第77話 敵の少女はキツネ耳

 ウミキタ王国で戦いが始まろうとしていた。


 海から来る幽霊船やガイコツは光のムチを持つエリシリアに。

 即死攻撃を持つデスマギュウは即死耐性を持つ勇者、ユミーリアとユウに。


 俺とコルットは遊撃。


 外から来る帝国軍には、ヒゲのおっさん達に対処してもらう事になった。


「いいか! 戦えない者は大事なもの、大事な人のそばにいろ! 決して外に出てくるな! 戦える者は俺に続け! 帝国軍だろうがなんだろうが、ぶっ倒してやるぞ!」


 いつの間にか前線にやってきていた王様の掛け声に、オオー! と歓声があがる。


 ひしめくふんどし一丁の男達。まわしの男も何人か居る。スモウの使い手であるマゲールの弟子達だろうか。


 ソイヤソイヤと掛け声をあげながら、国の出入り口に向かっていった。


 俺とコルットはそれを見届けて、デスマギュウが現れると思われる城の前に向かった。



 幽霊船が現れるのは、お昼過ぎだった。

 そろそろ時間だ。


 そう思っていると、目の前にデスマギュウ5匹と……オウガ達が現れた。


「あら?」

「嘘だろう? どうして君達がここに!?」


 最初に俺達に驚いたのはフィリスとゼノスの兄弟だった。


「だから言ったであろう? あの男をナメるなと。やはりきたか、リクトよ」


 オウガは俺達がここに居る事を察していた、いや、可能性のひとつとして考えていた様だった。


「お前はいつも俺達の行動を予測した動きを見せていた。今回もそうだと思っていたぞ」


 なるほど、今までの経緯からか。

 確かに俺は、死に戻りのおかげで先の事がわかるから、いつも先手を打ってきた。


 オウガはその事から、俺が敵の行動を予測できるのではないかと受け取ったらしい。


「ほんと、嫌なやつだね、君は。それに……」


 ゼノスがこちらをにらんだあと、男勇者に目を向ける。


「ユウ、なんでいるのさ?」

「君こそ、いつまで邪神の味方をしているんだ! 今すぐこんな事はやめて、戻ってきてくれ!」


 勇者の訴えに、ゼノスはため息をつく。


「はぁ、そんな言葉でそっちに戻るんなら、最初から邪神の使徒なんかになってないよ。ほんとにユウは……まっすぐで、いいね」


 フルフェイスの兜でわからないが、おそらく今、ゼノスは笑ったのだろう。


「フィリスも、お願いだからもうやめて! そのデスマギュウは人を殺しちゃうのよ!?」


 ユミーリアも、フィリスに訴えかける。


「あはは、別にいいじゃない。私たち以外の人なんてどうなったってさ。それよりユミーリア。ここに居るって事は、私と遊んでくれるのよね?」


 だが、当然の様にフィリスも聞く耳持たない。


 敵はデスマギュウ5匹、ゼノス、フィリス、オウガ、ジャミリー。

 こちらは俺、ユミーリア、コルット、男勇者だ。


 俺達はそれぞれ構える。


 まずはなんとしてもデスマギュウを倒さなければ、死人が出てしまう。こいつだけは逃がすわけにはいかない。


「時にリクトよ。貴様どこまで把握している?」


 オウガが俺に話しかけてきた。


「何の事だ?」

「今回の俺達の作戦を、全て把握した上でここにいるのか? それとも」


 オウガが一呼吸置いて、続きを話す。


「幽霊船や帝国軍、それに街の中にひそむ同胞達の事は知っているのかと聞いている」


 幽霊船と帝国軍は知っていた。

 だが、街の中にひとむ同胞ってのは知らない。


「同胞、だと?」

「どうやら幽霊船や帝国軍の事は知っているか。やはり貴様は危険な男だ」


 しまった、完全に敵に乗せられた。


「恐ろしい男だ。我らの作戦を先に知り、リュウガの弟子となる事で強さを得て、その尻の光で人々を魅了し、導いている。貴様は我ら邪神の使徒にとって、勇者よりもよっぽど危険な存在だ」


 いや、そんなに評価されてもうれしくないんだけどな。


 しかし、どうやら俺は完全にオウガに危険視されてしまっているらしい。


 それよりも、さっきオウガが言った街の中にひそむ同胞ってのが気になる。


「コルット、今の話が気になる。街の中をまわって、誰かが襲われていたら助けてあげてくれないか?」

「うん、わかった!」


 そう言ってコルットが駆け出す。


「させないよ」


 ジャミリーが素早くコルットの前にまわりこむ。


「おねーさん、邪魔しないで!」


 コルットのするどい蹴りが炸裂し、ジャミリーが吹っ飛ばされる。


「きゃあ!」


 ジャミリーが吹き飛び、近くの壁に激突した。


 コルットはそのまま街に向かって走っていった。


「さすがだな、リュウガの娘。もはやジャミリーでは相手にならんか……だが、ヤツらなら、あるいは……」


 俺はその言葉を聞き逃さなかった。


「ヤツら、だと? 今のコルットに敵うヤツが居るってのか?」


 俺の言葉を聞いて、オウガがニヤリと笑う。


「気になるか? リクトよ。だが、貴様の相手は俺と……ジャミリーだ」


 ジャミリー?


 俺は吹き飛ばされたジャミリーを見た。


 するとジャミリーから、黒い闘気が噴き出していた。


「ああああああ!!」


 ジャミリーが叫んでいた。


「な、なんだ? 何をしたんだ?」

「限界を超える為、邪神の力を取り入れたのだ。俺と同じ様にな」


 ジャミリーが叫び続ける。

 やがてジャミリーの身体が膨れ上がり、大きくなっていった。


 肌は緑色に変色していき、顔はやがて、口が裂け、目が大きく丸くなり、モンスターの様になっていった。


「どうやら、邪神の力に耐え切れなかった様だな。残念だ、ジャミリーよ」


 邪神の力を取り入れ、耐え切れないとモンスターになる。という事か?


 俺がそんな風に考えていると、ジャミリーが襲い掛かってきた。


「アアアア!」


 かなりの素早さだった。


 俺はランラン丸を引き抜き、ジャミリーを横なぎに斬った。


「ガアッ!?」

「駄目でござる! 浅いでござる!」


 ランラン丸が叫ぶ。

 どうやら攻撃が浅かった様で、ジャミリーは拳を振るってきた。


「ぐっ!」


 俺はとっさに腕でガードする。


 その時、絶壁のコートがピンク色に光り、敵の攻撃をガードした。

 敵の攻撃がピンク色の光にはばまれて、寸前で止まる。


「今ござるリクト殿!」

「ああ!」


 俺はもう一度ランラン丸でジャミリーを斬り裂いた。


「グ! ガア……ア!」


 ジャミリーの身体がくずれていく。


 そしてジャミリーは消滅し、後には魔石が残った。

 魔石が残る……ジャミリーは本当に、モンスターになっていた様だった。


「こんなものか……いや、貴様が強くなっているという事か。残念だったな、ジャミリーよ」


 オウガがそうつぶやいた。


 一方、向こうでは勇者達の戦いが始まっていた。


 ユミーリアはデスマギュウを積極的に攻撃し、すでに2匹倒している様だった。


 だが、フィリスとゼノスの邪魔が入り、思った様に攻撃できないでいる様だ。


 男勇者はユミーリア達の動きについていけてない。


 デスマギュウの攻撃で即死しないだけさいわいといった感じだった。


「さて、俺には他にやる事がある。勇者を援護するなり、リュウガの娘を助けに行くなり、好きにするがいい」


 そう言ってオウガは空へ飛び上がる。


 そこには以前にも見た、空飛ぶモンスターが待機していて、オウガを背に乗せた。


「待て! 何をするつもりだ!?」


 俺の叫びに、オウガは笑った。


「どうせそれも把握しているのであろう? いや、今は把握していないのか? どちらにしても今は俺に構っている暇はないぞ? リクトよ」


 モンスターに乗ったオウガは国の出入り口の方へ向かっていった。


 まさか、帝国軍と接触するつもりか?


 一応、そっちは王様とヒゲのおっさん達に任せてある。

 ならば俺はオウガの言った通り、ユミーリアかコルットの援護をするべきだろう。


「リクト! コルットの方に行ってあげて! ここは私達でなんとかするから!」


 ユミーリアが俺に向かって叫んだ。


 確かに、コルットの方がどうなっているかわからないので気になる。


「すまんユミーリア! ここは任せる!」

「うん、任せてリクト!」


 俺はここはユミーリアに任せて、コルットを追って街に駆け出す。


「おっと、そうはさせないよ」

「邪魔しないでゼノス!」


 ゼノスが何かしようとしたが、それをユミーリアがはばむ。


「だからさ、本当に邪魔だって言ってるだろ? いい加減にしてよユミーリア」

「いい加減にするのはゼノス、あなたよ! これ以上悪い事は……リクトの邪魔はさせないわ!」


 剣を構え、りりしく立つユミーリア。

 その姿はまさに、勇者だった。



 俺はコルットを追って街を駆け回っていた。


 街に潜む同胞、今のコルットと戦えるって、いったいどんなやつなんだ?


「コルットー!」


 俺はコルットの名を叫んだ。


 すると向こうからコルットがやってきた。


「どうしたの? おにーちゃん」


 コルットがケモ耳をピコピコ動かしながら、やってきた。どうやら無事だったみたいだ。


「コルット、街の中に敵は居たか?」

「ううん、誰もいないよ? みんな家の中にいるみたい」


 俺はホッとしていた。


 だが、その瞬間、後ろに強い気を感じた。


 振り返ると、ひとりの男と、ひとりの少女が立っていた。


 俺とコルットはとっさに構える。


「リュウガの娘と、リュウガの弟子だな?」


 男が俺達に向かって話しかけてきた。


 俺は男の方に、見覚えがあった。


 そういえば、親父さんが言ってたな。スモウとムエタイを使う知り合いが居るって。


 髪の無い頭に生えたケモノ耳。パンツ一丁のその姿は、間違いない。


 ストレートファイターに出てくるムエタイ使い、ゴンだった。


 隣にいる少女は、赤いストレートの髪にゴンと同じケモ耳が見える。歳はコルットより少し上、今の俺よりは下といった所だろうか。


 同じ耳……ゴンの娘か。コルットがネコ耳なら、相手はキツネ耳といった感じだ。


「お父様、こいつらがそうなの?」


 少女が凛とした声で話す。やはり娘で間違いないみたいだ。


「そうだ、こいつらがリュウガ……俺達コーン族の宿敵のモモフ族のリュウガの娘と、その弟子だ」


 コルットがモモフ族だというのは聞いたが、こいつら、コーン族というのか。


 ゲームではそんな設定なかったが、どうやら種族同士、仲が悪いらしい。


「じゃあ、こいつら殺していいのね?」

「ああ、構わない」


 親子が構えて、こちらを見る。


「俺はコーン族のゴンだ」

「私はその娘、ネギッツよ」


 二人がそれぞれ、俺達に襲いかかってくる。


 俺はゴンを、コルットはネギッツを迎え撃つ。


「はあっ!」


 ゴンが激しい蹴りを放ってくる。さすがはムエタイの使い手だ。蹴りの早さもするどさも、すごい。


「なにっ!?」


 だが、そんな蹴りは俺の絶壁のコートに弾かれる。

 俺に当たる直前で、ピンク色の光が止めてくれるのだ。


「オラあ!」


 その隙に、俺はゴンに殴りかかる。完全にこちらが有利だった。


 一方コルットの方は、コルットの圧勝かと思いきや、相手はコルットと善戦していた。


「あんた、スピードとパワーはすごいけど、技術がなってないね。それじゃあ私は倒せないよ?」

「ううっ!」


 なんと、善戦どころかコルットの方がおされていた。


 やはりこちらに援護に来て正解だったか。


「いいぞネギッツ! そのままやってしまえ!」

「……ふん」


 ゴンの言葉を受けて、ネギッツは突然手を止め、距離を取った。


 そしてそのまま、ゴンの元にやってきた。


「な、何をしている? どういうつもりだネギッツ!?」


 ネギッツはそのままゴンの方に歩いてきて、そして……


「え?」

「なっ!?」


 俺とゴンが驚きの声をあげる。


 なんとネギッツは、蹴りでゴンの腹を貫いた。


 よく見ると、脚の周りに黒い闘気がまとっている。


「な、何をする? ネギッツ」

「やっぱり、弱すぎるわお父様。弱いお父様なんて、もう必要ないの。お父様は時代遅れなのよ」


 ネギッツはゴンの腹から脚を引き抜く。

 そのまま脚を振って、ついた血を振り払った。


「見てお父様。お父様が拒否した邪神の力……私はうまく使いこなせているわよ? もうお父様が必要ないくらいにね」

「お前……まさか、どうして?」


 ネギッツは脚を振り上げ、腹をかかえてかがんだゴンの頭にかかと落としを放った。


「強さを求めてお母様を見殺しにしたアンタを、私は許さない。ずっとこの機会を待っていたの。それだけよ、お父様」


 ゴンはそのまま倒れ、動かなくなった。


「さて、あなた達にうらみは無いけど、私のこの強さ、もっともっと堪能したいの。だから相手をしてくれるかしら?」


 俺とコルットは構えをとる。


 だが、コルットの様子がおかしかった。


「どうした、コルット?」


 コルットはふるえていた。

 目の前で人が死んだからだろうか? コルットにはキツかったのかもしれない。


「どうして、おとうさんを攻撃したの?」


 コルットがネギッツに話しかける。


「私、お母様を大事にしなかったお父様が嫌いだったの。」


「だからって、おとうさんを攻撃するなんて、よくないよ!」


 コルットとネギッツがにらみあう。


「かぞくは大事にしないとだめだよ!」


「どうでもいいわ、家族なんて。この力があればひとりで生きていける、必要無いもの。まあ、あなたみたいな子供には、家族が必要なのかもしれないけどね」


 ネギッツの言葉に、コルットはさらに身体をふるわせる。


「かぞくは大事だよ! それにわたし、子供じゃないもん!」

「子供よ。家族家族なんて言ってる内はね。何よ? ふるえてるの? 子供に用は無いわ。さがってなさい」


 そしてついに、コルットが叫びだした。


「もう! わたし、怒ったんだから!」

「だったら何よ? やるっての?」


 どうやら、ふるえていたのは怒りにふるえていたみたいだ。


 二人は構え、そして激突した。


 コルットの方がすばやく、攻撃もするどいが、それをネギッツは巧みにかわし、反撃している。


「だから言ってるでしょ! あんたの攻撃は甘いのよ! 狙いも見え見え! やっぱり子供ね!」

「うう! かぞくを大事にしない人はゆるさないんだから!」


 コルットは、お母さんが病気で死に掛けていた事がある。

 俺がなんとか回復魔法で治したが、あのままいけば、死んでいたかもしれない。


 そんなお母さんの面倒を見ていたから、そしてあれだけやさしいお父さんとお母さんだから、コルットにとって家族はとても大事なものなのだろう。


 それを目の前で父親を殺し、けなしたネギッツが、きっと許せないのだろう。


 コルットが本気で怒っている所は初めて見た。


「ほら! そこ!」


 ネギッツのフェイントを混ぜた攻撃に、コルットは素直に反応し、するどい蹴りで吹き飛ばされてしまう。


「コルット!」


 吹き飛ばされたコルットは民家に激突する。


 俺はコルットに駆け寄った。


「大丈夫か、コルット!?」


 コルットはなんとか起き上がる。


「うん、でもあの人、攻撃は変な所からしてくるし、わたしの攻撃が当たらないの」


 コルットは攻撃も動きも真っ直ぐだ。変則的な動きをする相手とは相性が悪いのだろう。


「でもわたし、あの子に負けたくない」


 コルットがキッと相手をにらみつける。

 こんなに強い意志を見せたのは初めてかもしれない。


 だが、今のコルットには荷が重いだろう。


 俺はなんとかコルットの力になってやりたいと思い、コルットの手をにぎった。



 その時、俺の尻が光った。


「え?」

「ん?」

「な、なに!?」


 俺とコルットと、ネギッツが驚いていた。


「おにーちゃん、お尻が光ってる」

「ああ、そうだな」


 なんだ? 俺は何もしていないぞ?


 困惑する俺の前に、文字が現れる。


《覚醒融合》


 ランラン丸と融合する時に使っている技だった。


 ……まさか、できるのか? コルットと融合を!?


 俺はコルットを見る。


 コルットはこちらを見上げていた。


「コルット」

「なに?」




「俺と、合体しないか?」


 俺はケモ耳幼女であるコルットを見つめて、やさしくささやいた。



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