第22話 最強の剣士、誕生!

 今日の俺達は、タカリ冒険者やCランク冒険者に絡まれるという災難な日だった。


 その災難続きの中、ついに我慢しきれなくなったランランの怒りが爆発し、ランラン丸は覚醒して、俺と融合した。


 俺の髪に紫色のメッシュが入り、瞳は金色になって服は黒い着物に変化した。



「な、なんだテメエ! なんだその姿は!?」


 相手は急に変わった俺の姿を見て驚いている。



「いい加減、黙るでござるよ」


 俺の身体が勝手にしゃべって動いたかと思うと、モヒカン男のひとりが倒れた。


「な、なんだ? 何しやがったテメエ!?」


 もうひとりのモヒカンが叫ぶ。


「ほう、早いな」


 Cランク冒険者のダン、だっけか? 大男がこちらを見て笑う。


「オイ、こいつの冒険力を測ってみろ」


 大男がモヒカンに命令する。

 するとモヒカンはピンポン球くらいの小さな水晶玉を取り出した。


 どうやらあれで、相手の冒険力を測れるらしい。


「た、確かやつの冒険力は、300ちょっとだったはず!」

「いいから黙って測れ……それで、いくつだ?」


 大男がモヒカンに聞くが、モヒカンは答えない。


「オイ、黙って測れとは言ったが、測定結果まで黙るんじゃない、早く言え」

「そ、それが……あ、ありえない! こ、こんな!」

「ああ?」


 大男がモヒカンの持つ水晶玉を覗き込む。


 すると、その顔が驚愕に染まる。


「な! ば、馬鹿な!」


 大男が、モヒカンから水晶玉を奪い取り、俺と水晶玉を交互に何度も見る。


「どうしたでござる? 早く言ってみるでござるよ、拙者の冒険力は、いくつになっているのでござる?」


 俺の声で、ランラン丸がしゃべる。


 っていうかさっきから思っていたが、これ、俺は融合したんじゃなくて、身体を乗っ取られてないか?

 俺の思い通りに身体が動かないし、しゃべっているのもランラン丸ばかりだ。


「だ、ダンさん! 嘘ですよね? こんなの! こ、故障だ!」

「いや……さっきの動きを見る限り、嘘とは思えん」


 大男とモヒカンの額に汗が流れる。


「で? いくつだったでござる? 拙者の冒険力は?」


「……8000以上だ!」


 そう言って、大男は水晶玉を地面に叩きつけた。叩きつけられた水晶玉は砕け散った。


 は、8000以上? そういえば、確かランラン丸が前に言ってたっけ、本来ランラン丸自体の冒険力は8000はあるって。


「ふむ、なるほど……これが覚醒でござるか」


 そう言うと、ランラン丸の身体が消える。


 次の瞬間には、モヒカンも大男も地面に倒れていた。


「ば、バケモノ……」


 大男は最後にそうつぶやいて、意識を失った。



「どうでござるリクト殿? 拙者の真の強さは!」


 ……ああ、すごいわ。これはすごすぎるわ。


 まず8000という冒険力。

 これはもう、終盤の勇者に追いつく強さだ。

 ゲームクリア推奨レベルの50で、勇者の冒険力は、7000くらいだったはずだ。


 さすがにソロでクリアするとなるともう少しレベルが必要だが、ランラン丸の強さはすでに最強レベルだ。


「ふむ、この状態だと、リクト殿は話せない様でござるな?」


 お、気付いたか、そうなんだよ、さっきから話そうとしても声が出ないんだよ。


「しかし、リクト殿の身体は、なまりきっているでござるなー、拙者の動きに全然ついて来れてないでござるよ?」


 ほっとけ。ていうかなんださっきの動きは、全然見えなかったぞ?



「は、はなせ! はなせよ!」


「ん?」


 なんだ? 誰かが叫んでいるみたいだが。


「見に行ってみるでござるか」


 ランラン丸は、俺の声が聞こえているのか聞こえていないんだかわからないまま、俺の身体を使って通りに出た。



 声のした方に行ってみると、ギルドの近くで男がギルド長に取り押さえられていた。


「あいつは……」


 タカリ男だった。タカリ男は叫びながら、ギルド長に取り押さえられている。


「な、なんだよ! 僕が何したって言うんだよ! 横暴だ! こんなの、認められるわけがない!」

「認めるのは私だよ、いいから黙りなこのクズが!」


 ギルド長はタカリ男を地面に叩きつける。


「ひ、ヒイイ! なんだよ! なんでこんな事するんだよ!」

「有望な新人冒険者の足を引っ張るどころか、他の冒険者からドロップ品を横取りしたんだ、タダで済むと思ったかい?」


 タカリ男がグッと歯軋りをする。


「し、証拠はあるのか! 僕が出したあのレア肉が、盗品だっていう証拠が!」

「あんたこそ、アレが自分が倒したウサギットから出たレア肉だっていう証拠はあるのかい?」

「うぐ!」


 見事な切り返しだ。きっと慣れてるんだろうなあ、こういうの。


「それにね、あんたがレア肉を盗む所を見てたやつもいるんだよ」

「え?」

「俺だ!」


 そう言って出てきたのは、ヒゲのおっさんだった。


「あんたの動きが怪しかったから、つけてもらっていたのさ」

「な、なんだよそれ! 卑怯だ! 勝手につけてくるなんて、反則だ!」


 なんと、ヒゲのおっさん、俺達をつけてきていたのか。


「拙者も気付かなかったでござるよ、やるでござるな、あの男」


 ランラン丸がヒゲのおっさんに感心していた。


「さあ、あんたの冒険者資格はすでになくなった。逃げても無駄だ、もうどこにも生きて行ける場所なんてないよ! あんたはこれから兵士に突き出して、その後は僻地で強制労働だからね、覚悟しな!」

「あああ……ああああああ!」


 タカリ男はひとしきり叫ぶと、起き上がって、トボトボ歩き出した。



 しかし次の瞬間、タカリ男は最後の逃亡をはかり、走り出した。


 ギルド長が抑えようとしたが、それより早く……


「ふんっ!」


 俺の身体……ランラン丸が動き、タカリ男のアゴに見事なアッパーカットを決め、上空に殴り飛ばした。



 グシャッとタカリ男は地面に落ちた。


「あー、スッキリしたでござるー」


 ランラン丸は、というか俺は、非常にスッキリとした顔をしていた。



 しかし、そんなランラン丸を、ギルド長は見逃さなかった。


「あんた、今なにをした?」


 ギルド長に話しかけられ、ランラン丸が答える。


「なにって、ムカついたから殴ったでござる。いい加減、我慢の限界でござったからな」


 しれっと答えるランラン丸に、ギルド長は殺気を放つ。


「殴った? それで済む話じゃないね? あんたの今の動き……あたしより早く動くなんて、何者だい? あんたは」


 ギルド長の殺気を受けて、ランラン丸は平然としていた。


「なんて事はないでござる、拙者の方が早かった。それだけでござるよ」


 ギルド長と向かい合う、ランラン丸……というか俺。


「面白い、気に入ったよあんた」


 そう言って、ギルド長はどこに隠し持っていたのか、剣を抜いた。


「一手、お願いできるかい? どちらにしても護送中の男に手を出したんだ、このままタダで帰すわけにはいかないからねえ」


「ふむ……良いでござるよ、拙者も久しぶりに外で身体を動かせるでござるからな、少々物足りないと思っていたでござる」


 ランラン丸も、刀を抜く。


 おいおい待てよ、ギルド長は確か、一度だけゲームで仲間にできる事があるが、その時の冒険力は6500だったんだぞ? 昔はSランク冒険者だったとかで。確かにランラン丸の方が冒険力は上だが、大丈夫なのかよ?


 というか、俺の身体でこれ以上勝手な事しないでくれよ!



 黙ったまま、向かい合うランラン丸とギルド長。


 ラブ姉はあたふたしていて、ヒゲのおっさんは興味深そうに見ている。


 まわりに居た人々も、黙ってふたりを見ていた。



「……はっ!」


 先に仕掛けたのはギルド長だった。


 ランラン丸の、俺の身体の首元に、ギルド長の剣が迫る。


「ふっ」



 気がつくと、ランラン丸はギルド長の後ろに居た。


 ギルド長の髪を縛っていたリボンがほどけ、縛られていた髪が広がった。


 俺の身体は……無事だ、傷ひとつない。


「ふむ、いい腕でござったな、ご婦人」


 背中合わせになっていたランラン丸が、ギルド長の方を向いた。


「参ったよ、これでもまだまだナマっちゃいないと思っていたんだが、あたしの負けだ」


 ギルド長も、ランラン丸の方を見る。


「またやれるかい?」

「どうでござろうな、拙者も常にこの状態で居られるわけではないでござるからな」


 そう言って、ランラン丸はこの場を去ろうとした。


「待ちな、あんたいったい何者だい? 名前は?」


 あれ? ギルド長、もしかしてこれが俺だって、リクトだって気付いてない?


 あれか、髪の色と瞳の色と服装が違うからか?

 そ、それなら良かった。ギルド長に手を出したなんて、この先生きていけなくなる所だった。



 ランラン丸が足を止め、振り返る。


「そうでござるな……」


 ランラン丸は少し考え、ニヤッと笑って、その名を告げる。



「尻と共に歩む者、オシリ丸、とでも呼んでもらえばいいでござるよ」

「ふむ、オシリ丸……か」



 待って! お願いだから待って! 本当になんでもするから待って! その名前はやめて!


 ていうかどういうつもりだよランラン丸! 何勝手に名乗ってるんだよ!


「では、さらばでござる!」


 ランラン丸は飛び上がり、足早にその場を移動した。



 人の目がなくなった事を確認し、息を抜く。


 すると、俺の身体の尻が光って、髪の色と瞳の色が元に戻り、いつもの服装になった。


「お? おお! 戻ったのか!?」


 俺はやっと声を出せた事に感動した。


「はあ、一時はどうなるかと思ったぜ」


 俺はホッとした。

 ホッとして……ランラン丸をにらみつけた。


「オイこの野郎! なんだよさっきのは! オシリ丸ってなんだよ!?」

「あっはははははははは! お腹、お腹痛いでござるー! キリッとカッコつけて、オシリ丸だ。って! ぷはははは!」


 ランラン丸は大爆笑していた。


「よし、残念だがランラン丸、お前はここに捨てていく」

「え? ちょ、ちょっと待ってリクト殿! 冗談、冗談でござるよー!」

「冗談で済むか! お前、あの状態の俺は完全にオシリ丸って認識されたぞ! どうしてくれるんだよ!」


 っていうかオシリ丸って、尻と共に歩む者って時点で、俺の関係者だって言ってる様なもんじゃないか! いや、俺本人なんだけどさ。


「……まあ、俺自身じゃないって思われただけ、まだマシか」

「ん? マシって、どういう意味でござる?」


 ランラン丸が疑問をなげかけてくる。

 俺は近くの木の下に座って、説明する。


「いいか、最初のCランク野郎はともかく、ギルド長との戦いは色んな人が見ていただろう?」

「そうでござるな」


「多分、目をつけられたぞ、強いヤツは強いヤツを求めるっていうのは、よくある事だからな。もし俺だとバレたら、いちいち戦いを吹っかけられるかもしれない」


 さっきの状態ならともかく、通常の俺の冒険力は8000どころか、1000もないんだ。急に戦いを仕掛けられたら、一瞬で死ぬぞ。


「その時はまた、拙者にかわればいいではござらんか?」

「お前、さっきの状態に、自由に変化できるのか?」


 俺はランラン丸に確認する。


「……うーん? んー……えっと、どうやって変化したんでござったか? わからんでござる」


 やっぱりそうか。

 気軽に変化する事はできないみたいだ。


「うーん、確かこうでござったか? いや、こう?」


 俺はまだ悩んでいるランラン丸をほっといて、マイルームを出した。



 マイルームに入ると、涙目のユミーリアが居た。


「あ! リクトおおお! リクトおおおおお!」


 マイルームの扉を閉めると、ユミーリアに抱きつかれた。


「ど、どうしたんだよ、ユミーリア?」

「ふえええ、起きたら誰もいなくて、外に出ようとしても管理権限がありませんとか文字が出てきて、外に出られなくて私、どうしようかと……」


 ああそうか、マイルームに入ると、俺以外は自由に外に出られないのか。


「ご、ごめんなユミーリア、俺もそんな事になってるとは知らなくて」

「ううっ、そうなの?」


 俺はユミーリアの頭を撫でる。


「それより、朝はゴメンな、俺もランラン丸も、ふざけすぎたというか」

「え? 朝……? あああああ!」


 どうやら外に出られない事で忘れていたのか、今朝の事を思い出して、ユミーリアの顔が真っ赤になる。


「い……」

「い?」


「いやああああああ!!」


 再びユミーリアは走り出し、2階の部屋に閉じこもってしまった。


「これなんて無限ループ?」


 俺はランラン丸を見る。


 さすがのランラン丸も、苦笑いを隠せなかった。



 その後、必死に俺とランラン丸は謝った。


「う、うん、ごめんね。私の方こそ……明日からは、ちゃんとがんばるから!」


 なんとか俺達は和解した。


 しかし、結局ユミーリアとはまともに話し合いができなかった気がする。

 明日こそは、ちゃんとまともに話し合おう。


 俺達はマイルームを出たあと別れて、俺とランラン丸はいつもの宿屋に戻った。



「おう、帰ったか」


 俺を迎えてくれたのは、宿屋の親父さんだった。


「ああ、ただいま」

「おかえり。それでどうする? 今朝聞き忘れちまったが、今日で一週間だ。これからもウチに泊まるんなら、金を払ってもらう事になるぞ?」


 おおそうか、もう一週間経ったのか。


 今の俺の懐はあたたかい。45P(ピール)くらい、軽く払えるぜ。


 まあでも、いつかはちゃんと自分の家が欲しいな。


「あれ? そういえばコルットは?」


 俺はいつも迎えてくれるケモ耳幼女、この宿屋の看板娘のコルットの姿が見えない事に気付いた。


「ああ、ちょいと女房の具合が良くなくてな、そっちについてるんだ」

「え? 奥さん、病気なのか?」


 そういえば見た事ないな、コルットのお母さん。


「お前さんが来るちょっと前からだったか、ずっと調子が悪くてな。コルットが店を手伝ってくれてるからなんとかなってるが、困ったもんだよ」


 ああそうか、それで見た事がなかったのか。


 しかし……病気か。


「なあ、親父さん」

「ん?」


 コルットと親父さん、というかこの宿屋には世話になっているし……うん、いいよな?


「俺、その病気、治せるかもしれないよ」


 俺のゴッドヒールなら、治せるだろう。

 あまり大っぴらに使うと、今日のタカリ野郎みたいな面倒くさい奴らも寄ってくるかもしれない。


 だが、今回くらいは、世話になっている人達を助ける分には、いいだろう。


「ほ、本当か?」



 俺は親父さんの言葉にうなずいて、ゴッドヒールを使う事に決めた。

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