第115話 産声をあげる国と尻
俺達はパッショニアの建国記念にパーティに招かれていた。
パッショニア宮殿。
中は広く、ヘタに歩き回ると迷いそうな程だった。
「こんなすごい宮殿があったんだな」
「リクト様が初めてパッショニアにいらっしゃった時には、まだ建設中でしたからね」
そういえば、最初に来た時は別の屋敷に連れて行かれたな。
そしてそこで尻を光らせてくれと頼まれて、突然現れたゴブリンクイーンを倒したんだっけか。
なつかしいな。今ならゴブリンクイーンくらいなら楽勝で倒せる気がする。
「む? リクト殿、また慢心しているでござるな? そうやって油断していると、また転んで死んだりするでござるよー」
ランラン丸がうるさい。
ちょっとくらい強さを実感したっていいじゃないか。
まあ、火山で足を滑らせて落ちて死んだのと、氷の上で滑って転んで死んだのは俺の中でもワーストな死に方だったけどな。
「皆様にはドレスをご用意させて頂きました! さあどうぞ、こちらへ!」
カマセーヌさんがユミーリア達を連れて行く。
「リクト様はこちらへどうぞ」
俺はそばに控えていた執事っぽいじいさんに案内される。
「カマセーヌ様はずっとこの日を待ち望んでおられました。本当はもう少し早く建国宣言をなさるおつもりでしたが、ある日突然、リクト様達が魔王を倒すまでは待つと仰られ、日々準備を進めておられたのです」
前を歩く執事さんが背中で語る。
なんかあれだな、そう聞かされるともうちょっと早く魔王を倒せる様に頑張ればよかったかなと思ってしまう。
とはいえ、俺達が魔王を倒したのは魔王が魔界に戻ったタイミングだったからな。
どちらにしても時期は選べなかったか。
「こちらです、中にお召し物が用意してありますのでどうぞ」
執事さんが扉を開く。
「おうシリト、やっと来たか」
そこには、豪華な服を着たヒゲのおっさんが居た。
「おっさんこんな所で何やってんだよ?」
「お前さんを待ってたんだよ。ほれ、さっさとこれに着替えろ」
そう言っておっさんが服を投げつけてくる。
「おい、なんだこの服は?」
それは、ピンク色の全身タイツだった。
「こんなもん着れるか!」
俺はタイツを地面に叩きつける。
「心配するな、その上からコートを着ればいい」
「何の心配だよ!」
ピンク色の全身タイツの上からピンク色のコートって、完全にヘンタイじゃないか!
「俺はこのままでいい」
「あ、こら待てシリト!」
俺は結局着替えないまま、部屋を出た。
おっさんと一緒に、パーティ会場に行き、扉を開く。
きらびやかな空間だった。
見ただけで高そうな飾り付けがそこら中にされており、軽快な音楽が奏でられている。
「おお」
俺は思わず感動してしまった。
ゲームやアニメや映画ではよくある豪華なパーティだが、現実に目にすると、その美しさに目を奪われる。
「シリト、あんまりキョロキョロするんじゃねえぞ」
ヒゲのおっさんに注意されるが無視だ。
こんなパーティ、そうそうお目にかかれるものじゃないだろう。
たまには童心に帰ってはしゃぐのも悪くない。
「スゲー、スゲーなおっさん」
「わかったから落ち着け、ほれ、お前さんの嫁がきたぞ」
俺はその言葉を聞いて振り返る。
そこには……豪華絢爛(ごうかけんらん)なパーティ会場がかすむほどの美しさをまとった美少女達が居た。
「ど、どうかな? リクト」
ユミーリアが恥ずかしそうに聞いてくる。
みんな胸元がバッチリ開いた綺麗なドレスを着ている。
エロイ、だが美しい。
いやらしくなり過ぎない程度に肌が露出されており、逆にエロイ。そして美しい。
「む、胸ばかり見すぎだ馬鹿者!」
エリシリアに怒られた。
見るなという方が無理だ。それほどみんなは美しかった。
「綺麗だ」
「……っ!」
俺はつい素直に感想をつぶやいてしまう。
みんなの顔が赤くなる。
「え、えへへ、ありがとう、リクト」
「ま、まあ、ほめられるのも悪くはないな」
ユミーリアは素直に、エリシリアは目をそらしながら照れている。
「お褒め頂き、光栄です」
「なんだか、ちょっと恥ずかしいです」
メイド服じゃないマキは新鮮だった。ドレスも似合っていてとても綺麗だ。
プリムもいつものドレスと違って可愛い。さすがはお姫様だな。
「おにーちゃん、わたしきれい?」
「ああ、綺麗だぞコルット」
「えへへー」
コルットは綺麗いうよりは可愛いって感じだけどな。
こういう時、レディには綺麗だと言うのが礼儀だ。それくらいは俺も心得ている。
「フッフッフ、リクトよ見るがよい」
「ん?」
アーナがいつも通り、自身を指差す。
「わしじゃよ!」
「ああ、そうだな」
こいつはブレないな、ほんと。
とはいえ見た目だけは本当に美人だ。大きな胸もグッドだ。
残念美人ってのはこいつの為にある様な言葉だな。
「拙者もドレス、着てみたいでござるなー」
「そうなのか?」
俺の腰元で、ランラン丸がみんなを見てうらやましそうにしていた。
「そりゃあ拙者だって女子でござるからな。ドレスを着てみたいと思うのが普通でござるよ」
「そっか、なら今度ドレスを買いに行くか。マイホームの中でなら着れるだろうしな」
イノシカチョウのレア肉納品と尻まんじゅうのおかげで、順調に金はたまってきている。
当初予定していたマイホームの購入費用も浮いたし、ランラン丸のドレスくらい、みんな許してくれるだろう。
「今日のリクト殿は、なんだかやさしくて気持ち悪いでござる」
「なるほど、そんなに海の尻を味わいたいか?」
「大変申し訳ございませんでしたー! それだけはカンベンでござる!」
まったく、人の好意を素直に受け取れないヤツめ。
とはいえ、ランラン丸の言う通り、なんだか今日はちょっと気分が良い。
この豪華なパーティと、その絢爛(けんらん)さを上回るほど美しいみんなを見たからだろうか。
「ところでリクト様、お召し物が変わっていない様ですが?」
マキが俺の格好に気付く。
「ああ、なぜか全身タイツしか用意されてなかったからな。断った」
ピンクの全身タイツって、アホかって感じだ。
あとでカマセーヌさんに文句を言わないとな。
「さようでございましたか。今度リクト様の礼服を買いにいかなければなりませんね」
「ああ、その時は良いものを選んでくれ。俺はどうもその辺のセンスはないからな」
俺がそう言うと、マキがうれしそうに笑った。
「かしこまりました。身に余る光栄です。全力で選ばせて頂きます」
別に全力は出さなくてもいいんだけどな。
そうこうしていると、カマセーヌさんが出てきた。
「みなさま、本日はお集まり頂きありがとうございます! パッショニアがここまでこれたのも、全てはみなさまのおかげです。事前にお達し致しましたとおり、パッショニアは本日より国となります。これからも我が国をより一層、よろしくお願い致します」
そう言ってカマセーヌさんが頭を下げる。
俺達は拍手して盛り上げた。
「さて! ここでみなさまにサプライズがございます。そちらにいらっしゃるリクト様からステキな贈り物を頂きました。どうぞご覧ください」
会場の照明が落ちて、ドラムロールが鳴る。
そしてライトアップされた机には、光り輝く肉が盛られていた。
「おお!」
「こ、これは!」
「みなさまご覧ください。まぼろしと言われた伝説の肉、デリシャスギュウのレア肉でございます!」
会場中で歓声があがる。
「ほう、デリシャスギュウとは、やるじゃねえかシリト!」
ヒゲのおっさんもよろこんでいた。
隣に居るギルド長もよだれをたらしている。
「ただでさえ珍しいこの肉を、リクト様は大量に用意して頂けました。みなさまどうぞ、心ゆくまでご堪能ください!」
カマセーヌさんのあいさつが終わると照明が元に戻り、みんな一斉にレア肉に群がった。
それまで上品だった人々が、みんな一心不乱に肉に飛びついている。
だが、騒ぎが起きたのはそこまでだった。
みんな肉を一口、口に入れた瞬間、静かになった。
自然と目から涙があふれ、笑顔になっていく。
「うまい」
「世の中にこれほどうまいものがあったとは」
「ああ、幸せだ」
「なんという幸福感」
「心が洗われていくのがわかる」
俺達もレア肉を食べる。
相変わらず、天にも昇るうまさだった。
「リクト様、本当にありがとうございます。みなさまが笑顔になる、最高の贈り物でしたわ」
カマセーヌさんが涙を流しながら俺に話しかけてきた。
「提案したのはみんなですよ。俺達みんなでとってきましたから」
「ええ、みなさまありがとうございます」
カマセーヌさんが頭を下げ、みんなが苦笑する。
しばらくの間、会場に居た全ての人ががレア肉を堪能した。
そんな中、ヒゲのおっさんが壇上にあがる。
「ん?」
ヒゲのおっさんがこちらを見てニヤッと笑った気がした。
嫌な予感がする。
「みんな、ちょっと聞いてくれ!」
おっさんが叫ぶと、会場中の人々がおっさんに注目した。
いったい何をする気だ?
「今日は各国の王様や重鎮たちが集まっているからちょうど良いと思ってな。カマセーヌさんに頼んでこの機会を設けてもらった。ちょいと重大発表があるんで聞いて欲しい」
建国記念パーティで重大発表ってなんだよ、いいのかそれ?
というか何を言う気なんだ? ギルド長との子供ができました、とかじゃないよな。
「本日この瞬間に、俺は神の尻をあがめる団体、シリト教を設立する!」
……は?
「みんなも気付いていると思うが、最近邪神をあがめる集団が各国にはびこってやがる。それの抑止力となるべく、魔王をも倒した神の尻をあがめる団体を、正式に設立する事にした」
「代表はヒゲゴロウ様。顧問は私、教祖はライシュバルト様ですわ」
「ええ! 神よ、私です!」
久しぶりに見たな、ライシュバルト。ってそうじゃない。なんだ? 何が起きているんだ?
「ちなみに、代表はヒゲゴロウ様ですが、最高責任者は私です」
マキが手をあげる。
ちょっと待て、マキまでかかわってるのかよ!?
「この尻まんじゅうも、実は教団の名物としてもすでに登録されている。今日まで正式な設立とはしていなかったが、すでに各国に信者が多数居るんだぜ?」
ヒゲのおっさんが尻まんじゅうを持って、俺に笑いかける。
「……で? いつドッキリって出てくるんだ?」
「ドッキリ?」
みんなが不思議そうな顔をする。
そうじゃない、そうじゃないんだ。
早くテッテレーって音楽と共に、ドッキリカードを出してくれ。頼む。
「お前の尻の光に魅せられ、救われた人達は大勢居る。この団体はあくまで邪神の使徒に対する抑止力がメインだからな、特に何か買わせたり大層な決まりは無い。ただ神の尻を正義と信じ、邪神を悪とする、それだけでいいんだ」
「加えて言うなら、決して過激な行為は行わない事。お尻の光とは、ただそこにあるだけで美しい。行動する事が美しいのではない、というのも指針に掲げられております」
いいんだ、そういう説明はいいんだ。早くテッテレーしてくれ。
「お前の尻の光と活躍、それにレア肉に尻まんじゅう、どれも大好評だぜ? 放っておいても信者が出来そうだったからな。これを機会に正式な教団として設立する事になったんだ。どうだ? うれしいだろシリト」
テッテレーを、テッテレーを早く。
早くしろ! 間に合わなくなっても知らんぞー!
「どうかな、ウミキタ王、デンガーナ王よ」
「いいんじゃねえか?」
「アタシも良いと思うわーん」
各国の王様達も、とってもノリ気だ。
「ふむ、それではここに、セントヒリア、ウミキタ、デンガーナ、そしてパッショニアの4カ国がシリト教を認める事とする!」
セントヒリアの王様が代表して宣言した。
「す、すごい、すごいよリクト!」
「リクトが神様に、か」
「おにーちゃん、神様なの?」
「さすがですわお兄様」
「という事は神の妻か……そう、それはまさに!」
「わしじ」
「待った待った待ったー!」
俺はアーナのいつもの宣言を遮って、ヒゲのおっさんに詰め寄る。
「なんだ、シリト」
「俺はこんなの認めないぞ!」
冗談じゃない。なんで俺の尻をあがめられなきゃならんのだ。
テッテレーがないなら自分でなんとかするしかない。
「えー、今さらそういう事言うなよー」
「面倒くさそうに言うな! 大体、俺に事前に説明や相談無しってどういう事だよ!」
「え?」
「え?」
おっさんがマキを見る。
俺もマキを見る為、振り返る。
「リクト様。さあここでゴッドフラッシュを!」
マキが俺にゴッドフラッシュをうながしていた。
まさかマキのやつ、独断で俺に黙ってたな?
俺はマキをジト目で見る。
「リクト様、熱い視線にとろけそうになりますがそれはまた後で」
「そうじゃねえよ!」
俺は深いため息をつく。
「リクト様、黙って進めた事は申し訳ありません。ですがヒゲゴロウ様の言う通り、邪神の使徒に対して抑止力になるのは事実であり、勝手に増えていくリクト様の信者をまとめる為には必要だったのです。ここはご協力頂けませんか?」
マキが胸の谷間を見せつけながら俺にせまってくる。
まったく、そんな事で俺が釣られるとでも……
「ご協力頂けましたら、私がなんでもリクト様の言う事を聞きますので」
だから、そんなエサに俺が釣られる
「ゴッドフラッシュ!」
え? 何をやっているんだ俺は?
俺の尻の光に、人々が感心していた。
「おお!」
「何度見ても美しい」
「いや、以前見た時よりも美しくなっているのではないか?」
「これは確かに、神の尻だ」
「ああ、間違いない、神だ!」
会場中が俺の尻をほめたたえる。
まったくうれしくない。
というかだ、何をやっているんだ俺は?
身体が勝手にゴッドフラッシュを使ってしまった。
決してマキの胸の谷間やなんでもという言葉に釣られたわけではない。
そう、マキの言う通り、これはあくまで抑止力の為だから仕方ないんだ。
決してさあマキに何をしてもらおうかな、とか考えてない。
童貞を失わなければいいんだよな、とか考えてない。俺は童貞じゃないけど。経験豊富だし。ゲームの中での話だけど。
もちろんこの後、盛大に後悔した。
マキに釣られてしまった自分に自己嫌悪した。
まあ、実際俺が何かしなければいけないわけでもなさそうだし、邪神の使徒に対するけん制になるなら良いのかもしれないけどさ。
マキもその辺を考えて動いてくれたんだと思う。
でも、自分がご神体になってしまった事は、複雑な気分だ。
「アッハハハハ! 尻が、尻がご神体って! しかもマキ殿の胸にアッサリ釣られてゴッドフラッシュって、ヒヒヒヒ、シリト教! シ・リ・ト・教って! やったでござるなリクト殿! ついに神でござるよ! よっ、ご神体! ぷっ、アハハハハ!」
俺は黙って席を立ってトイレに向かう。
そしてズボンとパンツを脱いで、ランラン丸を置いた。
「え? リクト殿? 何を」
「海の尻」
俺の尻が光り、尻からドロドロの白濁液がランラン丸に降り注ぐ。
「いいいいやああああああ!」
ランラン丸の悲鳴を聞きながら、俺は深くため息をついた。
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