第111話 突入、魔王城!

 俺達は再び魔界を訪れていた。


 異世界から来た俺。

 クエストオブファンタジーの勇者、ユミーリア。

 ストレートファイター2の格闘家、コルット。

 サンダーの紋章の騎士、エリシリア。

 プリンセスメイドの元魔界の姫、マキ。

 ロイヤルぱにっくの勇敢な姫、プリム。

 そしてこの世界出身のエルフとドワーフの混血のアーナに、どこからきたのかわからない、刀のランラン丸。


 まさにオールスターだった。


 もしこれだけのキャラクターが集まるゲームがあれば、俺は間違いなく予約買いしているだろう。


「ところでアーナ、本当についてきて良かったのか?」


 俺は戦う力がないと豪語するアーナに話しかける。


「うむ、確かにわしは戦闘力は無いが、家族の大事な戦いにそばに居ないというのは嫌じゃ。心配するな、自分の身は自分で守る。最後までお主達と一緒じゃ」


 アーナはそう言って、みんなに笑いかけた。



 魔界の空は、相変わらず紫色の雲におおわれていて、雷鳴がとどろいている。


 地にも空にもモンスターだらけ。


 今回は魔王が魔界に戻ってきているせいか、前に来た時よりも空気が重苦しい気がする。


「しかし、これが魔界か、わしも初めてきたが、なんとも暗い感じじゃのぉ」

「ええ、邪悪な気配がただよっています。あまり長居はしたくありませんね」


 魔界に初めてきた、アーナとプリムは魔界の空気にふれて、その顔をゆがめた。


 確かに、魔界はあまり良い印象とは言えない。


 しかしこれでも一応、マキの故郷なのだ。


 俺はマキを見る。


 マキは俺の考えを察したのか、ニッコリ笑って頭を下げた。


「リクト様、お気遣いありがとうございます。しかし今の私は人間のマキです。もはやここは私にとっても、暗い感じで邪悪な、あまり長居したくない場所なのです。今回の事で魔界が滅びても構いません」


 マキが俺にしか聞こえないくらいの小さな声で語る。

 そんなもん、なのかな。


「それに、すでに私にとって大切だった存在は、魔王の手により消されています。リクト様も、魔界に対してはどうかご容赦なきよう、お願い致します」


 そうか、そういう事か。


 マキにとって大事なもの、先代の魔王やその側近は、すでに魔王に殺されている。

 だからこそ、マキにとって魔界とは、むしろ憎むべき存在となったんだ。


「そんな顔をしないでくださいリクト様。私は再び大事なものを手に入れました。リクト様をはじめ、ユミーリア様にエリシリア様、コルット様にプリム様。そしてアーナ様とランラン丸様。大事な家族、大切な人達。私は今、しあわせです」


 そう語るマキの肩を、俺は思わず抱いた。


「必ず魔王をぶっ倒して、みんなで帰るぞ」

「はい」


 俺達は、はるか先に見える魔王城を見る。



「なんだか、二人で勝手にいい感じになってる」

「今だけはそっとしておいてやるのじゃユミーリア。マキにとって、この戦いはとても大事なものなのじゃよ」


 ユミーリアがむくれていた所に、アーナが声をかける。


「そういえば、魔王軍のやつらがマキの事を何度か姫と呼んでいたな。何か関係があるのか?」


 マキはウミキタ王国の姫だ。だから姫と呼ぶのは間違いではない。

 だが、なぜ魔王軍が姫と呼ぶのか、エリシリアはほんの少しだが疑問に思っていた。


「わしもよくは知らぬ。しかしわしはエルフの血が混じっているので多少耳が良くてな。二人の会話が聞こえてしもうた。マキにとって大事な何かがこの戦いにはある。だからこそ今は、そっとしておいてやるのが一番じゃ」


 ユミーリアとエリシリアがいまいち納得のいかない顔で、お互いを見る。


「それにのぉ、マキのやつ、リクトだけでなく、わしらも大事な家族じゃと言っておったぞ? ここはつまらぬ嫉妬ではなく、そっと支えてやるのが良いとわしは思うぞ」


 アーナの言葉を受けて、ユミーリア達はお互い笑ってうなずきあい、リクト達の意識が戻ってくるのを待つ事にした。



「マキ、魔王はあの、魔王城に居るんだよな?」


 俺はずーっと先の方にかすかに見える、城っぽい建物を指差した。


「はい。魔王が居るとすればあの魔王城でしょう」


 マキは魔界出身者、というより魔族から人間に転生した身だ。魔界の事なら、マキが一番詳しい。


 俺達はマキの案内の元、魔王城へと向かった。


 魔王城へ向かうには、途中に深い谷や森があった。


 道中、相変わらずモンスターが襲ってきたが、コルットの遊び相手にしかならなかった。


 プリムも修行の成果を見せると張り切っている。


 プリムはゲームの様に、衣装チェンジなんて芸当は出来ないみたいだったが、コルットと同じく、格闘と魔法をうまく使って戦うスタイルだった。


 コルットが格闘重視、プリムが魔法重視といった感じだな。


 二人は仲良くモンスターを倒していた。


 谷を越え、森の中を進み、やがて魔王城が近づいてくる。



 森を抜けると少し開けた場所に出た。


 そこから魔王城へと道が伸びている。


 その道の途中に、見覚えのある魔族が居た。


「やはりきたか」


 ライオンの顔をした魔族、六魔将軍のひとり、ライトニングレオだった。


「魔王様の邪魔はさせん。今すぐここから立ち去るのであれば見逃してやるが、逆らうというのであればここで死んでもらうぞ」


 ライトニングレオ……いちいち名前が長いな、レオでいいか。レオが巨大な剣を背中の鞘から抜いた。


 真っ直ぐにその剣先をこちらに向けてくる。


 当然、俺達は引く気はない。


「引かぬか。ここまできたのだ、当然だな……ならばそこの男、お前が戦え」


 レオは俺に剣を向ける。


「俺は女を斬る趣味はない。貴様が死ねば、残りの者は立ち去ってもらおう」


 そういえば、ゲームでもそんな様な事を言っていたな。それでマキになめるなと攻撃されて、戦闘が始まるんだっけ。


 なら俺も、同じ様にしてみるか。


 俺はランラン丸に手をかける。


「なめるな!」


 俺は地を蹴って、レオとの距離を詰める。


 そしてランラン丸を抜き、レオの剣を弾く。


「ぐっ! 面白い、貴様……できるな!」


 レオはすぐさま両手で剣を持ち、振り下ろしてくる。


 俺はそれをかわし、半回転した勢いで、刀でレオの身体を斬りつける。


「ぐあっ!」


 刀はレオの左脇腹を斬り裂き、紫色の血が噴き出した。


 俺はその勢いのまま、刀を振りかぶり、斜めにレオを斬り裂いた。


「ぐ、ぐおおお!!」


 決まった。


 そう思ったが、レオは剣を振り回し、こちらに攻撃してきた。


「うお!」


 俺は刀で受け止めるが、勢いが強く、弾き飛ばされてしまう。


 なんとか姿勢を保ち、再び刀を構える。


 レオも身体から血を噴き出しながら、剣を構えていた。


「ハッハッハ! 俺とここまで戦える戦士だったとはな。正直、ただ尻が光るだけの男かと思っていたぞ!」


「これでも、他の六魔将軍を倒してきてるんだけどな」


 俺のその言葉を聞いて、レオがうっすらと笑う。


「そうだったな。これほどの力だ。他の六魔将軍では勝てないのもうなずける。だが……俺は他の将軍とは一味違うぞ?」


 レオはそう言うと、剣を地面に突き刺した。


「コオオオオオ!」


 レオはうなり声を上げて、気を高める。


 全身の毛が逆立ち、毛の色が、黒く染まっていく。


「ガアアア!!」


 一度大きく叫ぶと、レオの全ての毛色が真っ黒になり、全身から黒いオーラが立ち上がってきた。


 あの黒いオーラ、どこかで見た事がある気がする。


 ……ああそうか、オウガと同じなんだ。


「その力、邪神の力か?」


「ほう? 知っていたか。その通りだ。我らが魔王ゾウマ様を導き、我に力を与えてくださったお方、それが邪神様だ」


 邪神か。


 これまで姿すら見ていないが、もしかしたら、今回あいまみえるかもしれないな。


「さあ、ここからが本当の戦いの始まりだ! いくぞ! ピンクの男!」

「ああ、こい! ライオン野郎!」


 俺達は互いに地面を蹴って、お互いの距離を詰める。


 剣と刀で、激しく打ち合う。


 10、20と打ち合った所で、一度お互い距離を置く。


「はぁ、はぁ、はぁ、人間が、ここまでやるとはな」


「ふう、いい加減、観念して欲しいぜ」


 お互い、肩で息をする。


 だが、消耗具合は同じではなかった。


 レオはすでに大きく息があがっているが、俺はまだ余裕がある。


 重力修行の成果だ。


 限界まで修行して回復し、再び修行を続けるという事を繰り返した結果、俺達のスタミナは通常よりもはるかに上がっていた。


 それを察した俺は、手数で勝負をつける事にした。


「海の尻!」


 俺の尻が光り、白濁液が尻からしたたり落ちる。


 後ろでみんなが距離を取るのがわかり、ちょっと悲しくなる。


 海の尻によってスピードが上がった俺は、何度も何度も、レオを刀で斬りつけた。


 レオもそれを剣で防ぐが、次第に追いつかなくなってくる。


「ぐっ! 貴様、スピードが! 何をした!? うおっ! なんだこの汁は! ベタベタして気持ち悪い!」


 刀を振るう際に、俺の尻から出た白濁液がレオに降りかかっていた。


 ちょっと申し訳ない気もするが、カンベンしてほしい。


 攻撃を続ける内に、やがて俺の攻撃が通る様になる。


 斬りつけられた先から血が噴き出し、レオの体力を削っていく。


「が、ガアア! ぐうっ! おのれ、この、俺が!」


「これで終わりだ! 今のお前じゃ防げまい!」


 俺は一度大きく息を吸い込み、必殺技を叩き込む。



「爛々百烈斬(らんらんひゃくれつざん)」



 すさまじいスピードで、敵を100回斬りつける。


「グアアアア!」


 レオが全身から血を噴き出して、倒れた。


「み……見事だ……貴様、名は?」


 俺はレオを見下ろして、答えた。


「リクトだ」


「シリ? ……すでに耳がよく聞こえん。シリト、か? フフ、貴様の名前……地獄にいっても忘れんぞ」


「おいちょっと待て!」


「さらばだ、シリト、我が宿敵よ」


 レオはそう言うと黒い霧となり、消滅した。


「どう聞き間違えたらそうなるんだよ! 俺の名前はリクトだあああ!」



 俺の叫びが、魔界の空に響いた。



「リクト、大丈夫だよ。私達はちゃんと、リクトの名前、覚えてるからね?」


 ユミーリアが俺をなぐさめてくれる。


 ちなみに俺のテンションが低いのは、レオに名前を間違って覚えられたから、というだけではない。


 尻がグチョグチョしている。


 先ほどの海の尻のせいで、ズボンとパンツが白濁液でグチャグチャなのだ。


「ごめん、やっぱりちょっと履き替えてくる」


 俺はみんなに断って、マイホームを出して部屋に戻った。


 白濁液まみれのズボンとパンツを見て、ちょっと泣いた。



 再び魔界に戻った俺は、魔王城へと侵入する。


 中には、モンスターの気配はなかった。


「おそらく魔王は、最上階にいると思われます。急ぎましょう」


 マキが階段をのぼっていく。


「コルット、何か罠があるかもしれない。マキと一緒に先頭に立ってくれ」

「うん、わかった!」


 コルットは罠を見抜くのが得意な種族だ。こういう時、本当に頼りになる。


 コルットがケモ耳を動かしながら進んで行き、俺達はその後ろを警戒しながらついていく。



 やがて、大きな広間に出た。


 広間に足を踏み入れた瞬間、笑い声が響いた。


「ホーーーホッホッホ! ようこそ姫様! そしておろかなる人間共よ!」


 かなり高いキーの男の声だった。


 どこから聞こえてくるのかと警戒していると、広間の真ん中に、紫色のローブをまとった男が現れた。


 ローブで顔は見えないが、顔色が青い事から人間ではなく、魔族だという事がわかる。


「お待ちしておりました。どうやらライトニングレオ様は倒されたみたいですね。いやはや恐ろしい」


 どうにも不気味な男だった。


 何が楽しいのか、常に笑っている。


「ですが、それもここまでです。この私、キョウフクロウがあなた達に真の恐怖を与えてあげましょう」


 顔をおおっていたローブがめくれ、フクロウの顔が見えた。


「いでよ! 恐怖の戦士達!」


 キョウフクロウがそう叫ぶと、手前に3本の光の柱が現れる。


「気をつけてください、やつは六魔将軍ほどの力はありませんが、相手の思考を読み取り、怖いと思うものの姿をしたモンスターを生み出します。モンスターの力自体は強くはありませんが、恐怖にのまれれば、危険です!」


 マキが俺達に注意をうながす。


 怖いものか、いったい、何が出てくるんだ?


「さすがは姫様! しかし私は知っているのですよ? あなた達のパーティは、そこの男が中心だと! ゆえに私が生み出すモンスターは、そこの男が恐怖するもの! さあ、怯えるがいい!」


 光の柱から、モンスターが生まれてくる。


 俺が恐怖するものだと?


 悪いが俺には思い当たるものがない。きっと大した事はないだろう。


 3体のモンスターが、形を成していく。


 その姿は……


「え?」



 ひとりは、ふんどし一丁のヒゲのおっさんだった。


 ひとりは、ふんどし一丁のデンガーナの王様だった。


 最後のひとりは、ニコニコ笑った、ふんどし一丁のユウだった。



「ヒゲゴロウ殿?」

「お父様!?」

「にいさん?」


 みんなその姿に驚いていた。そして、俺を見た。


「……」


 俺はなぜか、嫌な予感がした。


 おっさん達はこちらを見ると、低いうなり声をあげた。


「揉ませろ」

「撫でさせて頂戴」

「撫で撫でしますよー」



「その尻を、生でっ!」



 怖ええよ! ていうか最後の、ユウじゃなくて神様だろ! 俺の中の神様のイメージだろそれ!


「えーと、なんだ? お前、これが怖いのか? なんかこう、思ってたのと違うんですけど」


 キョウフクロウが困惑していた。


 みんなもわけがわからないといった感じだ。


 ただひとり、俺だけが恐怖していた。


「シリトぉおおお!」


 ふんどし姿のおっさん達と、笑顔のユウが、恐ろしい勢いで俺にせまってきた。


 俺は思わず構えるが、男達は攻撃はしてこなかった。


「ソイヤ!」

「ソイヤ!」

「ソイヤ!」


 ふんどし姿の男達が、叫びながら俺の周囲をまわる。


「ソイヤ!」

「ソイヤ!」

「ソイヤ!」


 そして、順番にサッと尻を撫でてくる。


 怖ぇ、普通に怖ぇえよ!


 こんなもん誰でも恐怖するわ!


「はっ! り、リクト!」


 ユミーリアが意識を取り戻して、俺の名を呼ぶ。


 みんなもユミーリアの声で、意識を取り戻したようだ。


「ほ、ホーホッホッホ! なんだかよくわからない状況に混乱してしまいましたが、よく考えればそいつらはお前達の身内の姿! 身内の姿が相手では攻撃できまい! モンスター達よ、その男を殺せ!」


 キョウフクロウが男達の姿をした、モンスターに命令を出す。


「ソイヤ!」

「ソイヤ!」

「ソイヤ!」


 しかし、モンスター達は順番に俺の尻を撫でては俺の周囲をまわっているだけで、攻撃はしてこなかった。


「な、何をしている! なぜだ! なぜ攻撃せず、尻を撫でるだけなのです!?」


 むしろこっちが知りたい。


 そしてすごく汗臭い。

 むさくるしい。


 なんという恐怖。


 男達のあまりにも真剣な顔に、手が出せない。というか出したくない。


 そうこうしている内に、俺のまわりに熱気がうずまいていた。



 俺は男達のかもし出す熱気によって、意識が遠のいていくのを感じていた。



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