第23話 コルットの正体
俺は自分が泊まっている宿の女将さん、コルットのお母さんが病気でふせっていると聞いた。
俺なら、コルットのお母さんの病気を治せるかもしれないと親父さんに説明したところ、俺はコルットのお母さんの部屋に案内された。
ゴッドヒール。どんな怪我も状態異常も病気も全て治し、HPを完全回復する魔法だ。
強力すぎるチート能力なので、安易に使うと変なやつらに目をつけられてしまうかもしれないので、基本的には自分以外には使うつもりはなかった。
だが、コルットや親父さんには世話になっている。
世話になっている人を放っておく位なら、多少の面倒事は引き受けてやろうじゃないかと、思う様になった。
どうもユミーリアとパーティを組むと決めた時から、この世界にかかわる事に前向きになっている気がする。それがいいのか悪いのか、俺にはわからない。
けど今回は、これでいいと、なぜだか思える。
親父さんに案内された部屋に入ると、そこには、ベッドで寝ている女性と、手前の椅子に座るコルットが居た。
「おにーちゃん?」
コルットがこちらを見る。だいぶ疲れているみたいだ。
「おう、ゴメンな。お母さんが病気だって、知らなかったからさ」
コルットは、俺がこの世界に来て不安になっていた時に、笑顔をくれた。
混乱していた時には落ち着かせてくれた。
コルット本人にそんなつもりはなかっただろうが、俺は少なくとも、何度かコルットの笑顔に救われた。
だからもっと早く知っていればと、今さらながら思う。
「任せてくれコルット、俺がコルットのお母さんを、ちゃんと治してみせるからさ」
「ほ、本当? おにーちゃん」
「ああ」
俺はコルットのお母さんを見る。
大量の汗をかいていて、苦しそうだった。
どうやらコルットは、つきっきりで看病していた様だった。
俺は目を閉じ、深呼吸する。
「いくぞ……ゴッドヒール!」
俺はゴッドヒールを唱える。
俺の手が緑色に光り、尻は……手の光よりも、激しく輝いていた。
「うおっ! なんだ?」
「きれい……」
親父さんが驚き、コルットは感動している様だった。
「おにーちゃん、すごい、神様みたい」
か、神様はカンベンしてほしいな。
正直、あんまりいいイメージ無いし。
とはいえ、この力は神様からもらったものだ、あながち間違いではないだろう。
やがて、コルットのお母さんの表情がやわらいでいった。
俺の尻の光がおさまると、コルットのお母さんは、目を開けた。
「あら? 私……」
コルットのお母さんは起き上がり、周りを見る。
「お、お母さん?」
「あら、どうしたのかしら? さっきまでとても苦しかった気がするんだけど、今はなんともないわ」
どうやらゴッドヒールによる治療は、うまくいった様だ。
「お母さあああん!」
コルットが泣きながらお母さんに抱きついた。
そんなコルットを、コルットのお母さんはやさしく受けとめた。
「ごめんねコルット、心配かけちゃったわね」
コルットのお母さんが、コルットの頭をやさしく撫でる。
親父さんも、泣いていた。
俺は邪魔にならない様に、そっと部屋から出た。
「お? リクト殿、泣いてるのでござるか?」
「うるへー、俺、こういうの弱いんだよ」
俺はもらい泣きしていた。歳をとると涙もろくなるというのは本当だ。
って、今の俺は16歳だっけ? どちらにしても、俺はこういう場面に弱い。
しばらくすると、親父さんが部屋の外に出てきた。
「おう、ありがとうな。女房はすっかり良くなったみたいだ」
親父さんは目が赤かった。
俺はどうだろう? 恥ずかしいから、もらい泣きした事はバレないで欲しい。
「そりゃあ良かった。魔法も効かない病気だったらどうしようって、ちょっと心配だったからな」
まあ、チート能力だから、治せない病気なんてないだろうけどさ。
俺と親父さんは笑いあう。
「あんたには感謝してもしきれねえ。ここにはあんたの好きなだけいてくれよ、金もいらねえ」
親父さんが笑顔で言ってくれる。
「いや、別にそんなつもりでやったんじゃないんだ……俺はただ、勝手にコルットに感謝して、その恩を勝手に返しただけなんだよ」
実際、コルットに言っても何の事かわからないだろう。
これは俺の一方的な想いだ。
「そうかい、ウチのコルットがねえ……なら、こういうのはどうだ? あんた、冒険者なんだろう? どうだい、ウチのコルットを、仲間に加えてやってくれないか?」
……は? 今なんて言った?
「コルットを、仲間に?」
「ああ、あいつはああ見えても腕は立つ。武道家だった俺と魔法使いだった女房の、自慢の娘だからな。その才能は親の俺が言うのもなんだが、すごいもんだぜ?」
なんと、コルットにそんな設定があったのか。
「あいつはちょっと前から、冒険者になりたいって言ってたからな。ひとりじゃ心配だったが、あんたになら、コルットを任せられる」
謎の信頼感が生まれていた。
丁度その時、コルットが部屋から出てきた。
「あ、おにーちゃん」
コルットはいつもと違い、後ろで縛った髪をほどいていた。
そして気付いた。
俺は、この子を知っている。
むしろ今まで、どうして気付かなかったのか。
栗色のふわふわのロングヘアーに、特徴的なケモノ耳。
髪型が違うから、気付かなかったのか?
それにしては、名前まで聞いていて気付かなかったのは、これまで余裕がなかったからだろうか?
いや、きっと……この世界に居るのは、ありえないと思い込んでいたからだ。
俺はこの子を知っていた。
コルット、《ストレートファイター2》に出てくる、ゲームのキャラクターだ。
ストレートファイター2は、対戦型格闘ゲームだ。
コルットはそのゲームで、当時、俺が一番よく使っていたキャラクターだ。
あの頃の俺は、ケモ耳幼女がマイブームだったからな。
コルットは武道家の父を持ち、魔法の才能もあるというハイブリットキャラクターだった。近距離は打撃技で圧倒し、遠距離は強力な魔法を放つという戦法が得意だった。
しかし、ここはクエストオブファンタジー、通称クエファンの世界だ。スト2の世界じゃない。
そもそも、コルットの設定に宿屋の娘なんて設定はなかった。親父さんと二人で修行の旅をしていたはずだ。
……もしかして、この後か? 実はあの病気でお母さんが亡くなって、親父さんと二人で旅に出るはずだったとか?
いや、それにしてもだ、クエファンとスト2の世界に繋がりはない。制作会社も違うし、コラボとかもした事はない。
いったいどういう事なんだ? 世界が混じっているのか?
俺が悩んでいる間に、コルットの親父さんは話を進めていた。
「というわけでだコルット、お前は明日から、この人と一緒にパーティを組んで冒険者になっていいぞ。この人を助けて、母ちゃんを治してくれた恩返しをするんだ」
親父さんの言葉を聞いて、コルットが笑顔になる。
「本当!? ありがとうお父さん、おにーちゃん!」
コルットがよろこんでいた。
俺は完全に話の流れに乗りそこねたが、コルットが仲間に加わるのは大歓迎だった。
元々好きなキャラクターだし、今後もし、知らない所で事件が起きるよりは、目の届く範囲に居てもらった方がいいだろう。
しかし、これまでイレギュラーな事件は少しずつ起きていたが、ついに違うゲームのキャラクターまで出てきたか。
こうなると、もう何が起こってもおかしくないな。
ストレートファイター2の他のキャラクターも、どこかに居るのかもしれない。
もっと言えば、他のゲームのキャラクターも出てくるかもしれない。
そうして考えていると、俺はひとつの可能性にいきついた。
「あれ? ちょっと待てよ、そうするとコルットの親父さんて」
俺は親父さんを見る。
「ん? どうした?」
「親父さんの名前って、もしかして、リュウガ?」
「おう、そうだぜ」
やっぱり! 初代ストレートファイターの主人公だ。あんまり面影はない様な気がするけど。
俺はコルット以外の、知っているキャラクターに早速出会った。
「あの!」
「ん?」
「握手してください! 初代ではお世話になりました!」
「は?」
親父さんは何の事かわからないといった顔をしていた。
だが、初代をやりこんだ人ならわかってくれるだろう。
俺にとっては、初めてやった格闘ゲームの主人公だ、いわば師匠みたいなものだった。
俺は無理矢理、親父さんと握手した。
「撃動波げきどうはってまだ撃てます?」
「あんた、どこでその名を……?」
「おおお! やっぱり、リュウガだ! スゲー!」
混乱する親父さんをよそに、俺はハイテンションで盛り上がった。
なんでクエファンの世界に居るのかは謎のままだけど、こうして知っているキャラクターに生で会えるなんて夢みたいだ。いいなこれ。やっぱりゲームの世界は最高だ!
その後、落ち着いた俺はコルットと話し、明日からパーティを組む事になった。
今日は色々あったが、ランラン丸の覚醒という力を得たし、コルットという新しい仲間も出来た。
一気にパーティの戦力が上がった気がする。
この調子なら、勇者であるユミーリアのストーリーを進めても大丈夫じゃないか?
そうだ、勇者であるユミーリアにかかわると決めた以上、ストーリーをクリアする事はもはや必須だろう。
ならば、さっさとストーリーを終わらせて、平和な世界で、好きなキャラ達とこの世界で生きるんだ!
まずはDランクに上がって、男勇者に追いつく。追いついたら、いっそ一緒にストーリーを進めてもいいかもしれない。
うん、次の目標はDランクだな。明日にでもユミーリアとコルットに相談して、昇格試験を受けてみよう。
この時の俺は、新しい力と仲間を手に入れた事に浮かれていて、ユミーリアにコルットの事をどう話すか、まったく考えていなかった。
だからだろう。
こうなってしまうのは、必然だった。
「リクト……その子、誰?」
「あのー、おにーちゃん、この人は?」
コルットと手をつないでギルドまできた俺を見るユミーリアは、笑顔だった。
だがそのユミーリアの後ろに、一瞬だが、かつての強敵であるゴブリンクイーンの怒りの表情が見えた。
ユミーリアに恐怖を覚えたのは、これが初めてだった。
おお勇者よ、死んでしまうとは……という、神様の声が聞こえた気がした。
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