第21話 タカリ冒険者

 結論から言おう。

 給湯の電源スイッチがオフになっていた。

 そのせいで、水しか出てこず、ユミーリアはモロに水をかぶってしまった様だ。


 しかしなぜ? 俺は電源スイッチなんて、さわった事ないぞ?


「リクト殿」


 びしょ濡れのランラン丸が、話しかけてくる。


「ご褒美は、お肉多めでいいでござるよ」


 そう言って、親指を立てるランラン丸。


 お前か。


「お前だな、給湯の電源スイッチを切ったのは?」

「むふふふー、そこはあえて語らぬが華でござるよ」


 こいつ、全然反省してないみたいだ。まったく。


 そう思いつつ、俺はランラン丸の頭を撫でた。

 まあそのなんだ、俺も男だからな。


 俺は浴室の外にある給湯の電源スイッチを入れて、ソファに向かった。



 俺はユミーリアとランラン丸がシャワーを浴びている間、ソファでごろ寝していた。


 そうしていると思い出す。

 先程見た光景……


 ユミーリアの綺麗な肌に、ゆっくりと滴るしずく。

 張りのある大きな胸と、そして……



 そこまで考えた所で、ユミーリアとランラン丸が出てきた。

 洗濯と乾燥も終わった様で、いつものユミーリアの姿がそこにあった。


 だが、ユミーリアの瞳に光は無かった。


「え、えっと、いかがだったでしょうか? ユミーリアさん」


 俺はなぜか敬語で聞いてしまう。


「う……」

「う?」


「うわあああああん!!!」


 ユミーリアが奥の階段を上がっていった。


 そして、バタンとドアが閉じる音が聞こえた。

 そういえば2階がどうなっているか確認した事なかったな。部屋があったのか。


 俺は2階にあがった。


 すると部屋が3つあった。それぞれリクトの部屋、ランラン丸の部屋、ユミーリアの部屋と扉に書いてある。

 いつの間にこんな部屋ができたんだ? まだまだマイルームの謎は多い。


 俺はユミーリアの部屋の扉をノックしたが、反応はなかった。

 念の為、俺の部屋とランラン丸の部屋の扉もノックしたが、反応はない。


「えーっと、これは……」


 どうやらユミーリアは色々なショックで引きこもってしまった様だ。


「ランラン丸、お前、今日飯抜きな」

「そ、そんな! なぜでござるううう!?」


 いくらユミーリアのあんな姿を見れてラッキーだとしても、泣かせてどうする。


「もちろん、俺も今日は飯抜きだ。反省しよう。んで、二人でちゃんと謝ろう」

「うっ、そう言われるとなんとも……そうでござるな、あとでちゃんと謝るでござる」


 俺達は下に戻って、二人で反省した。



「……しょうがない、今日の所は、俺達だけで依頼を受けるか」

「でござるなー、しばらくそっとしておくでござるよ」


 俺はユミーリアに、今日はひとりで依頼を受けてきます。ゆっくりしてくださいと書いた手紙を残した。

 そういえば、俺はこの世界の文字を読めるし、書こうと思えば書けるのだ。こういう細かい事を気にしないでいいのは楽でいいな。さすがはゲームの世界だ。


 俺は手紙をソファの前のテーブルに置き、マイルームを出た。



 俺達はギルドに向かった。


 ギルドに入ると、なぜかいつもと違う空気がただよっていた。

 というよりは、みんなが俺を見る目がいつもと違う気がする。


 なんだ? この違和感は?


 俺が戸惑っていると、ひとりの男が話しかけてきた。

 痩せ型で、頼りない感じの男だった。


「き、君、シリクト君だよね?」

「誰が尻だ! 俺の名前はリクトだ!」


 俺が怒鳴ると、ヒッと男はうろたえた。


「き、急に大声出すなよ! ビックリするじゃないか!」


 かと思えば、急に逆ギレしてきた。なんだコイツは?


「せ、せっかくこの僕がパーティを組んでやろうというのに、失礼なヤツだな君は」



 ……は?


 何を言っているんだこいつは? パーティを組む?


 確かに俺はユミーリアとパーティを組む事にしたが、俺はこんなやつは知らないぞ?


「あの、誰かと勘違いされていませんか? 自分はあなたと初対面だと思うのですが?」


 俺は、コイツとはなるべくかかわりたくないので、敬語を使った。


「そ、そうだな、君と僕は初対面だ。だが、君と僕はこれからパーティを組むんだ、そう固くならないていい」



 うん、さっきから会話が通じないな。そして目も合わせてこない。常にキョロキョロしている。


「あの、自分はあなたとパーティを組む気はないんですけど?」


「な、なにを言うんだ! 君の様な新人が、ひとりでやっていけるはずがないだろう? だから僕が、一緒に組んでやろうというんだ!」


「いや、結構です。大体、ひとりじゃないですし」


 俺はキッパリと断る。

 ハッキリ言ってありがた迷惑だ。


 いくら仲間が欲しいと言っても、こんな会話もロクにできない相手と組む気はない。


「そ、そうか、あの勇者の子とパーティを組んだというのは本当なんだな? だが、彼女も新人だ! やはりここは、僕が一緒に居てあげないと!」


 おお、すでに俺とユミーリアと組むというウワサが広がってるのか。

 とはいえ、それはこいつと関係ない。


「あの、俺達は俺達でなんとかやっていきますので、本当に結構です」


 俺は再度、丁重にお断りする。


 そうして男の横を通り抜けようとすると、腕をつかまれた。


「ま、待て待て! な、なら荷物持ちでもなんでもしよう! だから頼む! 僕をパーティに加えてくれ!」


 急に卑屈になりだした。なんなんだコイツは?


「いえ、ですから結構です」

「いい加減にしろよ! 人がここまで下手に出ているのに! そんなにレア肉を独り占めしたいのか! 強欲なヤツめ! 横暴だ!」


 ……レア肉?


 なんだコイツ、もしかして……


 俺は男を注意深く見つめる。


 すると俺の尻が光り、光は俺の前で、俺にしか見えない文字となる。


《リタッカ レベル2 冒険力80》


 ザッコ! 俺が言うのもなんだけど、ザッコ! レベル2で冒険力80て。



 しかし、これで決定だな。


 コイツは……いわゆる、タカリだ。


 俺のパーティに加わって、レア肉のおこぼれをもらおうとしているんだろう。


 俺はつい、顔がゆるんでしまう。


 なんというお約束。

 目立てばこういう事もあるかと思っていたが、まさかこんなに早くお約束イベントが起こるとは。


 俺はこういうお約束イベントが大好きだった。


 だからつい、ニヤけてしまう。


「な、何がおかしいんだ! 馬鹿にしているのか!?」


 むしろコイツは、この弱さでどうしてここまで強気でいられるのだろう?


 まあいい。このままではラチがあかない。



「では、ステータスカードを見せてもらえますか?」


 俺は相手の強さを知った上で、あえてステータスカードの提示を求めた。


「な、なぜだ?」

「パーティを組もうというのです。相手の強さを知っておきたいと思うのは、普通でしょう?」


 俺の言葉にたじろぐタカリ男。


「う、うるさい! 新人は黙って先輩の言う事を聞いていればいいんだ! 僕には経験がある! それで十分じゃないか!」


 レベル2のクセに何言ってるんだか。


「じゃ、じゃあ! ステータスカードを見せたらパーティを組むんだな?」

「いえ、それはステータスを見てから決めます」

「なんだよ! そんなの見せられるわけ無いじゃないか! 見るならパーティを組むと約束しろ!」


 俺はため息をつく。


「では、お断りします」


 俺は今度こそ、男の横を通り抜けようとする。


 ……が、男が俺の服をつかんではなさない。


「手をはなして下さい」

「嫌だ! パーティを組むというまではなさないぞ! お前は勇者と組むんだろ! なら僕と組んだっていいじゃないか! 平等だ! これは平等の権利なんだ!」


 いよいよ言ってる事がわからなくなってきた。


 どうしたもんかと思っていたら、ランラン丸から殺気があふれてきた。


「ヒッ!?」


 それを感じてか、タカリ男が手を離した。


「お? じゃあ、今回の話は無かった事に」


 俺はそそくさと、カウンターに向かった。


「あ! 待てよ! なんだよ! ズルイ! ズルイぞお前ばっかり!」



 俺は男の言葉を無視して、カウンターにいたラブ姉に話しかけた。


「ラブ姉、何とかならないんですか、アレ?」


 俺の言葉を聞いて、ラブ姉が苦笑した。


「ああいう方は少なくとも何人かいるんです。あまりにも度が過ぎる様であればこちらからも注意しますが、基本的には自己責任です。これからも絡まれると思うので、リクトさんには慣れて頂こうかと、今回は様子見させて頂きました」


 ああなるほど、そういう事か。


 俺は勇者である、ユミーリアと組む。

 しかも俺は、レア肉を確実にドロップできるチート能力持ちだ。


 それにタカるやつらは、ラブ姉の言う通り少なくないのだろう。ギルドの外で絡まれるかもしれない。そうなれば自分で対処するしかないのか。


「面倒くさいなぁ」

「リクトさんはまだいい方ですよ? ユミーリアさんは最初からああいう人達に絡まれてましたから」

「え?」


 そうか、言われてみるとユミーリアは勇者だもんな。みんなパーティを組みたがるか。


「ユミーリアは、どうしてたんですか?」

「それは見事な一刀両断でしたよ? 私はリクト以外とは組みませんって」


 ラブ姉がそう言って、こちらをからかう様な目で見てくる。


 俺はそれを聞いて、顔が熱くなる。


「良かったですね、リクトさん」

「カンベンしてください」


 面と向かってハッキリ言われると、照れる。


 俺はそんな恥ずかしさを振り切る様に、今日の依頼を受けた。


「はい、今日もウサギット討伐ですね。レア肉、期待してますね?」

「任せて下さい!」


 俺は依頼を受けて、ギルドを出た。


 さっきのタカリ男はランラン丸の殺気にビビッたのか、今度は声をかけてこなかった。



「なんなんでござるかさっきの男は! メチャクチャ腹が立ったでござるよ! 拙者に身体があれば、速攻でぶった切ってたでござる!」


 ランラン丸は思ったより過激派だった。


「まあまあ、これもお約束イベントってやつだ。いちいち気にしてたら、キリがないぞ?」

「それでもムカツクものはムカツクのでござる! なんでリクト殿は平然としていられるでござるか?」


 そりゃまあ、前の世界では仕事でああいう「お客様」の相手をよくしていたからな。



 俺はランラン丸をなだめつつ、ウサギットの生息する平原へと向かった。




「さて、気を取り直して、今日も倒すぞウサギット!」


 俺はウサギットを見つけて、ランラン丸を振りかぶり、ウサギットを倒す。

 だいぶウサギットの動きにも慣れてきた。


 ウサギットを倒すと、いつも通りポンッと音が鳴って、魔石とレア肉が出る。


「ふっふっふ、自分のチートが怖いぜ」


 俺はファサっと前髪を上げる。



「う、うわあああああ!!」


 なんてカッコをつけてたら、突然さっきのタカリ男が走ってきた。


「な、なんだ?」


 俺はとっさに身構えたが、タカリ男の目的は、俺ではなかった。


 なんとタカリ男は、レア肉を持って逃げ去った。



「え?」


 俺は突然の事に、反応できなかった。


「な、何してるでござるかリクト殿! 肉が! レア肉が奪われてしまったでござるよ!」


 どうやら俺達のあとをつけてきて、レア肉を奪う機会を伺っていた様だった。


「いやあ、さすがにそこまでするとは、ビックリだわ」


 俺はタカリ男が去っていくのを、ボーっと見つめていた。


「何してるでござる! 早く追いかけて殺すでござるよ! あんなやつ、抹殺でござる!」


 ランラン丸がとっても物騒だった。


「いや、放っておこう」


 俺の提案に、ランラン丸が抗議の声をあげた。


「何ででござるか! あんなやつ、今のリクト殿でもブッ殺せるでごぜるよ! 人のドロップを横取りするなんて、絶対許せないでござる!」


 ランラン丸の気持ちはわかる。


 だが……


「時間の無駄だ」

「……どういう事でござる?」


 俺はランラン丸をひと撫でした。


「別にレア肉はいくらでも手に入るしな。これで向こうから去ってくれるならそれでいい。あいつを追うくらいなら、ウサギットを倒そう」


 俺はそう言ったが、ランラン丸は文句が言い足りない様で、しばらくタカリ男を罵倒していた。


 やがて気が済んだのか、それからは黙ってウサギットを倒した。



 今日倒したウサギットは6匹。順調だ。


 俺はマイルームを出して、レア肉を1つは冷凍庫へ、残り4つを冷蔵庫に入れる。備蓄は大事だからな。


「ユミーリアは、まだ出てきてないみたいだな?」


 置き手紙がそのままだし、周りを見ても出てきた様子が無い。

 部屋で寝てしまったんだろうか?


 俺はマイルームで一休みしたあと、出口をギルドの裏に設定して、マイルームを出た。



 そしてギルドに入り、カウンターに向かった。


「あ! リクトさん! 待ってましたよ!」


 ラブ姉がその大きな胸をゆらして、俺を迎えてくれた。


「どうしました?」


 俺はなんとなく察しはついているが、あえてラブ姉にたずねた。


「いえその、例の彼が、ウサギットのレア肉を持ってきまして……」

「ああ、俺達からパクッていったやつですね」


 俺の言葉を聞いて、ラブ姉が肩を落とす。


「やっぱりそうですか。そうですよね」

「どうしたんです? 俺の分ならこの通り、ちゃんと狩ってきましたよ」


 俺はカウンターの上に、程よく冷えたウサギットのレア肉を3つと、ウサギットの魔石を6個置いた。


「あはは、相変わらず、すごいですね」


 ラブ姉が苦笑する。


 そこに、大きな影がさした。


「どうだ?」

「はい、間違いないみたいです。あのレア肉は、盗品です」


 ラブ姉が大きな影に答える。


 その大きな影は……俺の体積の2倍はある、巨大な女性だった。


 確かアレだ、ギルド長だ。名前は確か、アリアだっけ?


「ギルド長、どうしましょうか?」


 ラブ姉が巨大な女性に話しかける。やっぱりギルド長だった。


「当然、冒険者資格は取りあげだ。そんでもって、僻地で強制労働だね」


 ギルド長は殺気立っていた。


 正直、メッチャ怖い。


「魔石無しのドロップ品提出、滅多に出ないレア肉、そもそも本人はウサギットを倒せるか怪しい装備と冒険力。昨日今日とレア肉を納品している冒険者の証言。今朝の揉め事、これだけ証拠があれば十分だ」


 どうやら、俺の予想通り、彼の命運は尽きた様だ。そりゃ滅多に出ないレアドロップを急に持っていったら疑われるよな、普通。


 俺はあとの事はラブ姉達に任せて、今日の報酬、1260Pピールを受け取って、ギルドを出た。



 合計所持金はこれで2930Pだ。やったな俺! 一気に金持ちだ!

 これで新しい装備が買えるぞ。


「ぐふふふ」

「うわ! リクト殿が気持ち悪い笑みを浮かべているでござる!」


 実際うれしいんだからしょうがない。


 ここまでうまくいくと笑うしかないだろう。



 俺はひとまず、マイルームを出す為に、建物の影に入る。


 しかし、そんな俺を、男達が囲んできた。


「な、なんだ?」


 モヒカンの男が2人、大きな身体の男が1人の、3人組だった。


「オイテメエ、ずいぶん調子にノッてるみたいじゃねえか?」


 こ、これは……タカリの次は、ユスリか? それとも調子にノッてる新人への洗礼か?


「ずいぶんと調子にノッてるみたいだからよ? このCランクのダンさんが、お前にヤキを入れてくれるってのさ」


 取り巻きのひとりが、真ん中にいる大男をさして自慢げに語っている。


「痛い目にあいたくなければ、友好の証として、今日稼いだ分の金を置いていってもらおうか?」


 うわー、お約束とはいえ、語るに落ちるなこいつら。



 俺は1日にこんなにお約束イベントを詰め込まなくてもいいのにと、ため息をついた。


 しかし、俺のそばには、我慢の限界を迎えている者がいた。


「どいつもこいつも……あああ! もう我慢できないでござる! 拙者もう! ブチギレでござる!!」


 ランラン丸と、俺の尻が光る。



 ……え? なんで俺の尻? 今関係なくね?


 そう思っていると、目の前にメッセージが出た。



《覚醒融合》



 尻から出た光は、俺とランラン丸を包み込む。


「ふへ?」


 モヒカンのひとりが間抜けな声を出した。

 そして気付く、モヒカン男のモヒカンが、短くなっている事に。



 光がおさまると、変化した俺の姿が現れる。


 髪には紫色のメッシュが入り、瞳の色は黒から金色に。

 そして服装は……ランラン丸が着ていた服に似た、黒色の着物になっていた。




 なんと、ランラン丸の怒りによって、俺とランラン丸は、融合した。

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