第25話 尻魔道士対イノシカチョウ

 俺達はDランクへ昇格する為に、イノシカチョウというモンスターを討伐する依頼を受けた。


 イノシカチョウはその名の通り、イノシシの体にシカの角、鳥の羽が生えたモンスターらしい。

 ドロップする肉はウサギットよりおいしいらしい。


 クエファンでは登場しなかったモンスターだ。


 元々ゲームのストーリーではFランクから一気にDランクになるから、Eランクになる事がそもそもイレギュラーな事なんだが……知らないモンスターまで出てくるとなると、ユミーリアとパーティを組む事にして正解だったかもしれない。


 ユミーリアをひとりにして放っておいて、何かあったら、後悔していただろう。


 しかし、別のゲームのキャラクターであるコルットが仲間になるといい、どんどんイレギュラーな事態にハマッていってる気がする。


 まあ、ここまできたらもう後戻りは出来まい。



 俺達はイノシカチョウの生息地である、キョテンの街から北西にある平原に来ていた。


「さて、そろそろイノシカチョウとやらが出てきてもいいはずだが……」


 俺は辺りを見渡した。


 するとそこに、ウサギットが現れた。


「お、ウサギットか。ついでに倒していくか」


 俺はランラン丸を鞘から抜いた。


 そうすると、何か違和感を感じた。


「ん? なんだ?」


 俺は違和感がなくなる様に、ランラン丸を持ちかえてみた。


「こうか?」


 俺の構えが変わる。


「お! リクト殿、それは拙者の構えではござらんか?」


 やっぱりそうか、先日ランラン丸と融合した時に、とった構えだ。


「もしかして、ランラン丸と融合した時の事を、身体が覚えているのか?」


 俺は身体が動きやすい通りに動いて、刀を振ってみた。


 するといつもより素早く身体が動き、ウサギットを倒した。


「おお!」


 俺はあれほど攻撃を当てる事に苦労していたウサギットを、アッサリ倒した。


 そしてステータスカードが光り、レベルが上がった。



《リクト レベル:10 HP:94 MP:108 冒険力:654》


「すげえ! 一気に2もレベルが上がったぞ! しかも冒険力が相当上がってる!」


 どうやらランラン丸と融合した事によって、俺の経験値がかなり上がっていたらしい。


「やったね、リクト! なんだか動きもすごい良かったよ!」

「すごい! さすがおにーちゃん!」


 ユミーリアとコルットも祝福してくれる。


 ひとしきり喜んだ後、俺はウサギットからドロップした魔石とレア肉を回収した。


「あれ? おにーちゃん、それってもしかして、レア肉!?」


 そういえば、二人には説明してなかったな。


「実はこれも俺の魔法でな、肉をドロップする敵に限りなんだが、必ずレア肉をドロップできるんだ」

「そ、それって、ものすごい事なんじゃ?」


 ユミーリアが相当驚いている。


「おにーちゃんがすごいのは知ってけど、今のが一番驚いたよ」


 コルットも感心していた。


 さすがにここまで持ち上げられると、ちょっと気分がいい。


 俺は上機嫌でイノシカチョウの探索を続けた。



「……ところでリクト、さっきから聞こうと思ってたんだけど、ギルドのみんなが言ってたオシリ丸って何?」

「あ! 私も気になってたの!」


 うげっ、やっぱり聞こえてたか。


「さあ! 早くイノシカチョウを見つけるぞ、ユミーリア! コルット!」

「え? う、うん?」

「わ、わかったよおにーちゃん」


 俺は強引に話題をそらす事にした。



「なんだか、聞かれたくないみたいね、リクト」

「そうみたいですね」

「あとでランラン丸に聞いてみよっか」


 ひとり爆笑しているランラン丸に、後で絶対オシオキしてやると、俺は心に誓った。



 少し歩くと、そこに見慣れないモンスターがいた。


「あれが、イノシカチョウか」


 ラブ姉に聞いていた通り、イノシシの体にシカの角、鳥の羽が生えたモンスターだった。


「見た目通りなら、イノシシの様に突進してきて、あの角で突いてくるか? ……あの羽、あいつ、飛べるのかな?」


 俺はイノシカチョウを注意深く見る。


 すると俺の尻がほんのり光った。 光は俺の目の前で、俺しか見えない文字となる。


《イノシカチョウ 冒険力:520》


 結構強いじゃないか。レベルアップ前の俺なら絶対に勝てなかった相手だ。


「おにーちゃん、どうしてお尻が光ってるの?」

「これはね、リクトの相手の力を見る魔法なの」

「ふわー、そうなんだ、すごい力をいっぱい持ってるんだね、おにーちゃんは」


 二人が後ろでコッソリはしゃいでいる。


 俺はせっかくだから、コルットの冒険力も見てみる事にした。


《コルット レベル7 冒険力:822》


 はい、俺より全然強い。さすがに勇者のユミーリアには劣るが、十分戦力になるレベルだ。


 これならイノシカチョウ相手でも大丈夫だろう。


「よし、いくぞ!」


 俺は二人に声をかけ、イノシカチョウの前に出る。



 イノシカチョウが、こちらに気付いた。


「ブモオオオオ!」


 イノシカチョウは大きな声をあげ、こちらに突進してきた。


 予想通りの動きだ。


「よし、左右によけて、横から攻撃するぞ!」


 俺達はイノシカチョウの進路から、それぞれ横にそれる。


「ブモオオオオオ!」


 しかしイノシカチョウは器用に進路を変え、こちらに向かってきた。


「げ! なんで俺!?」


 俺はとっさに横に飛んで、なんとかイノシカチョウの突進をかわした。


「ブモオッ!」


 イノシカチョウはそのまま勢い良くジャンプした。


 羽を広げ、空に舞う。


「うわっ! ほんとに飛びやがった!?」


 空に舞うイノシカチョウはそのままUターンしてこちらに再度向かってくる。


 今度は空からの攻撃だ。


「うおおおおお!?」


 俺は地面を転がって、なんとか攻撃をかわす。


「はあ、はあ、ヤバイ! あいつヤバイ!」


 俺はなんとか体勢を立て直そうとするが、イノシカチョウは地面に降り立つと前足の爪でブレーキをかけ、反転してこちらに向かってくる。


「ま、またくるのか!?」


 俺はランラン丸を構える。


「落ち着くでござるよリクト殿、拙者の動きを思い出すでござる! 今のリクト殿なら、勝てない相手ではないでござる!」


 俺はランラン丸の言葉を聞いて、ハッとなる。


 そうだ、ここで手こずっていてどうする?


 俺はこれから、もっと強い敵やモンスターと戦っていかなければならないんだ。

 冒険力は相手の方が下なんだ、勝てない相手じゃないはずだ。


 俺は集中して、イノシカチョウを見る。


 そしてそのまま、身体が動きたい様に、身を任せる。



 俺はギリギリの所で半歩横にずれて、横なぎでイノシカチョウを斬った。


「ぶ、ブモオオオオ」


 イノシカチョウが消え、ポンッと音が鳴って、俺の尻が光った後、魔石とレア肉が出てきた。


「……はあっ! はあ、はあ、や、やったんだよな? 俺」

「うむ! 見事でござった! リクト殿の勝ちでござる!」


 ランラン丸の言葉を聞いた途端、俺は力が抜けて、その場に座り込んだ。


「大丈夫だった、リクト?」


 ユミーリアとコルットがこちらに駆けてくる。


「ああ、二人は大丈夫だったか?」

「うん、あんまり強そうじゃなかったから、逆に手を出すと邪魔かなって思って見てたんだけど」


 わーい、ユミーリアから見るとアレ、強そうじゃなかったのかー


「さすがおにーちゃん! いくらそんなに強くないとは言っても、一撃で倒しちゃうなんて、ビックリしたよ!」


 コルットから見ても、強くないモンスターだったみたいだ。


 はは、俺、必死だったんだけど?


「よし、私達もやろっか、コルットちゃん!」

「はい! がんばりましょう!」


 俺の無事を確認すると、二人はイノシカチョウ探しに戻った。



 ユミーリアが先にイノシカチョウを見つけた。


「いくわよ! 見ててねリクト!」


 ユミーリアは突進してくるイノシカチョウをヒラリとかわし、すれ違いざまに剣で斬りつける。


 3度程斬りつけると、イノシカチョウは倒れ、あとには魔石だけが残った。


「うーん、リクトみたいに、一撃では倒せないか。……あれ? 私の場合はレア肉は出ないんだ?」


 ふむ、どうやらパーティを組んでいても、俺が倒さないとレア肉はドロップしないのか?


 俺はコルットの方を見る。


 ちょうどコルットも、イノシカチョウを見つけたところの様だった。


「やああっ!」


 コルットは飛び上がり、上段蹴りをイノシカチョウに当てる。

 そのまま着地して下段蹴りを放ち、イノシカチョウが転んだ所で……


「はあっ!」


 あの重いイノシカチョウを持ち上げて、投げた。


 地面に叩きつけられたイノシカチョウは、そのまま消えて、魔石と化した。


 コルットすげえ。さすがは格闘ゲームのキャラクターだ。


「うーん、私の方も、レア肉は出ませんでした」


 コルットはガッカリしていた。


「よし、ちょっと実験してみよう。次は俺がまず、一発入れるから、その後でユミーリアが倒してみてくれ」

「わかったわ!」


 俺は次に現れたイノシカチョウに、まずは一発当て……


「ブモオオオ!」

「おわあああ!」


 ようとしているのだが、これがむずかしい。

 先程の様にランラン丸で斬りつけると、一撃で倒してしまうみたいだからな。


 なんとかイノシカチョウにパンチかキックを当てようとするが、突進に当たらない様にビビッている俺には難易度が高かった。


「がんばって! リクト!」

「がんばれ! おにーちゃん!」


 俺は二人の応援を受けて、なんとか一発、蹴りを入れた。


「ブモッ!」

「後は任せて!」


 俺の蹴りがイノシカチョウに当たった事を確認すると、すぐさまユミーリアが、イノシカチョウを斬りつけた。


 俺が地面を転がって避難している間に、ユミーリアはイノシカチョウを倒していた。


 イノシカチョウは消えて、俺の尻が光り、魔石とレア肉が出てきた。


「あ! 出た! 出たよリクト!」

「おう、どうやら俺が一発でも攻撃を当てていればいいみたいだな」


 予想通り、俺が一発でも攻撃を当てれば、後は誰が倒してもレア肉はドロップする様だった。


「よし、一度マイルームで休憩しよう。その後もう2匹くらい倒して、ギルドに報告に行こう」

「うん」

「わかりました!」


 俺はマイルームを呼び出し、中に入ってウサギットのレア肉とイノシカチョウのレア肉を冷蔵庫に入れる。もうひとつのイノシカチョウのレア肉は保存用として、冷凍庫の方に入れておいた。


 ウサギットの肉も相当うまかったが、イノシカチョウのレア肉はどれほどの味なんだろう? 今から楽しみだ。



「それにしても、まさか拙者と融合した事によって、リクト殿の動きが良くなるとは思わなかったでござるよ」


 ソファに座るランラン丸が話をふってきた。


 確かに、あれはラッキーだった。まさか勝手に身体が動いてくれるなんてな。


「そうだな、悪い事ばっかりじゃなくて良かったよ」

「悪い事って?」


 同じくソファに座っているユミーリアが聞いてくる。


「むふふ、それはでござるな、実は先日、拙者はリクト殿と融合したのでござるよ」

「ゆうごう?」


 いまいちピンときていないユミーリアだった。


「まあ、合体でござるな。その時拙者がリクト殿の身体を動かしていたんでござるよ。その動きがリクト殿の身体に染み付いていたらしく、今日のあの動きに繋がったみたいでござるな」


「へえ、そんな事があったんだ」


 こちらを見てくるユミーリア。隣のコルットもいまいち話はわかっていないみたいだが、俺を見ている。


「あ! それじゃあもしかして、オシリ丸って!」

「そう、拙者達が合体した姿の事でござるよ」


 しまった、話を止めるタイミングを見誤った。


「なんでオシリ丸なの?」

「どうせなら面白い方がいいと思ったのでござるよ。ぷぷぷっ!」


 そう言って笑うランラン丸。


「まったく、余計な事ばっかり言いやがって!」


 俺はランラン丸の頭にチョップした。


「痛いでござるー!」


 ランラン丸が涙目でこちらをにらんできた。


「リクト殿はもうちょっと拙者をありがたがってもバチは当たらんでござるよー」

「そう思ってほしいなら、余計な事を言うクセをなおせ」


 まったく、そんなんだから素直にお前に感謝できないんだよ。


「まあそれはともかく、せっかくああして拙者の動きを取り入れる事ができるのがわかったのでござるから、リクト殿はもうちょっと身体を鍛えた方がいいでござるな」


 ランラン丸がトレーニングを提案してきた。


「そ、そうか?」

「うむ、そうすればもっと、強くなれるでござるよ、リクト殿は」


 まあ、これまでマジメに身体を鍛えた事なんてないからな。


「そうでござるな、せめて毎朝、ランニングくらいはするでござるよ」

「えー」


 俺はランラン丸の提案に却下を出そうとしたが、まわりの二人が許してくれなかった。


「それいい! そうしようリクト! 私も付き合うから!」

「あ! 私も! 私も付き合うよ、おにーちゃん!」


 二人とも、身体を動かすのが好きそうだもんな。


 俺は美少女二人におされて、観念した。


 明日からの早朝ランニングが決まってしまった。



 俺達は少し休憩して、その後イノシカチョウを2匹倒した。


 2匹目を倒した所で、コルットのレベルが8になった。


「やった! レベルアップしたよ、おにーちゃん!」

「おう、すごいぞコルット!」


 俺はコルットの頭を撫でてやった。


「ぶう……いいなぁ、コルット……私も早くレベルアップしないかなー」


 ユミーリアのつぶやきは、俺には聞こえていなかった。



 ギルドに戻った俺達は早速イノシカチョウのレア肉を提出した。


 ギルドは大騒ぎになった。


「これが! 幻のイノシカチョウのレア肉! それも2つも!」


 俺達が今日倒したモンスターは、ウサギットが1匹、イノシカチョウが6匹だった。

 その内レア肉はウサギットが1つ、イノシカチョウが4つだった。


 ウサギットの肉とイノシカチョウの肉2つは自分達用にマイルームに保管して、残り2つをギルドに提出したのだった。


「さすがですよリクトさん! イノシカチョウのレア肉は5年に1度ドロップすれば良い方だと言われているんです。それを2つも……!」


 ラブ姉の反応を見て、まわりのみんなも驚きを隠せないでいた。



「聞いたかよ、イノシカチョウのレア肉だってよ!」

「スゲーな! さすがは尻肉様だぜ!」

「やっぱあの尻の光には幸運が宿ってるんだって!」

「どうりで、美しい尻だと思った」

「ありがたやありがたや」

「心なしか、今も輝いて見えるぜ、あの尻!」

「俺も入ろうかな、尻肉教……」


 どうにも不穏な単語がいくつか聞こえてきたが、誰が話しているのかまではわからなかった。


「それでは、報酬額を確認しますので、ちょっと待っててくださいね」


 ラブ姉がそう言って、奥に引っ込もうとする。


「そうだラブ姉、相談があるんだけどいいかな?」

「はい?」


 ラブ姉がこちらを振り向く。

 その時ゆれたラブルンに目を奪われそうになるが、今は隣にユミーリアとコルットがいるのでなんとか堪える。


 俺はラブ姉に、パーティを組むと決めた時、考えていた事を話そうとした。



「あ! リクトじゃないか!」


 その時、商隊の護衛に出ていた男勇者たちが、ギルドに帰ってきた。


「ん? おおユウか、今戻ったのか?」

「ああ、リクトの言う通りだったよ、途中で盗賊に襲われて、大変だったよ」


 そうか、俺は男勇者が出かける前、何かが起きるかもしれないから気をつけろと助言したんだっけ。


「荷物を奪われそうになったけど、警戒していたからなんとか盗まれずに済んで、無事に護衛任務は達成できたよ、ありがとう、リクト」



 ……ん? あれ? ちょっと待った。


「そ、そうか、盗賊のアジトには行かなかったのか?」

「盗賊のアジト? そんなのがあったのかい?」


 おい、ちょっと待った、これって……



 本来のストーリーでは、盗賊に襲われて荷物が奪われて、盗賊のアジトに行って、そこは実は邪神の使途の隠れ家で、邪神の使途達の隠れ家をひとつ潰す。というのがストーリーだったはずだが……


「ま、まさか、そんな……」


 どうやら俺の助言で、勇者達は警戒心を強めてしまい、盗賊に荷物が奪われる事なく、邪神の使途の隠れ家が残ってしまった様だ。


「マズイ、どうしよう?」


 俺の安易な助言によって、ストーリーが変わってしまった。



 何やってるんだよ俺の馬鹿あああああ!!



 俺はうずくまり、どうやってストーリーを軌道修正すべきか、悩んでいた。


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