第64話 デッドポイント

 前回のあらすじ。

 コルットと一緒にお風呂に入った事がバレて、コルットの親父さんに殺された。



「はぁ、まったく何やってるんですかもう」


 死後の世界、とでもいうのだろうか。

 俺が死んだらやってくる、真っ白な世界。


 ここには俺と神様しかいない。


 神様は毎回姿を変えるが、今回は男勇者の姿だった。


「ああもう、また勝手にデッドポイントを作って、まったくしょうがないですねえ」


 神様がぶつぶつ言っている。


 って待て。


 今何か聞き捨てならない単語があったぞ?


「おい神様、そのデッドポイントってなんだ?」


 神様が驚いた顔でこちらを見た。


 しばらく沈黙した後、突然口笛を吹きだした。


「えー? 私そんな事、言いましたっけー?」


 どんなごまかし方だよまったく。


「で? デッドポイントってなんだ?」


「……あれですよー、デートポイントって言ったんですよ。ほら、美少女達と一緒にお風呂に入るなんて、まさにデートポイント!」

「アホか! デッドとデートじゃ地獄と天国くらいの差があるわ!」

「地獄も天国も変わらないですよ?」

「知るか!!」


 俺のツッコミの勢いに押されたのか、神様は観念した様にため息をつく。


「はぁ……これはもっと後、ずーーーっと後にネタばらししようと思っていたのですが、しょうがないですね」


 神様があきらめた様な顔をした。


「まあ、今回は私にも予想できなかったバッドエンドを迎えたご褒美、という事にしておきますか」


 そう言って、神様がニッコリ笑った。


 男勇者の顔なので、イケメンすぎてむかついた。


「この世界のあなたの人生には、デッドポイントというものがあります。これはあらかじめ決まっていたり、その時突然生まれたりするものです」


 おいおい、いきなりあやしい話になってきたぞ?


「デッドポイントとはすなわち、あなたが必ず死ぬポイントです。特定の条件を満たすと発動します。このポイントになると、あなたはどんなに手を尽くしても死にます」


 死にますって、簡単に言ってくれるな。


「あなたのそのピンク色のコートが良い例ですね。そのコートは普段なら絶大な防御力をほこりますが、デッドポイントでは効果が発揮されません。アッサリ死にます」


 ……なるほど、そういう事だったのか。


 あの時、オウガが自爆技を放った時、なぜ絶壁のコートの力が発動しなかったのか、謎が解けた気がした。


「最初のゴブリンクイーンは、あなたが戦う勇気を持っていない状態で攻撃を受ければ必ず死ぬというポイントでしたね」


 なるほど、だから戦うつもりで挑んだ時はダメージを受けても生きていたが、最初の頃……戦う気がなく、逃げようとした時は即死だったのか。


「オウガの自爆技は言わなくてもわかりますね。あとはゴブリンクイーンの自爆だったり、今回のリュウガの怒りの技もそうですね。必ず死にます」


 どうりで親父さんの攻撃でアッサリ死んだと思ったよ。


 俺の人生にそんなモノが仕組まれていたとは。


「なんでそんなものがあるんだよ」


「簡単に言うと、積み防止の為ですね。たとえばオウガの自爆技で死ぬポイントですが、アレがなければ今頃街が燃えさかったまま、ストーリーが進んでましたよ? それじゃあ困るでしょう?」


 確かに、あの時はやり直し出来て良かったと思った。


「とまあ、私がデッドポイントが作られる様に仕掛けたのですが、全てのデッドポイントがわかっていたら私が楽しめないですからね。こうしてランダムでも発生する様にしておいたのです」


「おいたのですじゃねーよこの馬鹿神様があああ!!」


 おかげでこっちは死ななくてもいい所で死んじまったじゃないか!


「まあまあ、これもひとつの経験だと思って。ほら、早く尻を出して下さい。やさしく撫でて復活させてあげますから」


 神様がそう言うと、俺の身体が動かなくなる。


「さて、今回も3分間、じっくり撫でさせてもらいますよ?」


 俺は死んだ後、復活する為には神様に3分間尻を撫でられなければいけない。


 なんでも尻から神様の力を注入するんだそうだ。


 しかし、この男勇者の姿で尻を撫でられるというのは、いつまで経っても慣れない。


「あああああ! もう嫌だああああ! 頼むからせめて動けるようにしてくれ!」

「そしたら逃げるじゃないですかやだー」


 当たり前だ気持ち悪い!



 結局、俺は尻を撫でられ続け、再び生き返る事になった。




 俺は宿屋のベッドで目を覚ます。


 よく考えてみれば、これって、会議からやり直しなのか?


 もう一度会議して、シズカを摘発して、助けろと?


 なんというか……めんどくさいな。


 うーん、どうしたもんか。



 ……待てよ?


 全部、やり直しなんだよな?


 それはつまり、あの……お風呂のサービスも?



 ……




「で? どうしてここにいるんですか、あなた?」


 俺は再び、神様の居る、真っ白な空間にやってきた。


「イヤー、コルットがマタ余計な事言っちゃってサー」


「ハッハッハ! 神様の前で嘘は良くないですね。もう一度お風呂でサービスを堪能したくて、わざと死んだでしょう?」


「そ、ソンナコトナイヨ?」


 図星だった。


 気づいてしまったのだ。


 この日の最後に死ねば、会議とかは面倒くさいが、再びあのパラダイスを味わえると。


「このままじゃ先に進まないじゃないですか。まったく、しょうがないですねー」


 神様が後ろを向いた。


 何をするのかと見ていたら、突然神様の身体が光った。


 すると、神様の姿が男勇者から、ヒゲのおっさんになった。


「わざと死ぬ様な子には、お仕置きが必要ですね。そう……おヒゲをスリスリしながら、お尻を撫でられるとか?」


 神様がヒゲのおっさんの顔でニヤリと笑った時、すでに俺の身体は動かなかった。


「や、やめろ、やめてくれ!」

「ハッハッハ、おヒゲ スリスリ 尻ナデナデですよー!」


 神様が指をいやらしく動かしてせまってくる。


 そして、ヒゲの生えた頬やアゴを俺の顔にひっつけて……



「い、いや……いやだ、いやだあああああ!!」



 ジョリっという音と共に、真っ白な空間に、俺の悲鳴がこだました。




「どうしたでござる? リクト殿」


 目が覚めても動かない俺を見て、ランラン丸がたずねてきた。


 俺は燃え尽きていた。真っ白に。


 おっさんのヒゲジョリジョリがあんなにも気持ち悪いものだとは思わなかった。


 ジョリジョリされながらお尻撫でられるのが、あんなにも不快なものだとは思わなかった。


 もう二度と、死にたくない。


 俺は心の底からそう思った。



 とはいえどうしたものか。


 死ぬのは同じ事を繰り返すだけなので簡単だが、いざ死なない様にするとなると、これが難しい。


 コルットとお風呂に入れば、寝ぼけたコルットが親父さんに報告してしまい、その瞬間死ぬ。


 かといってコルットだけのけ者にしたら、絶対泣く。コルットが。それはそれで殺されそうだ。


 そうなると、残念だがみんなでお風呂イベントをあきらめるしかないだろう。


 2回も堪能したんだ、我慢するしかないか。



 俺はまず、会議をこなす。


 適当な所であおって、シズカと帝国の内通者である兵士をあぶりだす。


 それにしても、毎回ムノーダがむかつく。


 一度ギャフンと言わせてやりたいが、この1日ではこいつの正体が判明していない。

 向こうはあおってくるくせに、こっちの挑発にはのってこないのだ。


 思ったよりめんどくさい相手だった。


 そして牢屋でシズカを逃がす。


 これで3回目だ。しくじる事はない。



 あとはシズカの村で……



「やっぱり、そういう事だったのね」



 後ろから声が聞こえた。ジャミリーだ。


 さて、どうしたものか。

 前回はお風呂イベントをもう一度体験したい一心で、1度目と同じ様に相手をしたが……いっそ、全力で倒してもいいかもしれない。


「ジャミリー、俺と本気で勝負してみないか?」


 俺の発言に、ジャミリーはもちろん、エリシリア達も驚いていた。


「……その余裕、私が来るのがわかっていたみたいだね?」


「シズカが裏切ると知れば、邪神の使徒の誰かは来ると思っていたさ。それがお前だっただけだ」


 俺はリュウガに習った構えをとる。


 その構えを見て、ジャミリーの顔色が変わる。


「貴様、その構え……誰に習った?」


「リュウガさ。オウガのライバルのな」

「やはりそうか!」


 その答えを聞いた途端、ジャミリーの黒い闘気がさらに膨れ上がった。


「オウガ様の……ふふ、ふははは! いいぞ! オウガ様の弟子である私が貴様を倒せば、オウガ様は師としてリュウガに勝つ事になる! 最高だ! 最高だぞ!」


 ジャミリーは笑っていた。


 ここまでは今まで通り。

 ここからが本番だ。


「いくぞ! ジャミリー!」

「こい! 尻男!」


 俺とジャミリーがそれぞれ駆け出し、こぶしをぶつけ合う。


 そのままお互い、ラッシュを叩き込み合う。


 やがて俺のこぶしが、ジャミリーの腹に決まった。


「がふっ!」


 俺はすぐさま離れて、距離を取る。


「き、貴様!」

「これで終わりだ! ジャミリー!」


 俺は尻に気を集中する。


 そして必殺の、桃尻波を尻から放つ。


「桃尻波(ももしりは)!!」


 俺の尻から、ピンク色の波動が放たれる。



「う、うわあああああああ!!」



 ジャミリーが俺の桃尻波をモロに食らった。


 今回は威力は少しおさえ目だ。


「あぐっ! な、なんだ今のは? どうして貴様がこれほどの力を……」


 ジャミリーが大きくダメージを受け、フラフラと立っていた。


「もちろん、愛の力だ!」


 俺はユミーリアを、エリシリアを、コルットを守りたい。その為に強くなったのだ。


「ば、馬鹿にしやがってえええ!!」


 ジャミリーが怒りの形相で、俺に向かって駆けてくる。


 さて、そろそろオウガが来る頃か?


 俺はジャミリーの攻撃をかわし、カウンターの蹴りを放って、ジャミリーを吹き飛ばす。


 するとジャミリーが倒れたその向こうには、オウガが歩いて向かってきていた。


「ほう? 俺が来る事もわかっていた様だな?」


 オウガはたいして驚いていなかった。


 むしろどこかうれしそうだ。


「すう……はあ……」


 俺は深く深呼吸をする。


 そして、息を止めて、力を集中する。


「む? 貴様、何をする気だ?」


 オウガが俺の行動に異変を感じる。


 俺は今回、今の俺の力が、オウガにどれくらい通用するのか試してみたかったのだ。


 だんだん俺も、コルットの戦闘狂がうつってきているのかもしれない。



「食らえオウガ! これが今の俺の、最大の力だ!」


 俺の尻からまばゆいピンク色の光が放たれる。


 俺は今までで最大の力で、遠慮無しに、桃尻波を放つ。


「うおおおお! 桃尻波ーーー!!」


 俺は思いっきり、尻を突き出して桃尻波を放つ。


 するとピンク色の光は、なんとお尻の形になって空へと舞い上がった。


「?」


 オウガが不思議そうな顔をしていた。


 俺も不思議だった。


 全力で放った桃尻波は、空へと舞い上がっていった。


 オウガと二人で、空を見上げる。


「何がしたいんだ、貴様は?」

「いや、予定ではものすごい波動がお前に向かって放たれるはずだったんだが……」


 俺の額に、一筋の汗が流れる。


「……どうやら俺の、見込み違いだった様だな」


 オウガが構えをとる。


 マズイ。


 実は今の桃尻波で、結構疲れてしまった。


 ここはゴッドヒールで回復するべきか?


 そう思ったその瞬間。


 なぜか周囲が暗くなった。


「?」

「?」


 俺とオウガは、二人で空を見上げた。


 そして、二人して固まった。



 空には、大きなピンク色の尻があった。


 大きな尻が、俺達に向かって、ゆっくりと降りてきていた。


「な、なんだ? 貴様! 何をした!?」


 俺にも良くわからなかった。


 俺はただ、全力で桃尻波を放っただけだ。


 それがなぜ、東京ドーム1個分くらいの大きさのピンク色の尻が、空から降りてくる事になったのか。



 村人達が悲鳴をあげて逃げ出した。


「リクト! アレはお前の尻だろう!? なんとかならないのか!」


 エリシリアがあせって叫んでいる。


「違う! アレは俺の尻じゃない。俺の尻はここにある」

「そんな事はわかっている! アレはお前の尻から生み出された尻なのだろう!?」


 アレは俺の尻ではなく俺の尻から生まれた俺の尻。


 だんだん尻がゲシュタルト崩壊してきた。


 とにかく、今俺達に、ピンク色の尻がメテオの様にせまってきている。


「ええい! おのれ!」


 オウガが飛び上がり、ピンク色の尻を受け止める。


「ぐう!?」


 だが、すぐにおされて地面に降り立つ。


「おい貴様! 貴様の尻だろう!? なんとかせんか!」


 とうとうオウガにまで言われた。


 なんとかって、どうすりゃいいんだよ!?


 だんだん、ピンク色の尻がせまってきた。



 そしてついに、尻が地面にキスをした。



「ぐあああああああ!!」


 オウガが悲鳴をあげる。



 ……だが、俺達はなんともなかった。


 むしろ傷が癒されていく気がする。


 周りを見ると、建物は壊れておらず、村人もみんな無事だった。



「な、なんだべこの綺麗な光は?」

「あたたかい光りだんべ」

「ありがたやありがたや」

「ピンクのお尻が降ってきて、オラ達を癒してくれてるだか?」



 村人達はピンク色の光に、感動していた。


 一方、オウガはひとり、苦しんでいた。


「ぐおおおおお! こ、こんな馬鹿な! この俺がああああ!!」


 やがてオウガを中心に、爆発が起こった。



 爆発の煙が晴れると、そこにはボロボロのオウガが居た。


「ぐ、ぐう……まさか、この俺が……!」


 オウガがヒザをつく。


 まさかの桃尻波ではなく、桃尻メテオだった。


「これほどまでに貴様らと差が出来ていたとはな……貴様らの力をあなどっていた」


 オウガはそう言うと、例の瞬動術(しゅんどうじゅつ)を使って、ジャミリーを回収した。


「今の俺では、貴様らは倒せん……だが、俺達も負けたままではいられん。今に見ていろ、リクト!」


 オウガはそのまま去っていった。


 瞬動術とやらを習っていない俺達は、オウガを追いかける術はない。


 だが、今日はこれでよかった。


 逃げられるのはわかっていたので、ある意味、力試しだったのだ。


 今の俺でも、オウガを倒せる事がわかった。


「リクト」


 エリシリアが真面目な顔をして、話しかけてきた。


「さっきの技は心臓に悪い、あまり使わないでくれ」


 残念ながら、桃尻メテオはエリシリアには不評だった。



 しかし、我ながらとんでもない技が生まれてしまった。



 俺はその後、シズカの弟の病気を治し、シズカの罪が軽くなる様、王様に進言した。



 問題は、この後……


 そう、ロイヤルナイツ達のサービスだ。


 今回のデッドポイント? だったか。


 あれはコルットとお風呂に入ると親父さんに殺される、という法則な気がする。


 ならば、俺がとる道はひとつ!



「コルット、これから一緒にお風呂に入る事は、おとーさんには絶対に言っちゃダメだぞ? 約束できるか?」

「うん! わかった!」



 これしかなった。


 お風呂でサービスイベントをスルーするという選択肢は、無い!


 俺は今回も、サービスイベントを堪能した。



 そして、みんなの肌色を十二分に堪能した後、俺はこの日の、最後の戦いに挑む事になる。




「おう、おかえり、コルット」


 宿屋でコルットの親父さんがむかえてくれる。




 俺が今日という日を乗り切る為の作戦が、始まろうとしていた。



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