第33話 神の尻と呼ばないで
「大丈夫か、ユミーリア」
俺はユミーリアをゴッドヒールで回復させた。
盗賊のアジトに乗り込んだ俺達は、その奥で邪神の使徒の幹部クラスとの戦う事になった。
冒険力6,800という強さで男勇者達を圧倒したが、ユミーリアを傷つけられた俺は怒り、ランラン丸と覚醒融合して、邪神の使徒を倒した。
そして、今、傷ついたユミーリアを回復させていたのだが……
「美しい」
なんと、ブッ飛ばした邪神の使徒が起き上がった。
「お前、まだやる気か!?」
俺は刀を構える。
しかし、どうも様子がおかしい。
俺が警戒している事に気付いたのか、邪神の使徒はその覆面を脱ぎ捨てた。
「失礼しました! こんなもの、もう必要ありません!」
その素顔はイケメンだった。歳は30位だろうか、若くはない。いくつも修羅場をくぐり抜けてきた様な、頼りになる男という感じだった。
「私が間違っておりました! あなたこそ、この世界を救う真の神! 私をお許し下さい!」
そう言って、男は土下座した。
俺達はあっけに取られて見ている事しかできなかった。
これはあれか?
《なんと、邪神の使徒が起き上がり、仲間になりたそうにこちらを見ている》というやつか?
「ちょ、ちょっと待て、俺が神って、どういう事だ?」
俺の言葉を聞いて、男はガバッと顔を上げる。
「はい! あなたからあふれたあの後光! あの光はまさに神の光に違いありません!」
後光? なんの事だ?
「それって、リクトのお尻の光の事じゃない?」
ユミーリアが説明してくれる。
ああなるほど、俺の尻の光か。あれか、ゴッドヒールを使った時の光か?
「えっと、これの事か? ……ゴッドヒール」
俺はもう一度、ユミーリアにゴッドヒールをかける。
すると俺の尻が、激しく光りだす。
「おお! それこそまさに神の光! 美しい! 素晴らしい!」
男が俺の尻の光に感動していた。
「やはり間違いない! 神よ、私が間違っておりました。あの様な邪神をあがめるなど、間違っていたのです。これからは心を入れかえ、あなたに尽くしましょう!」
俺はみんなを見た。
みんな困った様に目をそらした。
「じゃ、じゃあアレだ、俺達についてきてもらって、ギルドで今回の事や、邪神の事を話してもらうぞ?」
「はっ! お任せ下さい!」
いいのかよ。
俺は気が抜けて、元の姿に戻ってしまった。
「あ! いつものリクトだ!」
ユミーリアとコルットがこちらに駆け寄ってくる。
「やっぱりさっきの、リクトだったんだね?」
「わたしもビックリしました、おにーちゃんだったんですね」
二人とも、どうやら俺とランラン丸が融合した姿が、俺だと確信が持てなかったみたいだ。まあ、髪の色とか服装が変わってたしな。
「ああ、ランラン丸と融合……合体したんだ」
「ランラン丸と?」
二人がそれを聞いて、驚いていた。
「それよりもだ、どうしよう、これ……」
俺は、今やひれ伏し、ニコニコとこちらを見てくる邪神の使徒を見る。
「とりあえず、ギルドにつれていけばいいんじゃない?」
魔法使いが話しかけてきた。
「こいつが本当の事を言っているのかも、どういうつもりなのかも、私達じゃ判断できないでしょう? なら大人しくしている内に、ギルドに任せた方がいいわ」
うん、確かにもっともな意見だった。
「ああそうだ、そういえばこいつは……なんとかならないのか?」
俺は邪神の使徒に、カプセルの中の盗賊の親分について聞いた。
「……申し訳ありません、もはや助かる段階ではありません。助けるという意味であれば、先程あなたが見つけたパイプを切断して、眠らせてあげるのが一番かと」
眠らせる……それはつまり。
「死ぬって事か」
「パイプを切断すれば、邪神の力の供給を断たれ、その身体を維持する事ができず、カプセルの中でとけてなくなるでしょう。それはつまり、永遠の眠りを意味します」
俺の問いに、邪神の使徒はこたえる。
確かに、眠らせてやった方が、この盗賊の親分の為かもしれない。自我を失ってモンスターになるよりは、人間として死んだ方がいい、という事だ。もちろんそれは、俺達の勝手な思い込みにすぎないけど。
まあ、このまま放っておいて、ライオルオーガになって襲ってこられても困るしな。
俺はカプセルに繋がっているパイプを、ランラン丸で斬った。
すると邪神の使徒の言った様に、カプセルの中の盗賊の親分は、とけて消えていった。
全員がそれを、なんとも言えない表情で見ていた。
「さて、それじゃあ帰るか。お前以外にはもう、ここには誰も残っていないんだな?」
俺は邪神の使徒に確認する。
「はい! 私が最後のひとりでした」
こいつの言う事を信じて良いのかはわからないが、一番の問題のライオルオーガは消したし、他のカプセルには何も無い事から、ひとまずここの脅威は去ったと見ていいだろう。
あとは、帰る方法だが。
できればマイルームでサクッと帰りたい。
しかしそれには問題が2つある。
1つは、こいつ……この邪神の使徒だ。
こいつはマイルームに入れるんだろうか? パーティメンバーじゃないとマイルームの中には入れないが……戦利品扱いとかでなんとかなるだろうか。入れないなら徒歩で帰るしかないか。
2つめは、マイルームの《一度行った事がある場所にならどこにでも行ける》という能力がバレる事だ。
これは男勇者達には説明していないし、ユミーリア達にも秘密にしておく様に言ってあったので、まだバレていないはずだ。
しかし一気にギルドに帰れば、その能力はバレてしまうだろう。
まあこれに関しては1つ対策がある。問題は、ユミーリアとコルットがちゃんと言う通りにしてくれるかだが……
俺はユミーリアとコルットを呼んだ。
「なになにリクト?」
「どうしたのおにーちゃん?」
俺は二人に、コッソリと話す。
「いいか? これからマイルームを使ってギルドに戻る。だけど俺はその力を、ギルドにだけ戻れる能力だとみんなに説明する」
そう、1箇所にしか飛べないという事にするのだ。それなら犯罪に使われる事を疑われる心配はあるまい。
「あれ? リクトのそれって、行った事がある場所ならどこにでも行けるんじゃなかったっけ?」
ユミーリアが疑問を持つ。
「そうだ、だがその事は、俺はパーティメンバーだけの秘密にしたいんだ。みんなに内緒にしてくれるか? ユミーリア、コルット」
俺のその言葉を聞いて、二人がうなずく。
「私達だけの秘密……わかったよリクト! 私、ちゃんと内緒にする!」
「わたしも! ちゃんと秘密にするよ、おにーちゃん!」
二人が笑顔でこたえてくれる。
男勇者達は俺達が内緒話をしている間に、邪神の使徒をロープでしばっていた。
「意味は無いと思うけど、一応ね」
魔法使いがそうこたえる。
「よし、それじゃあこれから、マイルームでギルドに帰るぞ」
俺の言葉を聞いて、男勇者達がこちらを見てくる。
「どういう事だい? マイルームって、リクトのあの便利な部屋の事だよね?」
男勇者が首をかしげている。
「マイルームには、ギルドに一瞬で戻れる能力があるんだ。それで帰ろうと思う」
「はあ!? どこまでデタラメなのよ、あなたの能力は……」
魔法使いが驚いていたが、俺は無視して邪心の使徒を引っ張った。
「そいつはマイルームに入れるの?」
「戦利品って事で、どうかなと。まあレア肉と同じ扱いかな」
俺はマイルームを出して、みんなに中に入る様にうながした。
「おお! 素晴らしい、やはり神の尻!」
邪神の使徒が、俺の光る尻から出た扉を見て感動していた。
だから神っていうのやめろ。ていうかなんだ神の尻って。
俺はツッコムのも面倒くさくなって、邪神の使徒を引っ張ってマイルームに入った。
「これは、これが神の……まさに神域か!」
邪神の使徒はアッサリとマイルームに入れた。
戦利品扱いで入れたって事は、こいつ、本当にもう戦う気はないらしい。
「さてそれじゃあ、帰るぞー?」
俺はマイルームの扉を閉め、ギルドの前を出口に設定する。
そしてマイルームの扉をあけて、外に出た。
「あきれた、本当になんでもありね」
マイルームを出ると、目の前にギルドがある。
その光景に、魔法使いはすでに驚くを通り越してあきれていた。
「この調子だと、まだ何か秘密があるんじゃないの?」
そう言って魔法使いは俺ではなく、ユミーリアとコルットを見る。
「ナ、ナニモナイヨ? ホントダヨ?」
「な、何もないです! 絶対にないです!」
ユミーリアは目が泳いでいて、カタコトだった。
コルットは必死に首を振って、涙目になっていた。
「あーもう! わかったわよ、聞いた私が悪かったわよもう!」
どうやら二人のわかりやすすぎる必死さに、罪悪感を感じた様だ。
「まったくもう、あなたねえ! あなたの力が便利なのはわかったから、もう少し使い時を考えなさい!」
なぜか俺が怒られた。
「ん? おおシリトか! どうした……っておめえ、そりゃなんだ?」
ギルドからいつものヒゲのおっさんが出てきた。
おっさんは俺が連れている、邪神の使徒を見る。
「ライシュバルトじゃねえか、お前さん、何してるんだ?」
どうやらおっさんの知り合いの様だった。
ていうかこいつ、そんなカッコイイ名前だったのか。
「おっさん、こいつを知ってるのか?」
「知ってるも何も、そいつはウチのギルドの、Aランク冒険者だぜ?」
「Aランク!?」
俺達は驚いた。冒険者という事にもだが、Aランクだった事にだ。
どうりで強かったわけだ。
「なんだ、お前さん知らずに一緒にいるのか? どういう事だ、説明してみな」
俺はヒゲのおっさんがギルド長の旦那だという事を思い出し、おっさんに簡単に説明した。
盗賊のアジトに行った事、そこで邪神の使徒がモンスターを生み出していた事、こいつがその邪神の使徒の幹部だった事を。
「なるほどな。よしわかった。これはこんな場所でする話じゃねえみたいだ、ついてきな」
俺としては、こいつをギルドに任せて帰りたかったんだが、どうやらそうもいかない様だった。
「あ! みなさん、お帰りなさい」
ラブ姉が笑顔で迎え入れてくれる。
俺はラブ姉を見て、ラブ姉の姿をした神様に尻を撫でられた事を思い出し、ちょっと照れくさかった。
「ってあれ? どうしてライシュバルトさんがロープでしばられているんですか?」
ラブ姉もこいつの事を知っていたらしい。。
「おう、あいつを呼んできてくれ。こいつは……かなりのやっかい事だ」
ヒゲのおっさんの言葉を聞いて、ラブ姉は奥に走っていった。
俺達はギルドの2階に通された。
そしてみんなで、会議室と札に書かれた部屋に入った。
中には大きな机と、たくさんの椅子が並んでいた。
「好きな所に座ってくれ」
ヒゲのおっさんのその言葉を聞いて、俺達はそれぞれ好きな場所に座った。
うーん、ここまで流れにのってきたけど、これはいったい、どういう事になるんだ?
俺は今回、この邪神の使徒をギルドに引き渡して、それで終わりだと思っていた。
しかしこの邪神の使徒は、実はAランク冒険者で、どうやら俺達は今回の事に関する会議に出席する事になったみたいだ。
「……おっさん、これ、俺達いる必要ある?」
俺はおっさんに疑問をぶつけてみる。
「俺としては、あとはギルドに任せて、もう帰りたいんだけど?」
「なに言ってやがる、お前さんは当事者だろうが。お前さんに聞かなきゃわからん事があるだろう。黙って待っていろ」
ダメみたいだった。
少し待つと、ギルド長とラブ姉が部屋に入ってきた。
「待たせたね。というか、こっちも忙しいんだ、あんまり気軽に呼ばれても困るんだけどねえ」
ギルド長は文句を言いながら、席に着いた。
ラブ姉もその隣に座る。
「悪いな。だが見ろ、こいつを」
「こいつって、あんた……ライシュバルトかい? しばらく見ないと思っていたら、なんでロープでしばられているんだい?」
おっさんに言われて邪神の使徒を見たギルド長が、驚いていた。
「マダム・アリア、私がここに居る理由は、私が語っても良いだろうか?」
邪神の使徒がギルド長に話しかける。
ちなみに、アリアというのはギルド長の名前だ。
「そうだね、まずはあんたの話を聞こうじゃないか」
「ありがとうございます」
さて、この邪神の使徒は何を語ってくれるのだろうか。
「私はある日、この退屈で理不尽な世界に嫌気がさして、街をさまよっていた。その時、声をかけられたのです。この理不尽な世界を変えてみたくはないか、と」
邪神の使徒、ライシュバルトは目を閉じて、過去を語った。
「私はそれまで、全て自分の思い通りに生きていました。あっという間にAランク冒険者になる事ができて、自分にできない事はないと思っていました。正直、退屈でした」
「しかし私は知りました、Sランク冒険者という存在を。自分が決して届かず、超える事ができない存在を。私は自分の思い通りにいかないこの世界の理不尽を知り、絶望しました」
なんだか、話だけ聞いているとずいぶん自分勝手というか、それまで思い通りにいって退屈だったのに、思い通りにいかないと理不尽って……
「そこで声をかけてきたのが、邪神の使徒でした。私は邪神の使徒のアジトに連れて行かれ、そこで邪神の存在を知りました。私はこの退屈で理不尽な世界を変えてくれるのではないかと思い、邪神の使徒となったのです」
「邪神の使徒、ねえ」
ギルド長がまゆをゆがませる。
ギルド長は、邪神の使徒の事をどこまで知っているのだろうか?
「そこで私はいつしか、邪神の使徒の幹部となり、邪神の力を使ってモンスターを生み、改造する事に手を貸していました」
「モンスターを生んで、改造だって!?」
ギルド長が驚いていた。今の話は普通に聞いたら、まあ驚くよな。魔法使いとか男勇者も驚いてたし。
「私はそうする事が、世界を変える事に繋がると信じていました。だが……それは間違いでした! 神は邪神ではなかったのです! 神はそう! 別にいたのです!」
あれ? なんだかライシュバルトのテンションがおかしくなってきた。
なんだかすごく……盛り上がっている?
「そう! あの光、あの輝きはまさに神! そう! 彼こそ神! 神の尻を持つ男なのです!」
そう言って、ライシュバルトは俺を見つめていた。
「神の尻……そうか、そういう事か、シリトよ」
ヒゲのおっさんが意味深にうなずいている。
何がそういう事だよ、ていうか俺の名前はリクトだって何回言わせる気だ。
「シリト様!? なんと素晴らしいお名前だ! おおシリト様! 神の尻を持つ男よ!」
ライシュバルトがロープにしばられながらも、身体をクネクネさせている。気持ち悪い。
「私はあの光で目が覚めたのです! 私は邪神の使徒をやめます! むしろシリト様の使徒となりたい!」
なんだこいつ……ていうかなんだよ俺の使徒って!?
「そ、そうか……なんだ、まるで洗脳だな」
ギルド長がライシュバルトの行動を見てあきれていた。そして俺を見てくる。
いやいや、してないからな? 俺は洗脳なんてしてないから! そんな力持ってないから!
「おっとマダム・アリア! それは違います! 洗脳とは、脳を洗うと言いますが、私は心を洗われました! まさに洗心です!」
これ、日本語でなら、うまい事言ったみたいに話が進んでるけど、本当は何て言ってるんだろう? ゲームの世界の言語ってどうなってるんだろうな?
って、そんな事はどうでもいい。早くライシュバルトを黙らせないと。
「おお! シリト様! 神の尻を持つ男よ!」
だからその神の尻ってのはやめろ!
と言いたい所だが、なんだかちょっと、こいつに話しかけるのは嫌だった。話通じなさそうだし。
あとこいつ、なんか気持ち悪い。このまま放置して帰りたい。
しかし……俺は俺で、こいつに聞きたい事があった。
だがその話をしようとして、ふと考える。
ここでこの話をするのは、正解なのか、だ。
俺が確認したいのは、今後のストーリーにかかわる事だ。
そう思うと、男勇者やユミーリアには、聞かせない方がいいんじゃないかと思う。
ヘタに情報を与えて、本来のストーリー通りに進まなくなってしまうのは困る。
今回の様にイレギュラーな事態が起こると、また死んでやり直しを繰りかえさないといけなくなってしまう。
だから、俺はこの話は、最低限の人数でしたいと思っている。
だが、それすら正解なのかわからない。俺は何も知りませんで通して、ヘタにつつかない方がいいんじゃないかとも思う。
だけど、このまま終わりってのもそれはそれで気になる。
俺は悩んだ末、結論を出した。
「こいつに聞きたい事があるんだが、内容が内容なだけに、話す人数を減らしたい」
俺の発言に、みんなが注目した。
「俺と、こいつと、ギルド長と……あとおっさんの、4人だけで話がしたいんだ」
「いったい、何の話をする気だい?」
ギルド長がこちらをにらんでくる。
……怖い。俺、変な事言ってないよね? ちょっと帰りたくなってきた。
「俺が、したい話は……」
俺はギルド長の視線にグッとこらえ、続きを話す。
「邪神と、邪神の使徒と、邪神の教祖に関してだ」
俺の言葉に、ライシュバルトと、ギルド長の目の色が変わった。
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