第46話 東口、深まる謎

 敵の自爆で死んだのは、これで二度目だ。


 一度目はゴブリンクイーン。そして二度目は、オウガだった。


 人間なのに自爆ってどういう事だよ? 爆弾でも身体に仕込んでたのか?


 まあしかし、今回はもうひとつ失敗があった。


 俺達が居た東口以外の、西、南口がオーガ軍団の侵攻に耐えられなかったのだ。


 そのせいで、街が燃えてしまった。


 そういう意味では、やり直しできてよかったと思う。


「しかし、どうしたもんか」


 俺達が東口に集中すると、他の西と南が落とされる。


「ん? 確か南には男勇者が居たはずだよな? どうなったんだ?」


 俺は神様を見るが、ヒゲのおっさんの姿をした神様は微笑むだけで、何も答えてくれない。


 ヒゲのおっさんに羽が生えているので、ものすごい違和感だ。正直気持ち悪い。


 ……って、今はおっさんはどうでもいい。


 今考えるべき事は、東、西、南の3箇所をどう守りきるか、そして南に居るはずの男勇者がどうなったのかだ。



「……南と西に、ユミーリアとコルットを配置するしかないか」


 東口にはロイヤルナイツが居る。


 オーガキング3体は俺とロイヤルナイツが居れば、なんとかなるだろう。


 問題はオウガとジャミリー、フィリスの三人だ。


 フィリスは多分、ユミーリアが居る方に向かうだろう。


 残りの二人は、同じ様に東口に現れるのだろうか。

 だとすれば、俺がランラン丸と融合すればなんとかなるか?


 ……ダメだ、オウガの自爆の規模がわからん。どれだけ離れていればいいんだ? そもそもどうやって自爆しているんだ?


 逆に、倒さない方がいいんだろうか? 適当に時間を稼ぐとか。



「考えるのもいいですが、こちらもしっかりと、こなしてもらいますよ?」


 俺の思考を無視して、神様が近づいてきて、俺の尻に手をそえてくる。


 そして、ゆっくりと撫で始める。


 俺は生き返る為に、神様に3分間、尻を撫でられなければいけないのだ。


 しかし……


「ああ! この感触の為に生きてるって感じ?」


 神様の姿がヒゲのおっさんなので、おっさんに撫でられているみたいで非常に気持ち悪い。撫で方も気持ち悪い。最悪だ。


「ああもう! 早く終わらせてくれええええ!!」



 やがて、俺にとって、地獄の様な3分間が終わる。


「うえええ……」


 もう嫌だ! これ以上撫でられたくない。絶対に死にたくない! むしろ死にたい。


 俺は涙目になりながらも、神様のセクハラに耐えた。



「それでは素晴らしき尻魔道士よ、そなたに もう一度、機会を与えよう!」


 俺の目の前が光り輝き、真っ白になった。




 気がつくと、俺はマイルームのソファで寝ていた。


 そばには、ユミーリアとコルットが寝ていた。


 ……そうか、この日は朝まで修行をした後、1時間だけ仮眠をとったんだっけ。


 俺はユミーリアとコルットを起こした。



 そして、今日の作戦を伝える。


「ユミーリア、コルット。俺達は強くなった。おそらくオウガ達にも負けないだろう」


 実際、融合したとはいえ、俺でもオウガに勝てた。


 すでに戦闘でなら、俺達に負けはないだろう。


「しかし、今日攻めてくる敵は、あいつらだけじゃない。オーガの軍団だ。それは俺達が配置される東口だけじゃなく、南と西にもやってくる」


 俺の言葉を聞いて、ユミーリアがうなずいた。


「確かに、そうだよね。でも南には、兄さんがいると思うけど?」


 そう、南に居るのは、ユミーリアの兄である男勇者だ。


「確かにな。だが、もし南の方に敵が集中したらどうだ? ユウ達だけじゃ厳しいかもしれない。あとはもしかしたら、西の方に敵が集中する事もあるかもしれない」


 俺の言う事に、ユミーリアが悩む。


「うーん、確かに、どこにどれだけの敵が来るか、わからないんだよね」


「そこで俺からの提案だ。今日は俺達が、3つにわかれよう。俺が東に、ユミーリアが南、コルットは西に行ってほしいんだ」


 これが俺の結論だった。


 東は俺とロイヤルナイツでなんとかするしかない。


 南は男勇者が居るから、妹であるユミーリアが連携をとりやすいはずだ。


 残る西は、何が起きるかわからない。

 正直俺が行って確認しておきたい。


 だが、オウガとジャミリーが来る可能性が高い東に、コルットを残して行きたくない。


 いくらコルットなら勝てるかもしれないといっても、オウガにはあの自爆がある。


 なら、俺が東に残って、コルットに西に行ってもらった方がいいだろう。


「コルット、無理はしないでいい。何か対処できない事が起きたら、全力で逃げるんだ、いいな?」

「うん!」


 俺の言葉に、コルットが元気よくうなずく。ケモ耳がゆれて可愛い。


「よし、いい子だ。ユミーリアも、もしかしたらそっちにフィリスが行くかもしれない。気をつけろよ」


「うん、わかった! リクトも、気をつけてね」



 マイルームの出口を西に設定して、コルットが出て行く。


 続いて南口に設定して、ユミーリアを見送る。


 最後に、東口に設定してマイルームを出る。


 俺はおっさんとの待ち合わせ場所、街から少し離れた街道に向かった。



「あん? どうした、お前さんひとりか?」


 おっさんが俺ひとりで来た事に驚いていた。


「ああ、ユミーリアとコルットにはそれぞれ南と西に行ってもらった」

「また勝手な事をしやがって」


 おっさんは頭をかかえると、すぐに人を呼んで、走らせた。


「ったく、説明もなしに急に加われるわけないだろう、そういう事は先に相談してからにしてくれ」


 どうやら今の人達を、南と西へ説明に行かせてくれたみたいだ。


 おっさん有能じゃないか。


「うん、ちょっと見直したわ」

「ぬかせ! それより、ちゃんと強くなってきたんだろうな?」


 俺はおっさんに、ステータスカードを見せる。


「ほう? 確かにこりゃすげえ。だが、相変わらずレベルの割には、低い冒険力だな」


 おっさんがステータスカードを返してくれる。


「ほっとけ!」

「だがまあ、昨日みたいに変身すれば、さらに強くなるんだろう? 期待してるぜ、シリト!」


 だから俺の名前はリクトだっつーの!


 俺はすでに、おっさん相手には突っ込む気にすらなれなかった。



 しばらくして、俺はおっさんと一緒に、戻ってきたロイヤルナイツと合流する。


「ん? 尻男、二人はどうした?」


 軍団長が俺に話しかけてくる。


 っていうか、誰が尻男だ、誰が!?


「俺の名前はリクトです!」

「ああ、すまんすま……え? リクト? シリトじゃないのか?」


 俺はヒゲのおっさんをにらむ。


 やっぱりその名前で俺の事を話してやがったか!


「俺の名前はリクトです!」

「ああ、なんとなくわかった。まあいい。それで? 二人はどうした?」


 俺は軍団長に、今日の侵攻にそなえて修行をした事、二人はそれぞれ南と西に向かった事を話した。


「なるほどな。確かに戦力をここに集中させすぎるのもよくないか」


 軍団長がアゴに手をあてて考えている。


「ここが一番重要とはいえ、確かに他の入り口から進入された。じゃ話にならんか。一応それぞれ優秀な奴らは配置しているが、それでもお前は不安だと?」


 軍団長が俺をにらんでくる。


 さて、どう説明したものか。


「……俺は、勇者の未来が見えるんです」


 結局、いつも通りの説明にする事にした。


「勇者の未来?」

「はい、それで見えたんです。俺達がここを守りきっている間に、街が炎に包まれるのが」


 軍団長は俺をうさんくさそうに見ている。


「シリトの言う事は、多分本当だぜ?」


 ヒゲのおっさんがフォローしてくれる。


「そうなのか?」

「ああ、いつもそれらしい事が起きて、なんとか回避してやがるからな、こいつは」


 おっさんが俺の肩に手を置く。


 おっさんには悪いが、神様に散々尻を撫でられた事を思い出すから、やめてほしい。


「……まあいい。どちらにしても俺達がやる事は変わらん。俺達はここを死守する。たとえ、何が起きてもだ」


 そう言って軍団長はロイヤルナイツの元に戻っていった。



 俺は東、ユミーリアは南、コルットは西についた。


 果たしてこれで、何が起きるのか。



 そう思っていると、オーガ軍団がやってきた。


 エリシリア達ロイヤルナイツがオーガ軍団を倒し、やがてオーガキングが現れる。


 前回と同じ、3匹だ。


「オイオイ、こいつはヤベエな」


 ヒゲのおっさんがオーガキング3匹を見て、汗をかいている。


 だが、こいつらなら問題ない。


 前回は俺達が率先して倒したオーガキングだが、今回はロイヤルナイツ達が何とか倒していた。


 やがてオーガキングが、3匹ともロイヤルナイツによって倒される。


 ここまでは良い。


 もし俺が東にいなくても、ここまではロイヤルナイツで何とかなるという事だ。



「高みの見物か? 尻の男よ」


 オーガ軍団をかきわけて、奥からオウガがやってきた。


 エリシリア達ロイヤルナイツがそれを見て構える。


 今回は、オウガひとりだった。


 俺は前に出る。


「おい、危ないぞ下がっていろ!」


 エリシリアの静止も聞かず、俺はオウガの前に出る。


「そっちこそ、今回はお前ひとりなのか?」

「ジャミリーとフィリスは、キサマの仲間の所へ向かった」


 おそらく、ジャミリーはコルットの所へ、フィリスはユミーリアの所へ向かったのだろう。


 実力的には、二人は負けないはずだ。


「それじゃあ、俺があんたを倒せば、それで勝ちって事か?」

 

 俺はオウガを挑発する。


 だが、オウガはそれをまったく気にしてはいなかった。


「勝ち……か、キサマらはすでに負けている。たとえお前と俺がここでどうなろうと、結果は変わらんさ」


 まただ、まただこいつは勝ちを確信している。


「ランラン丸、いくぞ、融合だ!」

「わかったでござる!」


 俺とランラン丸は、融合の為のキーワードを叫ぶ。



「合(ごう)!」

「結(けつ)!」



 俺の尻が光り輝き、俺とランラン丸は、ひとつになる。


 俺の髪に紫色のメッシュが入り、瞳は金色に、服は黒い着物になる。


 俺は刀を構え、オウガを見つめる。


「ほう? どうやったかは知らんが、キサマ、昨日より強くなっているな」


 オウガは俺を見て、構える。


「だが、それだけに残念だ。この勝負……キサマらの負けだ」


「何を言っている?」



 その瞬間、オウガの言葉を裏付けるかの様に、後ろで……街に火の手が上がった。


「な、なんだと!?」


 軍団長が驚いていた。


 ロイヤルナイツ達も、燃える街を呆然と見ている。


 ただひとり、俺は街を見ず、オウガを直視していた。



「尻の男よ、お前は気にならんのか? 街の事が」


 気になる。


 だが、もしかして街が燃えるかもというのはわかっていた事だ。


「オウガ、あんたに聞きたい。何がどうなった? 西か南で、何かあったのか? あんたはそれを……知っているのか?」


 俺は、ダメ元でオウガに問いかける。


「さてな、西か南でキサマの仲間が殺されたのかもしれんぞ?」


 オウガはそう言って、ニヤリと笑う。


 ユミーリアとコルットが負けたとは思えない。


 だが、それでも俺は、二人のどちらかが殺されたかもしれないという言葉にカッとなる。


 その勢いで、オウガの左腕を斬り飛ばす。


「ぐおおおっ!?」


 オウガが突然の攻撃に、苦しんだ。


「ふっ、やるな……まさかここまで強くなっているとは」


 オウガがこちらをにらんでくるが、俺もオウガをにらみつける。


 こうなってしまった以上、俺は再び死ぬしかない。


 だが、その前にこいつを……ユミーリアとコルットが殺されたなんて言いやがるこいつを、ブッ飛ばしたかった。


「おおおお!!」


 俺はオウガの顔を、思いっきりぶん殴った。


 俺はそのまま、地面に倒れたオウガをおさえつける。


「言え! 何が起こった!?」


 俺の言葉に、オウガはただ笑うだけだった。


「ハハハハ! 残念だったな、尻の男よ。キサマに勝ちは無い!」


 この期に及んで、まだオウガは勝ち誇っている。


「お前がこれから自爆するのはわかっている、だから、死ぬ前に答えろ! 何が起こったんだ!?」


 俺の言葉を聞いて、オウガの顔色が変わる。


「不思議な男だな、キサマは。だが……教えてなぞやらん。キサマの言う通り、俺とキサマは、ここで死ぬのだ」


 そう言った瞬間、オウガの身体が爆発した。




 俺は再び、真っ白な空間に戻ってきた。


「おお素晴らしき尻魔道士よ、死んでしまうとは なさけない」


 俺をむかえたのは、ヒゲのおっさんの姿をした神様だった。


「……なあ、その姿、やめない?」

「やめません。さあ、尻を出しなさい」


 俺はまた、おっさんの姿をした神様に尻を撫でられるのだった。


「いやだあああ! もういやだああああ!」


 俺は神様の力で身動きできない。


「だったら、がんばって死ぬ回数を減らす事ですね。私はいくら死んでもらっても構いませんよ? ああ! 相変わらず素晴らしいお尻です」


 頬を赤く染めて、俺の尻を撫でるヒゲのおっさん……神様。


 うん、とっても気持ち悪い。


 しかし、俺は何とか我慢して、考える。


 東、西、南にそれぞれ俺達が配置しても、街が落とされた。


 いったいどこが原因なんだ?


 こうなったら、配置を変えて、他の場所を見てみるしかないか。



 俺は神様の尻撫でに耐えきり、生き返る。



 生き返った俺は、ユミーリアとコルットに、同じ様にそれぞれ個別に配置につく事を提案し、俺は今回は、西側に行く事にした。


 その為、コルットは東に、ユミーリアには南に行ってもらう事になる。


「コルット、そっちにはロイヤルナイツがいるから、オーガは任せていい。かわりにジャミリーがきたら、お前が倒してくれ。もしオウガも居たら、ロイヤルナイツと協力して、逃げるんだ」


 俺の予想では、俺の元にはオウガが、コルットの元にはジャミリーが、ユミーリアの元にはフィリスがくるんじゃないかと思っている。


「わかった!」


 コルットが元気よく返事をする。

 細かく動くケモ耳が可愛い。


「ユミーリアも、フィリスだけならブッ飛ばしてやれ。それ以外に強敵が現れたら、無理はしないでいい」

「うん、リクトも無理しないでね!」


 俺達はそれぞれ配置を確認し、マイルームを出る。


 ユミーリアを南に、コルットを東に送る。


 コルットを東に送った際、ヒゲのおっさんに俺達がそれぞれ個別に配置を変える事を話しておいた。


 前回と同じ様に、先に言えと怒られた。



 そして俺は、マイルームで西口へと向かう。


 さて、こちらではいったい何が起きるのか。


 そしてあと何回死んで……ヒゲのおっさんの姿をした神様に尻を撫でられるのか。


 考えただけで憂鬱だった。


 できれば今回でなんとか解決したい。


「来たぞ! オーガだ!」




 誰かがそう言って、西口での戦いが始まった。



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