第110話 集結、勇者の力と尻の力
お尻から、炎が出た事はありますか?
お尻が、凍った事はありますか?
お尻から、音と共に風が出た事はありますか? うん、これは普通あるよな。
お尻から、水が出た事はありますか?
俺は今、その全てを経験しました。
《海の尻:尻から液体が出ている間、素早さが上がる。仲間全員にも発動可。液体は任意で消せる》
ユミーリアが勇者の装備を手に入れた瞬間、俺の尻が光り、水が出た。
この水、いったいどこから出てるんだろう?
俺の身体の水分……だったら今頃干からびてるくらいの量は出てるな。
海の尻って事は、海水か?
その割にはなんというか……
「ひいいいいやあああ! なんでござる!? この水、なんかベタベタするでござる! ネチョネチョしてるでござるよ! しかもなんでちょっと色が白いんでござるか!?」
そう。確かに、よく見るとただの水じゃないみたいだった。
白くてネバネバしていて……水とか海水というよりは、白濁液だな。
うん、ランラン丸が刀で良かった。人の姿だったら絵面が危ないものになる所だった。
「いやあああ……白くてネチョネチョしたのがまとわりついてくるでござるぅうう! リクト殿ぉ! 拙者が悪かったでござるから、早くこの液体を止めて欲しいでござる!」
俺は海の尻を解除する。
「ひっく、ひっく……拙者、汚れてしまったでござる。全身白くてベタベタの液体でヌルヌルになってしまったでござる」
ランラン丸が泣いていたが、放っておく事にした。
「とにかくこれで、勇者の装備が全て揃ったな」
「なんと! ここが最後であったか!?」
俺の言葉を聞いて、初代勇者の残留思念、シリモトが反応した。
「そうか、勇者よ、よくぞ試練を乗り越えた。灼熱の地、極寒の地、そして空と海。様々な冒険があったはず。それら全てを乗り越えた今! お主こそ真の勇者だ!」
シリモトが叫んだ瞬間、ユミーリアの勇者の装備が光り輝いた。
そして、俺の尻も光り輝いた。
「むう、さっきからズルイです、ユミーリアさん。リクト様と一緒に光ってばっかり!」
プリムがヤキモチを焼いていた。
俺としては、いちいち尻が光るのはカンベンしてほしいんだけどな。
ユミーリアの装備だけでいいじゃないかと思う。
「勇者よ! 全ての装備を揃えた今、お主は真の勇者と認められた! 勇者の装備の力がさらに強くなったぞ!」
ユミーリアの装備を見ると、確かに先ほどまでよりも輝きを増していた。
「そしてついでに、尻魔道士よ!」
今度は俺を指差してきた。
「お主も全ての属性を集めた事により、光の尻へと進化するのだ! そう、お主の尻は、今まさに光り輝くのだ!」
……え?
尻が光るって、それ、今までと同じじゃね?
「シリモト、その、尻が光るって、今までとどう違うんだ?」
「尻が光るのだ!」
全然わからなかった。
とりあえず、俺は何かわからないか念じてみる。
すると尻が光って、俺の前に文字が現れた。
《光の尻:尻が光っている間、スーパーリクトとなりパワーアップする。効果は自分のみ。解除後、誰かに10分間、尻を撫でてもらわないと死ぬ》
さて、どこから突っ込んだら良いんだ?
いや、突っ込んだら負けか?
前半は1000000歩ゆずろう。後半はなんだ? 死ぬ? アホか!
「リクト、何かわかったの?」
ユミーリアが俺の顔をのぞきこんでくる。
どうやらこの光の文字は俺にしか見えていないらしい。
「……説明するの、嫌だなぁ」
俺は自分の目の輝きが失われていく事を実感していた。
俺の光の尻の説明を聞いて、その場に居た全員が絶句した。
「リクト、その技、使っちゃ駄目だからね?」
ユミーリアが俺の手を強くにぎった。
「私がそばに居ない時は、絶対、ぜーーーったい駄目だからね?」
ユミーリアが俺の目をジッと見てくる。
可愛い。超絶可愛い。
「わ、わかってるって。俺も死にたくはないしさ」
「ええ、ユミーリア様の言う通りです。ですがリクト様、もしもの時は私が誠心誠意、リクト様のお尻を撫でますので、ご安心下さい」
マキが俺の尻を見つめた。
プリムとコルットも、死ぬという言葉を聞いて、心配そうに俺を見ていた。
「大丈夫だって。本当にいざという時以外は使わない様にするからさ」
俺は笑って答えるが、みんなの顔は晴れなかった。
「サーテ、ソロソロイイデスカー?」
その時、上から声が聞こえた。
俺達が殺気を感じて構えた瞬間、天井が壊れて、海水と共にひとりの魔族が侵入してきた。
「お前は!」
コアラの顔をした杖を持った魔族、六魔将軍のひとり、ウミコアラだった。
「ユー達をコッソリつけて来ましたが、そっちのガールは厄介な装備を手に入れたようデスネー」
ウミコアラがユミーリアを指差した。
いつの間にかつけられていたのか、気付かなかった。厄介な装備というのは、勇者の装備の事だろう。
「すでにユー達は、エンドラ、ウマゴオリ、ヤミガーメ、ブタカゼを倒していマース。ミーもおそらく勝てないでショー。だから、ずっと機会を伺ってイマーシタ」
ウミコアラがそう言いながらも、杖を振り回していた。
破壊された天井から、海水が入り込んできている。
「ミーは海の中でも平気デスガー、ユー達はどうでショーネー? ミーは戦いで勝てないから、こうして卑怯な手を取らせてモライマース!」
どうやら俺達を、水攻めにするつもりらしい。
「クックック! 人間とは不便なモノデスネー! 海の中では生きられない。ユー達、デッドエンドデース!」
おおげさな身振りで俺達を笑い飛ばすウミコアラ。
「なあ、お前、どこから俺達をつけていたんだ?」
「船で海に入る前からデース。知ってますヨー、あの船がなければ、ユー達は海のもくずデース!」
なるほど、納得できた。
「お前さ、馬鹿だろう?」
「ナンヤテー!?」
ウミコアラが急に叫んだ。なんで関西弁なんだよ?
「あのな、俺達はこのアクアペンダントがあれば、海の中でも生きていられるんだ。あの船にも同じものを装備していただけだから、この水攻め、意味無いぞ?」
俺は首からさげたアクアペンダントを見せる。
しばらくの間、ウミコアラが考え込んだ。
そして、急に叫び始めた。
「ふぁ、ファーーーッツ!? ズルイデース! 卑怯デース! 反則デース!」
ウミコアラが杖を捨てて取り乱す。
俺は敵が取り乱している隙に、決着をつける事にした。
「海の尻!」
俺の尻が光り、尻から白濁液がほとばしる。
スピードが上がり、一瞬でウミコアラへの間合いを詰める。
「へ?」
「桃尻波(ももしりは)!」
俺の尻からピンク色の波動が出て、ウミコアラを吹き飛ばす。
「ゴッハ!」
俺はそのまま後ろに飛び上がり、尻に力を集中する。
尻から後ろに気を放ち、その勢いで相手に蹴りを放つ。
「桃尻蹴(ももしりきゃく)!」
俺の蹴りが、ウミコアラの腹にヒットした。
「ば、馬鹿な、ミーがこんなやつに……!」
俺の蹴りを受けて、ウミコアラが爆発した。
そしてその爆発の余波で、さらに神殿が崩壊した。
どんどん海水が入り込んでくる。
「げ! し、しまった! さ、さすがにヤバイか?」
アクアペンダントがあるとはいえ、どこまでその効果が発揮されるかわからない。
もしかしたら、水圧で流されてしまうかもしれない。
「みんな! 急いで船に……」
俺はみんなの方を振り向いた。
するとそこには、俺の尻から飛び散った白濁液を浴びた、みんなの姿があった。
「もう、リクトー」
「これが、リクト様の汁」
「おにーちゃん、これベタベタするー」
「あの、リクト様、私まだこういうのはちょっと早いのではないかと……」
俺はみんなに謝った。
しかしあれだ、ユミーリアやばい。普段、エロさとは遠い所にいる清楚なイメージだから、こうなるとマジエロい。
マキは危ない。本当に危ない。メイドさんが白濁液まみれとか本当に危ない。
コルットとプリムは駄目だ。幼女が白濁液まみれとか、本当に駄目、絶対。
「リクト様、リクト汁の感想は後にして、急いで船に戻りましょう!」
マキが俺達を先導してくれる。
俺は床に落ちていたランラン丸を……白濁液まみれで触りたくなかったけど一応拾う。
俺達は走って船に戻った。
「やっときたか! いったい何があったんだ!?」
「話は後だ! すぐにここを離れるぞ!」
俺はエリシリアにそう言って、アーナを見る。
「任せよ! 今こそ、その力を見せる時じゃ! そう、この船を動かすのは……」
アーナが魔力を放出し、船を浮かせる。
「わしじゃよ!」
そう言った瞬間、船が全速力で神殿から離脱した。
ふと見ると、神殿は崩壊していた。
ごめん、ユウ。海底神殿、壊れちゃった。
ユウはこの後、あのガレキの中から、頑張って勇者の岩を探す事になるだろう。
というか無事なんだろうか、あの岩。
俺は心の中で男勇者であるユウに謝りながら、海底を後にした。
俺達はその後、無事地上に戻ってきた。
船を降りて、尻の中にピーチケッツ号を収納する。
「リクト様のお尻には、なんでも入るのですか?」
船を出し入れするのを見て、プリムが驚いていた。
「ああ、今まで試したのは、船と、ランラン丸だな」
「お願いだから思い出させないで欲しいでござる」
白濁液まみれのランラン丸が力のない声でつぶやいた。
「なんかあれだな、ベタベタするし、あんまり触りたくないな、お前」
「これ! リクト殿の尻から出た汁でござるからな! リクト汁でござるからな!」
ランラン丸が俺にしか聞こえない声で、ひとり叫んでいた。
ランラン丸の事はともかく、これで俺達は先代勇者シリモトの言う通り、火山、氷の島、空の島、海底に行って、勇者の装備を揃える事が出来た。
シリモトから言わせれば、全ての試練を乗り越えた、という事だろう。
俺はユミーリアを見る。
純白のよろいがまぶしい。その姿はまさに、真の勇者だった。
「かっこいいぞ、ユミーリア」
「ふえっ!? きゅ、急にそういう事言うのは、ズルイよリクト」
白濁液をタオルで拭いていたユミーリアの顔が、真っ赤になっていた。
可愛い。超絶可愛い。
「これで勇者の装備は揃ったし、後は魔王を倒すだけか?」
エリシリアがマキに確認する。
「はい。勇者の装備があれば魔王にも引けはとらないでしょう。残った六魔将軍もライトニングレオだけですし、問題ないと思われます」
ライトニングレオ、か。
あいつと魔王だけは、ゲームの中では敵の中でも別格の強さなんだよな。
一気に難易度が上がるせいで、投げてしまったプレイヤーも居るくらいだ。
あの時、魔王と少しだけ戦ったが、あの時のままなら、少なくとも俺は勝てないだろう。
修行と、手に入れた力で、どこまで戦えるか、だな。
「とりあえず、リクト」
ユミーリアが俺に話しかけてくる。
「私、お風呂入りたい」
見るといまだにみんな、必死にタオルで拭いてはいるが、白濁液がついたままだった。
俺は急いでマイホームを出した。
マイホームに入ると、すぐにみんなでお風呂に入る事になった。
もちろん俺は別だ。
俺はひとり、ソファに身を沈めていた。
これから、魔王との最終決戦が始まる。
魔王は帝国と組んでいるかもしれないから、帝国ともやりあうかもしれない。
そう考えていたら、ジッとしてられなかった。
俺はひとり、重力室へ向かう。
設定は50倍にする。
重力がズンッと俺にのしかかる。
キツイ。
でも、以前の様に、立ち上がれない程じゃない。
きっと、尻の力が解放された事やランラン丸との融合によって、俺も少しずつ、強くなっているんだ。
俺は正拳突きを放つ。
この重力下では、少し動いただけでも相当体力を持っていかれる。
その為、早くも身体中から力が抜けていく。
「ゴッドヒール!」
俺の尻が輝き、やさしいピンク色の光が俺の身体を包み込み、回復していく。
この世界に来て、仲間が出来て、家族が出来た。
俺は死んでもやり直せる。
だけど、俺以外は死んだらそこまでだ。
守りたい。
俺はユミーリア達を、守りたい。
「やってやる、俺は絶対に、魔王も帝国も、邪神も倒して、みんなと結婚するんだ!」
俺はみんなが風呂から出てくるまで、修行を続けた。
「そういえばプリム」
「なんでしょう? リクト様」
風呂から出て、そろそろ寝ようかという時に、俺はプリムに気になっている事を話す事にした。
「その、リクト様ってのなんとかならないか? マキはなんかしっくりくるからいいんだけど、どうも年下の子から様づけで呼ばれるのは、ちょっと慣れないというかなんというか」
プリムは俺の言葉を受けて、呼び方を考える。
「リクトさん?」
「うーん、それもなんだか、家族になるってのに固い気がするんだよな」
ユミーリアとエリシリアとアーナは俺の事をリクトと呼ぶ。
マキは様づけ、コルットはおにーちゃんだ。
今さらながら呼び方を気にしてみるとおもしろい。
ユミーリアは、エリシリアとコルットに対しては呼び捨て、他はさんづけだ。
エリシリアはみんな呼び捨てだな。プリムも自分だけ様づけは嫌だと言ってそうなった。アーナも同じくみんな呼び捨てだ。
コルットはおにーちゃん、おねーちゃん呼びだ、プリムだけはお互い呼び捨てで呼び合っている。
マキはみんな様づけ。これはしょうがない。スーパーメイドだからな。
プリムはコルットと俺以外は、さんづけで呼んでいる。コルットは呼び捨て、俺は様づけだった。
出来れば様づけで呼ばれるのは、マキだけにしてほしい。
「リクト……お兄様?」
俺の感性が動いた。
「今の、もう一回言ってくれるか?」
「え? は、はい、リクト、お兄様?」
お兄様か。
うん、コルットがおにーちゃんだし、これはいいかもしれない。
「よし、今後はそれでいこう!」
「わ、わかりました、リクトお兄様!」
お兄様。うん、良い響きだ。
元々プリムは妹みたいな感じだったしな。これが一番しっくりくる。
「改めてよろしくな、プリム!」
「はい、リクトお兄様」
その後、なぜかみんなが俺の事をお兄様と呼んできた。
いや、別にお兄様って呼ばれるのが好きってわけじゃないからな? そこまで妹萌えでもないからな?
とはいえ、ユミーリア達にお兄様と呼ばれるのは、なんだか新鮮でちょっと良かった。
その日の夜は、みんながお兄様、お姉様と呼び合い、ちょっとしたお嬢様学園みたいになっていた。
翌朝、俺達はマイホームでマキの用意した朝食を食べていた。
「そういえばお兄様、勇者の装備が揃いましたが、今後は具体的に、どうなさるおつもりですの?」
食事を終えたプリムが、俺に質問をしてきた。
「うーん、まずは魔王を倒そうと思うんだけど、魔王は今、どこに居るんだろうな?」
出来れば、魔王と帝国を一度に相手にするのは避けたい。
魔王は強く、帝国の強さは未知数だ。各個撃破でいきたいと思っている。
「あと、ユウ……ユミーリアの兄であり、男勇者であるユウが勇者の装備を揃えるのを、出来れば待ちたい」
あれでも勇者だ。
なんだかんだで盾は手に入れていたみたいだし、待てば何とかなるんじゃないだろうか?
俺としては、ユウには戦力になって欲しい。
もしかしたら、邪神は勇者でないと倒せないかもしれないからだ。であればユウにはもっと強くなってもらわないと困る。ユミーリアだけに、その重荷を背負わせたくはない。
「かしこまりました。それでは魔王の動向を探りつつ、ユウ様の様子を見ながら、タイミングを見て動く。それまでは皆様は修行を、私は調査をするという事でどうでしょうか」
マキが簡単にまとめてくれた。
うん、現状それがいいかもしれない。
どうせなら、とことん強くなってやろうじゃないか!
プリムもアクションゲームのヒロインだ、きっと強くなれる素質はある。
「よし、それじゃあそれでいこう! 俺は一応午前中はイノシカチョウを狩りに行って、午後から修行に参加する。みんなは適度に修行を続けてくれ。マキは調査を頼む」
「かしこまりました」
「うん、わかったよ!」
「よし、やるぞ!」
「わーい修行だー!」
「一日も早く、皆様に追いついてみせます!」
それぞれが気合いを入れ直した。
ランラン丸とアーナ? あいつらはソファでだらけてるよ。放っておこう。
こうして、俺達は修行の日々を続けた。
しかし、残念ながらそれは、3日しか持たなかった。
「リクト様!」
マキが重力室におりてきた。
「どうした、マキ?」
俺達は修行の手を止める。
「魔王がライトニングレオをつれて、魔界に戻りました。帝国から離れた今、討伐のチャンスです」
早くもこの時が来たか。
「ユウは?」
「まだ、昨日よろいを手に入れた所です」
そうか、ユウも頑張ってるじゃないか。
だが、魔王との戦いは、ここがタイムリミットだろう。
勇者の装備が揃っていなければ、魔王と戦うのは無理だろう。ユウはつれていけないか。
俺達だけでやるしかない。
「ゴッドヒール!」
俺はみんなに、回復魔法をかける。
ピンク色の光が、部屋を包み込んだ。
「シャワーを浴びたら魔界へ向かおう。魔王との、決戦だ!」
俺の言葉を受けて、みんなが力強くうなずいた。
俺達はシャワーを浴びて、魔界へと向かった。
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