第20話 ここからリスタート
《ユミーリアとパーティを組みますか?》
はい
いいえ
色々と悩んだが、よくよく考えてみれば、俺の答えは、最初から決まっていた。
「ユミーリア」
俺はユミーリアの目を見る。
「何? リクト」
俺は一度、深呼吸して、ユミーリアに告げる。
「ユミーリア、俺とパーティを組んでくれ」
ユミーリアの目が丸くなる。
「え? で、でも! だって、その、リクトは、レベル30まで、パーティを組めないんじゃ?」
……ああそうだった、そういえばそんな嘘をついていたんだっけ。
「えっと……その、強い意志と、特別な事情がある場合は、例外扱いされるんだ」
まあ、元々レベル30まではパーティを組めないというのは、嘘だしな。
「ユミーリア、俺は……俺の意思で、君とパーティを組みたい。これからも君を、助けていきたいと思ってる」
俺の言葉を、ユミーリアは黙って聞いている。
「俺は弱い、足を引っ張るかもしれない。だけど、何か役に立てる事があるかもしれない。だから俺は……君とパーティを組んで、一緒にがんばりたい、乗り越えていきたいと思う」
これが俺の決めた事だ。
まあ、すでにイレギュラーな事態に巻き込まれているんだから、こうなればとことん巻き込まれて、未知のイベントすら楽しんでやる、という開き直りもある。
だけど一番は、やっぱり……
俺が一番、大好きなキャラクター。女勇者のユミーリアと、一緒に居たい。これが一番の理由だ。
「本当にいいの? ……ほんとに?」
「ああ」
俺はユミーリアの目を見て、しっかりうなずいた。
「……っ! リクト!!」
ユミーリアが俺に抱きついてきた。
俺はユミーリアを抱きとめる。
俺はおそるおそる、ユミーリアの頭を撫でる。
髪の毛はサラサラだった。
「これからよろしくな、ユミーリア」
「うん! ……うんっ!」
ユミーリアが何度もうなずいた。
さて、こうなると色々と考えたり、ユミーリアに話をしたりしないといけない。
何から話したものか。
そもそも、どこまで話していいものか。
これからの事、今後起こるであろう事への対策、俺がしなければならない事。
考える事はたくさんあった。
だけど今は、ユミーリアのぬくもりを感じる事に、集中した。
しばらくして、顔を真っ赤にしたユミーリアが突然俺から離れた。
「ご、ごめんなさいリクト、私ったら……」
「あはは、別にいいよ。それよりも、これからよろしくな」
俺はユミーリアに右手を差し出した。
「うん、よろしくね、リクト!」
ユミーリアも右手を出し、強くにぎりあった。
ああ、なんかいいな。幸せだな。
「……さて、早速だが、パーティを組むのに、何か必要だっけ?」
「ギルドで申請が必要ね。リクトがよければ、今すぐ戻りましょうか」
俺はユミーリアと一緒に、ギルドへ戻る事にした。
ギルドに着くと、ラブ姉がものすごい笑顔で迎えてくれた。
「おめでとうございます、ユミーリアさん、よかったですね」
「はい!」
どうやらラブ姉にはお見通しだった様だ。
俺とユミーリアが一緒に戻ってきたのを見て、全てを把握したのだろう。
「それでは、お二人は今日からパーティとなります。今日はもう遅いので、依頼は明日から受けてもらいますね」
「はい!」
ユミーリアが元気良く答える。
「あ、それとリクトさん、今日の報酬を受け取っていませんでしたよね?」
「あ……」
そういえばそうだった。
「ウサギット5匹の討伐報酬で25P(ピール)、魔石が同じく25P、レア肉が3つで1200Pですね」
「え? レア肉!?」
ユミーリアが驚いている。そういえば、ユミーリアは知らなかったのか。
「すごい、やっぱりリクトってすごい!」
すごいのは俺じゃなくて、俺の尻……チート能力なんだけどな。
でもまあ、悪い気はしない。
「全部で1250Pですね。どうぞリクトさん」
俺は報酬を受け取った。
これで現在の所持金は1670Pになった。一昨日は0だったのにな。
ほんとは小躍りしたい気分だが、ここではやめておこう。
あくまでここは、余裕の表情で乗り切るんだ。
……あとでマイルームで騒ぐか。
「よし、ユミーリア。今日はこれで解散して、明日からパーティとしてがんばろう。明日の朝、ギルド前で集合でいいかな?」
「うん、わかった!」
俺はユミーリアと集合時刻を決める。
……そういえば、思い出した事がある。
「ユミーリア、別に1時間前に来なくていいからな?」
俺は先日のゴブリン討伐の際、ユミーリアが実は1時間前にはきていたという事を思い出した。
「え? ど、どうしてその事を?」
ユミーリアの額に、汗が流れる。
「人に聞いた。俺が来る1時間前には、ユミーリアがギルドの前に居たってな」
「あ、あはは……その、つい待てなくて」
俺はユミーリアに再度、早く着きすぎない様に言って、別れた。
建物の影に入り、マイルームを発動する。
「マイルーム」
俺の尻が光り、尻から扉が出てくる。
俺は周りの目が無い事を確認して、マイルームに入った。
「ふう……」
俺は早速、ソファーに身を沈めた。
「お疲れ様でござるよ、リクト殿」
人の姿に変化したランラン丸が、気遣ってくれる。
「あはは、やっちまったよ俺」
「そうでござるな、ついに決めたでござるなリクト殿。拙者、少し見直したでござるよ」
ランラン丸には以前話してあった。
俺の事、ゲームの事、ユミーリアの事。
「かかわると決めた以上、強くならなきゃな」
「でござるな。少なくとも、本来の物語のユミーリア殿の仲間くらいには強くならなければならないでござる」
ランラン丸が発破をかけてくる。
「よし、ちょっと色々とまとめてみるか」
俺はソファから起き上がる。
まずは俺の能力の再確認だ。俺の今使えるチート能力は、
《ゴッドヒール:どんな怪我も状態異常も病気も全て治し、HPを完全回復する。消費MP:1》
《マイルーム:戦闘中以外に尻から扉を出し、中に部屋を作る。消費MP:15》
《ステータスサーチ:相手の名前や冒険力を知る事ができる。消費MP:0》
《覚醒のくちづけ:キスをした相手を覚醒させる事ができる。消費MP:0》
《レア肉ドロップ確定:肉をドロップするモンスターを倒した際、確定でレア肉をドロップする》
この5つだな。
あらためて見るとどれも便利だが、攻撃系のチート能力は無く、戦闘に使えるものは少ない。
次に、ユミーリアに関してだが……
「まずは明日、ユミーリアにマイルームに入ってもらって、ランラン丸やマイルームの事を話す。それと、俺が勇者の未来を見る事ができると説明しよう」
正確には、勇者のストーリーをゲームで知っているというだけなんだけどな。
「別の世界から来たという事は、話さないのでござるか?」
俺のつぶやきに、ランラン丸が反応する。
「この世界が物語の世界だと言われて、受け入れられる人は少ないだろう。どうせ元の世界には戻れないんだし、話さない方がいいんだよ」
そう、別に全部話す必要はない。話しても混乱させるだけだからな。
「次に、ランラン丸、お前の事だ。とは言っても、俺もお前も、お前の事はよくわからないんだけどな」
「でござるなー。昔は人だったけど、今は刀でござるーとしか」
ランラン丸自身が覚えていないんだからしょうがない。
「それでマイルームを案内して……依頼を受けるって感じか」
「明日はそれでいいでござろうな」
俺はランラン丸とうなずきあう。
「あとはだ、今後の目標だな……まず俺は、強くならなければいけない。少なくとも、勇者の仲間くらいには」
「うむ、具体的な強さがわからんでござるが、強くなるに越した事はないでござろう」
ゲームでは4人パーティが基本だ。2人だとどれくらいの強さが必要か、俺は試した事が無い。
ソロでクリアはやった事があるんだけどな。
「やっぱり、仲間が欲しいな。いくらなんでも俺とユミーリアの2人だけでは不安だ」
「拙者はマイルームから出ると、刀に戻ってしまうでござるからなー」
そうだ、ランラン丸で思い出した事がある。
「そういえばランラン丸、実はとある情報から、お前が覚醒できるって事がわかったんだが、何か心当たりはあるか?」
「とある情報ってなんでござるか……そんな事言われても、拙者はただの武器でござるからな、わからんでござるよ」
ランラン丸自身は、覚醒方法は知らないのか。
確か神様の話だと、俺がしっかりと戦う意思を持って、力を求めれば覚醒するんだっけ?
これはあとで試してみないとな。
「よし、まとめるとだ、俺はこれから強くなる、仲間を探す、ランクを上げてストーリーを進める、って感じでいいかな」
「そうでござるな、それでいいと思うでござる」
こうして俺達は、明日の、今後の方針を決めた。
そして夜が明ける。
ユミーリアとパーティを組む事になった、初めての朝。
何もかもが新鮮に思える。
昨日決意した事によって、俺の意識が変わったからだろうか。
いつものギルドへの道も、特別な景色に見えてくる。
ここからが、俺の再スタートだ。
ギルドの前には……すでにユミーリアが居た。
「だから、早く来なくてもいいって言ったのに」
俺は待ち合わせの時間の30分前に着いた。
それより前に居たという事は……
「ご、ごめんなさい、なんだか眠れなくて……」
真っ赤な顔で謝るユミーリアを見て、とても和んだ。
「さて、ユミーリア、いくつか話があるんだ。ちょっときてくれるか?」
「うん」
素直に俺についてくるユミーリア。
俺は建物の影に入ると、マイルームを呼び出した。
「マイルーム!」
俺の尻が光り、尻から扉が出てくる。
「ふえっ!?」
突然現れた扉を見て、ユミーリアは驚いていた。
「ぷぷぷっ! いつ見ても、珍妙な光景でござるなー」
「やかましい」
ランラン丸がうるさい。いい加減慣れろよ。
「中に入って。色々話があるから」
俺はマイルームの扉を開けて、ユミーリアを招待した。
「ようこそ、マイルームへ」
中を見て、ユミーリアはさらに驚いていた。
「な、なにこれ? どこなの? 何アレ? 見た事ないものばっかり……どうなってるの、リクト?」
初めて見る機械、初めて見る家具、全てがユミーリアの知らないものだった。
「むふふふ、いやあ新鮮な反応でござるなー、初めてマイルームに入った時の事を思い出すでござるよ」
「え?」
ユミーリアが振り返る。
そこには、人の姿に変化した、ランラン丸が居た。
「初めましてユミーリア殿。拙者はランラン丸。リクト殿がいつも使っている刀でござるよ」
「へ? え? リクトの刀?」
ユミーリアはさらに混乱した。
ランラン丸は、そんな混乱しているユミーリアを見て楽しんでいる。
俺は混乱するユミーリアを落ち着かせ、ランラン丸と、マイルームの事を話した。
「信じられない、刀が人になるなんて……ううん、人が刀になったんだよね?」
「そうでござるな。まあ、拙者が人だった頃の事は、ほとんど覚えてないのでござるがなー」
ランラン丸はいつの間にか、ソファに座るユミーリアにくっついていた。
そういえばこいつ、両方いけるんだっけ? 両刀か、刀だけに……
「それと、リクトの力……神様からもらった力で、ゴッドヒール、マイルームと、勇者の未来を見る力」
「信じられないかな?」
俺の言葉に、ユミーリアは首を振った。
「ううん! むしろリクトの、素晴らしき尻魔道士っていうのは、やっぱり特別な職業だったんだって納得した」
……ああそうか、全部、尻魔法って事で片付く話だったのか。
「そ、そうだな、全部、尻魔道士としての力だ」
「すごい、やっぱりあのリクトのお尻の光は、神様の光だったんだ! なんだか勇者よりずっとすごいよ、リクト!」
ハハハ、勇者よりすごいか。
そんな風に考えた事もなかったが、言われてみるとこのチート能力の数々は、そうかもしれない。
まあ、戦う力はまるで無いんだけど。あと、尻が光るってどうしてもカッコ悪いんだけど。
そこまで話した所で、急にユミーリアがモジモジしだした。
「どうした? ユミーリア」
「え、えっと……あの……」
ユミーリアは俺には言わず、ランラン丸にコッソリ話をした。
「ああ、そこの扉でござるよ」
「あ、ありがとう」
ああなんだ、トイレか。
ユミーリアは早足にトイレに駆け込んだ。
しかしなんだ、この感じ……前にもあった様な。デジャブってやつか?
「ふ、ふええええ!?」
ユミーリアの叫び声が聞こえた。
「ど、どうしたユミーリア!?」
「り、リクト! これ、なに? トイレはどこ?」
どこって、今入っている場所がそうなんだが……あ! そうか、ランラン丸の時と同じか!
この世界のユミーリアには、俺の世界のトイレの使い方がわからないのか。
「ランラン丸、ユミーリアに教えてやってくれないか?」
「……」
「ら、ランラン丸? どうしたんだ?」
呼びかけても返事をしない。
ランラン丸はトイレをジッと見つめている。
「ふふふ、これは洗礼……拙者だけ恥をかいたままというのは、許されないのでござるよ」
なんだかランラン丸が黒かった。
「いやいや! 早く教えてやれよ、じゃないと……」
「り、リクト! ランラン丸! お願い! は、早く! わ、わたし……!」
「わ、わかった! ちょっと待ってろ!」
「え? 駄目! リクトはきちゃ駄目! 絶対駄目だから! あ、だ、ダメ……私……もう!」
そして悲劇は繰り返される。
「いやああああああああああ!!」
ユミーリアの絹を引き裂く様な声が響いた。
ランラン丸が俺の耳をふさいでいたので、俺が聞いてはいけない音は、聞こえなかった。
「うっ、うう……ぐす……」
あの後、ランラン丸と一緒に後処理をしたユミーリアは、泣いていた。
「リクト、本当に見てない? 聞いてない?」
何を、とは聞かない方がいいだろう。
「ああ。ランラン丸が耳をふさいで俺の前に立っていた。間違いない」
「そうでござる、リクト殿は何も聞いてないし見ていないでござるよー」
ちょっと聞いてみたかった、見てみたかったのは秘密だ。
「悪かったでござるなーユミーリア殿。拙者もとっさの事で、反応が遅れてしまったでござる」
よく言うよこの刀……
「ううん、私もギリギリまで我慢してたのがいけなかったの。でもどうしよう……その、できればお風呂に入りたい」
「ああ、それなら、あるぞ風呂。あと服もすぐに洗濯できるし」
「え? ほ、本当?」
ユミーリアの瞳に輝きが戻った。
俺はユミーリアに風呂を案内した。
「ここをまわせばお湯が出るから」
俺はシャワーの使い方を説明した。
「へえ、ここからお湯が出てくるんだ、不思議ね」
ユミーリアはシャワーをジッと見つめていた。
ちなみに、シャワーはサーモスタットタイプだ。あらかじめ温度の調節はしてある。
「それじゃあ、ゆっくり入ってくれ。洗濯はランラン丸にやらせるから」
「任せるでござるよ。といっても、ボタンを押すだけの簡単な作業でござるがな」
俺は浴室から出て、ソファに座る。
するとシャワーの音がした。
「ぴやあああああああ!!!」
な、なんだ!?
「リクト殿ー、どうすればいいでござるかー? 拙者もわからないでござるー」
何がどうしたんだ? というかランラン丸、なぜ棒読み?
俺はすぐさま、浴室に駆け込んだ。
「どうしっ! ……あ」
「え?」
そこには、びしょ濡れのランラン丸と、裸のユミーリアが居た。
ユミーリアの綺麗な肌に、しずくが滴っていて、とても色っぽかった。
色々と、見えてはいけないものが目に入る。
ユミーリアと目が合う。
するとどんどん、ユミーリアの顔が赤くなっていく。
「い……」
「あ、いや、その……!」
「いやああああああああああ!!」
ユミーリアの声が、マイルームにこだました。
俺はすぐさま浴室を出て、ソファに戻った。
突然の事だったので、覚えていない、なんて事は無い。
俺はさっき見た光景を思い出す。
自分の大好きな2次元キャラクターとのラッキースケベ。
うん、ここはハッキリ言おう。
……やっぱりゲームの世界は最高だぜ!
俺は、この世界に俺を送ってくれた神様に、感謝した。
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