第127話 VRゲームをしていたらゲームの世界に転生させられた息子と再会した件

 久しぶりの再会がゲームの中だったとか、知り合いと同じゲームをしていてゲーム内で会うとか、オンラインゲームが発達してきた現代では稀によくある事なのかもしれない。


 だがまさか、転生先のゲームの世界で、親父と会う事になるとは思わなかった。


 俺の目の前に居る冒険者。


 見た目こそ普通の冒険者だが、中身は俺の親父で間違いない。


「わけがわからねえ。お前は本当にリクトなのか?」

「ああそうだ」


 親父がこちらを見定める様な目で見てくる。


「お前のフルネームは?」

「天崎 陸人(あまさき りくと)」


「俺の本名は?」

「天崎 勇二(あまさき ゆうじ)」


「……母さんの名前は?」

「天崎 景子(あまさき けいこ)、旧姓は姫宮」


「……」


 親父が頭を抱えた。


「お前がリクトなのは間違いないみたいだが、どうなってるんだ? オンライン、なわけないよな。ウチのゲーム機はネットに繋がってないし、どうなってるんだ?」


 親父が何かつぶやいた後、スッと姿を消した。


 なんだ? 突然目の前に居た親父が消えた。


 驚いていると、再び目の前に親父が現れ、また消えて、また現れるというのを何度か繰り返した。


「何をやってるんだ親父?」


「いや、間違いなくネットには繋がってないよなって、確認をだな」


 ゲーム機、ネット……これはつまりあれか? 親父は今、ゲームをしているという事か?


「いったいこれはどういう事なんだ? リクト、お前は何か知ってるのか?」


 親父が改めて俺を見て、話しかけてくる。


「いや、なんで親父がこの世界に居るのかはわからない」


「この世界? どういう事だ? お前もゲームをしてるんじゃないのか?」


 やっぱりか。

 親父は今ゲームをしていて、目の前に居る俺の事は、オンラインで繋がった俺のキャラクターだと思っているんだろう。


「このゲーム、オンラインゲームじゃなかったはずなんだが、隠し要素でオンラインになるとか、そういう事か? だがウチのゲーム機、ネットに接続なんかしてないぞ?」


 なんとなく親父の状況が見えてきた。あとは確認だな。


「親父、もしかして親父は今、ゲームをしているのか?」

「ん? ああそうだ」


 相変わらず消えたり出てきたりを繰り返す親父が俺を見る。


「何のゲームをしているんだ?」

「何のって、クエファンVRだ、お前もそうなんだろう?」


 く、クエファンVRだと?


 クエファンには続編は出ていなかったはずだが、まさか続編が出たというのか?


「親父、それはあれだよな? クエストオブファンタジーのVRって事だよな?」


「そうだ。ずっとリメイクしか出ていなかったクエファンの新作が、ついにVR対応になって出たんだ」


 何それスゲーやりたい。


「親父! そのゲームについて詳しく教えてくれ!」


「お、教えるって、お前も同じゲームをしてるんじゃないのかよ?」

「いいから! ほら!」


 俺は親父からクエファンVRの事について聞いた。


 クエストオブファンタジーVR。


 どうやら秘密裏に開発されていたらしく、突然の発表、そして突然の発売となったゲームらしい。


 俺と同じくクエファンが好きだった親父はVR機器をセットで同時購入したんだとか。


 さっき親父が消えたのは、VRのヘッドセットを外したかららしい。


 ヘッドセットを外すと親父の姿が消えて、つけるとまた現れる。なんともおかしな光景だった。



 ゲームの舞台はクエファンの数百年後。


 復活した邪神を倒すべく、勇者に選ばれしプレイヤーが旅立つという話だそうだ。


 旅を続ける中、邪神を倒す為に過去の勇者の力と装備が必要になるらしい。


 そこで過去のクエファンの世界、つまり俺が今居るこの時代に飛んでくる、というストーリー展開で、親父は今ここに居る。


 クエファンの世界がVRで再現されてるって、すごいな。なんというファンサービス。俺もやりたい。


 まあ、俺は実際にこの世界に居るからいいんだけどさ。


「で、勇者を探していたらお前が俺を呼び出したってわけだ。」


 なるほど、親父の状況は把握できた。


 さて、今度は俺の話だが……


「親父、俺の話、信じてくれるか?」


 ハッキリいってとても信じられる様な話じゃない。


 信じてもらえないなら話しても無駄だろう。


「基本的には信じてやるが、内容によっては疑うぞ」


 あ、うん。そりゃあそうだよな。すごくまっとうな意見だった。


「わかった、それでもいいから聞いてくれ」

「ああ」


 さて、とはいえどこから話したものか。


 出来るだけ無難な所から説明した方がいいよな。


「実は俺、神様にゲームの世界に飛ばされたんだ」

「いきなり信じられねえわ」


 ですよねー。


 でも、ここから話さないとその後の話も通じないんだよな。


 俺は親父に、神様にこのゲームの世界に飛ばされた事、この世界でこれまでたくさんの冒険をしてきた事、そして……元の世界には戻れない事を話した。


「……ちょっと待っててくれ」


 親父が消える。

 ヘッドセットを外したのだろう。


 しばらく待つと、再び親父が現れた。


「あらほんとだ、リクトだわ」


 ん?


 どうもさっきと雰囲気が違う気がする、どういう事だ?


「あんた! ずっと連絡もしてこないと思ったらゲームの世界に飛ばされたとか、どういう事よ!」


 あ、これ、母さんだ。


 そうか、中身が母さんに入れかわったのか。


 外見が男性の冒険者だから、中身が母さんだとものすごい違和感だ。


「だいたい帰って来られないって何よ! ゲームばっかりしてるならたまには帰ってきなさい!」


 うん、全然話が伝わってないぞ親父。


 俺はため息をつきながら、もう一度母さんに状況を説明した。


 だが、どう言っても信じてもらえないので、俺はユミーリア達に頼る事にした。


「マイホーム!」


 俺の尻が光って、尻から扉がニュッと出てくる。


「あんたのお尻から出た扉に入れと?」

「いいから黙ってついてきてくれよ」


 いちいちうるさい母さんを、マイホームへと招き入れる。


「あれリクト、その人誰?」


 ユミーリア達がリビングでくつろいでいた。


 そんなユミーリアの姿を見て、母さんが叫ぶ。


「あ! 母さん知ってる、この子ユミーリアでしょ?」


 母さんがユミーリアを指差して俺を見る。


「そうだよ、だから言っただろう? ここはゲームの世界なんだって」


「ゲームしてるんだからゲームの世界なのは当たり前でしょ?」


 うーん、どうにも母さんにはうまく伝わらない。


 母さんの中では、俺とはゲームの中で繋がっていて、俺はゲームに夢中だから帰れない、という事になっているみたいだった。


 俺も今の状況がどういう状況なのかわかっていない為、説明が難しい。


「ユミーリア、この人、外見はこんなだけど、中身は俺の母さんなんだ」


「……え? リクトのお母さん?」


 ユミーリアが俺と母さんを交互に見る。


 そして俺の言った事を理解したのか、なぜか姿勢を正し、ビシッと母さんの前に立った。


「は、初めまして! わ、私、ユミーリアと言いましゅ!」


 あ、かんだ。


「知ってるわよー。それにしても、最近のゲームはよく出来てるわねー」


 母さんがユミーリアをマジマジと見る。


 だからゲームじゃないんだけどな。


「りりり、リクトにはいちゅもお世話になっていましゅ!」


 だからなぜかむユミーリア。

 何をそんなに緊張しているんだ?


「で、でもどうしてリクトのお母さんがここに? それにどうして男の人の姿なの?」


 ユミーリアが俺に声をかけてくる。


「どうやら親父がやっていたゲームの世界と繋がったみたいなんだ。最初は親父だったんだけど、今は中身が母さんにかわっているみたいだ」


 ユミーリアの頭にハテナマークが浮かんでいるのがわかる。


 どうも母さんにもユミーリアにもうまく伝わっていないみたいだ。


「えっと、もう一回最初からちゃんと説明するから、よく聞いてくれよ?」


 俺はこの世界に来る事になったキッカケ。


 電車の中で神様に会った事から、これまでの話をした。


「じゃあなに? このユミーリアは本物なの?」


 母さんがユミーリアを見る。


「色々話してみろよ、ゲームとかじゃ絶対に返ってこない返事をするからさ」


 母さんがユミーリアに何を聞くべきか悩んでいた。


 ちなみに、他のみんなは遠巻きに静観している。


 どうも急に俺の母さんがやって来た事に戸惑っている様だ。


「じゃあユミーリア、ちゃん?」

「は、はい!」


 ガチガチに緊張するユミーリア。


 いや、そんなに緊張しなくても、無茶な話だったら俺がちゃんと断るから。


 そう思っていたが、母さんの質問は予想外の質問だった。


「昨日の晩ご飯は何だったのかしら?」


「え? えっと、マキさんが作った、イノシカチョウの肉入りのスープと、お野菜と、フカフカのパンでした」


 何を聞いているんだこの母さんは?


「周りで見ている人達の名前は、言える?」


「は、はい! エリシリアに、コルット、プリムにマキさんに、アーナさん、あとランラン丸です」


 母さんがひとりずつ見ていく。


「うーん、ここまではあらかじめ私の言葉に反応する様に作っていれば、出来ない事もないわよね?」

「出来ねえって」


 俺は即座に否定する。


 普通は簡単な単語を拾って返事をする事自体も、結構難しいと思うぞ?


 それを考えれば先ほどの、昨日の晩ご飯はともかく、周りで見ている人達の名前ってのは、難しいんじゃないかと思う。


「何かいい質問はないかしらねー?」


 母さんがひとり悩んでいる。


 そんな母さんを見て、ユミーリアが俺に視線で助けを求めていた。


「母さん、あんまりユミーリアをいじめないでくれよ」


「いじめないわよ! あ、そうだわ! そうよ、逆に単語に反応するかどうかを見ればいいのよ」


 母さんが何かを思いついた様で、再びユミーリアに話しかける。


「ジャンプ、リクト、ご飯、名前」


「???」


 ユミーリアがどうしていいのかわからない様で、俺を見る。


「反応しないわね」

「ユミーリアは機械じゃないからな」


 どうやら母さんも、ユミーリアがコンピュータや機械じゃない事は理解したみたいだ。


「それじゃあ、本当に私が今見ているここは、ゲームの映像じゃなくて、別の世界なの?」


「そういう事だな。なんでそっちと繋がったのかはわからないけど、ここは母さん達が居る世界とは別の世界だ」


 母さんがしばらく悩み、やがてその姿を消した。


「り、リクト、消えたぞ?」

「ああ、ゲームをする為の機械を外したんだ」


 俺は今の内に、みんなに親父と母さんの状況を話す。


 頭に機械をかぶってこちらの世界を見ている事、その機械を外すと姿が消える事。


 みんな俺の話を聞いて、難しい顔をしていた。


「リクトの世界には、不思議なものがあるんだな」


「それより気になるのはお父様達が見ている物語ですね。この世界の数百年後の世界で、邪神が復活し、その為にこの時代の勇者の力と装備が必要、という事ですね?」


 マキが俺に確認してくる。


 親父から聞いたストーリーはそんな感じだったな。


「ああ。ちょっとややこしいんだけどな。親父達自身は平和な、俺が元居た世界に居る。そこでこの世界の百年後の物語を機械で見ていた。その百年後の世界では邪神が復活していて、勇者の力と装備が必要だったんで、この世界にやってきた、という事だ」


 俺は机の上に置いた紙に図を書き、みんなに説明する。


 親父の世界(俺が居た世界) ⇒ 物語の世界(百年後) ⇒ 物語の世界(今、俺達が居る)イマココ


 といった感じだ。


「リクト」


 再び親父が戻ってきた。


 あれからみんなに説明をしていて結構時間が経っているが、何をしていたんだろう?


「母さんと話し合ってきた。お前は本当に、俺達の世界から居なくなって、このゲームの世界にきてしまったんだな?」


「ああそうだ」


 親父が目を閉じる。


「実はな、今お前の会社に電話をしてみたんだ。そしたら天崎という社員は居ない、これまでにも居た事はないと言われたよ」


 マジか。

 居た事はないって事は、俺の存在自体消えてるって事か?


「お前の携帯電話に電話したら、現在使われておりませんってなってるし、タイヘイ君に連絡したら、お前の事を知らないって言われたよ」


 うわ、タイヘイまでもか。

 ちなみにタイヘイというのは俺の高校の時の友達で、最終的に一番仲が良かったやつだな。


 この世界に来る数日前にも、くだらない事でメールはしていた。


 それなのに俺の事を知らないって事はつまり、親父達以外の記憶から、俺は消えてるって事だ。


「母さんショックで寝込んじまったよ。俺も正直ショックだ。お前、なんでこんな事になってるんだ?」


「そんな事、神様に聞いてくれとしか……」


 俺の尻が素晴らしかったから、なんて言ったら神様に怒鳴り込んでいきそうだ。黙っておこう。


「とにかく、明日また来るから、その時はもう一度話を聞かせてくれ」


 親父はそう言って消えていった。


「リクト」


 ユミーリアが心配そうに俺を見ていた。


「ど、どうしたユミーリア?」


「リクト、前の世界でみんなの記憶から消えちゃったって、大丈夫なの?」


 ああその事か。

 俺が気にしてるって心配してくれてるんだな。


「残念だけど、どうせ元の世界には戻れないんだからむしろ良かったかなって思う。ヘタに気を使われたり、捜索届けが出たりする事も無いだろうしな」


 失踪事件になっても困るからな。

 それならサクッと存在自体が消えててくれた方が気が楽だ。


 そんな風に考えていると、ユミーリアが俺を抱きしめてきた。


「ゆ、ユミーリア?」

「リクト……リクトには私が居るから」


 やがてみんなが引っ付いて来る。


「そうだ、なんだかよくわからないがリクトには私が、みんなが居る」

「おにーちゃん、さびしい?」


 俺はコルットの頭を撫でる。


「ありがとう、みんな。みんなが居るんだ、さびしくなんかないよ」


 なんかアレだな。

 こうしてみんなが居てくれるのは、本当にしあわせだ。


 だからこそ、俺は前の世界で俺の存在が消えた事に大して、ショックを受けていないのだろう。


 ひとりだったらショックだったかもしれない。


 だけど、みんなが居るから全然平気だった。



 その日は、親父達は戻ってこなかった。



 次の日、親父が再び現れる。


「リクト、ここから外に出られるか? ちょっと確認したい事がある」


 親父が出てくるなりそう言い出した。


 意図はよくわからないが、俺は親父とマイホームの外に出る。


「ちょっとついてきてくれ」


 親父と街の入り口に行くと……そこには、綺麗な女性が待っていた。


「遅い!」


 いきなり怒られた。


 誰だこの人?


「母さんだ」

「え?」


 目の前に居るのは黒髪のポニーテールの女性冒険者だった。年齢は俺達と同じ、16、7に見える。


 これが、母さん、だと?


「昨日、あの後もう一台、ゲーム機とソフトと、周辺機器を買ってきてな。母さんのキャラクターを作って、急いでここまで進めたんだ」


 何をやってるんだ何を。


 という事はアレか、今現実世界では、夫婦揃って家でVRゲームをやってるってわけか。


「んー、改めて不思議な感じね。ちゃんとリクトにも触れるし、感触もある」


 母さんが俺のほっぺをつねる。


 痛い。


「と、とりあえずマイホームに入って、話は中でしよう」


 俺はマイホームを出して、二人を招き入れる。


 ユミーリア達は、母さんの姿を見て固まった。


「こんにちはー。リクトの母でーす」


 母さんがヒラヒラと手を振る。


「り、リクト、どういう事?」


「物語を見れる機械をもうひとつ買ってきたらしい」


 俺はため息をついた。


 ユミーリアの案内で親父と母さんが席につき、マキがお茶をいれる。


「ありがとう、マキさんだったかしら?」

「はい、マキと申します。よろしくお願いします、お母様」


 マキが頭を下げる。


「メイドさんが仲間なんて、リクトも変わってないわね。ユミーリアちゃんといい、この子達って、あんたが作ったの?」


 作ったってなんだよ。いまだによくわかってないな、母さんめ。


「ユミーリア達は作り物じゃないって。この世界で生きてる、ちゃんとした人間なの!」


「あら、そうだったわね。でもじゃあなんで私の知ってるユミーリアとソックリなの? そこのメイドさんも、あんたがよく隠れてコソコソやってたパソコンゲームに出てきた娘よね?」


 おいちょっと待て、なぜそれを知っている?


「あと、そこのちっちゃい子達も見た事があるわね。そっちのお姉さん達はわからないけど」


 ちっちゃい子達はコルットとプリム。お姉さん達はエリシリアとアーナだろう。


「あとその子は……」


「初めましてお母上殿。拙者、リクト殿の相棒の、ランラン丸と申す者でござる」


 ランラン丸が見た事もない、丁寧な所作で母さんにひざまずく。


「そしてここに居る女性は皆、リクト殿の将来の結婚相手、婚約者なのでござる」


 婚約者、と聞いて母さんの目が光った。


「ランラン丸ちゃん、その話、詳しく」

「ははっ!」


 ランラン丸が母さんにある事ない事説明し始める。


「おいリクト、あの子って、サモン5のエリシリアだよな?」

「そうだな」


 親父が話しかけてくる。


「んで、あっちの子はスト2のコルットだろ? その隣はロイぱにのプリムか?」


 さすがは親父だ、よくわかっている。


「緑の髪の子と着物の子はわからんが、あのメイドさんはプリンセスメイドか?」


「なぜ親父までマキの事、知ってるんだよ!?」


 母さんといい親父といい、なぜエロゲー出身であるマキの事を知ってるんだ?


「だってお前の部屋に、でっかいポスターが貼ってあったじゃないか」


 あ、そういえばそうだった。


 一時期プリメイのポスターを部屋に貼っていた事があるんだった。


 そうか、それで知ってるのか。


 そういえば母さんにこのポスターは何かと聞かれた時に、パソコンゲームのキャラクターだって言った事があったな。


「ちょっとリクト!」


 母さんに呼ばれた。

 なんなんだよもう。


「聞いたらここに居る子達、みんなあんたのお嫁さんだって言うじゃない! どういう事なの!」


 ランラン丸がニッタリ笑っている。


 こいつめ、絶対におもしろがってやがるな。


「重婚は犯罪よ!」


 そこかよ! そこで怒ってるのかよ。


「お母様、この世界では重婚は犯罪ではありません。むしろ強い男性、富を持った男性、地位のある男性は重婚を推奨されています」


 マキが淡々と答える。


「そうなの?」

「はい、そもそも優秀な男性に対して嫁はひとりだけ、という事が私からすればもったいなく感じます」


 母さんがみんなを見る。


「私なら、旦那はひとりじめしたいけどね?」


「もちろんその気持ちはあります。ですがそれよりも、自分の夫がたくさんの女性に認められる事が、そして家族がたくさん出来る事がうれしいのです」


 マキがそう言うと、みんながうなずいた。


「価値観の違い、なのね。ここは外国みたいだし、しょうがないのかしら」


 外国どころか異世界だけどな。


「まあそれはいいわ。それよりも! そこのちっちゃい子達までお嫁さんって、どういうつもり!」


 母さんがコルットとプリムを指差す。


 二人の身長は俺の腰くらいまでしかないロリっ子だからな。


 元の世界なら、完全にロリコンとして逮捕されるだろう。


「お母様。もし私とコルットの年齢を気にされているのでしたら問題ありません。この世界では結婚する事に年齢制限はありません」


 プリムがサラッと答えた。


「だからって、こんな小さな子に手を出すなんて」


「手を、出す? ああその事ですか。その事でしたら問題ありません。リクト様なら私達の成長を待ってくださると思います。あくまで今は、結婚のみの関係なのです」


 おいプリムやめろ! 親に対して生々しい話をするんじゃない!


「リクト! この子達がおっきくなるまでに手を出したら、ただじゃおかないからね!」


「わかってるからやめろよ! 生々しい話はやめてくれ!」


 俺はひとり、頭を抱えた。


 親父が俺の肩に手を置く。


「ところでリクト、お前まだ、童貞なのか?」

「どどどど、童貞ちゃうわ!」


「いいえ、残念ながらリクト殿は童貞で御座る」


 ランラン丸がこそっと親父に耳打ちする。


 もうやめて。


 親に対して生々しい話はやめて。



 俺の心のヒットポイントが、どんどん削られていった。


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