第80話 炸裂、爛々二重斬!

 5体のデスマギュウ、その内4体はユミーリアが倒した。


 しかし、残りの1体をフィリスが身体から伸ばした触手で吸収してしまう。


「アアアアアアアア!」


 フィリスの身体から無数の触手、翼、角が生えてくる。


「ふむ、我が妹ながら酷い姿だ」


 地に伏した男勇者の前で、ゼノスが自分の妹の変貌を見つめていた。



 俺はフィリスの変貌を目にして、急いでユミーリアの元へ飛んだ。


「ユミーリア!」

「リクト!?」


 俺はユミーリアとフィリスの間に降り立った。


「リクト、その羽」


 ユミーリアは俺の尻から生えたピンク色の翼を見て驚いていた。


「俺の新しい能力だ。これでいつでも、ユミーリアの元へ行けるぞ」

「リクト……」


 ユミーリアが涙を浮かべ、はにかんだ。


 そんなユミーリアの頭を、俺は撫でようとして手を伸ばした。


「ガアアア! ワタシのユミーリアに触れるなアアアア!」


 俺達の邪魔をする様に、フィリスが触手を伸ばしてこちらに攻撃してきた。


 俺とユミーリアはとっさにその攻撃をよける。


「っと! そうだったな。先にお前を倒さないといけないんだった」


 俺とユミーリアはそれぞれ剣を構える。


「まさか空を飛んでくるとは思わなかったよ。オウガ達はどうしたんだい?」


 ゼノスがフィリスの横に移動しながら、こちらに話しかけてきた。


「オウガは帝国軍と一緒に倒したよ。街の中に居た協力者ってのも追い払ったし、エリシリアが幽霊船を消滅させたのも確認した。あとはお前達だけだ」


 俺はゼノスに剣を向ける。


 ゼノスはジッと黙っていたが、ふいにため息をついた。


「はぁ……邪神の使徒や帝国軍も、大した事ないんだね。結局君達にやられるなんて」


 ゼノスはまるで人事の様に話す。


「お前だって邪神の使徒だろう? お前達を倒せば、今回の事件は終わりだ」


 俺の言葉を聞いて、ゼノスが兜を脱いだ。


「一緒にしないでくれるかな? 確かに邪神の力はもらったけど、僕は邪神の使徒になんかなった覚えは無い。あくまで力の代償として、協力しているだけなんだから」


 相変わらず、兜の下はイケメンだった。


 しかし、その顔は俺への憎悪でゆがんでいた。


「どっちでも一緒だっての。お前が俺達の敵である事には変わりないんだろう?」


「敵か……うん、そうだね。僕は勇者の敵だ。それでいい。それでこそユウを……殺せる」


 ゼノスが男勇者を見る。


 男勇者は相変わらず、地面に倒れたままだった。


「ゴッドヒール!」


 俺は男勇者に回復魔法をかける。


 男勇者はゼノスと同じくイケメンだ。

 本来イケメンとは憎むべき対象だが、男勇者であるユウは、長らくゲーム内で俺の分身だった事、ユミーリアの兄である事から、将来は俺の兄にもなるかもしれない事もあり、どうにも憎めない。


 考えてみれば、俺にとって男勇者は……ユウは、すでに仲間であり、手のかかる兄の様な存在になっていた。


 まあ、実際に兄がいた事ないから、なんとなく、だけど。


 回復したユウがゆっくりと立ち上がる。


「ありがとうリクト、助かった」


 ユウが再び剣を構え、ゼノスに向かい合う。


「いいよユウ。そうして僕を見てくれ。僕だけを見てくれ!」


 ゼノスが剣を高くあげ、ユウに向かう。


 ユウもゼノスに向かって走り出し、二人の剣がぶつかり合う。


「まだだ! まだだよユウ! もっと力を出すんだ! 勇者としての力をね!」


 ユウはゼノスの剣に弾き飛ばされる。


 現状、ゼノスの方が圧倒的に強い。

 このままではユウは勝てない。


 勝てるとすれば、勇者としての力が覚醒するかだが……


「ゼノス……君は、僕が倒さなければならない気がする。だから僕が、君を倒す!」


 ユウの身体から金色の光があふれ出す。


 勇者の、覚醒だ。


 俺はユウのゼノス、二人の冒険力をステータスサーチで見る事にした。


 俺の尻が光り、光は俺にしか見えない文字となって、俺の前に現れる。



《ユウ レベル32 冒険力12万9000》

《ゼノス レベル? 冒険力15万2000》



 勇者の覚醒をしてもなお、ユウはゼノスの力に届かなかった。


「うあああ!」


 ユウが全力でゼノスに斬りかかる。


 だが、俺の目から見ても遅く、ゼノスの動きの方が早かった。


 ゼノスはユウの攻撃を弾き、返す刃でユウを斬り裂いた。


「がはっ!」


「ゴッドヒール!」


 俺はすぐさまユウに回復魔法をかける。


 自分が回復した事に気付いたユウは、すぐさまゼノスから距離を取った。


「はぁ! はぁ! ありがとうリクト、助かったよ」

「本当に邪魔ばかりしてくれる。いい加減にしてくれないかな?」


 二人が俺を見る。


 この勝負、どうやってもユウに勝ち目はない。


 ならば……俺がやるしかない。


 俺はユウの前に出る。

 それを見たゼノスの顔が、酷くゆがむ。


「本当にさ……どこまで僕をイライラさせれば気が済むわけ?」


 俺はそんなゼノスに対して、ニヤッと笑って答える。


「俺は別にそんなつもりないんだけどさ。な? ユウ」


 俺はあえてユウに話しかける。


「あ、ああ。そう、なのかな?」


 ユウは突然話を振られてうろたえていた。


「気軽にユウに話しかけるなよ、この尻野郎」


 ゼノスの殺気が膨れ上がった。


 俺はゼノスに対して、ランラン丸を構える。


「死ね」


 ゼノスがこちらに向かって跳躍した。


 俺は攻撃をかわして、ゼノスの横腹にランラン丸を叩きつける。


「ぐあっ!」


 ゼノスが体制を崩す。


 俺はすぐさま、ゼノスの右肩にランラン丸を振り下ろした。


「ぐうっ!」


 そして俺は体勢を低くして、回し蹴りを放った。


 蹴りはゼノスの胸にヒットして、ゼノスを吹き飛ばす。


「す、すごい」


 ユウが俺の動きに驚いていた。


 ユミーリアとフィリスも、手を止めてこちらを見ている。


「修行の成果でござるな、リクト殿」


 ランラン丸がうれしそうに話しかけてくる。


 リュウガ、ランラン丸という二人の師匠と、重力室の修行のおかげで、俺は強くなっていた。


 俺はこっそり、自分の冒険力を見てみる。



《リクト レベル52 冒険力:14万2000》



 あれ? ユウより強いけど、ゼノスより弱いぞ俺?


 まああれか、冒険力はこちらの方が低いけど、重力修行のおかげでスピードはこちらの方が上なんだな。

 あとは技術の問題か。

 コルットとのあのキツネ耳少女、ネギッツの戦いと同じだな。


 冒険力が高い方が、必ず勝つとは限らないって事だ。


 それにしてもゼノスのやつは、どうしてあそこまで強いんだ?

 邪神の力を取り入れるって、そんなにすごいもんなのか?


 俺が考えていると、ゼノスが起き上がってくる。


「があああ! なんなんだよもう! 黙って大人しく殺されろよこの尻野郎が!」


 相当お怒りの様だった。

 あまりダメージを負った様には見えない。


 あの黒い鎧のせいで大してダメージを与えられていないみたいだった。


「なら、試してみるか」

「でござるな。きっといけるでござるよ、リクト殿」


 俺はランラン丸を鞘にしまう。


 そんな俺の仕草を見て、ゼノスはさらに怒り狂う。


「ふざけるなよ? 剣をしまうとはなんのつもりだ!?」


 居合い、という概念は刀が存在しないこの世界には無いんだろうな。


「今からお前を、俺の新しい必殺技で倒してやるよ」


 俺はあえてゼノスを挑発する。


 案の条、俺の言葉を聞いて、ゼノスが怒りでプルプル震えだす。


「殺す……コロス、コロスコロス!」


 ゼノスが剣を振りかぶり、こちらに駆けてくる。


 俺はそんなゼノスに向かって、刀を振り抜いた。


 ゼノスに刀から放たれた闘気が向かう。

 それにあわせて俺はもゼノスに向かって駆ける。


「な、なんだ!?」


 放たれた闘気がゼノスに当たる瞬間にあわせる様に、俺は刀を振り下ろした。

 闘気と刀の斬撃、そのふたつが重なり合う。



「爛々二重斬(らんらんにじゅうざん)」



 二つの斬撃はひとつになり、ゼノスの鎧を斬り裂いた。


 俺はランラン丸を一振りして、ゼノスに背を向けて刀を鞘にしまう。


 チンっと音が鳴り、ゼノスの絶叫が響いた。


「があああああ!?」


 ゼノスはそのまま、前のめりに倒れた。



「兄さんも結構強くなっていたはずなんだけど、やるじゃない、あの尻男」


 フィリスがユミーリアに対して話しかける。


「うん、リクトはすごいんだから!」


 ユミーリアがニッと笑う。


 フィリスは一瞬顔をゆがめたが、すぐに冷静な表情に戻る。


「残念だけど私達の負けみたいね。私もまだまだ強くならなきゃいけないみたいだし、ここは引かせてもらうわ」


 フィリスは身体から触手を伸ばし、ゼノスを絡めとる。


「じゃあねユミーリア。また遊びましょう」


 フィリスは背中から羽を生やして、空へと舞い上がった。


「逃がすか!」


 俺はフィリスを追おうとした。


「待ってリクト!」


 だがそんな俺を、ユミーリアが止めた。


「フィリスは私が倒す。倒さなきゃいけない気がする。じゃないと、フィリスを元に戻せないと思うの」


 ユミーリアは、あそこまでバケモノと化したフィリスを、まだ元に戻す気でいた。


 なら俺が手を出すべきじゃない。


 好きな人のやりたい事は、邪魔するのではなく、応援してやらないとな。


「わかった。任せたぞ、ユミーリア」

「うん。次こそは、絶対になんとかしてみせる!」


 俺とユミーリアは、飛んでいくフィリスを見送った。



 エリシリアが俺達と合流する。


 そのままコルットを街の中に迎えにいき、国の入り口でヒゲのおっさん達と合流した。


 俺達は情報を共有し、勝利した事を確信した。



「みんな! よくやってくれた! 俺達の勝ちだ!」


 国王が勝利を告げ、国中が湧き上がった。


 その夜は宴が開かれ、人々は勝利を祝福しあった。



 次の日、俺達は感謝状をもらい、報酬は後日俺の家に届けられる事になった。


 何がもらえるのかはまだ秘密みたいだった。

 ちょっとワクワクした。



 俺達は城を出た後、マイホームでキョテンの街のギルドに戻る。


「ほんと、便利な能力だな」


 おっさんはあきれながらも笑っていた。


「ほんと、今回はえらい疲れたわ。しばらくゆっくり休みてえ。まあ報告は俺に任せておけ。お前達もしっかり休めよ」


 おっさんは言いながら、ギルド長に報告に向かった。



「なんか、ごめんね。ほとんど役に立てなくて」


 ユウは、笑っていたが、元気がなかった。

 自分の力がまったく通用しなかったのだ。無理もない。


「いや、ユウが居てくれなかったら今回の事件は乗り切れなかった」

「そうだよ、あの二人とデスマギュウを相手にするのはひとりじゃ無理だったもん。兄さんが居てくれて助かったよ」


 俺とユミーリアの言葉を受けて、ユウが笑う。

 しかし、完全には吹っ切る事は出来ないみたいだ。


 いずれ、なんとかしないといけないな。

 ユウは勇者だ。これからもストーリーには巻き込まれるだろう。


 俺はどうしたものかと考えながら、ユウの背中を見送った。



 その後、俺達はコルットの実家であるヤードヤの宿に行く事にした。


 少しの間とはいえ、コルットが帰ってこない事を親父さん達がさびしがっているんじゃないかと思ったからだ。


 予想通り、親父さんとお母さんはコルットを見た瞬間、抱きついた。


「こらリクト! マイホームがあるんだから、もっとマメに帰って来い!」


 そして俺は怒られた。


 だが、それはまだ序の口に過ぎなかった。


 コルットが親父さん達に今回の旅の事を話し始めたのだ。


「そうか、ゴンのやつがな……それで、その娘と戦ったんだな?」

「うん! でも、わたしの攻撃、ほとんど当たらなくて、その子の攻撃は変な感じでよけられなかったの」


 キツネ耳少女、ネギッツのフェイントを混ぜたトリッキーな動きと攻撃はコルットにはキツかったみたいだ。



「それでね、わたし、ぴんちになったんだけど、その時おにーちゃんが、合体しようって言ったの!」


 ピキッとまわりが固まった気がした。


 あれ? 別に間違った事は言ってないはずなんだけど、なんだか嫌な予感がする。



「それでね、おにーちゃんがわたしの中に入ってきて、わたしとおにーちゃんがひとつになって、わたしの身体が大人になったの!」



 さらにまわりの温度が下がった気がした。


 うん、コルットは間違った事は言ってない。言ってないんだが……あれ? なんだかおかしくね?


「リクト……」


 親父さんの身体から、青い闘気があふれ出ていた。


「責任とりやがれこのやろおおおお!!」

「ご、誤解だ親父さん!!」


 俺は親父さんの攻撃をなんとかかわす。


 しかし、そんな俺の両肩を、ユミーリアとエリシリアが掴んだ。


「ねえリクト」

「どういう事か、説明してもらおうか?」


 よくみると、二人も笑顔で怒っていた。


「ま、待て! 話せばわかる!」

「親に何聞かせる気だあああ!!」


 親父さんの鉄拳が、俺の頬にヒットした。


 コルットはそんな俺を見て、親父さんを叱りつけた。



 その後、誤解がとけた俺は、親父さんとユミーリア、エリシリアに謝られた後、我が家に帰宅する事になった。


 外は雨が降っていた。


 俺はマイホームを出して、帰ろうとした。



 だがその時、外に気配を感じた。


 親父さんを見ると、親父さんもどうやら気づいたらしい。


「ユミーリア、エリシリア、コルット、先に帰っててくれ」

「どうしたの? リクト」


 ユミーリアが不思議そうな顔をした。


「ちょっと用事があってさ」

「……お前ひとりでやる気か?」


 エリシリアは気づいているみたいだった。


 俺はエリシリアに対して、うなずいた。


「ああ、俺に任せてほしい」


 俺の目を見るエリシリア。

 ユミーリアとコルットはなんだかわからないみたいだった。


「わかった。だが、必ず無事に帰って来い。いいな?」

「約束するよ、ありがとう」


 エリシリアは盛大にため息をつく。


「リクト、なんだか危ない事しようとしてる?」

「危なくない、事はないかもしれない。けど……いい加減、決着をつけたいんだ」


 ユミーリアが何かを考え、目を閉じる。


「わかった。きっと私と同じ様に、ゆずれないわがままなんだね」


 同じ様に、というのは、あの時フィリスを逃がした時の事だろう。


 ユミーリアがフィリスを自分で倒したい様に、俺にも倒したい相手が居る。


「でも、危なくなったら逃げてね? 死んだら、嫌だからね?」


 俺はユミーリアに対してうなずいた。


 みんなに先に帰る様に言ったが、ここで待っていると聞いてくれなかった。


 ユミーリア達に見送られながら、俺はひとり、外に出る。



 宿屋の裏にまわると、雨に濡れながら、そこに俺の相手が待っていた。



「待っていたぞ、リクト」

「決着を……つけに来たんだよな?」


 俺は、そこで待っていた人物の名を告げる。



「オウガ」



 オウガは俺の言葉に、心底うれしそうに笑った。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る