第73話 ようこそ、ウミキタ王国
今回旅をするパーティは俺、ユミーリア、コルット、エリシリア、そしてヒゲのおっさんの5人だ。
目的地は北にある国、ウミキタ王国。
この国はなんと、外を歩く時は水着でなければいけないという最高の国なのだ。
「でも、よく考えてみれば、北の方にあるのに寒くないのか?」
俺はふとした疑問をエリシリアに聞いてみた。
「ウミキタ王国は年中暑い気候なのだと聞いている。実際私も何度か行った事があるが、いつ行っても暑かったな」
なるほど、ファンタジーにありがちな、特殊な気候ってやつか。
「あれ? エリシリア、何度か行った事があるって事は、その度に水着だったのか?」
「……まあ、水着は着ていたな」
なんだと!?
ちくしょう見たかった! 見たかったぞおおお!
俺が残念がっていると、おっさんが話しかけてきた。
「なんだシリト、もしかしてお前、水着につられてきたのか?」
「うぐ! そ、そうだよ、悪いか!?」
男が水着と聞いて心を動かされないはずがない!
「そうか、そりゃあお前、残念だったな」
「え?」
俺達はウミキタ王国に着いた。
ウミキタ王国の入り口は、それぞれ男女別になっていた。
あれだ、温泉みたいに男と女の看板がついていた。
俺達はそれぞれ分かれて入り、おっさんの言葉の意味を知った。
「ああなるほど、水着は着用しなければいけないけど、その上に何を着ても良いって事だったのね」
俺は改めてこの国のルールを確認して肩を落とした。
それってつまり、下に水着を着ていれば普段着でも良いって事じゃん。
「ああシリト、お前さんはそのピンク色のコートを着ていけよ? あとで必要になるからな」
俺が振り返ると、ふんどし一丁のヒゲのおっさんがそこに居た。
おっさんは上に何も着ないでその姿で外に出る気まんまんだった。
俺は水着を着用し、その上からピンク色のコートを着た。
外に出ると、そこは常夏の国だった。
日差しがキツイ。
行き交う人々の多くは水着だった。
こう暑くては気にさえしなければ水着で外を歩きたくもなるだろう。
なるほど、そう考えてみればこの国のルールである外での水着着用というのは理にかなっている。
俺も早速このコートを脱ぎたくなった。
だがまあ、このコートのおかげで命拾いした事も多いし、なにやら後で必要になるとかヒゲのおっさんが言っていたので、とりあえず我慢する事にした。
「お待たせ、リクト」
そうしていると、女性用の出入り口から、ユミーリアの声がした。
そこに居たのは……天使だった。
三人共、水着の上に薄いシャツを羽織っているだけだった。
おかげで水着が見える。見えるぞおおお!
ユミーリアは赤いビキニだ。下はスカートの様になっている。
情熱的なその色は、ユミーリアによく似合っている。
何より普段は服に隠されているその豊満なボディーがたまらない。
エリシリアは黒いビキニだ。下はユミーリアの様にスカート状にはなっておらず、とても危ない。
とにかく危ない。色々はみ出そうで危ない。
もう危ないとしか言えない。それほどにマーヴェラス。
コルットはスクール水着。
可愛い。ただただ可愛い。
そしてなぜか浮き輪装着済み。浮き輪が何で出来ているかなんて気にしてはいけないのだ。
それにしても……
「み、みんなどうして? てっきりいつもの服を着て出てくると思っていたのに」
そう、下に水着さえ着ていれば上に何を着てもいいのだ。
だから俺はてっきり、みんな普段着で出てくるものだと思っていた。
「そ、それはだな」
「リクトが楽しみにしてたから、見たいかなって?」
エリシリアとユミーリアのその返答に、俺は涙した。
ありがとうユミーリア、ありがとうエリシリア。俺はお前達が仲間で、本当に良かった!
「おにーちゃん、なんで泣いてるの?」
「コルット、人はね、うれしい時にも涙が出るものなんだ」
とても教育的だった。
「よし、それじゃあまずは宿に行くぞ。その後は城に行く。いいな?」
ヒゲのおっさんがそう言って前を歩く。
俺達はそれについて行く形になった。
道中さまざまなお店があった。
しかし何より気になったのは、その視線だ。
そりゃあ、これだけの美少女が居れば、しかも水着姿とくれば、見ない男は居ないよな。
声をかけてこないのは、俺がそばに居るからか、それとも前を歩くふんどし一丁のヒゲのおっさんがいるからか。
そう思っていた。
だが、どうにもおかしい。
水着の彼女達ではなく、男の俺に、妙に視線が集まっている気がする。
「みんな、リクトを見てるね」
「ああ、まったく、どいつもこいつも」
ユミーリアとエリシリアがつぶやいた。
「待て、どういう事だ? 俺、見られているのか?」
俺がそう言うと、二人が目を丸くした。
「気づいていなかったのか?」
「みんなリクトを見てるよ?」
言われてみると、いや、さっきから気にはなっていたのだ。
だけど、俺の勘違いだと思っていた。
なぜこれほどの美少女が居るのに、俺を見るのかと。
嫉妬かと思っていたが、男だけではなく、女性も俺を見ている。
「な、なんで俺なんだ?」
俺の疑問に、二人が答えた。
「それは、えっと……」
「水着の上に、ピンク色のコートだからな。目立つだろうとは思っていたが、こうも無遠慮に見られると、腹が立ってくるな」
言われてみて気づいた。
海パンの上にコートを着ているというのもアレだし、この暑いのにコートを着ているのは俺だけだ。
しかも目立つピンク色。
確かに、俺もこんなやつが居たらそばに美少女が居てもまず見るかもしれない。なんだアレって。
俺はなんだか悲しくなった。
「待つでごわす! そこなピンク色の男!」
道を歩いていると、ふとった男に声をかけられた。
身につけているのはまわしだ。どこからどう見ても相撲取りだった。
唯一違うのは、髪形だ。
長髪を後ろでひとまとめにしていた。マゲではなかった。
「聞いているでごわすよ? あのリュウガが弟子を取ったと! おいどんの名はマゲール! おいどんの息子と勝負をしてほしいでごわす!」
ああ、マゲールか。髪型が違うから気づかなかったよ。
マゲールはストレートファイターに出てくるキャラクターだ。
リュウガに聞いていたから出てくるんじゃないかと思っていたが、本当に出てくるとは思わなかった。
まあ、まわしも水着みたいなもんか? ヒゲのおっさんのふんどしが許されるんだから、いいんだろうな。
「さあ、出てくるでごわすよ! マケール!」
マゲールの息子がマケールか。ていうか息子居たのかコイツ。そんな設定知らんぞ?
いや待て、息子がいるという事は奥さんもいるのか?
そんな風に考えていると、マゲールそっくりの息子が出てきた。
ぶっちゃけどっちが息子かわからん。マゲールの方が少し身体が大きいか?
「僕はマケールです! リュウガさんの話は父からよく聞いていました。ぜひ僕と戦ってください!」
礼儀正しい良い子だった。顔はお父さんそっくりでいかついけど。
というかだ、なんか勝手に俺が戦う事になってるけど、本来はこれ、コルットが戦う相手なんじゃないだろうか?
俺はそう思って、コルットをチラ見した。
ワクワクしていた。
「おにーちゃん、わたしやりたい!」
でしょうね。コルットさん、最近戦闘民族化が止まらないもんな。
「えっと、マゲールさん、この子はリュウガの娘さんで、コルットといいます」
「なんと!? リュウガの娘だと!?」
俺の情報は知ってるのに、なんでコルットの事は知らないんだよ。
「コルットもリュウガの血を引いていて強いですよ? コルットも戦いたいみたいなんで、コルットと戦ってもらえますか?」
「ほう? それは面白い!」
コルットが前に出て、マゲールの息子、マケールも前に出る。
「……? おにーちゃん、わたしこの人じゃなくて、あっちのおっきい方と戦いたい」
コルットはそう言って、マゲールの方を指差した。
「ガッハッハ! さすがはリュウガの娘! 言ってくれるわ! だが弟子は弟子同士戦うもの! おいどんと戦いたくば、まずは息子であり弟子であるマケールを倒してからにしてもらおう!」
マゲールは豪快に笑ってコルットの意見を却下した。
「えー、でもこの人弱そ」
「じゃあ! 俺がマケール君を倒したら、コルットと戦ってもらえますか?」
俺はあわててコルットの口をふさいだ。
「こらコルット、知らない人に弱そうとか、言っちゃ駄目だぞ?」
「あうっ、ごめんなさい、おにーちゃん」
しかし、俺達のこの会話が聞こえてしまったのか、マケール君が怒り始めた。
「ハハハハ! 言ってくれますね! いいでしょう! そこまで言われては引き下がれません! 僕を倒したら父と戦う権利を差し上げましょう! ただし僕に負けたら、僕を弱いと言った事は訂正してもらいますからね!」
マケール君から闘気が立ち上がった。
とはいえ、マケール君には悪いが、コルットの親父さんやオウガに比べると、まるで迫力が無かった。
「うむ! その意気でごわすよマケール! さあ、それでは両者構え!」
俺とマケール君が構えをとる。
「はじめ!」
合図と共に、マケール君がものすごい勢いでこちらに向かってくる。
「食らええええ! ダッシュ張り手!!」
勢いのまま、張り手を繰り出してくる。
だが、遅い。
リュウガのパンチに比べたら遅すぎる。
コルットのパンチと比べると、止まっている様なものだ。
これはコルットが戦いを拒否してもしょうがないレベルだった。
俺は張り手を右手ではらいのけ、左手で腹を突いた。
「……ぐふっ!」
左手だからそんなに強く突いたつもりはなかったが、一撃でマケール君は倒れた。
「勝負あり! 勝者……ピンクの男!」
そういえば名乗ってなかったっけ。
だからってピンクの男はやめてくれよ。
「リクトだ」
「勝者、リクト!」
もう一度言い直した。
すると周囲から歓声があがった。いつの間にか人が集まっていた様だ。
「やるでごわすな! さすがはリュウガの弟子。10歳の息子にはまだ早かったでごわすか」
オイオイ、マケール君、あのガタイで10歳だったのかよ。
俺は俺より身体のでかいマケール君を見下ろした。
「よし! 次はおいどんの番でごわす! さあ、構えるでごわすよ!」
そう言ってマケールが構えをとった。
「えー、わたしやりたいー」
「黙っているでごわすよリュウガの娘! このリクトとやらを倒したら、次はお主と戦ってやるでごわす!」
そう言われて、コルットは渋々引き下がった。
「おにーちゃんに勝てるわけないのにねー」
「そうだな」
「よしよし、よく我慢したね、コルットちゃん」
コルットがユミーリアに抱っこされていた。可愛い。二人とも超絶可愛い。
俺がニヤニヤしていると、マゲールから闘気があふれだした。
なるほど、さすがはゲームに登場したキャラだ。親父さんに負けない強い気を感じる。
「いくでごわすよ?」
「……ああ」
俺も構えをとる。
「それでは、はじめ!」
いつの間にか復活したマケール君が、勝負開始の合図を叫んだ。
「食らうでごわす! これが本物の、ダッシュ張り手でごわす!」
すさまじい勢いで張り手が飛んでくる。
「くっ!」
俺は張り手を両手でガードする。
しかし、勢いはすさまじく、俺は後ろに弾き飛ばされた。
「ぐおおお!」
俺は何とか踏ん張って耐えた。
「まだまだ! 張り手百連発!!」
今度は張り手を連打してくる。
俺はその勢いに、防戦一方だった。
しかし、威力そのものは先ほどの一撃と比べると、大した事なかった。
「この!」
俺は身を低くして、相手の足に蹴りを放つ。
「ぐおっ!?」
張り手に必死になっていた相手は、その身を崩し、前に倒れた。
チャンスだ!
俺はコルットの親父さんに習った新必殺技を使ってみる事にした。
「とうっ!」
俺は勢いをつけてジャンプする。
10倍の重力を克服した俺は、かなり高く飛び上がる事が出来た。重力修行ってすごい。
「くらえ! これが俺の新必殺技だ!」
俺は尻に力を集中する。
そしてそのまま、桃尻波を放つ。
するとその推進力で、俺の身体は相手に向かっていく。
俺はそのまま空中で、蹴りの体制をとる。
「ま、まさか! その技は!?」
マゲールが驚愕する。
そう、本来は飛び上がった後、後ろに気を放ち、その勢いで相手に蹴りを放つ必殺技。
撃動脚(げきどうきゃく)だ。
俺の場合は桃尻波を普通に撃つだけでよかった。なにせ尻から出るからな。対象を意識しなければ桃尻波はそのまま後ろに飛んでいくのだ。
普通は後ろに気を放つってのは難しいらしいが、俺にとっては簡単な技だった。
「桃尻蹴(ももしりきゃく)!」
俺の蹴りが、マゲールにヒットする。
「ぐおおおお!!」
マゲールはそのまま後ろに吹っ飛んだ。
そしてそのまま、気を失った。
「し、勝者! リクト!」
再び歓声があがった。
俺は右手を上にあげた。
「だから言ったのにー」
コルットが不満そうにしていた。
だが俺が近づいて頭を撫でると、すぐに上機嫌になった。
「おめでとー、おにーちゃん!」
三人の前で負けないで良かった。
俺は少しホッとしていた。
「ガッハッハ! さすが強いでごわすな! おいどんの完敗でごわす!」
気づけばマゲールが復活していた。
「いやあ、突然すまなかったでごわす。リュウガの弟子が来ると聞いていたもんだからつい」
「誰に聞いたんだ? それ」
今ハッキリと、マゲールは俺が来ると聞いたと言った。つまりは誰かが話したのだ、俺がここに来ると。
つまりは俺が今回の依頼を受けた事も知っているという事だ。
いったい何者だ? 何の為に?
「リュウガから手紙がきていたでごわすよ。俺の弟子がそっちに行くから相手をしてやってくれと」
なんと、犯人はコルットの親父さん本人だった。
そりゃ俺がここに来るのを知ってるよな。
いったい誰のどんな陰謀かと疑っていた俺は、事実を知って、力が抜けた。
「終わったかシリト? あんまり遅くなると城に行けなくなるんだ、程ほどにしてくれよ」
ヒゲのおっさんの言葉を聞いて、マゲールが頭をさげてきた。
「おお、城に行くつもりだったのか、それはすまなかったでごわす。何かあれば言ってくれ。力になるでごわすよ!」
案外良い人だな、マゲール。ごわすごわす言ってるだけのいかついキャラだと思ってた。
俺達はマゲールに別れを告げて、城に向かった。
その途中、宿屋に寄った。
早くもヤードヤの宿の方が懐かしかった。
コルットが実家を思い出したのか、さびしそうにしていたので抱っこしてあげた。
そのまま宿屋を探検しようかと思ったが、すぐにお城に向かう事になったので中止となった。
俺達は再び街に出て、城に向かった。
城が見えてきてもう少しで着くというその時、俺達の前に、ひとりの男が立ちふさがった。
男はこの暑いのに、全身黒い鎧を着ている。
「リクト」
ユミーリアが前に出る。
エリシリアも光のムチを取り出し、コルットも戦闘態勢に入った。
「な、なんだ? どうしたお前ら?」
ヒゲのおっさんが驚いていた。
俺は、ワンテンポ遅れて、戦闘態勢に入る。
俺達はこの男に、見覚えがあった。
「どうしてここにいるんだ? ゼノス」
それは、ユミーリアと男勇者の幼馴染であり、フィリスの兄である、黒騎士ゼノスだった。
ゼノスが背中に背負った大きな剣をこちらに向けて構える。
「悪いけど、ここを通すわけにはいかなんだよ、ピンクの人」
そう言って、ゼノスが俺に向かって攻撃を仕掛けてきた。
俺はランラン丸を抜いて、とっさに攻撃を防ぐ。
「ぐっ!?」
「へえ、いい剣だね、それ」
攻撃が防がれた事をたいして気にも留めず、ゼノスは飛んで距離を取る。
「じゃあ、こういうのはどうかな?」
ゼノスの闘気が膨れ上がり、剣に集中する。
「黒気衝(こっきしょう)」
ゼノスが剣を振り下ろすと、黒い衝撃破が放たれた。
おいおい、今回の旅は死ぬような事は無いんんじゃなかったのかよ!?
なんで俺はこの国に来て、連戦してるんだよ!?
俺の戸惑いなどおかまいなしに、衝撃波はこちらに向かって、まっすぐ飛んできていた。
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