんだったら、ちゃんとみんなさびしがらせない様にしなさい!」
なんだよいきなり。
別に誰もさびしくなんてさせてないぞ?
「お、お母様、別に私は」
「いいのいいの。全部この子が悪いんだから」
ユミーリアが母さんを止めようとするが、聞く気は無いみたいだった。
「まったくこの子は、いつもいつも」
「おにーちゃんのおかーさん」
またいつもの小言が始まったと思ったが、そんな母さんの服をコルットが引っ張った。
「あら、どうしたのコルットちゃん」
「はいこれ、おしりまんじゅう!」
コルットが尻まんじゅうを差し出した。
「あら、ありがとう……おいしいわね、これ」
「ほう? どれどれ」
親父も尻まんじゅうを食べた。
「ほんとだ、名前はアレだがうまいな」
「えへへー」
コルットがニッコリと笑う。
そんなコルットの笑顔を見て、母さんも親父も笑顔になった。
さすがコルットだ。小言モードの母さんを笑顔にしてしまうとは、最高だな。
「ありがとうねー、コルットちゃん」
母さんがコルットの頭を撫でて、コルットがくすぐったそうに身をよじらせていた。
「なんだか小さい頃のリクトを思い出すわ」
いや、俺そんなに可愛くなかったぞ。多分。
「小さい頃といえば、リクトは小さい頃からユミーリアと結婚するなんて言ってたけど、本当にユミーリアちゃんと結婚する事になるとは思わなかったわね」
「え?」
「え?」
母さんの言葉に、みんながフリーズした。
「この子ったら、ゲームでユミーリアちゃんを見てから、ユミーリアと結婚する! ってずっと言ってたのよ。それで私もユミーリアちゃんの事は覚えてたわけ」
「そ、そうなんだ」
ユミーリアがチラチラこちらを見てくる。
頼む母さん、もう黙っててくれ。
俺は心の中で涙を流す。小さい頃の話とかマジかんべんして欲しい。
そんな俺を救ったのは、親父だった。
「そういえばリクト、お前これからどうするんだ? クエファンの世界がベースになってるって事は、ラスボスは邪神なんだろう? もう倒したのか?」
親父もクエファンのストーリーは把握している。
この世界がクエファンをベースに作られていると話はしておいたから、今どうなっているのか、邪神は倒したのか、気になったのだろう。
「冒険者のランクはSになってるけど、邪神はまだだな」
「なんで先にSランクになってるんだよ?」
本来の順番は、邪神を倒した後、Sランクになってエンディング、だからな。
完全に順序が逆になっている。
「魔王を倒したりとか帝国と戦ったりとか色々あったんだよ」
「ああ、色んなゲームのボスが現れて大変だったんだっけ? つまりだ、邪神はまだ倒してないのか」
親父がうなりだす。
「邪神が居る場所はわかっているんだから、さっさと乗り込めばいいんじゃないか?」
「いや、一応色々と考えがあるんだよ」
そう、邪神がこの街の霊聖樹(れいせいじゅ)の下に封印されている事はわかっている。
だが、邪神と戦うにはまだ準備が出来ていない。
一番はユミーリアの兄であり、勇者でもあるユウの準備だ。
ユウもゲームの勇者より強くはなっているが、おそらく邪神はそれ以上に強くなっている気がする。
今ユウは、勇者の装備を集めたり修行をしたり、レベルアップしているはずだ。もっと強くなってもらわないとな。
多分これが最後の戦いになるだろう。出来れば慎重にいきたい。
それに……
「ほら、ゲーム本編だと、勝手に邪神の封印が解けただろう? だから俺、邪神の封印の解き方なんて知らないし、封印されてる状態で倒せるもんなのか?」
「うーん、クエファンについてはお前の方が詳しいからな。父さんにはわからん」
いやまあ、詳しくてもゲーム内で語られてない事はわからないんだけどな。
結局は、邪神が復活するまで修行して強くなっておくしかないのだ。
「それより親父達の方はどうするんだ? 確か未来の世界で邪神が復活してて、倒す為にはこの時代の勇者の力と装備が必要なんだろう?」
むしろこっちの世界でこんなにダラダラしていていいのだろうか?
「ん? ああそれか、それなんだけどな。ヘタにゲームをクリアしてしまったらお前に会えなくなるかもしれないからな。攻略は無しだ。放っておこうと思う」
うわぁ、世界を救う事を放棄したよこの勇者。未来の世界涙目じゃん。
とはいえ向こうはゲームの世界だから、いいのか?
俺達の世界に影響は無いんだろうか? 無いなら別に放っておいてもいいんだが。
そんな風に考えていると、マイホームのチャイムが鳴った。
「なんだ、客か?」
俺はマイホームの扉を開ける。
そこには、息を乱したラブ姉が居た。
「り、リクトさん! 大変なんです! すぐに来てください!」
俺はラブ姉に手を引っ張られて外に出る。
みんなも何事かとついてきた。
「ラブ姉、いったいどうしたんだよ?」
「大変な事が起きたんです! 詳しくはギルドで説明しますので、ついてきてください」
どうやら思ったより緊急事態みたいだ。
俺はエリシリアに目で合図を送る。
エリシリアが俺の意図を理解してくれたみたいで、ラブ姉を抱きかかえた。
「ひゃっ!」
「すまないラブルン、私が抱きかかえて走った方が速そうだ。いくぞリクト!」
「おう!」
俺達は急いでギルドへ走る。
「コルット、アーナ! 親父と母さんを頼む、後でゆっくりきてくれ!」
「わかった!」
コルットとアーナが手をあげる。
俺とユミーリア、プリムとマキ、そしてラブ姉を抱えたエリシリアは、ギルドへと急いだ。
ギルドについてから、ラブ姉を降ろして2階へとあがる。
2階の会議室には、ギルド長とヒゲのおっさん、そしてユウ達が待っていた。
「きたか、シリト」
「おっさん、いったい何があったんだよ?」
ラブ姉の様子から、尋常じゃない何かが起きたのは確かだ。
「詳しい事はまだわかっていない。だが、この世界に異変が起きた」
「こっからはよく見えねえが、世界に4つの大きな塔が現れた。それも急に、突然にだ」
ギルド長とおっさんが説明してくれる。
4つの塔? なんだそれは。
「場所はウミキタ王国の北の島、デンガーナの西の海、パッショニアの近くにある火山、そして帝国の南の砦の近くにそれぞれ1つずつだ。今、各国が調査に当たっているが、まだ何もわかっていねえ」
大陸の4角に現れた、4つの塔、か。
ん? なんとなくその場所に覚えがある様な……。
「シリト、何か知ってるか?」
「……いや、見た事も聞いた事もないな」
俺だけでなく、みんなも心当たりが無い様だった。
そこに遅れて親父達がやってきた。
「ここがギルドか、いやぁすげえリアルだな」
お気楽な親父だったが、俺達の表情を見て状況を察した。
「どうした、何があった?」
俺は親父に、この世界に突然4つの塔が現れた事を話した。
「なんだと? リクト、その塔がどんな塔なのか、わかるか?」
「いや、まだ見てないんでなんとも」
どうやら親父には何か心当たりがあるみたいだった。
「見に行ってみるか」
「俺達も一緒に行こう、シリト、つれていってくれ」
どうやらヒゲのおっさんとギルド長、そしてユウ達もついてくるみたいだ。
俺達は外に出て、街を出る。
「マイホームで移動するんじゃねえのか?」
後ろをついてくるヒゲのおっさんが声をかけてくる。
「それよりもいい方法があるんだよ」
俺は街を出て広めの場所で、みんなから離れて叫んだ。
「こい! ピーチケッツ号!」
俺の尻が光り、プリッと可愛い音がして、尻から俺達の船、ピーチケッツ号が出てきた。
「え、何アレ? 俺の息子、どうなってんの?」
「なんかきたないわ」
親父と母さんの評価は最低だった。
まあそうだよな、うん。
「いいから乗ってくれ。これ、空飛ぶから」
親父と母さんが嫌そうにピーチケッツ号に乗った。
「よしプリム、前回と同じく艦長はお前だ、号令を頼む」
俺にそう言われて、プリムの表情が変わる。
「わかりましたわお兄様! お任せ下さい! アーナさん、準備はよろしいですか?」
「うむ、いつでもいけるぞ!」
このピーチケッツ号の燃料はアーナの魔力だ。
艦長プリムはアーナの状況を確認すると、キリッと前を向いて、右手を前に出す。
「では、真・ピーチケッツ号、発進!」
あ、ちゃんと真になった事、覚えていたのか、さすがはプリム。
プリムの号令と共に、真・ピーチケッツ号が浮き上がり、前進する。
「おお! こりゃ飛空挺(ひくうてい)か? すごいなリクト!」
親父が興奮していた。
後ろではプリムが普段は見せない様なドヤ顔をしている。
歳相応の可愛らしさだった。やっぱりプリムに艦長を任せて正解だったな。これからも艦長はプリムで良いだろう。
「お兄様、まずはどこから行きますか?」
「とりあえず、パッショニアの近くの火山に行ってみよう」
ピーチケッツ号は空を駆け、帝国の南に向かう。
するとだんだん、目的の塔が見えてくる。
塔は炎で燃え盛っていた。
近づくだけで熱さを感じる。
「カイテキス!」
マキが魔法を唱える。
俺達の周りに魔法のまくが出来て、周囲の温度が適温になる。
「アレが突然現れた塔か。親父、何かわかったか?」
俺は親父を見る。
「ああ、間違いねえ。アレは邪神の塔のひとつ、炎の塔だ」
邪神の塔、だと?
「邪神が復活した後、世界に4つの塔が現れた。邪神の力を増幅するものらしい。塔にはそれぞれ強力なモンスターが居るっていうんで、俺達はこの過去の世界に力を求めてやってきた。ってわけさ」
なるほど、親父の言う事が確かなら、この塔は本来、未来に現れる塔なのか。
ならなぜこの世界に現れたんだ?
ん? 待てよ? 炎の塔?
炎の塔が火山に?
もしかして……
「親父、他の塔って、氷の塔と海の塔と風の塔、だったりするか?」
「そうだ、なんだ知ってたのか?」
やっぱりか。
塔が現れた場所、そこは勇者の装備があった場所だ。
火山には炎の塔、氷の大陸には氷の塔、海底には海の塔、そして空の島、があった辺りに風の塔があるのだろう。
いったい何が起こってるんだ? どうしていきなり、未来にあるはずの塔が現れたんだ?
「リクト、この人達はいったい誰なんだい?」
ユウが俺の親父と母さんを見て聞いてくる。
「ああ、俺の親父と母さんだ」
「え?」
ユウだけでなく、周りのみんなも驚いていた。
「若い!」
そこかよ! 確かに見た目は16、7歳のキャラクターだもんな。
現実では完全におっさんとおばさんなんだがな……ってそこ! 親父も母さんも、調子にのってポーズをとるんじゃない! まったく。
「ジャーハッハッハ!」
俺が親父と母さんにあきれていると、空から汚い笑い声が聞こえた。
「なんだ?」
俺達は声がした方を見る。
そこには、全身真っ黒な、黒い羽を生やしたモンスターが居た。
「モンスターか!」
エリシリアが光のムチを出す。
「ジャッハッハ! モンスターじゃねえよ! 俺様は邪神様の忠実なしもべ、悪魔だ!」
「あくま、だと?」
悪魔。
モンスターとは別の存在なのか?
クエファンでは悪魔なんてのは出てこなかった。
他のみんなが出てきたゲームでも、悪魔が出てきた事は無いはずだ。
親父を見ると、緊張した表情で、汗をかいていた。
邪神の塔に悪魔。
新たなる危機が、この世界にせまっていた。
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